新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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投稿期間が二週間も空いてしまって申し訳ない。
今回の話が長すぎた故に、前中後の三つに分けました。


第二十四話『特戦群の誇り(中編)』

神聖ミリシアル帝国 エリア48

基地司令室 第2通路前

 

 日本の工作員による人質事件から、わずか数分後。エリア48に配属されていたミリシアル警備兵らは、その人質が囚われている司令室に釘付けとなっていた。

 警備隊の兵士が魔導銃を持ち、土嚢などでバリケードを築いて司令室に続くドアを見張っていた。そのドアの向こう側に、人質である基地司令と"太陽神戦線"を名乗るテロリストがいる。

 そんな状況下の通路に、騒ぎを聞いて駆けつけた二人の人物が来た。主任研究員のメテオスと、海軍大佐のイレイザである。

 

「状況は?」

「あっ、お二人とも来ましたか」

 

 現場を取り仕切る警備副司令が、二人を見てそう言った。彼は壁に背を付け、二人を通路の角に下げていく。

 

「相手の状況は?」

「……全くわかりません。所属も、相手の人数も、そもそもどうやって司令室に入ったのかも不明なままです」

 

 そう言って警備副司令は俯き、二人に現在の状況を説明した。

 

「突入は?」

「そんなの無理ですよ……敵の人数も武装も不明、魔導監視機器も破壊されているため、中がどうなっているのか、人質の位置も不明なまま。これで突入しろというのはとても……」

「くそっ、してやられたな」

 

 イレイザが毒を吐くと、メテオスもそれに同意し頷いた。テロリストが司令室に入ってしまったのは、警備体制の穴を突かれた事が原因だ。イレイザはそれに対して苛立ちをあらわにした。

 決して警備が緩かったわけでは無い為、警備副司令を責めることはできない。その問題を取り繕うはずの立場は基地司令だ。

 しかし、その彼ですら人質に囚われている以上、責任の追求は後回しにするべきだ。今はどうやって基地司令を助けるかどうか、考えるべきである。

 

「現在、警備司令が直接テロリストと対話を試みていますが……相手の要求が不透明で、何回もはぐらかされている模様でして、時間がかかっています」

「一体何が目的なんだ、奴らは……?」

 

 人質を取るということは、それなりの要求があってきている筈だ。テロリストという存在が求めるのは、身代金にしろ身柄にしろ、何かしらの目的があるものだ。

 しかしそれをはぐらかし、時間を稼いでいるかのような素振りを見せるテロリスト達。その存在に対し、メテオスらは深い疑問を覚えていた。

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国 エリア48

陸上自衛隊所属 特殊作戦群

 

 一方、同時刻。

 場所が変わって、地下の第一研究棟。その内部に潜入した陸上自衛隊の特殊作戦群は、正体不明の敵部隊と交戦していた。

 

「各分隊、通達。こちら第一分隊、敵と遭遇し、現在交戦中。オクレ」

 

 緊迫した状況下で、特殊作戦群の隊長が冷静に状況を各部隊に通達する。すると工作員コブラの所属する第四分隊から、返事が返ってきた。

 

『第一分隊、現在位置を報告せよ』

「地下研究棟と思われる。目の前に目標物があるが、敵のせいで近づけない。現在位置を表示端末に表示、援護求む」

『確認した。現在第二分隊を側面から回り込ませる。貴君らから見て北東だ』

「了解。それまでこちらは持ち堪える。通信オワリ」

 

 隊長が通信を終えると、彼の耳には銃撃戦の音だけが残る。現在交戦中の第一分隊は、壁や柱に身を隠して戦闘を継続している。

 今の所負傷者はおらず、弾薬もまだ余裕があるが、敵はジリジリと詰め寄ってきており包囲網を形成している。どうやら敵の方が数が多いようだ。

 その様子を確認した隊長は、すぐさま行動を開始する。まず、自分の隣の柱にまで走って辿り着き、SCAR-Hを用いて援護射撃を続ける副官の隊員の肩を、射撃中でも分かるように強く叩く。

 

「左側の包囲を砕く、移動しろ」

「了解」

 

 副官は部下の数名を連れ、右側の方向へと移動した。隊長はその副官がいた場所にポジションを変え、メイン武器のHK416を構える。

 ポジションが変わった僅かな時間を抜け、敵の兵士たちが距離を詰めて来た。その数は三人、武器は第二次大戦型の自動小銃。この瞬間を狙って詰めてくるとは練度が高く、防弾チョッキらしきものを着込んでいる。

