新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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明けましておめでとうございます。
最近になって、文章が長くなりすぎてないか気になる。


第二十話『射られる大鷹』

神聖ミリシアル帝国 バネタ地区

第9戦闘機軍団 司令部

 

 第一文明圏、ミリシアル帝国領内南西部にあるバネタ地区。バネタ地区全域に、甲高いサイレンの音が鳴り響き始めた。

 空襲警報だ。

 それを聞いた住民達は突然のサイレンに驚きつつも、その周囲に到着し始めた警察官やミリシアル陸軍の兵士らに促され、建物の中に入ることを勧められた。

 その一方、バネタ地区で一番大きい政令都市アルバリオスに隣接する第9戦闘機軍団の司令部では、魔導通信士らがひっきりなしに通信を手に取っていた。

 

「第19魔導監視群より報告!新型の電磁魔導レーダーが、例の偵察機を捉えました!」

「各セクター、防空戦闘配置!」

「了解!全セクター、防空戦闘配置!」

 

 既に迎撃機が滑走路からは、ミリシアル空軍の主力戦闘機であるエルペシオ3が飛び立ち、上空に昇っていく。そして周辺の高射砲群も稼働し始め、防空体制が整っていた。

 だが肝心の目標は、依然として超上空を飛び続けており、迎撃機の追撃を軽々と躱して偵察を続ける。

 その所属不明機こそが、日本国自衛隊がミリシアル帝国への偵察機として送り込んだ無人偵察機、グローバルホークであった。今回、2回目の領空侵犯である。

 

「迎撃の第33中隊、現在高度5800。順調に上昇中です」

「よし、覗き屋がエリア48に入る前に落とすぞ。迎撃隊は高度6000への上昇と共に、方位2-5-5へ」

「了解」

 

 防空指揮所に居る帝立ミリシアル空軍、第9戦闘機軍団の司令官は、基地内の防空指揮所から的確に指示を飛ばしていた。

 この数ヶ月間で、この司令部の要員もだいぶ顔ぶれが変わっていた。前に所属不明機が侵入した事件において、人員の整理が行われたからだ。ここに居ない者は左遷されている。

 左遷された者は、もはや元のキャリアに戻ることはできないだろう。なにせ前回の一件は、皇帝ミリシアル8世の不服を買っていたからだ。

 

「電磁魔導レーダー、目標は捉え続けているか?」

「はい、目標は方位0-2-3より高度9000を300ノットで飛行中です」

 

 その新型のレーダーは、観測員が感化を漏らすほどの性能を有していた。ミリシアル空軍がなるべく優先で配備を進めていた、電磁魔導レーダーである。今回はこれが、前回は捉えられなった所属不明機をしっかりと捉えていた。

 

「この新型レーダーはすごい性能ですね……例の偵察機もしっかり捉えていますよ」

「ああ……防空体制の一新は実を結んだようだな」

 

 前回の失態から数ヶ月間の間、帝立ミリシアル空軍は何回かの頻度でやってくるグローバルホークを迎撃するべく備えを進めて来た。

 まず魔力探信義に引っかからない原理不明のステルス性能を持つグローバルホークに対し、ミリシアル帝国は電磁魔導探信義の開発と配備を進め、先週ようやく稼働を始めた。

 そして基地の防空体制も見直され、哨戒飛行の頻度と高度を増やし、さらに前述の電磁魔導探信義を長波短波と並行し設置。三重の早期発見を目指した。

 果たして、その防空体制は実を結んだ。グローバルホークがエリア48の上空に入るより前に、飛行場は防空体制と迎撃の準備を整えていた。

 

「目標、さらに上昇。高度10000へ上がります」

「気づいたか……第33中隊の現在高度は?」

「第33中隊、現在高度8800!」

「一回のチャンスでいい。攻撃を許可する」

 

 司令官が命令を下すと、魔導通信士がその命令を第33中隊へと送った。命令を受諾した第33中隊は、さらに高度を上げて所属不明機を追う。

 

 

 

 

 

 

ミリシアル帝立空軍

第9戦闘機軍団 第33中隊

 

 上空、雲より高い遥か高空。

 ここまで来ると、ミリシアルの戦闘機といえども酸素マスクが必要になる。高度4000から酸素マスクを付けていた第33中隊の二機編隊は、機体に搭載された酸素と燃料の残量を気にしながら、上昇を続けていた。

 

『ドレッド22、ルイス、あまり気を張るな』

「分かってます……」

 

