新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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今年の新敵はこれが最後になるかと思います。


第十九話『飛び立つは、新世界の敵』

【号外】在パーパルディア皇国グラ・バルカス帝国大使館職員、クーデター派市民により抹殺。

『昨夜未明、パーパルディア皇国にて衝撃的な事件が起こった。パーパルディア皇国に在留していたグラ・バルカス大使館の職員全員が、パーパルディアにおいて発生したクーデター派によって処刑されてしまったのだ。

 現地において発生したクーデターは、大東洋共栄圏への参入を目指すルディアス皇帝に対して反旗を翻した内容であり、パーパルディア皇国皇族のレミール女史が引き起こしたものと見られる。昨日未明には、それを裏付けるクーデター声明が発表されていた。

 レミール女史率いるクーデター派は、首都エストシラントの市民らを率い、武器を持って進軍。さらにこれにクーデター派の陸軍部隊も加わり、現地のグラ・バルカス大使館を包囲したという。

 現地にて活動していたグラ・バルカスの邦人らは、クーデター派らの理不尽な怒りを買い、悉く惨殺されているという。大使館の職員らも、それらの蛮行に巻き込まれた形だった。

 大使館では邦人らを匿っていたが、クーデター派によって攻撃を受け、警備兵らが応戦するも敢えなく陥落。在パーパルディア大使ゲスタ氏を含めた200人余りのグラ・バルカス人が、残忍な方法で処刑されたという。

 帝国臣民を惨殺した報復は、しかと刻むべきであろう。帝国政府は現在、早急な対応を目指して協議中との事。そして本日の夕刻には、大東洋共栄圏各国による緊急会合も行われる予定だ。政府の責任ある対応が求められる』

──中央暦1640年12月11日 グラ・バルカス帝国 ディ・ヴェルト紙

 

 

 

 

【号外】大東洋共栄圏、グラ・バルカス帝国主導でパーパルディア皇国を非難

『本日夕刻、パーパルディア皇国におけるクーデターの発生を受け、大東洋共栄圏各国による緊急会合が行われた。その中で大東洋共栄圏各国は、グラ・バルカス帝国主導により、パーパルディアの蛮行を非難する共同声明を発表した。

 ただ非難するに留まらず、今回はパーパルディアに対する"締め付け"として、非常に強力な経済制裁を行う事もその会合で決定された。

 パーパルディア本国に通じる街道は全て封鎖し、海上輸送においてもパーパルディア国籍の船舶は一切受け入れないという、徹底的な締め付けである。その様な厳しい内容が、大東洋共栄圏の中で約束された。

 その間に生じる各国の経済的損失は、全てグラ・バルカス帝国が外貨を通じて補助金などの支援を行う事も、併せて決定されている。これによりパーパルディア皇国の輸出入は全て途絶えることとなり、彼の国の経済勢力は大幅に衰えることとなった。

 しかし、国民からは「経済制裁のみでは手ぬるい」との意見も多数上がっており、直接的な軍事報復が望まれている。しかし、経済制裁は即座に効果はなくとも、長期的な目で見ると高い報復効果を発揮する、しっかりとした制裁なのだ。長期的にこれが続けば、パーパルディアは締め付けられ、食糧ですらまともに輸入できなくなる。それまでの辛抱である。

 とにかく相手が根を上げるまで、ひたすらに経済制裁を続ける。それが経済制裁の極意であり、根気による勝負なのだ』

──中央暦1640年12月11日 グラ・バルカス帝国 フェルキツ・ベオバイダー紙

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

新市街地 戦略情報局

 

 グラ・バルカス帝国の首都ラグナの天気は、いつも曇り空である。工場地帯や船舶から出る排気ガスが、盆地特有の風のない地域に留まる事により、一年中が雲と霧に覆われているのだ。