 おそらくだが、このエリア48に急遽配属された、基地付きの特殊部隊と予想できる。その火力に関してはこちらに次ぐ勢いのため、手強い相手であった。

 

「ッ……」

 

 隊長は壁に張り付くと、顔と銃火器だけを壁から飛び出させる。そして持っていた銃火器、HK416を構えて指切り射撃を繰り出した。

 転移前、ドイツの銃火器メーカーから輸入したHK416は、カービンライフルでありながら正確な射撃が行えるとあり、各国の特殊部隊では御用達だった。

 乾いた射撃音が、研究棟の空間に木霊する。耳栓をつけていなければ、耳の機能に障害が残るその音と共に、5.56mm小口径弾が放たれた。

 

「がっ!」

「くそっ、カバー!」

 

 カタログ性能の通り、放たれた弾丸は壁に隠れようとしていた敵兵の腹部に命中。その粗末な防弾チョッキを貫通し、内部の内臓を抉って無力化する。

 もう二人は射撃に気づいて素早く壁に隠れた。隊長は制圧効果を持続するべく、残りの弾丸を一発ずつ柱に叩き込み、壁に釘付けにした。しかし、敵兵は精神力が強いのか、その射撃の合間にも関わらず自動小銃で反撃をしてくる。

 

「隊長」

 

 その時、隊長の後ろにいた隊員が肩を叩いて合図を送る。彼の手にはピンを抜く前の手榴弾が握られ、アピールするかのように見せていた。

 

「やれ」

「はい」

 

 隊長が許可を出すと、その隊員は敵の隠れる柱の裏に向けて手榴弾を投げた。

 

「手榴弾!伏せろ!」

 

 カランコロン、という何かが転がる音に気付き、敵兵らは壁から逃れて伏せの体制に入る。

 

「今だ、行け!」

 

 その隙に、隊長は他の隊員たちを連れて移動を行う。手榴弾を投げた隊員はギリギリまで敵を引きつけ、その間に他の隊員たちは研究棟の柱を伝い、反対側へと移動していた。

 彼らは手榴弾を囮にし、敵を釘付けにすることで、隊員らの移動の隙を生み出したのだ。敵兵は手榴弾に気を取られ、包囲網から第一分隊の隊員たちを逃した。

 

「くそっ、そっちに行ったぞ!」

「囲め囲め!」

 

 敵兵らが、自らの言語で指示を出してくる。それらは何者かの超常現象によって翻訳され、彼らの耳にもダイレクトに伝わる。

 

「早くしろ!」

「はい!」

 

 その間にも、最後の殿を任された隊員は懸命に敵を引き付けていた。彼はメイン武器であるサプレッサー付き短機関銃、MP5SDをひたすらに撃ちつつ、少しずつ下がっていく。

 見かねた他の隊員たちが、銃器を構えて彼を援護し始める。とにかく敵兵へ制圧射撃を繰り返し、退避するまでの時間を作り出す。

 

「今だロメオ、来い!」

「今行きます!」

 

 その制圧射撃を受け、隊員──コードネーム"ロメオ"──は僅かな隙を見計らってこちらへダッシュ。隊長もそれを援護し、見えている敵兵たちを狙って制圧を加える。

 しかし、あと少しでロメオがこちらに辿り着きそうな時に、彼の後ろ、重なって狙いにくい位置から敵兵が飛び出す。

 

「っ!」

 

 隊長はすかさず、手に持ったHK416を構える。ロメオに被さって狙いにくい位置にある敵兵にも関わらず、一瞬の隙を縫って2発の弾丸を撃ち込む。

 敵兵が身につけていた、鉄板を挟んだだけの防弾チョッキを易々と貫通。内部に侵入した弾丸により、敵兵は無力化。その隙にロメオがこちらに駆け込んで来た。

 隊長は息を切らすロメオを引きずって、柱の影に隠すと、耳元で忠告した。

 

「言われたらすぐに来い、分かったか?」

「……了解です」

 

 殿を彼としたのは隊長だが、ギリギリまで粘ったのはロメオの責任だ。連携を崩したとして、隊長は警告を言う。

 

