新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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一ヶ月以上遅れて申し訳ない……
ここからペースを上げていきたいですが、新学期が始まった都合上、さらに遅れるかもしれません。ならべく毎週の投稿を続けたいと思います。

それから前回の話が非常に反響が大きく、感想が70件も来たことに驚いています。
みなさん、ご感想ありがとうございます!

今回の話は書くのギリギリだった事もあるので、感想返信は少し遅れるかもしれません。なのでそこに関してはご容赦ください。


第三十話『カルトアルパス脱出戦1』

 

1642年4月23日

神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス

 

 波乱の会議の模様が、日本の退場により完全に決してから数十分後。

 港町カルトアルパスの港湾管理局に、日本艦隊よりある要請がもたらされ、多忙を極めていた。

 

「何、ニホンの艦隊が出航だと?」

 

 港湾長のブロントは、ココアを飲みながら港湾を見張っていた最中、部下からの報告を受け取った。

 仮にもまだ会議が続いている中、出席している国が出港と言い始めた。その内容が何かの不備ではないかと疑ってしまい、ブロントは再度の確認を怠らなかった。

 

「何を考えている、 まだ会議は明日も明後日もあるんだぞ?」

「それが……午前の会議が大荒れになったようで、自ら会議を抜け出したそうです」

「そんなに荒れたのか?一体何をしたんだ?」

「ラジオを聞いていた奴らによれば、エモール王国がニホンに魔法帝国との関与を疑われたようです。それでニホン側は、逆上してそのまま退場……という形ですね」

「ふーむ、魔法帝国か……」

 

 ブロントは片手に持ったココアを近くのテーブルに置き、双眼鏡で日本艦隊の方角を見る。そこではすでに乗員の上陸が始まっており、確かに今すぐにでも出港しそうな雰囲気であった。

 

「……国際会議の場をわざわざ抜け出してくるとは、よほど沸点が低いと見られるな。いいさ、出ていくと言うなら、さっさと追い出してやれ」

「分かりました」

 

 ブロントは投げやりになるようになりながらも許可を出し、部下に出港の手順を踏ませた。ブロントはそろそろ休憩時間に入るので、この時間は仕事を残したくなかったのだ。

 

「ニホンはそこらの蛮族とは違うと、俺は思ってたんだがなぁ……」

 

 テーブルに置いたココアを手に取って、片手のスプーンでそれをかき混ぜながら、ブロントは日本に対する失望感を口に出した。

 ブロント自身、日本人に対する差別感情はあまりなかった。カルトアルパスの住民、それどころかミリシアルという国の国民自身が日本に対する出どころ不明の噂を信じている。ブロントも、昨日までは日本に対する感情はあまりいいものではなかった。

 だがそれも昨日、日本艦隊が連れてきたあの戦艦を見て考えを改めた。これほど立派な戦艦は、そんじょそこらの蛮族には絶対に作れない。これを作れるという事は間違いなく、工業的、人間的に発達した近代国家であるという証だ。

 少なくともブロントはそう思っていた。あの巨大戦艦のような立派な艦艇を作れる国ならばと、戦艦好きなりに考えを改めていたのだ。

 しかしその考えも、やはりつかの間の幻想だったのかと思うと、裏切られた気持ちになる。まあ、日本側にも多少の言い分はあるだろうから、一方的な目線では物事を語れない。

 そんな回想に思いにふけりつつ、再びココアに手を付けようとしたブロントの耳に、部下からの喧騒が聞こえてきた。

 

「……えっ?なに、何ですって!?」

「どうした?」

 

 部下たちが騒がしくなるのを聞いて、何かトラブルがあったと思ったブロントは、部下たちの様子を確認しに行く。

 

「そ、それが……第一、第三文明圏エリアの艦隊のほぼ全員が、港からの出航許可を求めています!早く急げと矢の催促です!」

「何!?」

 

 その言葉を聞き、真相を確かめるべく通信機のある部屋に入るブロント。

 通信機の受け答えをしていた部下に近づき、そのインカムを奪い取って、通信の内容を聞き取る。

 

『港湾管理局へ、聞こえるか!第一、第三文明圏の各艦隊の出港許可を求める!早くしろ、これは最優先事項だ!!』

 

 多少混線しているが、確かに出港許可を求める艦隊の音声が聞こえてくる。ブロントはその事実確認を受け、受け答えをする前にインカムの音声を切断し、通信係の部下にそれを戻した。

 

「何故だ……文化館ではまだ会議が続いているだろ?」

「分かりません……どうやらニホン艦隊を追撃するとのことですが、会議の方で何かあったのかと……」

「アイツら、このカルトアルパスを戦場にするつもりか……!?」

 

 ブロントは街を戦場にしてでも日本艦隊を追撃しようとする海軍連中に対し、その考えなさに怒りを覚えた。

 会議を抜け出したとはいえ、日本艦隊に対して不意打ち紛いの追撃を行えば、日本艦隊は確実に反撃を行うであろう。そうなれば流れ弾などがカルトアルパスの市街地に落下し、住民に被害が出るかもしれない。

 海軍の連中は、どうやらその可能性を全く考慮していないようだった。

 

「ど、どうします?このまま出航を認めたら……」

「わかってる!だが、俺だってそれは嫌だ!」

 

 出港許可を認めたら、確実に街が戦場になる。

 ふと窓の外を見れば、日本艦隊がタグボートに押され、それなりの沖合に出ていた。ここから日本艦隊を追撃するには、やはり出港許可を得てタグボートで離岸するしかない。

 

「(ニホンを出航させた身で、アイツらに出航許可を出さなかったら、俺はスパイだって疑われる。言い出しっぺらしいエモールからは、間違いなく非難されるだろう)」

 

 ブロントは思う。

 あのエモール王国の事だ、友好国のエルフ族とはいえ、必ずいちゃもんを付けてブロントの身柄を拘束するだろう。例えエモールがやらなくても、祖国ミリシアルもこの話に乗り気な事を見れば、只では済まされないだろう。

 

「(だが、そんなのおかしいんじゃないか?俺は、この街を戦場になんかしたくないだけなのに……!)」

 

 日本艦隊を捕まえて、乗員や外交官を拘束することは、まさか街を戦場にする事よりも軽いというのか?