 その一角、川に挟まれた中洲を切り開いて作った新市街地には巨大なビル群が立ち並び、古い建築物が多く残る旧市街地とは、一線を引いている。

 旧市街地の街並みが、1939年におけるドイツの首都ベルリンと類似しているならば、新市街地は同年のニューヨークの街並みだと説明すれば理解してもらえるだろう。

 その新市街地の一角、帝国の情報機関である戦略情報局ビルの一室。その会議室にて、海軍大将のカイザル・ローランドが情報局からの第一次報告を受け取っていた。

 

「これが、ニホン国の製品だというのか……?」

 

 戦略情報局が、日本の影響下から持ち帰った品々には、説明せずともその工作精度の高さが伺えた。カイザルは少し見るだけで感じたその性能差に、絶句して言葉が出ない状態に陥っていた。

 

「カイザル大将、大丈夫ですか?」

 

 それを見て戦略情報局のバミダル大佐は、話を促すべく彼に声をかける。それを受け、カイザルは思考を切り替えバミダルの話を聞く。

 

「あ、ああ……一つずつ説明してくれ」

「はい、まずはこちらの計算機から」

 

 そう言ってバミダルが取り出したのは、電卓と呼ばれる日本製の小型計算機だった。日本との貿易が盛んなムー連邦にて、日用品として売られている代物らしい。

 

「こちらが、日本の計算機です。小型化していますが、我々が同じ性能を求めるとタイプライター並みの大きさになります」

「これは……すごい、一瞬で結果が出るのか。これは幾らだった?日用品とは言え、相当高いんじゃないのか?」

 

 カイザルはその性能の高さに、電卓をカチカチと弄りながらバミダルにそう聞いた。しかし、報告書にある電卓の値段を知っているバミダルは、カイザルの予想が覆されることを知って話した。

 

「いえ、それはムーの通貨で約25ディールくらいでした。我々の価値で言えば、10マーケンです」

「そ、そんなに安く買えるのか……!?これでか!?」

 

 グラ・バルカス帝国で10マーケンと言えば、初等教育の子供の平均的な小遣い程度である。あまりの安さにカイザルはバミダルからの報告に驚きを隠せず、思わず大声を上げた。

 

「こんなに素晴らしい性能なのに、庶民でも手に入れられる値段なのか……これだけで足し引き、掛け算割り算、それからパーセンテージまで求められる、計算の速さも相当だ。これなら軍艦に搭載しても文句はないのに……」

「ええ、そうなんです。ですが、それでも日本目線では二束三文レベルで買える"日用品"、という事なのですよ」

 

 バミダルがあえて強調した"日用品"という言葉の意味は、その日用品を超えた先に更なる性能の代物が控えている、という事だった。

 カイザルは海軍軍人として艦載の計算機などに触れている傍ら、この計算機がどれだけ高性能かは判断できた。そして、それを超えた先にある軍用計算機となれば、どんな性能をしているのかも。

 

「……つまり、軍用品はこれすら霞むレベルの性能を有している、と?」

「その可能性は、非常に高いわけです」

 

 技術の一端である日用品レベルですら、この様な高い性能をしている事に、カイザルは驚きを隠せなかった。

 しかしある意味、カイザルが抱いていた懸念が的中した形となる。やはり情報局と協力したのは正解だったと、この時点で思った。

 

「もう少し値段を上げると、更なる技術が見えてきます。例えば……これとかですね」

 

 そう言ってバミダルが箱から取り出したのは、日本製の小型デジタルカメラだった。

 箱の正面にはレンズが付けられており、上部にはボタンのようなものも付いている。カイザルでもカメラだと見抜けた。

 

「それはカメラか?にしてはやけにちっこいが……」

「そうです、カメラなんです」

 

 バミダルはカイザルの予想を肯定すると、カイザルに許可を取るまでもなくそのカメラを向け、シャッターを切った。

 試し撮りで自分が撮られるとは思っていなかったので、カイザルは苦笑いをしながらそれに注意した。

 

「おいおい、勝手に写真撮るなよ……」

「まあ、見ててください。これをこうして、こうすると……」

 

 バミダルは説明書を読みつつ、カメラの裏側で何かの操作を行う。しばらく何かを弄った後、カイザルにカメラの裏側を見せた。

 

