首相の決断と作戦開始を受け、護衛艦〈いずも〉は洋上でのテスト航海を中断した。
そして本来の予定を前倒しして就役する事になった護衛艦〈いずも〉は、日本国海上自衛隊、第1護衛隊群第1護衛隊所属の旗艦としてパガンダ王国侵攻作戦へと加わる事になる。
「司令、指示が下りました。作戦開始の合図、"フジヤマニライコウアリ"を受診しました」
「……わかった。では、作戦を開始する」
〈いずも〉艦長の山本の合図により、第一護衛隊群司令官の秋山が作戦の開始を指示した。
この作戦は、日本国が投入する戦力はかつての海外派遣などとは比べ物にならないほど大規模であった。海上自衛隊は第1護衛隊群第1護衛隊に加え、第3護衛隊群第3護衛隊が加わり、航空隊のP-3Cも参加。
さらに各所の航空自衛隊の基地から戦闘機36機と、おおすみ型輸送艦に搭乗した陸上自衛隊の第七師団を含めた3個師団が投入される。
「全部隊、作戦開始!繰り返す、作戦開始!」
それら全てが、首相の決断と命令によって動き出した。海上で待機していた〈いずも〉も、その作戦に加わる。
「P-3C偵察隊、パガンダ王国領内に入ります!」
まずパガンダ王国の領空内に多数の偵察機を侵入させ、この世界の航空戦力であるワイバーンを釣り出す。釣られたワイバーンは、戦闘機部隊のミサイルによって撃破する手筈だ。
「司令、哨戒ヘリが敵の斥候艦と思わしき小型船を発見しました。数は1、どうしますか?」
「……そうだな。哨戒ヘリに対潜爆雷の投下を指示。小型船を撃破しろ」
「本当に、いいんですか?」
秋山は通信士にわざわざ向き直り、厳しく叱咤した。
「今更体面を気にするのか?やるんだ、攻撃しろ」
「りょ、了解!」
通信士により、哨戒ヘリが攻撃に移る。作戦は、まだ始まったばかりである。
一方のパガンダ王国の竜騎士隊は、いきなり領空に侵入してきた未確認の巨大飛行物体に対して対処に追われていた。無論、相手は日本国のP-3Cである。
『未確認飛行物体は、なおも加速している!ダメだ追いつけない!相手は羽ばたいていないぞ!!』
竜騎士隊駐屯地の魔導通信士マチルダは、魔力通信から聞こえてくる竜騎士の報告に耳を疑った。
「第8飛竜隊カーミルク、どうした?サーカスでもしているのか?」
マチルダは、比較的仲の良い竜騎士カーミルクに対しておちゃらけた冗談を言う。しかし、彼は切羽詰まった様子で必死に訴えかける。
『馬鹿にしてるのか!本当だ!本当に未確認飛行物体が王国領空に……ぐわっ!』
「ん、おい、どうした?おい!カーミルク!!」
カーミルクの通信が突然途絶え、ザザザッという雑音だけが残る。流石にこれは異常だと思ったのか、カーミルクは上司に相談した。
「何、未確認飛行物体だと?」
「はい。カーミルクとの通信が途絶える前、西側沿岸から未確認の飛行物体……それも羽ばたいていない物体が、竜騎士カーミルクを引き離したようです」
ワイバーンを引き離したという事は、竜を凌駕する生物という事になる。司令官には全く心当たりがないわけではないが、それはムーの飛行機械の事であり、飛んでくる方向が違った。
「羽ばたいていない?まさか、ムーの飛行機械じゃあるまい。幻覚だ、空間識失調にでもなったのだろう」
「ですが……報告では、未確認騎はすぐにでも本土に侵入するとの事です。流石に領空に入られては、軍の威信に関わるのでは?」
マチルダにそう論され、司令官もやっとのことで疑っていた重い腰を上げる。
「ふーむ、それもそうだな。なら、待機している第8飛竜隊を全て上げろ。どうせなら撃墜してみせろ」
「はっ」
少し遅れたが、その指示は司令部全体に伝わり、ワイバーン隊がスクランブル出撃する事になる。
ワイバーンでも追いつけない未確認騎が、よりにもよって王国の領空に侵入しているという。
それを聞いた竜騎士たちは半信半疑ながらも、じゃあ墜としてみせると意気込んでいた。しかし、その物体が目視できる距離にまで近づくと、彼らの反応も大きく変わる。
「な、なんだあれは!」
「一体なんだ!化け物か!?」
隊員たちは、羽ばたかずに高速で飛行するその物体にそれぞれの感想を漏らす。
「速いな……迎撃チャンスは一度しかないだろう」
隊長の指示により、第8飛竜隊は一列に整列して導力火炎弾の一斉発射の体制に入る。だがすれ違い様に一撃をぶつけようとしたその瞬間、未確認騎が大きく上に飛び上がった。
「何!?」
既にワイバーンの高度限界、高度4000mを飛んでいた彼らにとって、それは想定外の出来事であった。相手は凄まじい速度で上昇していく。
「くそっ!全騎、態勢を立て直してもう一度……」
