次回から本格的な戦闘に入ります。
神聖ミリシアル帝国 バネタ地区
エリア48 地下研究施設
ミリシアルによるグローバルホーク撃墜の事件から数日が経ち、事態の熱もそろそろ冷めてきたこの頃。ミリシアルが奪取した所属不明機ことグローバルホークの残骸は、そのままエリア48の地下研究施設の奥底にて分析が行われていた。
日が経つにつれて解析と分析が進み、所属不明機の正体がわかるかと思ったら、そう上手くは行かなかった。ミリシアルによるグローバルホークの解析は、思うように進んでいなかったのである。
「こちらです、お二人とも」
当初、研究員らはグローバルホークの残骸が安置されている場所に何人たりとも立ち入らせなかったのであるが、解析がひと段落したことを受け、他の部署の幹部にも経過報告をする事となった。
正式な許可が降り、そのグローバルホークが安置されている研究室に二人の男性が向かっている。グローバルホークを撃墜したメテオス主任と、海軍のイレイザ大佐だった。
「早く残骸を見せてくれ」
「まあ、お待ちを」
メテオス主任とイレイザ大佐は、残骸見たさにはやる気持ちを抑えつつも、案内役となったドワーフ種の研究員の後について行った。同じエリア48の勤務とはいえ、二人が残骸を見るのはこれが初めてである。
「正直驚きました。エルぺシオ3でも迎撃できなかった所属不明機を、あなた方はいとも容易く撃墜したのですから」
「その分、空軍は大恥をかいているがな」
グローバルホークを撃墜できなかった空軍は、その信頼を大きく失っている。
最大限の努力こそすれど、迎撃に失敗し海軍と魔帝省に手柄を奪われた事実は変わらないため、今後の地位に響く相当な出来事と言えよう。
「空軍とて努力したに違いない。覗き屋が我々より一枚上手だっただけだよ」
イレイザ大佐は、そう言って空軍に対して最大限のフォローを行う。同じ軍人として、イレイザ大佐は空軍の努力には敬意を払っていた。
それからイレイザ大佐はふと思い出したのか、案内役の研究員にパイロットの所在を聞く。
「そう言えば、搭乗員は?」
「ああ……聞いたところによると、今は謹慎中だそうです。命令を無視してエンジン限度を超えた加速で機体をダメにしたんですから、罰則が降りました」
「いや、偵察機の方だよ」
イレイザ大佐が、勘違いしているドワーフ研究員に苦笑いでそう聞くと、研究員は立ち止まり、少し口ごもった。
「それが……居ないのです」
「は?」
「……とにかく見てもらえれば分かります。この扉の向こうです、さあこちらへ」
そう言ってドワーフの研究員は、偵察機の残骸が安置されている研究室の前に来た。そして衛兵らしき兵士たちにパスを見せると、衛兵はそれを確認し、隣の魔導器を操作して扉を開けさせた。
その向こう側に、例の研究室があった。部屋の天井は高く、部屋というよりフロアと言った出で立ちで、中には誰もいない。
「何だこれは……」
そんな部屋に佇んでいたのは、日本がライセンス生産して運用していたグローバルホーク。撃墜され、回収されたその残骸であった。
所々が爆発で焼け焦げ、機体の構造も主翼を中心に著しく破損しているが、地面に四散した破片を集めて何とか組み上げたそれには、かの機体特有の無機質な灰色とその滑らかな曲線美がそのまま残っている。
そんな無機質な飛行機を見たメテオスは、咄嗟に魔力を判別する片眼鏡を付け、残骸の残留魔力を調べる。
「魔力が感じられない……飛行機械なのか?」
「一つずつ説明します。まずはこちらを」
そう言ってドワーフの研究員は、メテオス主任とイレイザ大佐をグローバルホークの残骸に近づけ、その中から外皮の欠片を取り出した。
「まず、この機体の外皮なのですが……分析してみたところ、金属ではありませんでした」
「何?」
メテオス主任とイレイザ大佐は、その言葉に驚いてお互い顔を見合わせた。飛行機械を含め、天の浮舟も含め、多くの航空機の素材は金属製だ。軽くてある程度丈夫なアルミやジェラルミンなどが用いられる事が多い。