『こちら第二分隊、間も無く突入する。お前たちはどこだ?』

 

 その時、通信から第二分隊の声が聞こえたので、第一分隊の隊長は通信に答える。第一分隊は誤射を避ける為、現在いる位置を味方に正確に報告する必要があった。

 

「こちら第一分隊。俺たちは扉を破って向かい側だ、敵はその間にいる」

『了解した。これより扉を爆破する』

「よし。全員、耳を塞げ」

 

 第二分隊がそう言うと、隊長は隊員らに対ショック体勢を取らせ、爆破に備えた。

 そのわずか数秒後、自分たちの反対側にある重厚な扉が大爆発を起こす。

 耐熱性があったであろう重厚な扉は、事前にガスバーナーやドリルなどで適切に爆薬が仕掛けられた結果、粉々になって粉砕された。

 その破片が扉の前にいた敵特殊部隊を吹き飛ばし、背中に破片が突き刺さる。そしてその破片に傷を負わなくとも、他の兵士たちも爆破に巻き込まれて大きく怯んだ。

 

「くそっ、なんだ!?」

 

 敵が混乱しているその隙に、第二分隊の隊員らが研究棟に突入。防弾盾を持った隊員を前に出し攻撃を受け止め、HK416を持った別の隊員が怯んだ敵兵らに向かって攻撃を仕掛ける。

 背後から奇襲を受けた敵兵は、負傷した味方を助ける間も無く弾丸を放たれ、何人かが無力化されていく。右側の敵兵らは、爆発によって総崩れになっていた。

 

「前へ!」

 

 第二分隊の隊長が奇襲効果を発揮している間、第一分隊の隊員たちは攻撃の手を緩めなかった。

 爆破と同時に柱の影から飛び出し、包囲していた敵兵らに向けて射撃を再開。第二分隊の加勢がスムーズに行くよう、援護射撃を加える。

 隊長自身もHK416を構え、柱を盾にしながら射撃を続けていた。

 

「くそっ、崩されるぞ!小隊毎に集合!立て直せ!」

 

 少なくとも包囲網は崩されたが、敵兵は指揮官が優秀なのか、体勢を立て直しつつある。このままでは僅かな時間で優位性が崩れ、守りを固められてしまう。

 

『第一分隊、目標は?』

「見える範囲にいるが、固められている。容易には突破できない」

『了解した。カバーしながら前に進む。援護を』

「了解、そちらに合わせる」

 

 それを合図に、隊長は研究棟に備え付けられたテーブルを見た。研究用途のテーブルなのか、机部分は目立つ紺色をしており、囮にはうってつけだった。

 それを見た隊長は机を横向きに倒し、通路側に向ける。その意図を知った他の隊員たちは、銃器を構えて待ち構えた。

 そして隊長は、通路に向けて備え付けた机を思いっきり蹴り、通路側へと押し出した。すると敵兵がそれを、飛び出してきた兵士と勘違いしたのか、それに対して射撃を浴びせる。

 しかしその攻撃は、なんの変哲もないただのテーブルが穴だらけになるだけしか成果を得られず、射撃によって位置が露見した敵兵は他の隊員たちによって狙われる。

 HK416と、SCAR-Hから、顔を出した敵兵に向けて弾丸が放たれる。強力な弾丸により制圧射撃を加えられ、敵兵は数名が無力化された挙句、顔を出せないでいた。

 

「ゴーゴー!」

 

 それを合図に、第二分隊らが前に進む。防弾盾を装備した第二分隊は、敵兵の制圧射撃にも囚われずに身を守りながら進み、その背後に着いた隊員によって反撃を加える。

 途中で敵兵らが柱の影から飛び出してくるが、それらは盾持ちが片手に持つMP7短機関銃によって処理され、僅かな間に10メートルほど前に進んだ。

 ここまで来れば、目標であるグローバルホークの残骸までは20メートル圏内である。しかし、直接爆弾を仕掛けに行くにはまだ遠く、その周辺は敵兵らが囲んでいた。

 

「くそっ、これ以上進ませるな!」

「第二小隊!通路から機関銃を撃て!」

 

 彼らはそこで激しい抵抗に遭う。敵兵の増援が向こう側の扉から侵入して来た。

 さらにその遠く、奥の通路から連続した射撃が浴びせられる。そのほとんどが防弾盾に吸収されるが、あまりに激しい弾丸の打ち付けにより、彼らはその位置に釘付けとなる。

 