その時だった。上昇したP-3Cの後方より、何か光る槍のような物体が見えた。そしてその瞬間、第8飛竜隊のワイバーンは全てミサイルによって吹き飛ばされた。
三沢基地第3飛行隊所属のF-2戦闘機9機が、パガンダ王国領内のワイバーンに対処していた。
『スプラッシュ!スプラッシュ!』
『チェリー02、グッドキル!』
その様相はあまりにも一方的で、残酷である。それもそのはず、P-3Cによって釣り出され飛び上がったワイバーンをひたすら99式空対空誘導弾で駆逐していく作業だ。こちらは何の損害も受けない。
『モレア、次来るぞ。しっかりロックオンしてから発射しろ』
「了解……!」
TACネーム「モレア」こと、神藤一貴二等空尉もひたすらに処理に加わっていた。
そして数100km先で飛び上がったワイバーンに対して、熱源をロックオンする。そうしてしっかりロックした後、発射ボタンを押す。しばらく待つと、目標がレーダー上から消えた。ただそれだけ。
『グッドキル!グッドキル!』
「何なんだよこれ、殺している実感が全然湧かないぞ……」
神藤二尉は殺しは初めてである。しかしこのあまりに一方的に敵を駆逐していくこの状況を見て、思わず愚痴を漏らした。
初めて人を殺したのに、実感が全く湧かない恐怖心が神藤二尉の心に重石を残す。
『全員、ミサイルが尽きたな。後は後方の機体に任せ、我々は三沢に戻るぞ』
「……了解、RTB」
せめてサイドワインダーは使わないのか?有視界でガンキルはさせてくれないのか?せめて殺した実感を食らわせてくれ。
神藤二尉はそう思ったが、仕方なく編隊長に従った。
さて、上空に上がったワイバーンが壊滅したパガンダ国民はもちろん大混乱である。
王都を含め、各所の主要都市の上空で未確認飛行物体が飛び去り、その後にワイバーンが落ちていくのだから天変地異かと疑った。
「うわぁ!また落ちているぞ!」
「何が、何が起きているんだぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
逃げ惑う人々。馬は未確認騎の飛行音とワイバーンが散る爆音により暴れ、通行人を轢き殺し、残りの人々は家の中に立て篭もり厄災が過ぎるのを待っていた。
しかし、その家屋にワイバーンの死骸が降り注ぎ、さらなる犠牲者が出る。さらには火のついたワイバーンが落ちた事により、家屋に火が出ていた。
既にパガンダ王都はワイバーンの死骸が散乱し、王宮と騎士団司令部もパニックになっている。王都守護を司る近衛騎士団の騎士団長クリウフは、次々と全滅する近衛竜騎士隊の報告に我が耳を疑っていた。
「第1飛行隊が、全滅!」
「港湾都市レイスグの第4飛行隊も全滅しました!」
「何なのだこれは!空で一体何が起きている!」
列強レイフォルからの保護を受け、相当な数のワイバーンを揃えていた筈のパガンダ王国竜騎士隊が、何事かによって次々と爆発して散っている。
それがあの未確認騎による物だとしても、常軌を逸脱した魔法だ。過ぎ去った、すれ違った者全てを撃退してしまう魔法なのだろうか?だとしたら、どうやってこの被害を食い止められるのか!
「司令、第2飛龍隊の騎士が、未確認騎の翼に赤い丸を確認しました!これは一体!?」
「赤い丸?そんなマークなど知らんぞ!」
そして、相手の正体も分からなかった。ただ一つ言えるのは、相手が赤い丸のマークをつけた"悪魔"である事だ。
我々が何をした?なぜいきなり、宣戦布告もなしにこのような厄災に見舞われているのか?疑問の答えはない、とにかく立ち向かうしかない。
「だがどうやって……」
相手はムーの飛行機械に似ているというが、明らかに性能が違いすぎる。
ワイバーンは相手と戦うどころか追いつくことすら出来ず、何かによって撃墜される。訳がわからなかった。
「とにかく、残りの竜騎士隊には低空を飛行させろ!少しでも見つからなくさせるんだ!」
「りょ、了解!」
クリウフはワイバーンがほぼ全滅した空を見る。その空を見れば、何か対策が思いつくかと思ったからだ。
残りの数騎のワイバーンが街の家屋にに届きそうなくらい低く飛び、謎の攻撃を避けようとしている。
そして、未確認騎はどこへ行ったのだろうか?飛び去ったのだろうか?その空には見当たらない。
「っ!」
だが、その空に何か光る槍のような物体が見えたのを、目の良いクリウフは見逃さなかった。
それは自ら意志があるかのようにぐるりと曲がり、ワイバーンの進む方向に重なるようにクロスする。
「ああっ!!」
低空を飛んでいたワイバーンが爆ぜ、家屋と一緒に吹き飛ばされる。爆発により破片と瓦礫が、道路で逃げ回っていた子供達に直撃する。
「ちくしょう!何て事だ!」