「この素材は、我々が航空機の外皮として使っているジェラルミン材よりも軽く、それでいて遥かに丈夫です。魔導技師や素材研究の技官を動員して調べたところ、樹脂系の素材であると判定されました」
「樹脂で航空機の素材が作れるのか?」
「我々には無理ですが、相手には可能という事です」
そう言ってドワーフの研究員は再び立ち上がると、今度は機体の後部、エンジンが収められていると思しき箇所の外皮を取り外し、内部を見せた。
「このエンジン部分を見てください。こちらは、見覚えがあるかと」
「これは……魔光圧縮エンジンじゃないか!」
「はい。こちらは機械式なので厳密には別物ですが、構造としてはほぼ同じです」
魔光圧縮エンジンとは、ミリシアル帝国において天の浮舟などの航空機に用いられるエンジン方式である。ミリシアル帝国以外には実用化していないと見られていたが、この偵察機はそれを搭載していた。
「しかも見てください。吸気口からファンの角度、そして細かい部品に至るまで全てが我々より洗練されています」
「これは……見たことない金属だ、何で出来ているんだ?」
「それが……このファン部分の素材に関しては、何で出来ているのか全く分からないのです。これに関しても研究者を動員しましたが、新種の合金である事以外は全く分かりません」
メテオス主任はそのファンの素材を少し見聞しつつ、燃料の抜かれたエンジンを少し回してみて、その洗練された技術力に目を見開かせていた。イレイザ大佐も同じ意見のようで、後ろで同じ表情をしていた。
「しかし耐熱性などを検証してみたところ、我が国の天の浮舟などに用いられる魔光圧縮エンジンの素材よりも、はるかに耐熱性が高いのです」
深く調べれば調べるほど、謎は多くなっていく。この機体には相当な技術力が注ぎ込まれているのが見受けられるが、誰が作ったのかはまるで分からない。
と、あることに気がついたのかイレイザ大佐がドワーフの研究員に質問をした。
「なあ、気になっていたんだが……この機体の操縦席はどこだ?風防すらないぞ」
「そう、その操縦席についてなのですが……結論から言えば、存在しませんでした」
「な、なんだと?」
ドワーフの研究員が言ったその言葉に、二人は大きな衝撃を受ける。それを見たと同時に、研究員は話を続ける。
「お二人は、母機や地上管制から遠隔で操縦する無人機についてはご存じですか?」
「ああ。我が海軍が高射砲の標的として開発を進めていたが……コストパフォーマンスが悪いのでお蔵入りになったやつか」
「これはそれと同じです。機首内部を調べてみたところ、誘導電波の受信機と思しき構造を発見しました」
「なっ……飛行機械を遠隔地から無線操縦するとでも?そんな馬鹿な!?」
イレイザ大佐が思わず大声を上げる。それもそうだ、各国の飛行機械といえどもこんなに洗練され、魔光圧縮エンジンを搭載し、なおかつ無人操縦が可能な航空機など存在しない。あり得ないというべき存在だ。
「いや、それなら辻褄が合う。コイツが最初にエリア48に来た時、魔力探知レーダーに引っ掛からなかった。無人で遠隔操縦する飛行機械なら、魔力はカケラも探知できん」
メテオス主任は、そんな説明を聞いてある程度納得していた。最初にこの機体が領空侵犯をしたその時と、この機体のカラクリが、まるでパズルのピースが噛み合うように一致している。
しかし、あまり納得できないのか、イレイザ大佐はメテオスに一言の疑問を投げかける。
「だがメテオス君、我が国の南方は海に囲まれている。どれくらい遠隔地から飛ばしたんだ?そもそも無線操縦なら、どうやって電波を届かせて……」
「そのカラクリは分からんが、少なくともこの機体にはそれが出来る性能と、航続距離があるという事だな」