『くそっ、軽機関銃だ!これ以上は進めん!』

「待ってろ!」

 

 第一分隊の隊長は、軽機関銃のものと思しき射撃に対抗するべく、部下たちを前に進める。彼らが弾丸を吸っているうちに前進し、援護位置に立つ。

 

「着いたぞ!通路側か!?」

『そうだ!だが、空いている扉が小さくてそっちからは狙えないぞ!』

 

 どうやら通路側の機関銃手は、こちら側からは狙えない位置にある、と言うことらしい。そのため第一分隊側からは、援護することができなかった。

 しかし、目標であるグローバルホークの残骸までは残り数十メートルと言う所である。あと少し、あと少しで辿り着けるはずなのだが……

 

「これ以上は無理か……?」

 

 敵の抵抗が激しく、尚且つ重装備まで持ち込んだ増援が来ているとなれば、人数で負けている自分たちがこの先へ進出するのは厳しい。

 しかし、グローバルホークに対しては相当な量の爆薬を仕掛ける必要がある。直接向かわなければ、作戦目標である破壊は不可能だ。

 

「隊長、俺にやらせてください」

「ロメオ?」

 

 その時、先ほど注意された隊員のロメオが、その状況を察したのか進言して来た。

 

「俺がグロホに爆弾を仕掛けに行きます」

「無茶言うな、20メートルだぞ?射撃も熾烈になる」

「なら、7秒以内に辿り着きます」

 

 先ほどの失敗を挽回しようとしているのか、ロメオは強く隊長に進言した。隊長はもう一度、グローバルホークの残骸を見据え、敵の配置を整理した。

 

「5秒で行って仕掛けろ」

「はい」

 

 ロメオの進言を許可した隊長は、他の隊員たちに声をかける。そして予め信管がセットされたC4爆薬を、2個ほど手に持ち、それをロメオに投げた。

 キャッチしたロメオは、その信管の状態を確認し、武器の状態を確認する。

 

「第二分隊、勇者が爆弾を仕掛けに行く。できる限りの援護を」

『了解した!合図と同時に飛び出せ!』

 

 その受け答えを受けた隊長は、部下たちに合図を送る。そして武装を確認した隊員たちは、顔を見合わせ頷く。ロメオも、スタートラインについた。

 

「ゴー!」

 

 その合図と共に、ロメオが走る。走り出した彼は爆弾を抱え、20メートルの距離を全力で疾走する。

 同時に、周囲の隊員たちがロメオを援護するべく何かを投げた。煙幕が短時間で充満するタイプの、スモークグレネードだ。

 スモークグレネードが地面に転がると、途端に急速な煙幕が吹き出し、周囲が煙幕によって遮られる。

 

「無人機に取り付くつもりだぞ!」

「阻止するんだ!」

 

 それを見た敵兵は、彼の行おうとしていることを察知し、すぐさま射撃を浴びせようとするが、第一、第二分隊の隊員たちが全力で援護射撃を行う。

 それによって敵兵らは制圧効果によって顔を出せなくなる。グローバルホークの周辺に弾丸が来なくなり、ロメオはわずか5秒ほどでグローバルホークに辿り着いた。

 

「くそっ、無人機に取り付かれたぞ!」

「やらせるかっ!」

 

 敵兵らがロメオの意図を悟り、グローバルホークの前には行かせぬと銃器を構える。

 しかし彼らが銃撃を浴びせようと飛び出したところで、特殊作戦群の第一分隊と第二分隊から、強烈な援護射撃が通る。

 その射撃によって何人かは撃ち殺され、他の兵士たちも壁に隠れてやり過ごそうとする。その合間を縫って、ロメオがスライディングでグローバルホークに取り憑く。

 

「ロメオの時間を稼げ!」

 

 隊長の言葉を受け、特殊作戦群の隊員たちは敵に対して熾烈な銃撃を浴びせ続ける。敵兵らはその射撃に怯み、顔を出さなくなって釘付けとなる。

 その間に、爆弾に関する知識を持つロメオがC4の塊を仕掛けようと、グローバルホークの内部を弄る。内部で最も重要かつ、機密の塊となっている機首周りの電子機器を破壊するべく、その中にC4爆弾を埋め込む。