「ご覧ください」

「こ、これがさっきの写真か?」

 

 そのカメラの裏側には、先ほどバミダルが不意打ちで撮ったカイザルの顔写真が、鮮明に映っていた。しかも、グラ・バルカス帝国のカメラでは難しいカラー写真である。

 カメラには他にも何枚かの写真が保存されており、フィルムがあるわけでもなく、現像する手間もなく、すぐに写真を見聞することができた。

 

「カラーでかつ、こんなに鮮明とは……」

「そうです。これはフィルム無しでカラー写真を撮る事が可能なのです。写真は擬似画像として何枚でも保存可能で、専用の機器を使えばちゃんと現像も可能です」

「カメラのレンズの性能からして、隔絶しているというわけか……」

 

 カイザルが納得したのを受け、バミダルは次の日本製品のレビューに入る。続いてバミダルが箱から取り出したのは、アタッシュケースの様な物体に入った日本製ドローンであった。

 小さな胴体にプロペラが上向きに四枚付いているその物体は、グラ・バルカスでは滅多に見かけない形をしている。

 

「こちらは、なんだか分かりますか?」

「うーむ、羽が付いているが……虫のおもちゃか?」

「いえ、これは小型のラジコン飛行機です。日本人は"ドローン"と呼んでいました」

 

 ラジコン、という単語自体はカイザルも知っている。有線や無線で、エンジン付きのおもちゃを遠隔操作して遊ぶ玩具らしく、今グラ・バルカスの子供の間で流行っているそうだ。

 カイザルの住まう海軍でも、母機から無線操縦を行う航空機の研究が盛んで、既に標的機として実用化していた。

 

「ラジコン飛行機だと?こんな小ささで、本当に飛べるのか?」

「ええ、これは無線で指示を受け取り、それで飛ぶんです。見ててください……」

 

 この日本製のラジコン飛行機はやけに小さく、頼りない見た目をしている。操縦機器もアタッシュケースに入るくらい小さいが、本当に飛ぶのだろうか。

 そんな疑問が瞬く中、バミダルはドローンをテーブルの上に置くと、操縦機器とドローンを無線で接続させる。

 そしてバミダルが操縦機器を操作すると、ドローンの小型モーターが始動し、風を切り裂くプロペラの音と共にドローンを飛び上がらせた。

 

「と、飛んだ……」

「かなり軽快に動きますよ。上昇、下降、空中停止なども可能で、通信範囲も500mまであるそうです」

 

 バミダルはドローンを慣れた手つきで操作し、上昇したり、下降したり、空中にホバリングさせたりして見せた。

 

「しかも驚くべきことに、こちらの操縦機器には、ドローンに搭載されたカメラの映像が随時送信されています。かなり鮮明で、この部屋の様子もよく映ってますよ」

 

 バミダルが見せてくれた操縦機器には画面が取り付けられており、ドローンから送信されたとみられる映像がリアルタイムで映されていた。

 どんな偵察機が送ってくる情報よりも、リアルタイムの映像は鮮明でかつ正確な情報だった。

 

「これは……我が軍の偵察機よりも正確に情報を伝えられるじゃないか。砲撃の弾着観測とかに使えそうだな」

「ええ。実際、ニホン軍などはそれをやっていると思います。こちらの雑誌にも書いてあるのですが……」

 

 バミダルはそう言って、今度は日本から出版された雑誌を取り出した。挟まれた付箋を元にパラパラとめくり、ある1ページの部分でカイザルにそれを見せる。

 

「……"ドローン"という兵器は、この様な玩具サイズから偵察機や爆撃機の様なサイズまで、様々な種類が存在する様です。ほら、こちらには──」

 

 バミダルが開いたページには、大型で翼幅が広い航空機の画像が掲載されていた。どうやらこれも日本製の無人機の様で、機首には風防すら見当たらない。

 

