今回の話で、特殊部隊編は終わりです。
神聖ミリシアル帝国 エリア48
陸上自衛隊所属 特殊作戦群第四分隊
基地内から出てきた廃棄物、処理物などが集まるゴミ処理場。破砕機に砕かれ、様々なカケラに別れたそのゴミ箱の中。
生ゴミまで混じっているのか、周辺には異臭が漂う。しかし屋外に通じているのか、ここでは臭さより寒さの方が勝る。
そんなゴミ処理場の一角から、何人かの人間がダストシュートを下って滑り降りてきた。本来なら経由するはずの破砕機をすり抜け、第四分隊のメンバーが脱出する。
「……よし、全員いるな?」
「はい。欠員はありません」
ダストシュートの先に繋がっていたゴミ箱から這い出て、リーダー格の工作員コブラは欠員が居ないかを確認する。
全員が脱出したのを確認した後、コブラは周辺を警戒しながら歩みを進める。外では雪が降っており、防寒着を着ているとはいえ少し肌寒い。
「合流ポイントまで行くぞ。全員、サプレッサーを付けておけ」
「了解」
工作員コブラの指示により、各員がサプレッサーを取り出し、手持ちの銃火器に素早く取り付ける。
コブラ自身もUSP拳銃にサプレッサーを取り付ける。そして脱出までの隠密行動を行うべく、姿勢を低くしてゴミ処理場の壁に張り付く。
「待て、敵兵だ」
コブラから見て正面。出口に通ずる巨大なシャッターの方角から、何人かの敵兵が出てきた。
「上の司令室が制圧されたな。俺たちが脱出したことがバレたらしい」
「どうします?」
コブラは仲間の声に何も言わずに、まずは敵兵の人数と装備を確認した。
見たところ、敵兵はこちらの倍にあたる16人程度。武装は短機関銃らしき、銃身の短い火器を持っている。室内戦では彼方に分がありそうだ。
「……車両は来そうか?」
「通信状況が悪いですが、予定通りならまもなく到着します」
コブラは武器を構え、戦闘に備えつつも、不利な室内戦を避けようと画策する。しかしその間にも、ミリシアル兵らはジリジリと近づき、隊員たちの隠れるゴミ箱に詰め寄る。
「頼む、早く来い……!」
コブラが歯を食いしばって願ったその時、ミリシアル兵らの背後から轟々としたエンジン音が聞こえてきた。それは着々と、こちらに近づいてきている。
「来た!」
コブラがそれを認識したのと同時に、正面の車両入り口から自衛隊制式の四輪バギーである汎用軽機動車が突っ込んで来た。
「うわっ!?」
「な、なんだ!?」
目の前のミリシアル兵達が、いきなり背後に現れた汎用軽機動車を見て叫んだ。車載ライトに照らされたミリシアル兵達は、その眩しさに大きく怯む。
汎用軽機動車は僅かな防弾板すらも取り付けられていない逃走用車両であるが、その上部のガンナー席にはMINIMI軽機関銃を携えた仲間の隊員がおり、ミリシアル兵らに対する火力は十分すぎた。
「っ!? た、退避ぃ!」
ミリシアル兵の隊長が叫ぶよりも先に、隊員の持つMINIMI軽機関銃が火を吹いた。無数の弾丸がミリシアル兵らに放たれ、次々と殺傷、無力化され地面に倒れ伏す。
MINIMI軽機関銃を左から右へと流れるように向け、その間もひたすら弾丸を撃ち続けると、ものの数秒でミリシアル兵らは制圧された。
それを確認した後、工作員コブラは合言葉を放つ。
「スネーク」
「コブラ」
今度こそは合言葉が合っているのを確認し、工作員コブラはゴミ箱の裏から出てくる。他の隊員達も緊張が解けたのか、やれやれと言った表情で合流を果たした。
「急いで乗ってくれ、第一と第二分隊をこのまま回収する」
「了解だ、よし乗るぞ」
「武器を置いていけ」
工作員コブラがそう命令すると、第四分隊の隊員達は手に持った武器らをその場に捨て、逃走車両に乗り込み始める。最後の隊員が汎用軽機動車に乗り込むと、コブラは命令した。
「出発してくれ」
「了解だ」
最後の隊員が乗り込んだのを受け、汎用機動車は走り出し、戦闘を行う味方の回収に向かう。