 国の威信やプライドの前では、たかが地方都市の港町などどうでもいいと言うのか?

 そんなのは、絶対に許さない。

 

「ブロント港湾長……」

「……出航許可は、出さないぞ!」

 

 ブロントはどうするべきか、もう決まっていた。

 自分は港湾長であり、この港町が好きだった。

 だから、守らなければならない。

 

「港湾長として、俺には街と港を守る責務がある!この街の安全が、ちんけな国のプライドよりも軽いなんて、言わせるもんか!」

「そうだ……!港湾長の言う通りだ!」

「俺たちの港は俺たちで守るぞ!」

 

 部下たちもその言葉に賛同し、逮捕される危険すらも顧みず、ブロントに追従した。

 その言葉を聞き、少し目が潤むブロントであったが、涙を拭いて即座に指示を飛ばす。

 

「港を封鎖するぞ!通信係は港湾のタグボート隊に連絡、港の入り口に展開させろ!勝手に出港する奴は威嚇してもかまわん!」

「はいっ!」

「入口にバリケードを立てろ!ドアを釘で塞いで、机で開けられなくしろ!」

「了解です!」

「その他の者は地下から非常食を集めろ!長期戦になるぞ!!」

 

 港湾局の職員らが総出となって、港町を守ろうとする。

 その間に日本艦隊は、第二文明圏のエリアから沖合に出港していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

グラ・バルカス帝国 戦艦〈グレード・アトラスター〉

 

 一方、混乱はグラ・バルカス帝国の艦隊でも起きていた。

 帝国は日本の第二文明圏での行為に対して非難声明を出す予定ではあったが、会議の場で日本艦隊を攻撃するなんて予定は、当然だが無かった。

 それがエモールの爆弾発言にブチ切れた日本代表らの退場を宣戦布告と受け止めた第一・第三文明圏各国が、日本艦隊の追撃を決定。しかも会議場のシエリア外交官によれば、帝国も追撃に参加しろと他国代表から迫られているという。

 

「艦長、我々はどうするんですか?」

「今、本国に問い合わせ中だ。流石に様子見で済むと思うんだが……」

 

 混乱は戦艦〈グレード・アトラスター〉艦内にも広がっている。

 若手の参謀が困惑しながら艦長のラクスタル大佐に聞いてきたが、ラクスタルも判断に迷っており、本国にお伺いを立てている最中だ。

 幸いにも〈グレード・アトラスター〉は指揮通信機能が充実しており、第三文明圏各国に建設された無線中継所を経由すれば本国とも交信可能だった。

 やがて通信参謀がラクスタルの元へとやって来る。

 

「艦長、本国から通信!『貴隊は他国艦隊と共同し、二ホン艦隊を追撃セヨ』とのことです!」

「なっ……」

 

 先の定例軍本部会議の通り、帝国軍上層部には二ホン脅威論が蔓延している。この突発的な事態を好機だと見る声もかなり大きく、帝国軍上層部は友好各国への追従の意味を含め、追撃に参加することとした。

 だがラクスタル達現場の人間は、さすがにこの不毛な戦いに参加させられることは無いだろうと思っていた。その予想が見事に外れたために、ラクスタルは迷う暇はないと、即座に命令を下す。

 

「……出港用意。ならびに総員戦闘配置だ」

「……はっ!」

 

 ラクスタルは昨日喫茶店でコーヒーを飲みあった2人の日本人のことを思う。

 私情と軍事を混同することなどあってはならないが、それでもラクスタルの良心が邪魔し、気が進まなかった。

 

「(まぁ、まだ出航許可が出ていないし、ボイラーの火を落としてるから、どのみち出航には半日かかるんだが……)」

 

 それはそれとして、この不意打ちじみた日本艦隊への追撃をして、関係各国は恥ずかしくないのだろうか。

 例えこの作戦がうまくいって、日本艦隊の乗員や外交官と確保したとしても、不意打ちで手に入れた勝利なんぞでプライドが満たされるとは思えない。

 そんな野蛮な国々に追従しなければならない現状を思い、ラクスタルは内心でため息をつく。

 内心で悟られぬよう、祖国を含めた考えなしたちに呆れた感情を抱いたラクスタルは、徐に艦内通信のマイクを手に取った。

 

「総員に告げる。今回ばかりは、あまり頑張らなくていいぞ」

 

 艦長からの艦内放送を聞いた乗員たちは、元々乗り気でなかったために、戦闘では多少の手加減をすることに決めた。

 どのみち、日本艦隊が海峡を脱出するまでの間では、ボイラーの点火は間に合わなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

港町カルトアルパス ミリシアル地方艦隊

 

 一方の神聖ミリシアル帝国の方では、カルトアルパスの地方艦隊8隻が、着実に出港準備を整えつつあった。

 

「司令、カルトアルパス駐留の地方艦隊全艦、まもなく出港できます」

 

 カルトアルパス地方艦隊の旗艦〈ゲイシャルク〉の艦橋指揮所にて、艦長のニウム大佐は、司令官に対して出港準備が間もなく整う事を伝える。

 乗員は日ごろの訓練の成果を発揮し、素早く集合して戦闘態勢を整え、僅か五分ほどで出港準備を整えていた。

 グラ・バルカス帝国海軍の精鋭艦隊に比べればまだ粗が見える時間であるが、普段戦闘に繰り出すことのない地方艦隊としては、これでも十分すぎる練度の高さである。戦闘配置と出港準備を同時に整えたことを加味すれば、むしろ正規艦隊並みに早い方だ。