メテオス自身も、そんな性能がある航空機が存在するだなんて思いたくもない。これが偵察型ならば、戦闘型となればどんな性能をしているのか、想像もつかないからだ。
「見て分かる通り、この機体には凄まじい技術が使われています。その全てが魔法由来ではなく科学由来ではありますが、その技術力は計り知れません」
「……どこの所属かはわかるのか?」
「いえ、怪しい国はあるのですが確たる証拠までは掴めませんでした。パーツ一つ一つに至るまで文字も番号も消され、製造元も分からない状態なんです」
流石に徹底した情報管理だと思った。実際ミリシアルだって、他国に偵察機を送る時はそうやって証拠を消すだろう。どうやら謎に包まれた相手の方も、情報隠蔽に関する知見が優れているようだ。
だが、ここで一つの疑問が残る。その怪しい国というのは、一体どこの国なのか、と。メテオス主任はその国の名前を聞いてみる。
「……ちなみにその、怪しい国というのは?」
「……ニホン国です」
やはりというべきか、メテオスが前に予想した通りその国の名前が出てきた。またパズルのピースが繋がった事で、メテオスに緊張が走る。
「今の所、技術水準が全く不明なのはニホン国だけです。あの国には謎が多く、科学文明なのか魔法文明なのかも分かりません。可能性としては十分にあり得ます」
「ふむ……やはり可能性としては高い方か。私も怪しいとは思う」
「ですが……ニホン国の位置は知っての通り、ここから1万5000キロ以上離れています。普通に考えて、飛行機械どころか天の浮舟でも航続距離が足りません。これでは、どこかで"ニホン国が怪しい"と言っても誰も信じてくれないでしょう」
「つまり、我々は泣き寝入りというわけだな……してやられたな」
メテオスらが、そう言ってため息を吐く。これが事実なら、ミリシアルは相手に偵察機で遊ばれた上、証拠を取ることもできずに泣き寝入りということになる。ミリシアルの建国以来、最大の屈辱だ。
「このまま泣き寝入りは嫌だな。どうにかして、決定的な証拠を掴みたい。もう全ての部品をバラしてもいいんじゃないか?」
「ええ、我々もリバースエンジニアリングを諦めて完全にバラバラにする予定です」
「なら気をつけておけ。最近、少し気になる噂がある」
「気になる噂?」
そう言ってドワーフの研究員は疑問を思う。メテオス主任とイレイザ大佐は彼に対しても話しておかなければならないと、お互い目を見合わせて頷くと、背の低いドワーフの研究員に合わせるようにかがみ込んだ。
「……諜報機関経由の噂だが、ニホン国が我々に偵察機を解析されるのを恐れているらしい。特殊部隊を送り込んででも、破壊しようと企んでいるとのことだ」
「なんと……!」
「君も気をつけた方がいい。私は、頑固な基地司令を説得してみるよ」
「わ、分かりました……」
メテオス主任からの忠告を受け、ドワーフの研究員は背筋に何か薄寒いものを覚えた。メテオスは再びグローバルホークの残骸を見て、思ったことを口に出す。
「なんとしても、コイツだけは守り切らなければならない。コイツが奪われたり破壊されでもしたら、我々は今度こそ泣き寝入りだからな」
まだ見ぬ敵にそう言い残すと、メテオス主任とイレイザ大佐は、グローバルホークを睨みつけるように見つめた。
神聖ミリシアル帝国 バネタ地区
グラ・バルカス帝国 外務省セーフハウス
グラ・バルカス帝国は、今回のグローバルホーク残骸回収任務のため、ミリシアル本土へ向けて二つの特殊部隊を派遣していた。
一つは今回の作戦を決行したカイザル・ローランドの指揮下にあり、現地に武器や装備などを輸送するべく派遣した"海軍特殊臨検旅団"である。今回は第三文明圏から出発した輸送艦を用いて、武器や装備などを密輸で運び込む役割を持っていた。
そして二つ目は外務省隷下の特殊部隊"シーン暗殺連隊"である。かのユクドにおけるケイン神王国との植民地戦争で、相手の大軍をたった一部隊で防ぎ切った歴戦の部隊だ。