「"偵察用大型無人機"、航空機サイズのドローンが載ってます。おそらくこの大きさなら、第二文明圏全体をカバーすることは容易でしょう」

「なるほど。これが本当なら、ニホン軍は危険な偵察任務に人員を割く必要がなくなるな。しかし、無線操縦の航空機とはな……」

「まあ、こちらの雑誌は民間人に売られている一般向け軍事雑誌なので、信憑性は定かでない事を付け加えておきます」

「そうだな」

 

 確かに、民間人に売られている軍事雑誌に載っているのは欺瞞かもしれない。それはカイザルも疑わねばならなかった。

 

「それでも、我々に役立ちそうな情報やアイデアなどは載っていますよ。この他にも──」

 

 バミダルはページをめくり、陸軍関係の特集ページを見せる。そこには、地球で言う第二次世界大戦期から進んできた装甲の歴史が載っていた。

 

「これは"複合装甲"、材質の違う金属や合金などを複数の層に分けて重ねることで、防御力を底上げする装甲技術だそうです。これは有用だと思いますよ」

「なるほど……硬さの違う金属を重ねることで弾を受け止めやすくするんだな?」

「はい、その通りです。こちらは陸軍の方にアイデアを提出しようかと思いまして、現在その他の雑誌と合わせて情報を纏めている最中です」

 

 バミダルはさらにページをめくり、今度はその装甲を貫くためのHEAT弾のページを見せる。

 

「こちらは"成形炸薬弾"の図面です。名前自体はご存知で?」

「ああ、陸軍が携行式対戦車火器の弾頭として開発したやつだったな」

「はい。日本にもこの手の弾頭は存在する様でして、この様な大口径かつ、強力な対戦車火器として配備されている模様です。断面のイメージ図も載っていました」

 

 そのページには、陸上自衛隊で対戦車火器として配備されているパンツァーファウストⅢの写真が載っていた。グラ・バルカス帝国陸軍が配備している対戦車火器よりも洗練されており、強力に見える。

 

「日本の成形炸薬弾は、貫徹力を増すため弾頭を大口径にする以外の方法も取られています。例えばこれら──」

 

 その雑誌には、成形炸薬弾の貫徹力を高める為、地球で取り組まれた様々な方法が載っていた。

 漏斗形状やライナーの加工精度の改善。効率良くメタルジェットが生成するよう、爆速を調節する。爆速の異なる2種類の炸薬を組み合わせた爆薬レンズ構造を用いるなど……

 さらに将来的には、より高爆速の炸薬を用いたりする他、ライナーを銅より高密度な金属に変えたり、特殊な合金に材料を変更する事なども研究されている。その事についても図面式で描かれていた。

 

「なるほど……ニホンは民製品だけでなく、戦争に関する技術もかなり進んでいる様だ。これを真似するだけでも、我が国は躍進できる。だが──」

 

 カイザルはこれらの先進技術の塊を見て、日本が持つ技術の凄まじさを感じ取っていた。電卓にしろ、ドローンにしろ、雑誌の内容にしろ、日本製は我々の技術力の先を行っているのだ。

 

「ええ。ニホンは民間レベルだけで我々の先を進んでいることが明らかです。少なくとも技術力の差は、20年から30年と言えるでしょう」

「それが分かっただけでも、ニホンの技術力の一端が見えたようなもんだ。さて、どうしたものか……」

 

 カイザルは顎に手を当て、深く考えた。日本が相当な技術力を持っている事はこれで明らかになったが、かと言ってこのまま放置して良いのかはわからない。

 せめて、ニホンの軍事に関する僅かな情報でも手に入れば、今後の戦略に影響を与える事はできるかもしれない。そう思った時、バミダルから声をかけられた。

 

「……ところで、プロパガンダ映像ですがニホン軍に関する映像も入手しました。ご覧になりますか?」

「映像?ああ、見てみようじゃないか」

 

 カイザルの言葉を受け、バミダルが部下たちに合図を送ると、彼らが座る執務室のテーブルの前に日本製の液晶テレビが置かれた。

 そして部下たちはいそいそと液晶テレビの準備を行い、電源を繋ぎ、電源のスイッチを入れた。

 