同時刻 バネタ地区
神聖ミリシアル帝国陸軍 魔導戦車中隊
雪の降りしきるバネタ地区の夜道を、スポーツカー並みのアクセル全開で突き進む部隊が居た。
ヘッドライトを照らし、非常に近未来チックな装甲戦闘車両が4両ほど、魔導輸送トラックと共にエリア48への救援に向かっていた。
「車長、間も無くエリア48です!」
「急げっ、侵入者の脱出経路を塞ぐんだ!」
彼らが操る装甲戦闘車両は、神聖ミリシアル帝国の主力陸戦兵器として配備されている"シルバー装輪戦車"だ。基地司令があらかじめ近くの基地に配置しておいた、もしもの時の予備戦力である。
メテオスらにはエリア48の中に置いておくことを進言されたが、いざ侵入されるまでそれは叶わなかった為、彼ら魔導戦車隊は基地から出撃し、急いで救援に向かっている最中だった。
「よし、後1キロほどで到着するぞ。総員、戦闘準備!」
「了解!」
シルバー装輪戦車が携える、40mm魔導砲を操る砲手と装填手が、それぞれの機器に手を備え付けて戦闘体制に入る。
そして車列が街道のカーブを曲がり、後少しでエリア48にたどり着くと言うところ。そこで何かの金属が破裂するかのような音が聞こえたかと思うと、シルバー装輪戦車が大きく揺れ、安定性を失った。
「な、なんだ!?」
「み、右側のタイヤが……!」
操縦手がいきなり右側のタイヤが破裂したことを受け、そう叫んだ。経験豊富だった操縦手は、このぐらつきが右側のタイヤが完全に無くなった事によるものだと理解したのだ。
シルバー装輪戦車のタイヤは、確かに構造上の弱点だが、それなりに頑丈で小銃弾ではパンクしたりしない。一個損失したくらいでも余裕で走れる。
しかし、現実には一発の攻撃でタイヤが損傷して車両はバランスを崩そうとしている。原因が何かを考える前に、車長は操縦手を蹴った。
「敵の対戦車ライフルだ!ジグザグに走行しろ!」
「りょ、了解!」
車長は損害の状況から、これが待ち伏せ攻撃だと察知。同時に敵の武装が対戦車ライフルだと瞬時に悟り、操縦手に撹乱するように伝える。
しかし操縦手がハンドルを右に切ろうとしたその時、後部の車輪が敵によって狙撃された。ちょうどハンドルを切っていた最中に狙われたので、シルバー装輪戦車は大きく道の真ん中で横転した。
「のわっ!?」
シルバー装輪戦車は大きく横転し、そのままぐるぐると転がっていく。幸いにも崖下に落ちることはなかったが、道の真ん中で横転したことにより、応援の車列が立ち往生した。
『くそっ、後退しろ!』
後続のシルバー装輪戦車とトラックが後退を行おうとし、トラックに乗っていた魔導士が防御魔法を展開、狙撃に備える。
しかしその防御魔法を貫通し、トラックの車輪が狙撃され、再び立ち往生する。止まったトラックにシルバー装輪戦車が追突したりと、車列は大混乱に陥り戦力を損失した。
同場所 同時刻
車列から500m遠方
ちょうどその時、エリア48に向かって駆けつけてきた車列の応援部隊を、特殊作戦群の第三分隊が足止めしていた。
第三分隊は周りを囲む山々に潜伏しており、特殊作戦群の作戦を狙撃やドローンなどで支援するのが目的だ。ドローンの観測情報で得られた増援部隊の情報を受け、狙撃手の女性自衛官は車列を待ち伏せできる場所に待ち構えていたのだ。
「ヒット……目標追突」
シルバー装輪戦車を狙撃した対戦車ライフルとは、対物狙撃銃のバレットM95だった。転移前にアメリカから輸入していた対物狙撃銃であり、シルバー装輪戦車のタイヤくらいなら簡単に貫通できた。
そして狙撃手の能力も、ジグザグ走行を行うシルバー装輪戦車に対して二度も命中弾を与えた。恐るべき腕前である。
それもそのはず、彼女は特殊作戦群にスカウトされる前、冬季オリンピックのバイアスロン競技に日本代表選手として出場すべく、スキーとライフル射撃の腕を徹底的に磨いていた逸材である。