彼らの本来の任務は、外務省管轄で植民地にて実行作戦を行う実力行使部隊だが、今回は外務省にツテがあるカイザル大将からの頼みを受け、初めて共栄圏の外で任務を行う事となった。
今回作戦に投入されるのは、大隊長のフル・ハート少佐が率いる精鋭、およそ80名の兵士たちだ。彼らは外務省の管轄であるため、実は既にミリシアルの国内に身分を偽って潜伏していたのだ。そして何か有事が起こった際には、この様に集合する流れとなっている。
「ダラス大使。フル・ハート少佐以下、シーン暗殺連隊第二大隊各員、全員到着しました」
「ご苦労だった、座ってくれたまえ」
在ミリシアル大使を務める、外務省のダラス・クレイモンドが彼らをセーフハウスの一角に招き入れると、最低限の挨拶を交わして、フル大隊長に適当に座るように促した。
ダラスは椅子に腰掛けると、すぐに足を組んでフル大隊長と向かい合う。一方のフル大隊長も促されて椅子に腰掛ける。
「作戦は、知っての通りだ。ニホン国の偵察機と思しき残骸が安置されている秘密研究施設、エリア48に潜入し、これを奪い取り我が帝国のものとする」
「はっ」
「作戦に際しては……聞いて驚け、現地協力者からエリア48の詳細な図面を入手することに成功した。これだ、見てみろ」
そう言ってダラスは足を組んだまま、テーブルの上に丸めて置いてあったエリア48の詳細な図面を手渡し、それを広げさせた。
何層かに別れたその図面は、通路の長さから幅や空気ダクトの位置まで、ものすごく詳細に描かれ、提供されていた。
「これは……!」
「すごいだろう?ちなみに信憑性に関しては安心してくれ、すでにこちらの方で裏をとってある。恐ろしいまでに正確だそうだ」
「なるほど、ありがとうございます。これで1番の懸念でした、現地の詳細に関する問題が解決しました」
「そうか、それは良かった!作戦の成功に一歩近づいたな」
ダラスはそう言うとフル大隊長を激励し、彼の肩を叩いて作戦の成功を確信した。
「ありがとうございます」
「何か質問は?」
「懸念があるとすれば、敵の装備が不明ということです」
「そうだな……確かにミリシアルやニホン国の部隊がどのような装備を持っているかは不明なままだ。しかしまあ、そう言う事態のために帝国最新鋭武器を用意させた。これだ、見てみろ」
そう言ってダラスは、部下に合図を送り巨大な木箱をいくつか用意させる。その木箱を開けると、中には見慣れない銃火器が山ほど詰め込んれていた。
その一つを手に取る。それは見慣れたボルトアクション式ライフルでも、半自動小銃でもない、全く新しいコンセプトの小銃であった。
「試製突撃小銃"MKb-41"……!」
それは自動小銃という、新しいコンセプトで作られた小銃だ。口径の大きいライフル弾ではなく、7.92x33mm弾という減衰弾を用いて連射が可能となった新型小銃である。
この小銃を地球で言うならば、ドイツが生み出した世界初の本格的なアサルトライフルであるStg-44の前身、MKb-42とよく類似している。見た目も中身もそっくりだった。
開発は順調に進められていたが、弾薬の補給がネックになることから数ヶ月前に開発が中止されていた。しかしコンセプト自体は、今でも研究が進められているという。まさに次世代の小銃と言うべき存在であった。
「こいつを使ったことは?」
「部隊全員、テストの時に触らせてもらいました。しかし、これは量産されなかったのでは?」
「だからこそだ、正式小銃を持ち込むわけにはいかないだろう?」
その言葉の意味を知り、フル大隊長は「なるほど」と思った。もし正式小銃を持ち込めば、部隊員が殺害された場合にその場に置いて行く事となり、帝国の関与が疑われる。
しかし、正式に採用されなかった試作品の銃を持ち込めば、例え落としたとしてもバレることなく任務を遂行可能だ。
「なるほど……用意は周到というわけですな」