 カルトアルパス地方艦隊はその立地上、第零魔導艦隊との訓練経験も十分にある。だから戦闘配置や出港の準備の速さも、正規部隊並であったのだ。十分な練度の正規艦隊と訓練できるのは、この港町に駐留しているが故の特権と言えよう。

 

「よし、作戦を開始しよう」

 

 ニウム艦長の報告を受け、ミリシアル海軍カルトアルパス地方艦隊の司令官、パテス海軍少将は艦長に振り返り、早速作戦の開始を宣言した。

 しかし、いきなり決まった作戦に対し、未だ懐疑心を持つを持つニウム艦長は、今回の作戦の意味を司令官に問いかける。

 

「司令、本当に良いんですか?ニホン艦隊を拿捕して、最終的にどうするんです?」

「知らん。だがこれは国防省及び外務省からの直々の命令だ」

 

 命令は突然やって来た内容であり、“脱出するニホン艦隊を追尾し、フォーク海峡の範囲内で拿捕しろ”とのことだ。

 世界会議を失礼な態度で抜け出したとはいえ、わざわざそんな不意打ち紛いなことをする必要はあるのかと、ニウム艦長はその目的が全く理解できなかった。

 

「一体、何故そんなことを?」

「知らんよ。だが俺たち軍人は命令に常に忠実であり、逆らえないものだ」

 

 パテス司令官は軍人としての職務を全うしているのか、突然の命令に対して何も気にすることもなく、作戦を遂行しようとしている。

 ニウム艦長は日本艦隊を拿捕する事には納得できなかったが、上官が納得している以上、命令には従うほかなかった。

 

「通信士、各国の艦隊はどれだけ追従した?」

「第一、第三文明圏の艦隊は、ほぼ全ての艦隊が追従しています。艦隊無しのエモールやリビズエラも、航空戦力でこちらを援護するそうです」

「他は?」

「ムーとアニュンリールは参加を拒否。追撃には参加しない模様です」

「チッ、日和見主義者めが……そういえば、グレード・アトラスターの方は?」

「まだ回答がありません」

「ならグレード・アトラスターに通信を繋いで呼び出せ」

「了解です」

 

 パテス司令官がその日和見主義者に悪態を吐く中で、通信士は〈グレート・アトラスター〉の機械式通信機とのリンクを確立させ、通信回路を開いた。

 そしてパテス司令にマイクを手渡すと、〈グレート・アトラスター〉の艦長との通信が始まった。

 

「こちらカルトアルパス地方隊司令。グレード・アトラスターへ、貴艦の出航はまだか?もう戦闘が始まるぞ?」

『こちらグレード・アトラスター、艦長のラクスタル。本艦の出港は無理だ、今からでは間に合わない』

「何?それは何故だ?」

 

 この中で最も戦力価値が大きい〈グレート・アトラスター〉が、まさか日和見を決めたのかと思い、パテス司令官は声のトーンを下げて問い詰めるように質問する。

 

『こちらの主機関は、機械式の蒸気タービンだ。炉に火を入れるのに、今から10時間以上はかかる』

「じゅ、10時間!?今からの追撃は不可能だと!?」

『そう言う事だと受け取ってもらいたい』

 

 パテス司令官は魔法文明国の海軍軍人である為、機械式のエンジンの構造や特性に対する理解が乏しい。

 そのため〈グレート・アトラスター〉もすぐに出港できるものだと思っていたので、あまりに時間がかかりすぎることに面食らって、思わず怒鳴り返してしまった。

 

「そんな不便な代物なら、何故常に火を入れておかなかったんだ!?」

『蒸気タービンは常に火を入れて使うものじゃない。吐き出し続ける煙が広がって、港の住民に迷惑が掛かったら問題だろ?』

「っ……」

 

 確かに機械文明特有のもうもうとした黒煙が街に覆いかぶさっては、カルトアルパスの住民に迷惑である。

 世界会議に出席する名誉ある国として、議場の街を汚したくなかったのだろう。そんなことを言われては、構わず火を入れ続けろと、文句を言うことは出来ない。

 

『戦闘自体には参加する。出港ができなくとも、フォーク海峡全体は本艦の主砲の射程内だ。此処からでも援護くらいなら可能だ』

「なるほど、海峡の範囲なら主砲が届くんだな?」

『ああ。ただ距離が離れ過ぎている為、命中精度は期待しないでくれ』

「……分かった。なら観測情報はこちらから伝える。牽制でも良いから援護を頼むぞ」

『了解した』

 

 パテス司令官はとりあえず出来ることはやってもらおうと、〈グレート・アトラスター〉に援護射撃のための諸元共有だけ命令する。

 

「艦長、グレート・アトラスターに諸元の共有準備を」

「了解です。通信、グレード・アトラスターと通信を繋ぎ続けろ。砲術は音声でもいいからグレート・アトラスターに諸元を送れ」

「分かりました」

「了解です、艦長」

 

 戦闘能力が未知数とはいえ、日本艦隊にも戦艦が存在する。そんな中で、こちらの最大戦力が岸壁に引きこもらざる得ないことには、パテス司令官も一抹の不安を覚えた。

 まあどのみち、日本の戦艦の主砲は前方集中配置なため、真後ろに撃ってくることはないだろう。そう結論付け、行うべき行動を脳内でイメージしたパテス司令官は、いよいよ艦隊に出港の命令を下す。

 

「艦長、ゲイシャルクの出港を。本艦が先行する」

「だめです、まだ港湾管理局が出港許可を出していないようで……」

「なに?」

 