 

「よしっ」

 

 ロメオはわずかな時間で、爆弾を仕掛け終えた。そしてそれを味方にハンドサインで合図を送ると、隊長は再び叫ぶ。

 

「よしっ、戻って来い!」

 

 隊長がその言葉を投げかけ、ロメオが離れようとしたその時。煙の向こうのロメオに何か影が襲いかかった。

 

「っ!?」

 

 ロメオはそれに気付き、振り返る。自動小銃に銃剣を取り付けた兵士の一人が、煙幕を突破してロメオに肉薄して来ていた。

 MP5SDの間合いですら近すぎた為、ロメオは素早く両手を銃から離し、銃剣突撃をかます敵兵の銃口を左手で掴み、その剣先を逸らした。

 

「っ!?」

 

 そしてその勢いのまま、右腕の肘で敵兵の顔面を殴打する。すると勢いに任せて突っ込んできた敵兵は、肘攻撃で鼻の骨を強打し、大きく怯む。

 

「ぐはっ!」

「このっ!」

 

 素早くサイドアームのUSP拳銃を引き抜き、至近距離から肘を曲げた状態で腹を撃つ。

 防弾チョッキに防がれなかったその弾丸に続き、よろける敵の頭に二発目を叩き込む。敵兵を絶命させたその直後、今度はロメオの後ろから別の銃剣持ちが襲いかかる。

 

「しまっ!?」

 

 煙幕の中、味方の支援も誤射対策で望めない中、ロメオに残されたわずかな時間で連続した格闘戦は難しかった。

 そのまま銃剣持ちの敵兵に向けて拳銃を放とうとするが、それよりも先に、ロメオの脇腹に対して銃剣が突き刺さった。

 

「ぐはっ……!」

「ロメオ!」

 

 誤射を恐れて撃ち損じていた隊長も、その衝撃的な光景を受けてHK416を連射。銃剣を突き刺した敵兵を討ち取るが、ロメオも同時に倒れ伏す。

 

「煙幕を追加しろ!誰か助けに行け!」

「俺が行きます!」

 

 追加のスモークグレネードが投げ込まれ、新たな煙幕が炊かれる中、二人の隊員がロメオの元へと駆け出す。片方が盾を持って銃弾を防ぎ、もう片方がロメオの元へと辿り着く。

 

「ロメオ!ロメオ!」

「ぐっ……!」

 

 まだ息がある。それを確認した隊員は、とにかくロメオを後方に下げることを優先した。

 ロメオが持っていたC4の起爆スイッチのみを持ち出し、彼の持つ装備すらも置いて、盾持ちの援護の下でロメオを引きずる。

 その途中、彼の持っていた短機関銃MP5SDのスリングが切れ、床に落ちる。駆けつけた隊員はそれすらも気にせずに、とにかくロメオの命を優先した。

 煙幕がより一層強く焚かれ、その間に近づこうとする敵兵は制圧射撃によって無力化、近づけないでいた。

 

「担架を用意しろ!撤退だ!」

「爆破は!?」

「起爆スイッチは回収した!まずは研究棟を出るぞ!」

 

 隊長がそう叫ぶのを受け、彼らはグローバルホークの残骸の場所から少しずつ、少しずつ後退していく。

 

「アイツらっ!」

「待て、深追いをするな!それよりも無人機から離れろ!」

 

 敵特殊部隊の指揮官が、グローバルホークに爆弾が仕掛けられたことを悟り、指揮下の部隊を下げさせようとする。

 その命令を受け、研究棟中央にあったグローバルホークから、お互いが離れていく。煙が晴れ、彼らの姿が扉から消えた時、起爆スイッチが押された。

 

「伏せろ!」

 

 敵特殊部隊の部隊長が言うと、シーン暗殺連隊の兵士たちが身構える。それと同時に、グローバルホークに仕掛けられたC4爆弾が炸裂し、そのサイズの小ささからは想像できない、大爆発が起こる。

 合計で1kgはあろう高性能爆薬により、大爆発を起こしたグローバルホーク。シーン暗殺連隊の各員らは、障害物に隠れて爆破をやり過ごした。

 そしてその爆発の衝撃が収まり、彼らが目を開けた。その爆破箇所にあったグローバルホークは、爆発によって完全に消滅していた。

 後に残るのは、バラバラとなって何の部品か全く判別がつかない、細かな破片のみ。それらが彼らの隠れていた壁や柱に突き刺さり、爆発の衝撃を物語っていた。

 