「ああ。君たちには海軍のカイザル閣下だけでなく、我が外務省も期待している。必ず任務を達成しろ、必ずだぞ?」
「はっ」
念を押すようにダラスがそう言うと、フル大隊長も頷く。
「さて、日時を考えるとまだ余裕はある。現地協力者によると、ニホン国の特殊部隊による潜入は4日後だそうだ」
「4日後ですか、それならばこの銃器の扱いもマスターできるかと思います」
「よろしい!射撃練習に関しては裏山を使って欲しいが……まあ、今日は長旅で疲れている事だろう。まずは休んでこい」
「はっ、分かりました。では、私はこれで」
そう言って話が終わると、フル大隊長は椅子から立ち上がってダラスに敬礼を挟むと、くるりと綺麗な回れ右を披露し、スタスタと部屋を出て行った。
「頼むぞ……私の出世を賭けて、独断専行をしているんだ。なんとしても成功させろよ」
ダラスはフル大隊長に聞こえないよう、そんな小言を言った。ダラスは今回の作戦で、上司の許可を得ずに特殊部隊を動かしていた。
神聖ミリシアル帝国 バネタ地区
エリア48 基地司令部
撃墜事件から6日。
メテオスらは、このエリア48を守備する陸軍の基地司令官を説得しようとしていた。念には念を押す性格のメテオス主任とイレイザ大佐は、ニホン国の特殊部隊が来る可能性を考慮して、更なる部隊の増強を求めるべく説得をしていたのである。
しかし、基地司令は頑なだった。
「何度も言っているだろう、基地の防備は完璧だ。これ以上増強する事は出来ない!」
「しかしですねぇ……」
この基地の司令官は、今回の事件を受け一応部隊の増強などを行っていたものの、増強は不十分と言わざる得なかった。基地には元々一個大隊強の人員しかおらず、防衛としてはあと二個大隊は欲しいところだった。
「ニホン国はどんな手段で攻めてくるのか全く分かりません。ここは万全を期すべく、更なる人員の増強を……」
「それはダメだ。これ以上の増強をする必要はないし、これが限界だ」
「ならせめて、装甲兵器を基地内に移動させるなどの措置を……」
そう、問題はまだ存在した。基地司令は装輪魔導戦車や装甲車、魔導アーマーなどの装甲兵器を手配していたが、これらは近くの基地にて待機という形であり、防衛戦の時に役に立つであろう装甲兵器が即応性に欠けていた。
「それも無理だ。この基地の秘匿性から見て、装甲部隊を入れるわけにはいかん」
「しかし……このままでは」
「うるさい、何度も言わせるな!これが限界なんだぞ!」
そう言って基地司令は大声を上げると、椅子から立ち上がって怒鳴りつける。
「外様風情がよくもずけずけと……この基地の司令官は私だ!私にのみ指揮、配置を行う権限がある!横槍を入れられる筋合いはない!」
「っ…………」
その気迫に押され、メテオスとイレイザは黙り込んでしまった。
「……分かりました。では、これ以上の話し合いは無意味ですな」
「ああそうだ、出てってくれ」
そう言って基地司令は、メテオスとイレイザの二人を追い出すようにそう言うと、再び椅子に戻った。そして彼がメテオスらに背を向けたのを見て、二人は基地司令の部屋を出ていった。
「はあ……」
基地司令は、メテオスらが出て行った後にそうため息をついた。
「仕方ないんだ。陸軍の都合くらい、理解してくれ……」
実は基地司令もまた、もっと警備部隊を増強したかった。だがこのエリア48の特性上、この基地の防衛だけじゃなく、秘匿も行わなければならない。一体だれがスパイかわからない中、信用に値する兵士をこの6日間で二個大隊分も集めるのは不可能に近かった。
地位が低い陸軍には、それなりの事情があったのである。
その日の深夜
神聖ミリシアル帝国南岸 セントレア海
陸上自衛隊所属 特殊作戦群
バネタ地区の海岸の一つに、崖から程近いのに比較的水深の深い場所がある。この場所はその地形の特性上、海難事故が非常に起こりやすい。付近の住民からは魔の海域と恐れられ、誰も寄り付かない場所となっていた。