 ちくしょう、緊張しているのがバレバレだ。

 空軍少尉になったばかりの新人パイロットは、心の中でそう思った。深く息を吸い、呼吸を落ち着かせ、なるべく平常心を保つ。

 彼がこんなにも気を張り巡らせているのは、少し前の出来事が関係していた。一ヶ月前、前回の事件を防げなかった本土防空軍の体制に疑問を持つ声を受け、都市や重要拠点などを防空する"拠点防空軍"から何人かの顧問がやって来て、指導を開始したのだ。

 その際に、拠点防空軍に所属し、実際にカルトアルパスの防空任務に就いているシルベスタ・エリオンという大尉階級のパイロットから説教されたのだ。

 

──「提示されたスペックが本当なら、俺でも落とそうと思えば落とせるぞ。つーかお前らは、俺達みたいな他部隊を目標とした訓練とかしてねーのかよ?」

 

──「つーか、対空監視部隊との連携とかを強化すりゃ、一撃だけなら入れられたかも知れねーじゃねーか。そんなんだからザル呼ばわりされるんだよ!」

 

 小馬鹿にしているが、明らかな正論であった。隊の皆は誰も反論できず、殴り掛かろうとする者まで現れた。

 そんな事だから、この新人パイロットは気を張り詰めて飛行していた。その悔しい思いを払拭するべく、今回の不明機だけは絶対に、何がなんでも墜としてやると決めていたのだ。

 

『ドレッド22。チェックポイント・タンゴ。最後の上昇だ』

「了解、ブースト開始します」

 

 しばらく水平飛行をしていた後、管制官からの指示に従い、的確な地点で上昇を開始する。愛機のエルペシオ3から加熱制限付きのアフターバーナーが点火され、エンジンの熱が上がると同時に、最大の加速を放った。

 そしてそれが終わると、再び水平飛行に転じ、周囲を見渡す。

 

『間も無くボギーが目視できる。必ず落とすぞ』

「了解。基地には、絶対に近づけさせません」

 

 決意を新たに、二機のエルペシオ3は周辺を見渡し、目標を目視しようとする。

 するとそれはすぐに見つかった。目の良い新人の方が、右方向20度に薄っすらと、一機の所属不明機らしき物体を見つけた。

 

「タリホー1!速度3-1-0、方位0-2-0ロメオ!」

『よし。チャンスは一回だ、決めるぞ!』

 

 限界高度が近い中、エルペシオ3はゆっくりとバンクし所属不明機の後方に着く。しかしまだ魔光砲の射程外に位置し、所属不明機は悠々と飛んでいる。

 

『距離が遠い……くそっ、追いつけん』

「加熱限界まで後12秒、やってみます!」

 

 新人パイロットはそれに負けじと、エルペシオ3のアフターバーナーを炊いてさらに加速をさせる。エンジンの熱がさらに上昇する中、それも気にせず、新人パイロットは所属不明機に追いつこうとする。

 

「くそっ……同じ高度にいるのに……!」

『ダメだルイス、追いつけない!相手は600kmは出てるぞ!』

「構うもんか!」

 

 機体に警告が鳴り響き、いよいよエンジンの熱が限界に近づく。しかし、それでも新人パイロットは加速をやめない。限界を超えたその先へ──

 

「ミリシアル帝国舐めんじゃねぇぞ!!」

 

 しかし、その気合いは所属不明機には届かなかった。最大の最大、それを超えた先まで加速したところで、エンジンが熱に耐えられず、ファンが溶けてそれが中身を砕き、爆発した。

 

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国 バネタ地区

第9戦闘機軍団 司令部

 

 所属不明機と、第33中隊を示す石板のフリップ。その表示のうち、味方の青いフリップが重く光ったと思うと、偵察機への接触を行っていた第33中隊の機体のうち、片方のフリップが消えた。

 

「ベイルアウト?撃墜された!?」

「いえ、違います!エンジンが爆発した模様!」

 

 驚きの声を上げた防空指揮官に対し、機体のテレメーターを確認していた士官がそう報告した。

 第33中隊のドレッド22は、エンジンが過熱限界で爆発し、機体が錐揉みで回転しながら落ちていく中、咄嗟にベイルアウトのレバーを引いたのだった。

 

「ドレッド22、エンジンの不調により緊急脱出。目標は健在です」

「くそっ、ダメか……」

 