 通信士の方向を見て内容を聞いていたニウム艦長が、パテス司令官の方に振り向いてそう言った。パテス司令官は港湾管理局の珍しい仕事の遅延に、首を傾げつつ文句を垂れる。

 

「こんな時に何をやっているのだ、あいつらは……」

「今出港するにはタグボートが必要なのですが、問い合わせてもタグボートが来ないんです」

 

 先ほどの話に補足をするように、艦長が通信士の方を見る。通信士は港湾局に対して繰り返し呼びかけを行い、微かな応答すらも聞き逃さないよう必死になっているが、どうやら応答はないらしい。

 パテス司令官は不満げな表情を浮かべつつ、視線を艦橋の窓に対して流すと、そこに不審な遊覧船が見えた。

 

「おい、あそこの遊覧船はなんだ?何故あそこで止まる?」

「分かりませんが……あそこに止められると出港の邪魔になります」

 

 パテス司令官はゆっくりと航行する遊覧船を見て、予定になかったはずの時間と航行ルートに遊覧船が現れたことに対して、段々と苛立ちを覚えた。

 

「くそっ、通信士、港湾管理局からの誘導は!?」

「ダメです!港湾管理局との通信が途絶、応答に応えなくなりました!」

「なんだと!?アイツら、何をやっておるのだ!!」

 

 こんな重大な時に、港湾管理局が仕事を怠慢したことにより、カルトアルパスの地方艦隊は機能不全に陥っていた。

 

「司令、ニホン艦隊が沖合に出ようとしています!このままでは!」

「まずい……!」

 

 地方艦隊が手を拱いている間に、日本艦隊との距離がどんどんと離れていく。

 ミリシアルの地方艦隊は、第一文明圏エリアの出口を封鎖され、そこから身動きが取れない状態にあった。その間に、日本艦隊は第二文明圏のエリアを抜けようとしている。

 何度呼びかけても港湾管理局が応答しないのを受け、地方艦隊では苛立ちが最高潮に達しようとしていた。

 

「まだ管理局と繋がらんのか!?」

「ダメです!通信が復旧しません!」

「憲兵隊も現地に駆けつけましたが、バリケードで建物が封鎖されているようで……」

 

 パテス司令はその状況を見て、思考を照らす。このまま紳士的に港湾管理局の指示を待っていても、日本艦隊を逃してしまうだけだ。

 ならばこの酷い職務怠慢を起こす港湾管理局など見捨て、独断に走るしかない。あまり最終手段には出たくなかったが、この際仕方ない。

 

「もういい、この際許可を待つ必要はない!無理やりにでも出港せよ!」

「しかし司令、このまま出港すれば左舷が岸壁に擦ります!」

「構うもんか!装甲強化シークエンス!左舷に集中!」

 

 他の国の艦隊はすでに無断で出港し始めている。今盟主の我々がこの場で手を拱いている場合では無い。

 旗艦〈ゲイシャルク〉の左舷が淡く光り始め、装甲材の銀合金に強化魔法の術式が入り込む。それと同時に〈ゲイシャルク〉は艦内の魔導機関を始動、コンクリートの岸壁からゆっくりと前進し始める。

 旗艦の行動を合図に、地方隊の各艦も岸壁からの離脱を図ろうと、無理やり出港を始めようとした。

 本来ならカルトアルパスで無断出港することは、外交問題や罰金にまでつながる違反行為であるが、この際どうでも良かった。

 

「左舷、喫水線上に小規模の亀裂発生!」

「機関、微速前進!このまま沖合に出る!!」

 

 〈ゲイシャルク〉が最終手段に出たのを阻止せんと、先ほどの遊覧船がその進路上に立ちはだかる。

 

「遊覧船がこちらを妨害しています!」

「あの野郎、ニホンの手先のつもりか!!」

「総員衝撃に備え!!」

 

 微速前進中の〈ゲイシャルク〉と遊覧船が、お互いの針路を譲ることなく激突。

 金属同士が擦れる耳障りな音が響き、艦内が激しく揺れる。

 あまりの衝撃の強さに、備えていたはずのパテス司令ですら、床に振り落とされてしまった。彼は軽傷を無視してすぐさま立ち上がり、艦の状況を確認する。

 

「衝突!衝突!!」

「艦首に亀裂発生!浸水発生すれど戦闘航行に支障なし!!」

「艦長、戦闘に支障はない、このまま押し出せ!!」

「機関出力上げろ!」

 

 1万トンを超える魔導巡洋艦と、それに比べてあまりにも小さい遊覧船の激突。その押し相撲は遊覧船の方が不利であり、押し出されるように針路妨害を突破された。

 

「遊覧船の妨害を抜けました!」

『見張りより艦橋へ!本艦にタグボートが集まっています!!』

 

 遊覧船の妨害を抜けてもなお、港湾管理局は軍艦を沖合には出さまいと徹底的な妨害を続ける。

 

「管理局の野郎、港から出さないつもりか!何を考えている!!」

「足を止めるな!勢いを維持しろ!」

 

 まるで血迷ったかのように、〈ゲイシャルク〉に対してタグボートが集まってくる。彼らによる進路妨害を受けまいと、〈ゲイシャルク〉は全速を発揮してタグボートを突っ切ろうとした。

 だが小型で小回りの利くタグボートは、〈ゲイシャルク〉による突破をするりと避けると、艦の側面に複数隻で体当たりを行い、全速力で押し出し針路を変えさせた。

 

「タグボートに取り付けれました!!」

「岸壁に衝突します!!」

「巡洋艦が押し負けるな!機関出力最大!!」

 

 だが機関出力を上げ、脱出を試みようにもタグボートの馬力は馬鹿にならなかった。前に進もうともどんどん押し上げられ、ついには〈ゲイシャルク〉は脱出する前に岸壁に激突してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