だが今ので敵の攻撃の正体が分かった。相手はあの未確認騎の遥か後方に別働隊がいて、彼らがあの槍を放っているのだと。
そう確信したクリウフは、命令を飛ばす。
「低く飛べ!近衛竜騎士団のワイバーンは、低く飛びとにかく動き回り続けろ!」
「待ってください、団長」
「奴らの攻撃は別にある、動き回れば槍を回避することも……」
「団長!」
魔導通信士が団長を引き止めた。
「今の攻撃で、第1と第2飛竜隊が全て全滅しました……もう、王都に飛べるワイバーンは居ません」
「な、なんだと……」
団長クリウフは、その現実に愕然とした。
パガンダ編リメイク
パガンダ王国 港湾都市レイスグ
港湾都市レイスグ。パガンダ王国海軍の拠点として扱われているこの都市は、港に適した両腕を広げたような地形と、海岸線を切り開いた美しい街並みが広がる天然の良港であった。
パガンダ王国は国が文明圏外でありながら、列強レイフォルからの武器支援や軍事教練を受けており、その実力は並みの文明圏国家と肩を並べるほど精強である。
まずレイフォルから旧式の戦列艦やフリゲート艦などの購入を行い、レイフォル海軍より軍事顧問を呼んでそれの運用に関しての知識を得ていた。
訓練に適した海域がパガンダの周辺に存在していたのも大きく、これによりパガンダ王国海軍は時に外洋航海が可能なほど練度が高くなっていた。
しかし彼らは、日本国による宣戦布告なしの奇襲攻撃により全滅の機に瀕していた。その相手は、沖合から一方的に砲撃を続ける護衛艦〈みょうこう〉による艦砲射撃であった。
「うわぁぁぁ!」
「せ、戦列艦〈パッシュ〉がぁ!!」
「助けて!熱い、熱いぃぃぃ!!」
その模様は虐殺だった。イージス艦〈みょうこう〉の
殲滅には、後方に待機した護衛艦〈いずも〉も加わる。
この〈いずも〉には陸上自衛隊の攻撃ヘリコプターの外、陸自の99式自走155mm榴弾砲が6台並べられ、レイスグへの砲撃に加わっていた。
「戦列艦、全滅しました……港は完全に火の海です」
「…………そうか」
第1護衛隊群司令官の秋山は、ただ事務的にこれをこなしていた。通信士からの報告にも、なるべく目を向けずに仕事を続ける。
「上陸を開始する。輸送船団を前へ」
「了解です」
燃え盛る港湾都市に対して、おおすみ型輸送艦の〈おおすみ〉〈しもきた〉〈くにさき〉の3隻に加えて民間から徴用した輸送客船などが接舷し、上陸を開始した。
もう既に敵の陸上部隊と思しき駐屯地も砲撃で潰しているので、この港湾都市はほぼ無抵抗であった。
だが、その代償は大きかった。
砲撃に巻き込まれ、民家にも火の手が上がり始めた。残念ながら組織的な消火活動は、海自の攻撃によりパニックに陥り機能していない。そのまま炎は港湾都市全体を飲み込んでいく。
燃え盛る炎の中、瓦礫に逃げ遅れた民間人がいた。炎が燃え移って火だるまになり、地獄の苦しみの中で焼け死ぬ事になる民間人。だが、上陸した自衛隊員は彼らを助ける事なく、意図的に無視した。
今の日本に、彼らを助ける余裕など無いのだ。とにかくこの戦争を早く終わらせ、日本国民への資源と食糧を確保しなければならない。自分達はその為に国是を破り、宣戦布告なしで奇襲攻撃をしたのだから。
とにかく自衛隊員は前に進み続けた。途中の僅かな抵抗を文明の火器で捻り潰し、本土からの航空攻撃で各都市に爆撃を喰らわせ、ついに王都にまで辿り着いた。
王都にて、自衛隊はパガンダ王国最後の抵抗を受ける。
パガンダ王国軍10万人による一斉攻撃は、無残にも重火器で蹴散らされる。そして、僅かに逃げ延びた王国軍の生き残りは王都の城壁内部に閉じこもる。それに対して自衛隊は戦車を突入させ、装甲車をなだれ込ませ、歩兵による殲滅戦に移った。
砲撃に民間人が巻き込まれようとも、建物が崩れて子供を押し潰そうとも、戦車でその死骸を踏み潰そうとも、自衛隊員は止まらなかった。
そして王都の王城に突入し、王都守護騎士団も兵士も、従者も、そして重役たちすらも全員殺した。
なぜなら、刃物を持って抵抗してきたのだ。
「悪魔!」
「化け物!」
「怪物め!」
なぜか通じる言葉により、自衛隊員たちに斬りかかろうとした王城の人々。
自衛隊員たちは止めようとしたが、その決死の斬り込みにより死者が出てようやく彼らを殺し始めた。
そのあとは容赦がなかった。
自衛隊員たちは王城の奥深くまで、動く人々を全員を殺し回りながらとにかく進み続けた。
そして王座の間にてパガンダ国王を確保し、外交局に侵入した自衛隊員があのドクラスを捕え逮捕した事により、その地獄は一旦終焉する。
こうして日本の国是を破った初の侵略戦争は、ここにて幕を閉じた。パガンダ王国軍壊滅までは、1週間も掛からなかった。