陸自唯一の雪中戦部隊である冬季戦技教育隊に所属していた彼女は、その部隊でオリンピック選手としての体力と射撃の才能を徹底的に鍛えてきたのだ。
もっとも、転移によりオリンピックという概念自体が消滅してしまい、その才能は自衛隊内で生かすしかなくなっている。そしてその才能が埋もれることを惜しんだ上層部は、彼女を特戦群に推薦したのだ。
そうして、本来なら
「……時間だ。位置を変更、本隊に合流する」
「了解」
そんな経歴を持つ特殊作戦群の狙撃手は、敵の車列が大混乱に陥るのを見て頃合いを悟り、観測手と共に位置を変更することとした。狙撃銃と観測機器を回収し、後方に置いていた四輪バギーに乗り込み、エリア48内部の味方の支援に移る。
同時刻 バネタ地区
陸上自衛隊所属 第一分隊
一方の第一分隊の面々は、エリア48の内部で逃走を続けていた。合流ポイントの裏口まで、隊員達がお互いをカバーしながら脱出経路を進む。
途中、不幸にも出会したミリシアル兵らは容赦なく射殺していき、なるべく本格的な戦闘を避けながら進んでいる。
なぜなら後衛の隊員が、負傷したロメオを担架に乗せながら彼を守って進んでいるからだ。何人かの隊員は戦闘ができない状態なので、本格的な戦闘を行えばロメオが危ない。
「急げ、もうすぐだ」
既に追っ手を振り切り、間も無く屋外に出られる、と言うところまで来た。ロメオの状態が心配なため、彼らは冷静さを装いながらもなるべく素早く行動をしている。
「よし、扉を開けます」
裏口に続く扉を、先頭の隊員がゆっくりと開ける。後ろに控える隊員らは、開けた視界に銃を突きつけ、周りをクリアリングしながら進んでいく。
裏口への通路は、コンクリート製と思われる地面で踏み固められ、地上に行くにつれて坂になっている。そして屋外を見ると、空には雪が降りしきっている。
しかし、裏口からでも分かるくらいの大きな炎が、夜の空をオレンジ色に染めていた。おそらくだが、最初の陽動攻撃で放ったトマホークミサイルによる火災が、まだ消されていないのだろう。
「上に注意しろ」
視界の悪い坂の上から敵兵に撃ち下ろされることを警戒し、特殊作戦群の隊員達は上をクリアリングしながら進む。
幸い上に敵が待ち構えていることはなく、すんなりと屋外に出られた。壁から外の様子を見ると、未だ基地の兵員の多くは消火作業に加わっている。
おそらくだが、ほとんどの兵員は地上にはいないと見られる。このまま地上の騒ぎに乗じ、逃走することが可能そうだった。
「あと1分で、回収部隊の到着時刻です」
「よし、合流ポイントまで走るぞ」
味方の回収部隊を待たせるわけにはいかない。潜水艦ではロクな装甲車すら持ち運べなかった都合上、装甲の薄い回収車両には、急いで乗り込まなくてはならなかった。
隊長は回収時刻が迫る時計を見て、隊員達に合図を送る。そして先頭がまず最初に駆け出し、その後ろを味方隊員達がなるべく急いで走る。
周りの様子を見るに、担架を持って走っている自分たちは、消火作業を行っている基地要員にも、上手く紛れ込むことができた。側から見ると、負傷者を連れて走っているようにも見える。
回収ポイントは裏口のゲート、その門の外に回収車両が来るはずだった。特殊作戦群の隊員達は周りの喧騒をスルーしつつ、紛れ込みながらゲートの近くまで来た。
「おい、そこのお前達、止まれ!」
「っ!!」
怪しい人物を見たゲートの門番2人が、特殊作戦群の隊員達に声をかける前に、隊長はその門番らをHK416で射殺した。門番の警戒をすり抜け、そのままゲートの向こう側へと進もうとする。
だが、その時だった。
裏口の物陰から巨大な影が、ぬるりと飛び出す。巨大な人影らしき物体が、彼らの前に立ちはだかった。
「くそっ、隠れろ!」