「……これは?」

「ニホン製の映像機器です。これからニホン軍のプロパガンダ映像を流そうと思うのです」

 

 そう言って液晶テレビに映し出されたのは、電波圏外を表すブルースクリーンであった。カイザルは電源が付いたことで、これが本当に映像機器だと理解すると、液晶テレビの横に回り込んでその機器の特徴に驚いた。

 

「これ……薄くないか?薄い癖して画面が広い」

「そうなのです。ニホン製の映像機器はこんなにも薄く、画面が広く作られています」

 

 従来の映像機器の場合、ブラウン管──またの名を真空管──と呼ばれる機構が内部に必要となる為、どうしても奥行きが必要となってしまう。海軍などで実用化されているレーダーのスコープですら、小さくする事は困難だった。

 

「……奴らは、真空管とか使ってないのか?もしくは、それに代わる何かがあるのかもしれん。というか……電源はどこから引いてきた?」

「ああ。それならバッテリーを買ってきました。そこから繋いでいます」

「ほう……」

 

 カイザルは、バミダルの部下らがテレビと繋いで電源を引いている災害用ポータブルバッテリーに視線を切り替えた。

 

「これもニホン製でして、停電時や近くに電源が無い場合に使うためのものらしいです。こちらは割と高めで、洗濯機一台分の値段でした」

「これは……一体何時間保つんだ?」

「説明書によりますと……一般家庭で使っても、12時間は保つ様です」

「こんな小ささで、半日も使えるだと……」

 

 グラ・バルカス帝国においては、潜水艦などに使われる蓄電池などの大きさになればそれなりの性能は出せるが、ここまで小型でかつ高性能な代物は作れないだろう。

 

「バッテリーだけでこんな高性能なら、軍用潜水艦に搭載される様な蓄電池はどんな性能をしているんだ……?」

 

 ならば、ニホン軍が使っている潜水艦のバッテリー性能はどれだけ凄まじいのか、それが想像できる。

 

「おそらくですが、それも含めてこちらの映像にある程度載っているかと」

 

 そう言ってバミダルは、液晶テレビに付随していたリモコンを何度か操作して映像を再生させる。すると、DVDプレイヤーに挿入された自衛隊の特集ビデオが再生され始め、最初のオープニング映像が流れ始めた。

 

「これ、最初のオープニングは観ますか?」

「いや、飛ばしてくれ」

「では、要点だけを……」

 

 バミダルが何気なく映像を早送りするのを見て、カイザルは息を巻いた。映画館などでよくみるフィルムではない、別の機器を使って再生している様であるが、早送りも巻き戻しも自由自在で、映像も鮮明だった。

 

「"平成29年、海上自衛隊特集"……ニホン海軍の映像か」

「はい。この前ご覧いただいた巡洋艦の他、多数の艦艇の詳細が明らかになりました。

 

 バミダルは映像特集が始まったタイミングで映像を再生し、その鮮明な艦艇らの様子を映し出す。観艦式や訓練などの映像を挟み、映像が流れていく。

 映像に映る軍人らの手際の良さに、思わずカイザルも同じ海軍軍人として感心する、そんな練度であった。

 

「ほう……ニホンもこんな立派な海軍を持っているのか」

「見ていただきたいのはこれの後の映像なのですが……このまま見ますか?」

「いや、飛ばしていいぞ」

「では、失礼して──」

 

 バミダルは映像を早送りにし、少しだけ待つと、あるタイミングで映像を止めた。

 

「ここです、ここ……!」

「"ミサイル"?なんだこれは?」

 

 DVDの映像は、海上自衛隊の護衛艦の兵装として配備されている対艦ミサイルの映像説明が映し出される。よく出来たCG映像による解説とともに、ミサイルの概要が描かれた。

 