「くそっ、逃げられたか……」

 

 派遣されたシーン暗殺連隊のフル大隊長は、特殊作戦群の手際の良さに、内心で舌打ちをした。

 あまりに手際が良く、練度も装備の質もかなり高い。そして、引き際を弁えていた。フル大隊長ですら感心するレベルの、強い特殊部隊であった。

 

「隊長、どうしますか?」

「……ブツは爆破された、これでは作戦は失敗だな」

 

 フル大隊長は、静かになった周辺を見てそう言った。完全なる、特殊部隊としての敗北だった。

 味方の損害に対して、敵の損害は微々たるもの。そして目標の無人機は彼らの手によって破壊され、こちらから見れば作戦の失敗だ。

 一人くらいは銃剣突撃で負傷させたが、敵に与えた損害はその程度。最早ここに、長く止まる理由もなかった。

 

「破片だけでも持っていこう。俺たちも撤退するぞ」

「了解です」

 

 フル大隊長は敗北を認め、撤退を決断した。そしてミリシアルに自分たちが侵入した痕跡がバレないよう、破壊工作を指示する。

 

「死体は部屋ごと燃やすぞ!手分けしてガソリンをかけて火を付けろ!1分でだ!」

「了解!」

 

 フル大隊長は、一分間での破壊工作を指示。後方に待機していた工作部隊が、燃料タンクを持ってきてそれをぶち撒ける。

 

「ん?」

 

 そんなガソリンの臭気が漂う研究棟の床に、フル大隊長は何か真新しいものを見つけた。何かの銃器らしく、細いマガジンと細かな機関部を持っている。

 銃口を指で触ると、どうやら拳銃弾を使用するようだ。しかし銃口の先がやけに重圧で、何かのカラクリがあるようにも見える。

 

「短機関銃……奴らの武器か」

 

 フル大隊長はその銃器を見て、かなりの工作精度が要求される武器だと感じていた。

 ゴツゴツした武器の上部には、グラ・バルカス帝国の国内では全く普及していない光学サイトが取り付けられており、そのほかにもグリップなどが取り外しできるようになっていた。

 なるほどこれは面白いと、フル大隊長はそのわずかな時間の見物を受け、その銃器を持ち帰ることを決断した。

 作戦が失敗し、多数の死傷者が出ている最中、手土産の一つくらい持って帰らなければ話にならない。これで手打ちにしてくれることを願い、フル大隊長はその銃器を持ち帰る。

 

「大隊長、火をつけます」

「ああ」

 

 兵士の一人が、撤退の最後に火炎瓶に火をつけ、それを投げつける。するとあたり一面にガソリンが撒かれていた研究棟内部は、即座に激しい炎に包まれる。

 味方の死体を焼却処理しつつ、仲間から渡された彼らのドッグタグを見る。それを握りしめつつ、フル大隊長は炎に包まれた研究棟を去る。

 

「さらばだ、我が戦友達よ」

 

 フル大隊長は去り際、鎮魂の意味でそう言った。

 

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国 エリア48

陸上自衛隊所属 特殊作戦群第四分隊

 

 一方の第四分隊は、未だに陽動を続けていた。先ほど第一分隊から作戦目標達成の報告を受け、そろそろズラかる準備に取り掛かっていた。

 

「コブラさん、地下の第一研究棟から火災警報です」

「なに?」

 

 撤収作業に取り掛かろうとしていた矢先、工作員コブラが部下の報告を受ける。魔導コンソールに表示された監視カメラの映像を見ていた部下に代わって、工作員コブラがその映像を見る。

 

「急速に火の手が回っています。このまま広がると、研究棟と周辺の資料室は燃え尽きますね」

「こちらの爆破処理の影響か……予想被害はそれだけか?」

「はい、この部屋に火が来ることはないと思われます。脱出には影響ありません」

「分かった」

 

 部下にそう言われたコブラは、途端に興味が薄れたのか撤収作業に戻るように部下に指示を出す。

 

「(まずい……第一研究棟は……!)」

 