隊長はその異様さに気づき、すぐさま声を張り上げた。幸いにもゲートの周りには建物の残骸があり、隊員達はすぐさまその裏に隠れる。
その直後、隊員達の周辺に機関砲クラスの弾丸が次々と地面を掠めた。どうやらその人影から、攻撃を受けているらしい。隊員達は物陰に隠れながら、相手の弾丸が止むのを待つ。
およそ10秒間の重い衝撃が、彼らの周りに弾痕を作り上げ、釘付けにした。そして相手は弾切れになったのか、すぐさま機関砲をリロードする。
「なんだアイツは……!?」
射撃がやんだその直後、隊長が恐る恐る顔だけを建物の残骸から乗り出し、敵影の正体を見る。
そこに居たのは、ミリシアル帝国が保有する第二の陸戦兵器。身長6mほどの汎用人型陸戦兵器の"ティマイオス"魔導アーマーであった。アサルトライフルにも似た形状の20mm魔光砲を手に持ち、物陰に隠れた特殊作戦群の隊員達に対して射撃を浴びせていた。
「くそっ、こんな時に装甲兵器か……!」
「後退する、ここから下がれ!」
対戦車火器などを持ち合わせていない第一分隊では、パワードスーツの様な兵器と戦うのは不利だ。隊長は一旦後退し、位置を確保することを決断。
物陰から飛び出したティマイオス魔導アーマーは、そのまま特殊作戦群の隊員達を追い詰めようと、ゆっくりとその重たい脚部を唸らせ、距離を詰め寄る。
「あと少しなのにっ!」
ティマイオス魔導アーマーはこちらに魔光砲を向け続け、位置を変更しようとした特殊作戦群の隊員達に向けて発砲。再び彼らの周りに、重たい弾痕が振りまかれる。
「隊長、回収ポイントは!?」
「無理だ、あいつを撃破しなければ……」
位置を変更し、少し後ろに下がったところで隊長はそう答える。その間にも、ティマイオス魔導アーマーは距離をジリジリと詰め寄ってきていた。
その騒ぎに対して、周りのミリシアル兵たちも反応を起こしたのか、消火作業を止めて銃を手に取る兵士らが現れた。彼らもティマイオス魔導アーマーと共に、特殊作戦群の隊員達に詰め寄る。
『こちら第三分隊。第一、第二分隊へ。聞こえるか?』
そんな危機的状況の中、インカムの通信機から味方部隊の声がする。隊長はインカムに手を添え、その通信に応える。
「こちら第一分隊だ。第三分隊へ、援護を求む」
『了解、こちらは位置に着いた。狙撃で援護を開始する、その間に位置を確保せよ』
その言葉と共に、第三分隊からの声が止まる。それと同時に、第三分隊が位置に着いた山の中腹の狙撃ポイントから、銃撃が轟いた。
音すら置いてけぼりにする対物ライフルの弾丸が、特殊作戦群を取り囲んでいたティマイオス魔導アーマーに対し、見事命中した。一発目の弾丸は胸部の装甲を貫通し、そのまま内部で装甲に守られていたはずの操縦者の腹部を、グシャリと抉り取った。
激しい痛みと共に、何事かを察知した操縦者は、魔導アーマーを狙撃手の方向へと振り向かせる。しかし、その瞬間に二発目の弾丸が魔導アーマーの胸部を再び突き破った。
二発目の弾丸は、操縦者の心臓を突き破り貫通。魔導アーマーの背中に装備されていた魔力源の魔導エンジンにまで到達し、それを破壊した。
二発の衝撃と操縦者の死亡を受け、ティマイオス魔導アーマーが仰向けに倒れる。周りのミリシアル兵たちはいきなりの出来事に呆然としていたが、すぐさま狙撃手がいる事を察知し、指揮官が叫んだ。
「スナイパー!」
しかしその指揮官も、対物ライフルの射撃によって頭部を吹き飛ばされた。何か指示を出そうとしていた指揮官は、一瞬で物言わぬグロテスクな死体となった。
「今だ、行け行け!」
隊長は第三分隊の狙撃援護の下、急いで回収ポイントに向かうべく隊員達を走らせた。そしてそれと同時に奥の国道から、何台かの車両のヘッドライトが照らされて来た。
「来たぞ!」
回収部隊は裏口の橋に車両を止めると、第一分隊と第二分隊の面々を回収しようと、その場に留まった。