「ロケット推進式の誘導兵器、という位置付けの兵器だそうです」

「ゆ、誘導兵器だと……?」

「カイザル閣下は、ニホンの巡洋艦の写真は覚えておりますか?」

「ああ、上部構造物によく分からん兵装が搭載されていたアレか」

「はい。おそらくですが、その不明な兵装がこれに当たるようです」

 

 その間にもDVDの映像は流れていき、そのミサイル兵器のスペック解説に入る。主力の90式艦対艦誘導弾ですら200km以上の射程を誇ると解説されており、今後はさらに射程が増大すると言っている。

 

「……つまり、アレかね?ニホン軍はこの射程200km越えの長射程誘導兵器を実用化し、配備していると?」

「その可能性は、かなり高いはずです」

 

 今まで日本の技術力の一端を見ていたカイザルですら、あまりに荒唐無稽なその兵器の性能に一瞬戸惑った。思わず記憶の中からそれに対抗できそうな兵器を探そうとし、映像の事実を否定しようとしてしまう。

 

「……確かに我が軍でも誘導兵器の類は航空爆弾を改造する形で開発されているが、実用化されるのは相当先と言われている兵器だ。それを、ニホン軍は自立型で実用化しているのか?そんな馬鹿な……」

「確かに自立型の誘導兵器ともなれば、要求される電子技術は計り知れません。しかしカイザル閣下、先ほどの計算機は覚えていますか?」

「ああ、なるほど!そこで繋がってくるのか!」

 

 カイザルは先ほどの電卓の存在を思い出し、ハッとしたのか声を上げて納得する。

 確かにそうである、日本はそもそも日用品レベルでグラ・バルカスが追いつけないような性能の計算機を作り、それを販売している。軍用計算機ともなれば、誘導兵器の実現もできなくはないだろう。

 

「日用品程度であの性能ならば、軍用品にどれだけ高い電子技術を要求されようと、実現は不可能ではない……それにあの安さなら、使い捨ての誘導弾に搭載しても大して惜しくないだろう。つまり──」

「この映像はプロパガンダなどではなく、実際に配備されている可能性がある、と言う事です……」

 

 カイザルはその事実を受け止めると、深く頭を抱え込んで唸った。海軍の軍人として、頭の中でこれを装備した日本艦隊との戦闘をシミュレーションしてみると、結果は自ずと見えてくる。

 

「なんて事だ……これだけの性能を有する兵器が、少数ながらも、ニホン海軍の艦艇に装備されていた場合……我々は勝てんぞ」

「我々もその結論に至っています。もし直接戦争になれば、多少距離の問題もありますが……我々はあらゆる海戦で敗北を喫する事になるでしょうね……」

「……これだけの技術強国が転移してきたのなら、列強レイフォルが負ける理由も頷ける。なるほど、思った通りだ」

 

 その事実を認めると、バミダルもカイザルと共に深くため息をついた。ニホン国の事を調べれば調べるほど、勝てる要素や見込みがなくなってくる事実は、彼らに重くのしかかる。

 

「しかしカイザル閣下、この事実をなんとかして帝国全体に広めなければ、ニホンと直接対峙してしまう可能性もあります。それは阻止しなければ……」

「……確かに、我々が日本と戦えば確実に負ける。それは阻止しなければならない」

 

 カイザルはしばらく頭の中でこの世界の地図を広げ、日本の影響圏と照らし合わせ、どうにかして戦争を回避しようと画策する。

 

「日本は今、第二文明圏あたりで派閥を利かせているらしいので、これ以上勢力を伸ばすことは考えにくいと思います。我が国が第三文明圏の中で十分自活できるように、日本も第二文明圏で自活するつもりなのでは?我々から仕掛けなければ、しばらくは安泰かと思います」

「しかしな……世界の長を主張するミリシアルは、それを黙って見ている訳には行かんだろう。我々もミリシアルとの関わりが深くなりつつある中、この世界の流れに追従しなければ、敵と見做されるかもしれん……」

 

 そこまでバミダルと話して、カイザルは頭を抱えて大きく唸った。

 