港町カルトアルパス アガルタ法国魔法船団

 

 混乱の広がる地方艦隊のエリアから少し離れた場所、アガルタ法国の魔法船団が停泊する第一文明圏エリアにて、船団司令官のバクタールはチャンスをうかがっていた。

 ミリシアルの地方艦隊がタグボートに苦戦する中、その様子を物陰に停泊している魔法船団の旗艦よりちらりと伺いつつ、出港の適切なタイミングを計る。

 

「ミリシアルの艦隊、出口を塞がれましたな……」

「ああ。だがおかげで、タグボートはあっちに集中している。チャンスはもうすぐだぞ」

 

 そう言ってチャンスを伺うバクタール司令に対して、副官が恐る恐る不安を口に漏らす。

 

「……司令、我々だけで日本艦隊と戦うのですか?どこまで戦えるでしょうか?」

「よせ、不用意に不安を口に漏らすな。貴官の弱音は兵達に伝染すると思え」

「は、はっ!失礼しました!」

 

 とは言って副官に注意を促したが、やはり魔導砲十数門と艦隊級極大閃光魔法しか武装を持ち合わせていない魔法船団の火力では、日本艦隊の戦力に対して不安が残る。

 そもそもの話、この会議に派遣された魔法船団は、純粋な戦闘目的の船団ではない。どちらかと言えば試験目的、新しい魔法の術式を開発するために臨時で編成された、実験艦隊でしかない。艦隊級極大閃光魔法を投射できるのが彼らしかいないのも、その一端である。

 それに対して、あの列強レイフォル海軍を滅ぼしたと言われるのが日本艦隊なのだ。その戦力、兵器に至るまで未知数であり、術式試験のための臨時編成艦隊では、ほとんど対抗できないのは分かっている。

 だがそんな自覚はあれど、バクタール司令は行動を起こそうとするのを止めなかった。このまま港に引きこもるのも、何もせず日本艦隊を見過ごすのも、彼らは良しとしなかった。

 

「よし、そのまま見過ごせ」

 

 バクタール司令は、周辺のタグボートの様子を逐一観察しては、出港のタイミングを見計らっている。

 今のところ、第一文明圏エリアのタグボートは軒並みミリシアル地方艦隊を封じ込めるのに動員され、アガルタ法国を拘束するタグボートの数は減りつつある。

 そして、見たところ最後と思わしきタグボートが地方艦隊エリアへの増援に向かったところで、アガルタ魔法船団を拘束するタグボートはほぼ居なくなった。

 

「よし、今だ!出港せよ!!」

 

 バクタール司令は、高らかに宣言をし船団を出港させる。船体のマストに大きな帆が張られ、両舷から人力のオールが飛び出し、機動を開始した。

 

「オール漕げ!根性見せろ!!」

 

 オールを漕ぐ水兵たちに鼓舞を入れ、それに応えるかのように船は前に進む。

 バクタール司令は、少し沖合に出たところで海上を見回す。今のところ、アガルタ魔法船団が出港したのに対応できているタグボートは居ないようであり、港湾管理局の妨害をすり抜けたようだ。

 

「いいぞ、このまま沖合へ──」

「右舷より、タグボート接近!」

「なにっ!?」

 

 少し離れた場所、それも追撃に参加しない第二文明圏エリアに浮かぶ小島から、タグボートが急速に接近してきた。

 どうやらこちらの動向に備え、小島の陰に隠れていた様である。バクタール司令がそれを見つけた途端には、船団との距離が500m以内に狭まっている。

 

「くそっ、全速いっぱい!」

「魔導船に速度で勝てるか!左に転舵し艦尾を向けろ!!」

 

 バクタール司令の言葉を受け、船員たちが少しでも敵の妨害の効力を削ごうと、タグボートに艦尾を向ける機動を取る。

 船が左に転舵しようとし、船が反作用で大きく傾く。しかし小型ながらに魔導エンジンを搭載したタグボートに対して、その機動力はあまりにも遅すぎた。

 

「避けられません!来ます!」

「衝撃に備えっ!!」

 

 まるで魚雷艇の如きスピードで接近してきたタグボートは、そのまま魔法船団の旗艦の舷側に接触。船体が大きく揺れ、衝撃に備えられなかった水兵たちが船内を転がる。

 タグボートのタイヤが衝撃を和らげたため、船団旗艦の損傷は軽微であったが、そのまま力強い馬力で湾内の方向へ押し出される。

 

「湾内に押し戻されます!」

「なんとかしろっ!!」

 

 いきなりなんとかしろと言われても、魔導エンジンも機械動力もないただの帆船では、一万トン以上の船すら押し出すタグボートには全く対抗できやしない。

 他国の港であるが故に攻撃を行うことも躊躇われ、魔法船団はそのまま湾内に押し戻されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

港町カルトアルパス リーム王国艦隊

 

 一方で第三文明圏のエリアでは、やる気のないスローペースで戦闘体制に移行する〈グレート・アトラスター〉に代わり、リーム王国の艦隊が先に出港した。

 リーム王国海軍が派遣したのは、国産の装甲戦列艦一隻とフリゲート艦四隻のみであるが、今のところ出港チャンスを掴んだのは彼らだけであった。

 

「司令官殿、もっと速度を上げるのです!悪逆非道なニホンの艦隊を、このまま逃がしてはなりません!」

 

 リーム王国王政府から派遣された政治将校のカルマは、ゆっくりと前進しながら湾内を進む事を選択した司令官と艦長に対して、矢の催促を押す。

 

「そこまで焦らずとも、まだニホン艦隊には追いつける距離にありますよ」

「本艦は安全に航行しておりますゆえ、速度を見誤って岸壁に衝突するなどというヘマの方を警戒するべきです」

 