 それを聞いて焦ったのは、人質となっていた基地司令であった。彼の記憶が正しければ、例の無人機は地下の第一研究棟の内部にあるはずだ。

 そこから出火したとなれば、重要な証拠品である無人機が傷付いてしまう。それだけは、基地司令として阻止しなければならなかった。

 

「くっ……そっ!」

 

 親指を結束バンドで固定されていた基地司令は、それを無理やり解こうと体をクネらせる。しかしそれでも上手くいかないのを受け、基地司令は最終手段に出た。

 

「……maxmex、axl!」

 

 その呪文を唱えると、基地司令の鍛え上げられた身体に、漲るような力が湧いてきた。複雑な姿勢で待機し、消耗していた体力も、歳と共に衰えていたその筋力も、全てが増強される。

──身体強化魔法。

 体の筋肉に直接魔法を作用させ、身体を強化する魔法だ。さらに副次効果でアドレナリンの増殖も得られるため、一時的に高い能力を得られる。

 問題は、彼のような高齢の者がこれを使う場合、急激な身体強化によって後遺症が残るという点だった。しかし、基地司令はそんなことなどお構いなしに結束バンドを引きちぎり、その勢いのまま駆け出す。

 

「なにっ!?」

 

 撤収作業中の工作員コブラが、飛び掛かる基地司令を見て驚愕した。人間の力では引きちぎれない筈の結束バンドを破り、中年の司令官が牙を剥き出しに飛びかかって来たのだ。驚くのは当然である。

 だがそこは本職(情報隊)の人間。素早く腰のホルスターからUSP拳銃を抜き取ると、飛び掛かる基地司令に対して二発発砲した。

 しかし、アドレナリンが強化された基地司令は、右胸に二発の弾丸が当たってもなお、工作員コブラに掴みかかった。そして首筋目掛けて、獣人並みに鋭いことで有名だった犬歯を突き立てる。

 

「あがっ……!」

「ぐぅぅぅぅっ!」

 

 コブラの首筋に噛み付いた基地司令は、そのままその首筋の動脈を噛みちぎろうとする。基地司令が力強く歯を噛み締めようと、力を入れる。

 

「コブラさんっ!」

 

 しかしその寸前、仲間の工作員の一人が的確に拳銃で基地司令の脳天を撃ち抜いた。

 二発タップで放たれた弾丸は、狂犬病の獣のようになっていた基地司令の意識を刈り取り、工作員コブラは命拾いをした。

 

「ぐっ……」

「大丈夫ですか?」

 

 噛みつきの力が弱まり、仲間がコブラの状態を見る。首筋には、確かに基地司令に噛み付かれた鋭い犬歯の跡が残っていて、出血もしていた。

 

「……動脈は外れてます」

「なら……俺は大丈夫だ。急いで撤収するぞ」

 

 コブラは他の人質が基地司令の名前を叫ぶ中、彼らを捨て置いて脱出に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国 エリア48

基地司令室 第2通路前

 

 その時の発砲音は、基地司令室の外にも十分聞こえていた。中で男性が言い争う声と、乾いた発砲音が二発轟き、騒がしくなるのが聞こえる。

 

「なんだ今のは?」

「発砲音だ!」

 

 基地司令室の外で待機していた兵士たちは、その乾いた音に薄寒い感覚を覚えた。テロリストと交渉していた警備副司令も、いきなりの発砲に驚きを隠せない。

 

「なんだ、今の音は?」

 

 その音は、予備司令室にて対策を練っていたメテオス主任とイレイザ大佐にも聞こえていた。

 

「大変です!司令室の中で発砲音が……」

「は、発砲音だと?捕虜が処刑されたのか!?」

「わ、分かりません……発砲音は四発です」

 

 駆け込んできた兵士が慌て気味でそう言うので、イレイザ大佐は焦り始めた。

 

「イレイザ大佐、待ってください。今は落ち着いて」

「だがメテオス君、このままでは捕虜が全員処刑されるぞ!?」

「内部の状況も分からず、闇雲に突入したとしても、敵の銃火器に蜂の巣にされるだけです!」

「じゃあ、どうしろと!?」

 

 彼らが言い争いをしようとしている中、予備司令室の扉が開かれ、誰かが入室した。

 

「メテオス!来たぞ!」

 

 その人物は、魔帝対策省の人員だった。メテオスと知り合いらしく、部下を引き連れ何か大掛かりな物を持って部屋に入室する。

 彼はメテオスと同じ魔帝対策省の同僚、ワールマン主任であった。少し用事があり、基地から席を外していた人員である。

 