 戦闘機軍団の指揮官が落胆の声を上げる中、偵察機がさらに駒を進め、ミリシアル本土の領空をさらに侵犯していく。

 

「偵察機、エリア48の実験場へ向かいます!方位0-1-0!」

 

 所属不明機はそのままこちらの防空網をすり抜け、最重要機密が眠るエリア48の上空に差し掛かった。

 

「司令、他の戦闘機軍団からも応援を呼びますか?」

「今更上がったところで、あの高高度にいる偵察機に追いつくのは無理だ。燃料の無駄になる」

 

 一応、かの偵察機が帰る時にけしかけるべく、戦闘機は待機させておく。しかし、こちらの防空網を突破された時点で、結局自分たちの努力は無駄だったと言うことになる。今更他の地域から呼び出しても意味がない。

 

「司令、このままのルートだと、不明機はエリア48の西を通過していきます」

「覗き屋め、例の"雪上戦艦"を撮っていくつもりか。そうか、奴が前回通った時は建造途中だったからな」

 

 司令官が所属不明機のルートを予測している途中、傍の通信士に対して魔導通信のコールが鳴り響く。通信士はその受話器を取ると、所属と官名を聞いてから司令に伝えた。

 

「司令、雪上戦艦より魔導通信が入っています」

「魔導通信?なんのつもりだ、貸してくれ」

 

 魔導通信士から受話器を受け取ると、司令官は通信の向こうにいる相手に要件を聞く。

 

「こちらバネタ空軍基地防空指揮所、コードネーム"アテナ"へ、なにか要件か?」

『こちらは陸上魔導戦艦〈アテナ〉だ。空軍、これ以上アイツに覗き見されるのは気味が悪い。こちらの試作兵器で迎撃しても構わないか?』

 

 海軍の指揮官から言われたその言葉に、空軍の指揮官は激しく困惑した。試作兵器の話は聞いていたが、対空に使えるとは思っていなかったからである。

 

「何、"あの兵器"で迎撃すると言うのか?航空機では落とせなかったんだ、艦載武装で何が出来る?」

『問題ないさ。こいつは今までの高射砲とは全く違う。とにかく誤射を避けるべく、付近の航空機を退避させてほしい』

「…………」

『……あんたらだって悔しいのはわかるが、俺たちが代わりにアイツへ一泡吹かせてやるってんだ。指揮権を移譲してくれ、頼む』

 

 指揮官は指揮権の移譲に少し悩む。ここで指揮権を渡せば、空軍は作戦を達成できなかったとしてその地位はさらに下がるだろう。

 だが、今の状況は自分たちではどうしようもできない。である以上、仕方ない事態として指揮権の移譲を決意した。

 

「……仕方あるまいか。通信、付近の空軍機に通達し〈アテナ〉周辺より退避させよ。撃ち落とされたくなかったらな」

「はっ、了解です」

 

 通信士がその命令を流すと、石板に映るフリップの数々が、すぐさま陸上戦艦の周辺から退避していった。

 

「……防空指揮権は、一時的にお前たちに預ける。これで落とせなかったらお笑い者だぞ」

『ああ、その時は存分に笑ってくれ。以上、通信終わり』

 

 空軍の指揮官がそれを伝えると、向こうから通信が切られた。残された空軍は、事態を見守る事となる。

 

「海軍と魔帝省が、古代兵器の遺産から共同で開発した誘導兵器か……果たしてまともに使えるのか」

 

 空軍の指揮官の疑問はあれど、当該の陸上戦艦の方では、撃墜のため準備が着々と進んでいた。

 

 

 

 

 

対魔法帝国対策省古代兵器運用分析部直轄 エリア48

陸上魔導戦艦〈アテナ〉

 

 実験型陸上配備魔導戦艦、それがこの陸上戦艦〈アテナ〉の正式名称だ。エリア48の敷地内に作られた建造物であり、魔導戦艦の上部構造物をそのまま陸上に持ってきている。

 この設備は、将来建造される予定の新型魔導戦艦配備のためのテストベッドだ。搭載される新しい武装や魔導システムなどをここでテストし、正式建造につなげる役割を持つ。

 そのテストベッド戦艦が、本来なら使われるはずもない実戦で使用されようとしていた。

 

「総員戦闘配置!繰り返す、総員戦闘配置!!」

 