 素早く状況把握を行いタイミングを見計らう司令官に対して、カルマはそれでもこの好機を逃すまいと、催促を続ける。

 

「我らは機械動力船ではありませんか!こんな狭い湾内でも自由に移動できるはずですよね!?」

 

 リーム王国が会議に送り込んだ五隻の艦隊は、外輪式の推進機関を搭載した機械動力船だ。

 その装甲戦列艦の威容は、マキカライヒ共同体などが持つ同種の兵器に比べても、やはり旧世代感が否めない。それもそのはず、リーム王国の海軍はグラ・バルカス帝国の恩恵を受けていないがために、これで我慢するしかなかったのだ。

 リーム王国は、パーパルディアに対する一連の戦争の中で、頼まれてもいないのにパーパルディアの工業都市デュロへ軍事侵攻を開始。

 敵国とはいえ、なんの取り決めも無しに勝手に占領するという行為を行い、グラ・バルカス帝国の不服を買ってしまった。結果、彼の国から経済制裁を受けた。

 そのためグラ・バルカス帝国から流されるはずだった旧式の艦艇すらも譲渡してもらえず、それでも工業都市を占領したことと、帝国から安物のエンジンを手に入れたことにより、なんとか国産で装甲戦列艦を建造することはできていた。

 だがそれ以上の発展は見込めず、結局リーム単体では頭打ちに。現在リームの王政府は、グラ・バルカスとの関係改善に向けて様々な外交工作を行っている。

 

「港にあるのは岸壁だけではありません、暗礁に乗り上げないように気をつけております」

 

 司令官はそれでもなお催促を行うカルマに対し、適当にはぐらかすことでその意見を一時的に封じた。

 司令官と艦長も、この日本艦隊追撃には乗り気でなかった。彼らも同じ海軍軍人として思うところがあり、日本艦隊に不意打ち攻撃を仕掛けるのを嫌っていた。

 

「左舷10時方向!タグボートが二隻接近!!」

 

 その時、予備マストの見張り台から見下ろしていた船員が、大きく叫んで危険を知らせる。その方向に向けて司令官、艦長、カルマの三人の視線が集まる。

 報告の通り、リーム艦隊の出港を確認したタグボート部隊が、島の陰から急速に接近していた。このままでは、また港に押し戻される。

 

「司令官殿!タグボートに攻撃の準備を!」

「は、はぁ!?」

 

 いきなり何を言い出したか、カルマは司令官に対してタグボートを攻撃するよう叫んだ。

 他国の港で発砲してタグボートを破壊しようとするとは、こいつは気が狂っているのかと艦長は思い、強く反論する。

 

「ここはカルトアルパスですよ!妨害を受けているとはいえ、ここで発砲すれば……」

「司令官殿、艦長殿!私の意見は王政府の意思そのものだと、理解していただきたい!」

「っ……」

 

 ステレオタイプな政治将校らしい、立場にモノを言わせた命令を受け、階級が下のはずの艦長ですら萎縮する。

 その様子を見て、司令官も腹を括ったのか、その艦長に命令を下す。

 

「撃ち方用意……」

「司令!」

「命令だ艦長、タグボートに砲弾を撃ち込め!」

「は、はっ!!」

 

 司令官からの命令を受け、「装填用意!」と艦長は叫ぶ。それを合図に、困惑していた船員たちは即座に弾かれ動き出し、側面に取り付けられた魔導砲の装填作業を行う。

 ものの数十秒で装填が終わり、戦列艦は持てる火砲の半分を、二隻のタグボートに向ける。

 

「装填完了!」

「……撃ち方、始め!」

「撃てっ!!」

 

 艦長が発砲を命令。

 すると魔導砲に繋がる紐が引かれ、雷管が砲弾の尾部を貫き、炸薬に火がついた。点火された魔石火薬により、大砲から砲弾が放たれる。

 至近距離から放たれた砲弾は、まず左舷10時方向から近づこうとしていたタグボートに命中。

 装甲材を一切使用していない、純粋な民間船であるタグボートは、命中した船上部が粉々に粉砕され、操縦手は即死。魔導エンジンにも被弾し炎上、港湾管理局の旗にも燃え移り、タグボートは沈黙した。

 

「ハッ、命中だ!」

「続いて後部魔導砲群、射撃準備!」

 

 タグボートに嘲笑を送るカルマを無視し、艦長は次の射撃の指示を出す。流石にもう一隻のタグボートの方も、リーム艦隊が反撃してくるとは思っていなかった為、慌てて進路を変更し引き返そうとする。

 

「二発目、撃てっ!」

 

 だがそんなタグボートを逃さまいと、まだ有効射程圏内にいるうちに発砲。

 距離の関係で砲弾は多少散らばってしまったが、それでも散布界の中にいたタグボートは、先ほどと同じように被弾、粉々に粉砕された。

 

「タグボート、全隻沈黙しました!!」

「ざまあみろ!さあ、このまま全速で沖合に繰り出すぞ!」

「っ…………」

 

 あまりに常軌を逸脱したカルマの興奮様に、艦長と司令官は戦慄を覚えた。

 しかしカルマの命令のおかげもあり、リーム艦隊は日本艦隊を追尾できる進路を取ることに成功した。

 

「このままニホン艦隊に差し込め!」

 

 カルマは港湾管理局の人員を殺した命令を出してもなお、相当気が上がりきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

港町カルトアルパス沖合 海上自衛隊第1護衛隊

 

 一方の海上自衛隊、第1護衛隊の各艦は急いでカルトアルパスから脱出しようとしていた。

 外交官の近藤から事情を聞き、危険を察知した日高一佐が脱出を進言し、秋山海将補はそれに賛同した。

 