「早く乗り込めっ!」
「わかってる!」
先に乗り込んでいた工作員コブラの声と共に、回収部隊からミリシアル兵らに向けて援護射撃が放たれる。狙撃手に気を取られていたミリシアル兵らは、背後から放たれたMINIMI軽機関銃らに蜂の巣にされ、バタバタと倒れていく。
その間に、第一分隊と第二分隊の面々が車両に乗り込む。もちろん、負傷したロメオも汎用軽機動車の荷台に乗せ、衛生科の隊員も同時に乗り込む。
「全員乗った、早く出せ!」
「了解!」
全員乗ったのを確認し、隊長は運転手に合図を送った。それを受けて回収部隊は車両のエンジンを吹かし、エリア48から急速に離れて行った。
暗い夜道の国道を、4台ほどの汎用軽機動車が走り抜ける。そして海自の潜水艦との合流ポイントに向かって、そのアクセルをふかし続けた。
幸いにも、敵は混乱していたからか、追撃は見られなかった。
「ロメオ、大丈夫か?」
「うっ……」
隊長は汎用軽機動車の車列が安全圏にまで来た頃を見計らい、負傷したロメオに声をかける。彼の出血はひどく、ここまで長く耐えて来たが、そろそろ危ないと気になっていた。
「もう大丈夫だ、俺たちは脱出した。安全だ」
「……隊長、出血が止まりません。輸血パックも無くなりました」
「…………」
衛生科の隊員の言葉を聞きつつも、隊長はロメオに声をかける。
「隊長……」
「どうした、ロメオ?」
冷静な隊長に対して、ロメオが弱々しくなった声で何かを呟く。
「俺の……家の兎、俺が死んだらどうにかしてください……」
「……分かった、お前の家の兎だな?大丈夫だ、俺も昔飼っていた。安心しろ」
「隊長なら……任せられます……ありがとう、ございます」
ロメオの息はさらに弱々しくなり、しばらくの沈黙が流れたあと、彼は息をしなくなった。
「っ…………」
彼の死を見届けた隊長は、目を伏せて彼の死に対して黙祷を捧げた。その間にも車列は海を目指して国道を進み、回収ポイントまで向かっていた。
20分後
海上自衛隊所属 SS-501〈そうりゅう〉
海上自衛隊所属の潜水艦二隻は、回収ポイントに先回りして待機を続けていた。最初に揚陸したのとは違うポイントにて、特殊作戦群の隊員達を回収する手筈となっており、間も無く回収時間であった。
〈そうりゅう〉の艦長は海岸の崖に立ち、腕時計を見ながら特殊作戦群の隊員達を待っていた。予定では、間も無く回収部隊が到着する流れになっているはずだった。
「そろそろ、か」
その言葉を発したちょうどその時、周囲の国道の方向から何かのエンジン音が聞こえて来た。海自の隊員達は敵か味方かを警戒し、手持ちの個人火器を手に取る。
そしてしばらくすると、その海岸の国道から4台の汎用軽機動車が現れた。味方の車列と認識した海自隊員らは、すぐに銃火器を降ろす。
「スネーク」
「コブラ」
念の為、艦長が車列の隊員達に対して合言葉を放つと、予想通りの言葉が返ってくる。それを受けた艦長は、特殊作戦群の隊長に駆け寄った。
「……作戦の是非は?」
「……目標の残骸を破壊した。敵の追撃は無い、こちらの損害も……軽微だった」
隊長が損害に関して口走ったので、艦長がその事を詳しく聞き出す。
「……負傷した隊員が?」
「ああ、すぐにそちらの医官を貸して欲しい。もう息は絶え絶えだが……」
「分かった。今すぐこちらで準備する」
艦長は周りの海自隊員らに声をかけ、瀕死のロメオを優先的に艦内に運び込ませる。そして艦内の医官の下へ運び込まれ、最後の処置が開始されることとなった。
「隊長殿、彼に何があったのか知りたい。作戦の状況がどうだったのかの詳細を教えてくれるか?」
「はい、もちろんです」
艦長が隊長にそう問いかけると、隊長は特に感情を込めるでもなく淡々と状況を説明し始めた。工作員コブラと共に侵入に成功した事、そして内部で敵の特殊部隊と接敵した事、その際にロメオが銃剣で負傷したことなどを話す。