「さながら日本は、"新世界の敵"と言うべき存在になっていますからね。我々が彼の国と戦うことは、避けられないかもしれません」

「……今後のことを考えると、もう少し詳しい情報が欲しい。日本や日本周辺で敵になりそうな国の国力、弱点、あるいは逆にわが国が日本に対して優れていそうな箇所を調べて、今後の戦略を立てる必要がある」

「でしたら、こちらでも現地での諜報活動を活発化させようかと思います。少なくともムー連邦の国内は揺れているらしいので、どうにか我々の都合の良い方向へ傾けて見せましょう」

「ありがとう、助かるよ」

 

 そこまで話し合いを挟んで、カイザルは腕時計をチラリとみる。

 

「1430か、俺はそろそろ──」

「はい。迎えの車を待たせてありますので、続きはまた」

「ああ。何から何までありがとう、また来る」

 

 こうして、カイザルは個人で頼んでおいた報告書を受け取る事で、第一次報告を終えた。バミダルに礼を言うと、彼の執務室を後にする。

 情報局の建物を出て、カイザルは迎えの車に乗ると、それらの資料を手に自ら行動を起こし始めた。

 

 

 

 

 

 

ムー連邦 首都オタハイト

連邦統治軍所属 オタハイト第Ⅰ空軍基地

 

 連邦統治軍所属の空軍基地は、近年になって大幅な設備の改革が行われていた。

 元々、マリン戦闘機などの複葉機を運用するためだけだった簡素な滑走路も、ムー連邦で日本製ジェット機が運用されるようになると、ジェット機が発着可能なコンクリート舗装の2000m級滑走路に改装されていた。

 その敷地や設備の一部は、日本とムー連邦の協定により、航空自衛隊も使用可能となっている。敷地の中にあるやけに大きなコンクリート製の格納庫こそ、航空自衛隊が使う為の設備であった。

 その航空自衛隊の施設は、ムー連邦の国民には説明されていない極秘施設として位置付けられている。なのでフェンスに囲まれた敷地の外には、覆い隠すような位置にブルーシートが被せられている。

 そんな格納庫の中で、秘密のヴェールに包まれた大型無人機──航空自衛隊のグローバルホーク──が、機体の最終チェックを受けていた。航空自衛隊から派遣された整備士らが機体の各所を点検し、チェックリストを埋めていく。

 

「機体準備、オッケーです!」

「よし、ドローンオペレーターに通達し、遠隔操縦のリンクを接続させろ!」

 

 整備班長が掛け声を上げると、その連絡はドローンのオペレーターに通達される。

 空軍基地の敷地内にあるスペースには、コンテナ型のオペレータールームが設置されていた。その中にいるオペレーターが、ドローンと遠隔操縦システムをリンクさせる。

 

「各システム、異常なし」

「……よし、作戦開始を宣言する。離陸準備に入れ」

 

 機体の機器をチェックしたドローンオペレーターに対し、作戦司令が作戦開始を宣言した。

 ドローンオペレーターはそれを合図に、コンテナ内の操縦機器を操作し、グローバルホークのエンジンに火を入れた。

 エンジンの轟音を響かせるグローバルホークを、エプロンから滑走路まで移動させる。優先的に離陸準備を整えると、グローバルホークはエンジンを最大出力にし、滑走路を駆け抜け始める。

 しばらく滑走し、機体の対気速度が速まるにつれ、横幅の広い主翼に揚力が溜まっていく。そして地上での加速が一定になると、ドローンオペレーターは操縦桿を引いた。

 

「テイクオフ」

 

 神聖ミリシアル帝国に"脅威'と見做されたその無人機が、オタハイトの空軍基地から大空へ舞った。

 まだ朝日が照りつけるオタハイトの空を、無人の大鷹が優雅に飛んでいく。その目的地に、新しく生まれ変わったミリシアル空軍が待ち受けていることを知らずに、大鷹は東の空へ向けて飛んでいった。

 




今年は色々サボってしまいましたが、来年にはこの作品を完結させたいです。
なので来年もまた、よろしくお願いします。
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