 カンカンカンカンと、艦内にスピーカーから録音された武鐘が鳴り響く。

 兵士や工員達が持ち場へ付くべく、途中途中で既に配置に付いて計器を弄っている兵士を避けながら、数人のグループとなって駆け足で廊下を走って行く。

 一方の艦橋では、士官らが持ち場に着き、船員が配置につくのを今か今かと待ち望んでいた。

 その艦橋では、この陸上戦艦の艦長役としてイレイザ大佐が椅子に腰掛ける。その隣には、開発担当の技師としてメテオス主任の姿もあった。

 

「火器管制システム、異常なし」

「誘導魔光弾管制システム、異常なし」

「探信管制システム、異常なし」

「魔力回路システム、異常なし」

「総員配置に着きました!全システムオールグリーン!」

 

 船員達の配置が完了したのを受け、指揮官としてイレイザ大佐が士官らに状況を問いかける。

 

「目標は?」

「目標不明機、電磁魔導レーダーに映りました。方位0-1-0、速度320ノット!」

「よし、対空誘導魔光弾のエネルギー充電は?」

「指示さえあれば、いつでも」

 

 機関士からそう告げられ、イレイザは「パーフェクトだ」と士官達を褒め称えた。そしてイレイザは、メテオスの方向を向いてその指揮権を彼に対して移譲した。

 

「メテオス殿、誘導魔光弾発射の指揮をお願いします」

「ああ、指揮権を頂戴するよ」

 

 空軍から受け取った指揮権を、さらに魔帝省の人間に明け渡すという、通常ならばあり得ない采配。

 だが、不慣れな新兵器を急遽実戦で使う事を受け、イレイザはその運用指揮権をメテオスに移譲する事を初めから決めていたのだ。

 そしてイレイザは、配置についた船員達を鼓舞するべく通信機を手に取り、ちょっとした演説を行う。

 

『達する、艦長のイレイザだ。これより我が国の防空網に激震を走らせた偵察機を迎撃するべく、誘導魔光弾の発射準備に取り掛かる!諸君の奮闘次第で、あの忌々しい偵察機を撃墜できるかが掛かっている!各員努力奮闘し、任務を遂行せよ!以上だ!』

 

 続いて、イレイザはマイクをメテオス主任に手渡し、ちょっとした演説を求めた。

 

『艦内諸君、艦長より防空指揮権を受諾したメテオス・ローグライダーだ。これより誘導魔光弾の発射準備に取り掛かる。不慣れな武器であろうが、使い方は我々が共同で分析した通りだ。各員、私の指示に従い発射シークエンスを遂行せよ。以上だ』

 

 それらの演説が終わり、乗員らの士気が引き締まった頃に、メテオスは傍の砲雷長に対して発射準備の命令を下した。

 

「砲雷長、"クゥ・ウルティマ"発射準備。目標、上空の偵察機、発射数2。発射管への魔力回路開け」

「了解。発射管数2、安全装置解除。魔力回路開きます」

 

 新兵器、誘導魔光弾。

 魔帝の遺産から掘り出し、それを解析し、ミリシアルなりに再現したこの新兵器が、ついに実戦で使われる時が来た。

 今回使う対空型の誘導魔光弾は、魔力回路でエネルギーをチャージする必要がある。所属不明機はエリア48の上空に差し掛かったばかりであり、時間の猶予はあったが、それでも船員らには焦りが出てくる。

 

「機関室、回路が開いた。魔導機関を始動させろ」

『了解、お前ら聞いたな?始動開始だ、限界までぶん回せ!!』

 

 機関長の大声を受け、機関室の人員らが新型の高出力魔導縮退缶を始動させた。轟音と共にエンジンに火が灯り、艦橋からもその振動が足元を通って伝わっていく。

 

「エネルギー来ました!」

「魔法種別は電10、空20、炎30、爆40。充電開始」

「電10、空20、炎30、爆40、回路より充電開始!」

 

 メテオスが魔力の配合を伝えると、火器管制の士官らが計器を操作し、その通りに魔力を充填させる。そして、その配合の通りに魔力がチャージされ始めた。

 

「エネルギー充填率40%……60%……80%……100%!!」

「エネルギー充填完了、続いて目標へ電波照射」

「電磁魔導レーダー、目標照準……完了!」

「全システムオールグリーン、発射準備完了!」

 

 そして、エネルギーがチャージされ最後に目標へレーダー波を照射、全てのシステムが所属不明機を落とすために整った。

 

「艦長」

 

 そのタイミングで、メテオスはイレイザに向けて振り返り、最後の許可を問う。

 

「発射準備整いました。よろしいですか?」

「もちろんだ」

 