「まだ沖合には出られんのか……」

 

 焦る秋山海将補だが、沖合に出るまでは速度を緩めなければならない。

 既に他の護衛艦は沖合に出ることに成功しているが、最後に〈やまと〉が脱出する必要があった。

 

「本艦は大型すぎるが故、タグボートも大勢必要です。あと数分は必要かと」

「まずいな……」

 

 艦長の日高一佐が、護衛艦〈やまと〉が脱出に手間取っている状況を伝える。

 今は友好的なタグボートの手助けを借り、左右から押してもらって脱出しようとしているが、やまと型護衛艦は船体幅が大きすぎて、狭い港町からはなかなか脱出できない。

 海峡などの狭い海域での運用を想定していない、大型艦特有の問題であった。

 

「……後方でタグボート二隻が沈黙しました、リーム艦隊の仕業です」

「っ…………」

 

 しかも、なぜかそのタグボートを攻撃して突破してきた各国の艦隊が、こちらに接近してきているのがレーダー上で見て取れる。

 もしかしたら会議を抜け出したことで、各国の不服を買ったのかもしれない。こんな不条理な世界であるから、そんな不意打ち紛いの攻撃も想定される。状況はかつてないほど危機的だった。

 

「海将補、ここはリーム艦隊に対して反撃を……」

「ダメだ、それは許可できん」

 

 この状況を正当防衛ととらえ、反撃を進言する日高一佐であったが、秋山海将補はそれを拒否した。

 

「我々の心証が最悪な中、こちらから攻撃を仕掛けてみろ。俺たちは正真正銘、"新世界の敵"になるぞ」

「しかし……」

「自衛は許可できん、敵艦の撃沈もだ。今は脱出に集中しろ」

「はっ……」

 

 日高一佐はあまり納得していない様子であったが、命令とあらばそれに従った。

 だが脱出に手間取っている以上、危険に晒されている状況は変わらない。そしてその時、レーダーを監視していた隊員が状況の変化に声を上げた。

 

「リーム艦隊、速度上昇!こちらに急速に接近中!!」

「っ……!」

 

 レーダーの画面上に、リーム艦隊の識別アイコンが急速に接近してくる。速力15ノット程とはいえ、この狭い湾内だ、すぐに射程圏内に接近される。

 外交官の近藤によると、リームは日本に対して相当好戦的な発言をしたという。ならば実戦の場で、敵対する第1護衛隊を攻撃しないという保証はない。

 

「海将補!」

「ダメだ、こちらからは撃つな!」

 

 こちらからは撃てない以上、脱出を早めるしかない。だが沖合ならば引き離せるであろう外輪船ですら、今の身動きが取れない〈やまと〉には脅威であった。

 

「リーム艦隊、1.5kmに接近!」

「総員、衝撃に備え!」

「衝撃に備え!!」

 

 脱出が間に合わないことを悟った秋山海将補は、船員に対して即座に対ショック姿勢を取らせる。CICの乗員は手すりに掴まり、手空きの隊員たちは廊下の障害物に掴まった。

 その数秒後、リーム艦隊の戦列艦から砲撃が放たれた。旧式の魔導砲から放たれた炸裂弾が、〈やまと〉の上部構造物に向かって放物線を描いて飛翔、そのほとんどが命中した。

 わずかな揺れとともに、炸裂弾が装甲板の表面で破裂する。砲弾のほとんどは傾斜装甲により弾かれるように滑り、明後日の方向に飛んでいく。

 衝撃からしばし経った後、ほとんど揺れなかった〈やまと〉の隊員たちは状況を確認する。

 

「……撃たれたか?」

「被害報告!」

 

 日高一佐が叫ぶと、ダメコンを担当する班の隊員が報告を行う。

 

『右舷上部構造物、及び司令塔に多数被弾!されど装甲板に弾かれ、損害は確認されず!』

『乗員にも負傷者はいません、航行に支障なし!』

 

 その報告を受け、CICの乗員たちは安堵する。

 

「(やまと型の防御性能に助けられたか)」

 

 秋山海将補は緊張から解き放たれた心うちの中で、やまと型護衛艦の防御性能に感謝する。

 やまと型は新世界の海軍に対して一騎当千を求められた結果、戦列艦の砲撃くらいなら完璧に弾く程度の防御力を有している。

 これが同格の戦艦だったり、被弾したのが通常の護衛艦だったりしたら危なかったが。

 日高一佐も同じ考えであるのか、顔を見合わせ艦の性能に感謝。すぐさま気持ちを切り替え、日高一佐は脱出のために命令を下す。

 

「二発目撃ってくるぞ!脱出の用意を──」

「艦長!周りのタグボートが!!」

 

 レーダーを見張っている隊員が叫ぶのを聞き、秋山海将補と日高一佐は、その画面の方向に振り向く。

 

「タグボート、リーム艦隊に向かって突撃しています!」

「どういう事だ!?」

 

 レーダー画面を見れば、〈やまと〉を港の出口付近にまで押し出した後、タグボートが自ら離れていっている。

 そして先ほど砲弾を打ち込んできたリーム艦隊に対して、自ら突撃を仕掛けにいっている。

 

「あいつら、死ぬつもりか!?」

「港湾管理局より、平文が送られています……」

 

 通信が小さく言葉を言うのを聞き、その平文の内容を画面に表示する。その平文は港湾管理局から護衛隊に送られてきたものであり、内容はこうだった。

 

『ニホン艦隊旗艦〈ヤマト〉へ、先に行かれたし。その強かな戦艦魂に敬意を表し、我々も後に続く』

 

 短い文書の最後には、こう書かれていた。

 

『艦隊の航海の安全に、幸が在らんことを』

 