一方の海自隊員らは、仲間が負傷して瀕死なのに特に感情を込めない隊長の様子を見て、何か薄寒いのを覚えた。
話を聞く艦長以外の隊員らは、そんな感覚を持ったまま証拠隠滅を行う。そして全ての証拠を海に沈めたあと、潜水艦二隻は海岸から離れて行った。
数時間後 SS-501〈そうりゅう〉
艦内医務室
艦内の医務室にて、医療従事の資格を持つ隊員がロメオの最期を看取っていた。到着した頃には既に処置の施しようが無く、輸血をしても彼の命は戻らなかった。
やはり傷が深く、もう少し早く到着してもおそらく結果は変わらなかったであろう。少なくとも特殊作戦群の隊員達も、彼を蘇生するべく最大限の処置はしていた。しかし医療従事者として、医官には彼を救えなかったと言う無念が残る。
「では、こちらにサインをください」
しかしロメオが死亡したその数分後、隊長格の隊員が医務室に居た彼に対し、宣誓書を見せた。かいつまんで言うと、そこには個人情報漏洩防止のあれこれの事が書いてある。
「……これは?」
「ロメオに関する個人情報を、周りに振り撒かないと約束する宣誓書です」
「……破ってはいけない、と言う事ですか?」
「そうです。我々には特殊な事情があるので、お願いします」
仮に情報を漏らしてしまえば、きっと自衛隊の防諜部隊である情報保全隊が黙っていないだろう。いや、それ以前に特殊部隊相手に逃れることはできない。
そう思い、医官は渋々それにサインした。サインを書き終えると同時に宣誓書は取り上げられ、隊長格の隊員はその内容を確認する。
「では、我々はこれで」
そう言って医務室を出た彼は、艦内にも関わらず、最後まで
「なんなんだ、彼らは……?」
医官の隊員は、どこか冷酷に見える彼らの態度と事情に、薄寒いものを覚えた。
数日後 日本国内
特殊作戦群の宿舎にて
数日後、特殊作戦群の破壊工作作戦が成功を収めたことを受け、彼らの分隊は特別休暇を貰っていた。上司への報告と、あれこれの書類を片付けたあと、彼らは最後に宿舎に集まった。
「ロメオに」
「ロメオに!」
お互いの顔を伏せたまま、彼らは殉職したロメオに対して黙祷を捧げると共に、いっぱいの日本酒を飲み込んだ。
彼らは別に、味方の死を労らないサイコパスではない。同じ人間同士、味方の死を労う時間は必要だ。
しかしそれは、報告などのあれこれが終わった後にやろうと、彼らは初めから決めていたのである。その時までは常に行動から感情を切り離し、軍人モードで任務と仕事に赴き、それを遂行する。彼らは最後まで特殊部隊の人間だった。
「そういえば、あの人は今どこに?」
「ああ、コブラの事か」
魔導アーマーに襲われた際、狙撃手を務めた紅一点の女性隊員が、ここに足りない人の一人の在処を問いかける。
「もうそろそろ、来る頃じゃないか?」
隊長が言った通り、ちょうどその時宿舎の扉がノックされ、誰かが入ろうとする。隊長がそれを許可をすると、情報科の徽章を付けた一人の隊員が制服姿で入って来た。
「待たせたな……!」
最後の一人、工作員コブラが揃ったところで、ロメオへの追悼会が改めて始まった。
情報解説
・ティマイオス魔導アーマー
全高6mほどの汎用人型兵器、アサルトライフルに似た形状の20mm魔光砲や、ライフルと似た形状の40mm対戦車砲などを携行する。
肩部にオプションとしてロケット砲を搭載可能。
男性パイロットは普通のパイロットスーツなのだが、女性パイロットは身体のラインが目立つパイロットスーツが採用されており(宇◯戦艦ヤ◯トの女性艦内服をイメージして頂ければ幸いである)、女性パイロットから不評の声が出ている。
野戦部隊の中には、通常の野戦服で乗り込むパイロットもしばしば存在する。一説には、この女性スーツには設計者の趣味が現れているとかなんとか……