「ワールマン、来てくれたか!」

「例の物を用意した、状況は?」

「さっき発砲音が聞こえた。状況的には、不味いかもしれん」

「分かった、じゃあすぐに取り掛かるぞ。突入部隊を用意してくれ」

 

 彼が来てからとんとん拍子で話が進む様子を見て、何も説明を受けていないイレイザ大佐が疑問を投げかける。

 

「メテオス君、どう言うことだね?彼の持っている機材は……」

「ええ、ちょっと魔帝対策省の部署からくすねて来ました」

 

 そう言って、彼は予備司令室の放送機器に取り付けられる謎の魔導機器を指し、説明を行う。

 

「高出力精神魔法器、通称"人魚の歌声(テルクシエペイア)"です。要は、常人の数倍の精神魔法を音で流すことができる、指向性音響兵器です」

「これ一つで、そんな強力な精神魔法を……?」

「はい。元は魔帝の術式ですが、我々個人では再現できないので魔導機器を用いました。効果は音に乗せて運ぶことが可能で、子守唄から幻惑魔法、果てには発狂を誘発させることも可能です」

 

 いつの間に、そんな強力な精神魔法機器を?とイレイザ大佐が驚く中、彼は説明を続ける。

 

「今回は、魔導放送を用いて指向性を持たせます。魔導系の放送機器にこれの精神魔法を乗せれば、目標の室内にのみ精神魔法を投射することが可能です」

「なるほど……つまり、こう言う室内戦ではもってこいと言うわけだな?」

「ええ。と言ってもこいつは、試作止まりのものでしたがね」

 

 そう言って説明をしている間に、人魚の歌声の機器が魔導放送の機器と繋がれ、準備が整う。

 

「放送ルート、司令室まで届きました!」

「警備指令より連絡。突入準備、万端です!」

 

 全ての準備が整ったのを受け、メテオスがゴーサインを出す。

 

「よし。ワールマン、流してくれ」

「分かった」

 

 ワールマンがメテオスからの指示を受けると、人魚の歌声の装置が作動した。魔導板に記録された透き通った歌声が、オルゴールの様な装置を伝い、司令室の中へ魔力と共に放送される。

 

「行けるか……?」

「あと、10秒」

 

 歌声が終わるまで、残り10秒を切る。オルゴールのゼンマイがキリキリと回り続けて、最後の最後まで放送を流し切った。

 

「よし、行くぞ」

「司令室より警備隊へ、突入!!」

 

 その言葉を受け、基地警備隊が子守唄が流された司令室のドアを爆破し、一斉に突入。その様子をメテオス、ワールマン、イレイザの三人は、司令室前に設置された監視カメラで見守る。

 

『クリア!』

『クリア!』

『くそっ、敵が居ないぞ!?』

「な、なんだと?」

 

 突入した警備隊からの報告を受け、メテオスらは驚愕した。

 

『ダメです!寝ている人質以外はもぬけの殻です!』

『アイツら、何処へ消えやがった!?』

 

 警備隊の不可解な報告を受け、メテオスは慌ててエリア48の図面を取り出し、基地内部の構造を確認した。

 唯一外部へ繋がっているのは、ダストシュートだ。しかし、このダストシュートの先にはゴミを砕く為の処理装置が付いており、それに当たれば人間など即座にバラバラになってしまう筈だった。

 

「いや、待て!」

 

 そこでメテオスは気づいた。

 そのダストシュートの処理装置は、壊れやすい設計のため、いつでも取り外して整備ができる様に作られていた。

 確か今日の日にちでは、司令室から直結するダストシュートの処理装置が外され、整備されていた筈だった。

 

「ダストシュートだ!アイツらは今、ゴミ処理場に居る!」

 

 メテオスがそれに気づき、その情報を叫んだ頃には、全てが後の祭りだった。

 




解説

人魚の歌声(テルクシエペイア)
今回の話のために適当にでっち上げた音響兵器。ミリシアルなら精神魔法の類も保有しているだろうし、それをする機器もあるだろうとして登場。劇中では魔導放送に精神魔法を乗せて部屋を無力化していたが、機械放送でこれは出来ない。科学文明で言う、神経ガスの様な立ち位置。
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