その条件が二つ重なった為、この海岸は日本国の潜水艦が浮上し、特殊作戦群を上陸させるのに最適な環境だった。
その海域の奥深くにて、潜航を続ける三隻の潜水艦が居た。日本国海上自衛隊所属の潜水艦、SS-501〈そうりゅう〉とSS-502〈うんりゅう〉のペア。
そして一番後ろに着いているのは、元米海軍のロサンゼルス級攻撃原子力潜水艦〈サンフランシスコ〉だった。横須賀停泊中に日本の転移に巻き込まれた〈サンフランシスコ〉は現在、他の在日米海軍艦とともに乗員ごと海上自衛隊へ編入されている。
「……潜望鏡深度まで浮上」
「……了解」
一番先頭を行く、〈そうりゅう〉艦長の恒星次男は、潜水艦の航法士に対して指示を送る。潜水艦が海岸線までかなり近づいたところで潜望鏡深度まで浮上し、海面ギリギリの場所で止まった。
しかし、ここまで近づいてもまだ何も来ない。魚雷はおろか、鬱陶しい哨戒機の反応すらない。それどころか、潜水艦を狩るための駆逐艦すら見当たらなかった。
「……クリア。海岸線に近づくぞ」
「了解です」
恒星艦長がそう言うと、航法士はその指示に従って、海岸線に向けゆっくりと潜水艦を近づける。こんな場所で座礁しないよう、常に海底の様子にも気を配っている。
そして、夜間の闇に紛れて静かに海岸に近づくと、灯台の監視をすり抜けてその魔の海岸に近づく。それと同時に、二隻の潜水艦は浮上して海岸線に張り付いた。
〈サンフランシスコ〉の方は、後方で待機している。今回の作戦において、〈サンフランシスコ〉は特殊部隊支援のための陽動任務に就く為、沖合で別れる予定であった。
情報省の下調べ通り、この海岸は特殊作戦群の揚陸に適した地形をしていた。潜水艦が接舷しても、全く問題ない海底深度だ。
「……準備完了です。すぐに下船を」
「了解した」
〈そうりゅう〉の恒星艦長は、艦橋で様子を伺っていた特殊作戦群の隊員らを見て、そう指示を出した。所属は違えど、特殊作戦群の隊長より艦長である恒星の方が階級は上らしい。特殊作戦群の機密保持のため、彼の名前どころか階級すら明かされなかったが。
「部品を搬入させろ」
潜水艦には、僅かな狭いスペースに所狭しと装備品が並べられていた。その武器やら装備品やらを、乗組員が手助けしながら陸地に搬入させる。
それが終わると、解体した状態で持ってきた移動用車両などの組み立てが始まった。特殊作戦群の隊員達は、慣れた手つきでそれらを素早く組み立てると、エンジンをテスト始動させた。
「どうだ?」
「問題ない、ありがとう」
そして30分と経たないうちに、フル武装の特殊作戦群隊員24名と、汎用軽機動車、偵察用オートバイ、バギーなどが陸上げされた。
「艦長、世話になった」
「ええ。ではまた合流ポイントにて」
全ての装備が陸上げされると、特殊作戦群の隊長は潜水艦の艦長らに礼を言い、作戦行動に入った。
夜の闇の中、ライトも付けずに機動車両らが移動を始めた。物資を届けた潜水艦2隻は、それを見送るとすぐさま艦内に戻り、海岸から離れる準備を行う。再び配置に着くとまた潜航を開始し、作戦終了時の集合地点に先回りする事となる。
一方の特殊作戦群の兵士たちは、夜間の暗い夜道をナイトビジョンの補助を頼りに、アクセルを吹かして粉雪の積もった道を走っていた。
目指すのはエリア48、その研究施設にあると判明したグローバルホークの残骸、その処理である。
解説
・どうして特殊作戦群の作戦決行日が漏れたのか?
そりゃもちろん、前回の話に出てきたア皇工作員の手によるものです。あの秘書の上司である空軍士官は、その後も日本と接触しつつ作戦の協力をしているので、その秘書であるア皇工作員から情報が漏れた形です。
・特殊作戦群の車両は潜水艦に乗せられるのか?
いろんなパーツに分けてバラバラにすれば、搭載可能です。自衛隊の汎用軽機動車、偵察用オートバイ、バギーなどはそう言う風に設計されていますので、可能らしいです。