 ここまでやっておいて「今更何を?」と言う投げやりな表情で、イレイザはメテオスに最後の許可を出した。それを受け、メテオスは発射の指示を下す。

 

「分かりました。クゥ・ウルティマ、発射開始!」

「発射!発射!」

 

 そのボタンを押すと、陸上戦艦に備え付けられた発射管から誘導魔光弾が放たれる。魔法由来の推進方法が尾を引き、あっという間に遥か彼方の上空へ飛び立った。

 

「正常な発射を確認!目標到達まで5……4……3……2……1……インターセプト!」

「一発ロスト、もう一発……命中を確認!」

「よしっ!」

 

 そして、魔光弾は命中した。

 突然発射された誘導魔光弾を受け、グローバルホークは回避する間も無く、その主翼に魔光弾が炸裂した。

 内部の回路と骨組みが、爆発によって抉り取られ、その構造を崩壊させる。バランスを保てなくなったグローバルホークはそのまま錐揉み回転しながら、その高度を急激に落としていった。

 

『こちら見張り員!誘導魔光弾、敵偵察機主翼に命中!墜落していきます!』

「やった、遂にやったぞ!!」

 

 撃墜に成功した事を受け、陸上戦艦の艦橋はわっと沸き立つ。様々な歓声が上がり、ハイタッチをしたり、中には抱き合う者などもいた。

 それほどまでに、この所属不明機撃墜と言う案件は、相当な偉業だったのだ。

 

「メテオス君」

 

 と、沸き立つ歓声の中でホッと一息ついていたメテオスに対し、イレイザ大佐が声をかけた。

 

「ありがとう、君たちのおかげであの忌々しい偵察機を撃墜できたよ」

「いえいえ、我々は技術を解析しただけです。操作したのは、貴方方海軍ですよ」

 

 謙遜するメテオスに対し、イレイザは「そうだな」と苦笑いを見せつつ答え、彼に対してワイングラスを見せた。

 

「飲むかね?勝利の祝いだ」

「準備がいい」

 

 メテオスが笑ってそう言うと、イレイザ大佐はワイングラスにワインを注ぎ、メテオスと乾杯を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

日本国 東京

霞ヶ関 日本国首相官邸

 

 グローバルホークの映像記録が、首相官邸に設置された対策室のモニターに映し出される。

 衛生網によって送信された最後の映像には、グローバルホークがエリア48の上空を通りかかったその瞬間、地上の施設から何か白い尾を引く物体が飛び立ち、それがグローバルホークに命中した様子が映し出されていた。

 

「……以上が、撃墜された際の映像記録になります」

 

 事の発端を作り出した航空自衛隊の幹部が、今回の事態の説明を行なっていた。その言葉を受け、武田総理は頭を抱え、絞るような言葉を出した。

 

「……では、つまりこう言うことかね?絶対に撃墜されないと高を括って侵入したら、案の定、不確定な要素によってグローバルホークが撃墜された、と?そして残骸は、ミリシアルの研究所らしき場所に運ばれたのをGPS発信機で確認したと?」

「……その通りです」

 

 航空自衛隊の幹部が責任を感じ、顔を伏せるようにしてそう答えた。

 

「……確かに報告書を読む限り、三ヶ月程度で部隊の配置転換や、新型機への転換訓練が終わるとは到底思えん。新型レーダーが短期間で配備された事ですら、対応として異常な速さと言えよう。だが──」

 

 武田総理は改めて指摘するように、航空自衛隊の幹部に対し指を差し、厳しく追及する。

 

「前回の偵察とは違う点が見られたのに、それで怪しいと思って引き返さなかったのは何故だ?私はそこが聞きたい」

「それに関しては……新型レーダーの波長の収集、解析などの目的がありそのまま侵入を続行しました。しかし、我々が事前情報を鵜呑みにしすぎた、迂闊だったと言うのは事実であります……」

 

 その幹部自衛官の言葉に、財務大臣が大きく声を上げて反応した。日頃から自衛隊や防衛省を目の敵にしている財務省にとっても、許されざる事態だったからだ。

 

「迂闊?迂闊だったと?君たちがそれを注意しなかったせいで、こんな事態になったんだぞ!」

「っ………」

「機材も失い、残骸は鹵獲され、国家の安全保障にまで悪影響を及ぼしている!どうしてくれるんだ!全部君たちのせいじゃ無いか!」

 