 秋山も日高も、その平文を見て言葉を失った。つまり港湾管理局の職員は、自らを犠牲にしてでも自分たちを沖合に送り出すつもりだったのだ。

 船乗りとしての敬意ある行動に、隊員たちは涙が出そうになる。

 

「っ……!」

「海将補……」

「日高一佐、出港だ!機関全速で出口へ向かえ!」

「はっ、機関全速!!」

 

 だがその勇気ある行動に感動している暇はない。日高一佐の命令により〈やまと〉の主機関が始動、スクリューが高速で回転を始める。

 しばらく経つと、〈やまと〉は艦隊機動が行えるような沖合にまで出ることができた。勇敢なタグボートに敬意を表し、秋山海将補と日高一佐は、わざわざ艦橋にまで上がって敬礼を行った。

 リーム艦隊に突撃したタグボートは、戦列艦の砲撃により全滅し、浅い海の底に沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

港町カルトアルパス 港湾管理局

 

 その頃、カルトアルパスの港湾管理局の抵抗は、挫かれつつあった。港湾局の通信機からは、タグボートに乗る船乗りたちの叫びが聞こえる。

 

『くそぉっ、てめぇらなんかにこの港町を好きにされてたまるかよ!』

『街は戦場にしないぞ!撃つなら俺を──ザサッ!』

『このやろぉぉぉ!港から出してたまるか──ドゴォッ!!』

 

 勇敢なタグボートたちの最後の言葉が、魔導通信越しにひっきりなしに聞こえていた。

 日本艦隊を追撃する各国の艦隊は、リーム艦隊の発砲を見習い、タグボートに対して容姿なく発砲を始めている。

 こうなれば、船に武器を装備していないタグボートに勝ち目はなかった。そして数が減ったタグボートの合間を縫い、ニホン艦隊を追いかけるように各国の艦隊が出港してしまっている。

 

「港湾長……もう、これ以上は抵抗できません」

「ここまでか……」

 

 港湾管理局のブロントは、やれることは全てやり切ったとは言え、タグボートの乗員が次々と死んでいく現状に深い悲しみを抱く。

 

「ニホン艦隊は、既に沖合に送り出されています。我々の勝利です、船乗りの勤めを果たせました」

「ああ……俺が後悔しちゃいけないな」

 

 船員や職員らが賛同してくれたとはいえ、そもそもの言い出しっぺはブロントなのだ。ブロントは誰よりも重大な責任を取るべき、港湾長という立場にある。全ての責任は、彼にあった。

 

「バリケードを退けろ!開けるんだ!」

「ブロント港湾管理局局長!貴様にはスパイ容疑が掛けられている!これは重大な反逆罪だぞ!!」

 

 既に管理局の一階は制圧され、ミリシアルの憲兵隊がドカドカと二階に押し寄せている。今のところ扉前のバリゲートで防いでいるが、それも憲兵隊が実力行使に出た途端、破綻する。

 

「もういい。目的は達成した、開けてやれ」

 

 扉を押さえていた職員が、バリケードから離れる。すると即座に憲兵隊が扉を蹴破り、職員らに対して銃を向けた。

 

「ブロント港湾管理局局長、並びにここにいる全職員を、スパイ容疑で拘束する!」

「……好きにしろ、街を巻き込むテロリスト共が」

 

 最後にブロントが言い放った言葉は、憲兵隊の心を動かすことはなく、彼らはそのまま手錠をかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

マグドラ沖 800km地点

 

 戦闘が起こっているカルトアルパス、並びにフォーク海峡の海域から800kmほど遠く離れた地点。

 穏やかな波風が漂い、波もそこまで高くなく、風だけがちょうどよく吹き流れる大海原の最中に、数隻の護衛艦で構成される艦隊が航行していた。

 そのうち数隻は通常のミサイル護衛艦と汎用護衛艦で構成され、その中央に陣取るように平甲板型の大型艦が二隻航行している。それらは軍事に疎い一般人が見れば、両方とも空母だと認識するであろう造形だ。

 だが片方は厳密に言うとヘリコプター空母と呼ばれる、いずも型護衛艦の一番艦〈いずも〉である。元々はカルトアルパスに派遣された第1護衛隊の艦艇の一隻であったが、途中で分派されてこの海域にいる。

 〈いずも〉にはヘリコプターしか搭載されていないが、もう片方は違った。

 〈いずも〉より一回り大きい船体に、固定翼機が多数、甲板上に並べられている。甲板の上では発艦作業員がひっきりなしに動き回り、艦載機に武装を取り付けていた。

 

 ふそう型航空護衛艦、一番艦〈ふそう〉。

 

 自衛隊が誕生してから数十年、転移現象により念願の航空母艦の保有が叶った海上自衛隊が建造した、純粋な正規航空母艦だ。

 艦載機には転移後に在日米軍のものをリバースエンジニアリングしたF/A-18E/Fを多数搭載し、その攻撃能力は地球における同規模の中型空母と比べても遜色ない。

 この空母の登場により、海自は長年の悲願だった自前の航空戦力の保有と、遠征に必要な長距離打撃能力を手に入れたのだ。

 

 その〈ふそう〉は、このカルトアルパス事件にて実戦を経験することとなる。

 

 追撃を受けている第1護衛隊の脱出を援護するべく、〈ふそう〉の甲板からF/A-18Eが電磁カタパルトに弾かれ、甲板から発艦。

 そのままエンジン全開で上空へ飛び上がり、先に上がっていた隊長機に続いて編隊を組む。その間に他の機体も、電磁カタパルトを用いて次々と上空へ飛び上がる。

 飛行隊の18機全員が上空で整列し、一糸乱れぬ戦闘機動で旋回。

 そのまま一路、カルトアルパスへ向かった。

 




改めて見ると今回の話、エモールがトチ狂ってるな……
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