 激しく叱咤し、追求する財務大臣。いつもは軍事に関しては素人で、的外れな指摘しかしない財務大臣でも、今回ばかりは正論だった。

 だがそのタイミングで、武田総理が財務大臣を諌めた。

 

「……財務大臣、そこまでにしておいてくれ」

「しかし、総理!」

「分かっているよ……しかし、今考えるべきは責任の追求じゃない。事態の後始末の方だ。そんなものは後から幾らでもできるだろう」

 

 そう言って武田総理は、防衛大臣に対して向き直って改めて問いかける。

 

「防衛大臣」

「はっ」

「今回の自衛隊の行動は、どのように隠蔽したらいい?今回の問題を起こした、君たち自身から聞きたい」

 

 武田総理が、事態の収集方法を問いかけると、防衛大臣は特に焦る事なくある方法を提言した。

 

「はい。それに関してなのですが……既に統合幕僚長と協議した結論が出ております」

「どんな内容だ?」

「要は、我が国が関与した証拠となる無人機の残骸を確保すればいいのです。ですが外交交渉では無理でしょう、我が国の手の内を晒すことになります。そうですよね、外務大臣?」

 

 新しく就任した外務大臣に話が振られ、彼は一瞬だけ困惑するも、すぐに空に受け答えをした。

 

「……当たり前だ。我が国から正体を明かしてどうする?」

「ええ。ですので、ここは強行手段を取るべきです」

「強行手段?」

「はい。ミリシアルの研究施設に特殊作戦群を送り込み、残骸を破壊する方法です。これなら、外交で手の内を晒さずに証拠を隠滅できます」

 

 防衛大臣から出てきた衝撃的な方法を受け、他の大臣達が過剰に反応した。それもそうだ、「特殊部隊で証拠隠滅する」と言っているのだから、強硬手段もやり過ぎである。

 

「た、他国に軍隊を送り込むのか?それは宣戦布告と何が違うんだ!?」

「いえ、何もかもが違います。まず特殊作戦群のような少数部隊ならば、国籍を明かさずに任務を行うことが可能です。つまり、極秘任務が可能というわけです」

 

 しかし防衛大臣は、特に臆する事なく弁解を始める。特殊作戦とは、どんな作戦でどんな任務であるかを。

 

「作戦の達成に関しても、特殊作戦群のような部隊ならば問題なく遂行できます。そして残骸が最後に探知された研究所までのルートは、2回に渡る偵察行動で最適なルートを把握しております。これしかありませんし、こちらの方が確実です」

「しかし……ミリシアル本土までの海上ルートはどうするんだ?武器を持ってミリシアルに渡航するわけには行かんだろうに」

「海上移動に関しては、海自の潜水艦を使います。幸いにもミリシアルにおいては、潜水艦どころか魚雷などの水中兵器すら存在しないことが、情報省の調べによって判明しております。なので、最新型の潜水艦を二隻ほど用いれば1週間以内に派遣することが可能です」

 

 あまりに具体的な方法を受け、他の大臣達は押し黙ってしまった。それを受け、防衛大臣は改めて総理に問いかける。

 

「どうですか、総理。この方法しか、わが国の手の内を消す方法はないと思われます」

「……また、面倒なことになったな」

「はい……ですが、今回は直接相手と戦争をするわけではありません。事態が大きくなる前に、証拠隠滅をするべきかと」

「…………」

 

 その言葉を受け、武田総理はしばらく悩んだ後に、重々しく口を開いた。

 

「……仕方ない。防衛大臣、この件の不始末は君たち自身でツケて来い。作戦の実行を許可する」

「はっ、すぐに準備に取り掛かります」

 

 武田総理からの最後の許可を受け、防衛大臣は早速傍の自衛官に対して特殊作戦の実行を指示した。

 こうして、日本国が転移してから初めて、その秘密のヴェールに包まれた特殊作戦群が出動することとなった。彼らの実力が明らかとなるのは、これのすぐ後の話である。

 




ちょこっと解説します。

・何故グロホはレーダー波を受けても引き返さなかったのか?
レーダー波が探知された時に、レーダー波の収集、解析も同時にできると踏みそのまま続行しました。いわゆるシギント任務ですね。探知されてもエルペシオ3でグロホの撃墜は不可能である事も前回知られていましたし、実際今回の偵察でもエルペシオでは撃墜できず、魔光弾に頼らなければ撃墜出来なかった事が、ミリシアルの防空能力の限界を表していると思います。
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