新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

33 / 58
お久しぶりです。
今回もまた一か月近く空いてしまいましたが、ここからまた再開したいと思います。

それから感想返信ですが、さすがに二話合わせて百件近い感想を捌き切る余裕はとてもありませんので……しばらく感想返信は休止させていただきたいです。
誠に申し訳ありませんが、よろしくお願いします。


第三十一話『カルトアルパス脱出戦2』

事件発生から20分

カルトアルパス上空 第7制空航空団

 

 カルトアルパス上空の高度5000mにて、上空旋回を行う三個の飛行隊がいた。

 彼らはカルトアルパスを守護する拠点防空軍第7制空航空団所属の飛行隊だ。三個飛行隊で『エルペシオⅢ』を合計42機装備しており、首都防空軍であるため練度も非常に高い。

 そして今回、彼らは日本艦隊追撃における上空制圧のため、飛行場から緊急出撃をした。素早く上昇し、逃走する日本艦隊を取り囲むように三つの飛行隊に分かれ、編隊を組んで上空を制圧する。

 

「こちら第77飛行隊、現在高度5000、速度270ノット、ニホン艦隊の上空に展開完了」

『了解。第77飛行隊はその場で待機せよ。これより攻撃隊が対艦攻撃を仕掛ける』

「了解、このまま待機する」

 

 第77飛行隊の隊長を務めるシルベスタ少佐は、制空隊の整列が完了したことを管制に伝える。

 それを確認した管制は、今度は『ジグラントⅡ』を装備した別の飛行隊を、日本艦隊に対して突入させる。

 ジグラントⅡの編隊は稼いだ高度から一気に降下し、海峡を進む日本艦隊に向かって速度を上げ、攻撃体制に入った。

 

「さて、ニホン艦隊のお手並み拝見と行きますか」

 

 今のところ目立った対空砲火は見られないが、日本の事だ、何か隠し球があるに違いない。

 と、そんなことを考えながら周囲を警戒していると、シルベスタはあることに気が付いた。自ら参加すると言っていたエモールの風竜部隊が、この場に居なかった。

 

「……管制、こちら第77飛行隊。エモールの奴らは何処にいる?」

『……こちら管制、エモール風竜部隊でトラブル発生。そちらには行けないとのこと』

「何をやってんだ……アイツらは」

 

 シルベスタの不満を他所に、攻撃隊は日本艦隊へ向けて突入していく。上空5000mから緩やかに降下し、日本艦隊の上空へ迫る。

 

 一方、ジグラントⅡを装備したオメガ少佐の第72攻撃隊は、日本艦隊への危険な一番槍を任されていた。

 普段ならばマグドラ沖の島嶼部に配備されている第72飛行隊だが、今回の会議で日本の動向を警戒するべく、一時的に配置転換を受けていた。その結果、まさか本当に戦闘になるとは思わなかったが。

 それに任務の難易度も高い。敵艦の性能が分からない、未知の相手への攻撃。しかも、撃沈ではなく無力化しろとの事で、その難易度は通常任務とはけた違いだった。

 

「ニホン艦隊への一番槍は俺たちがもらう」

 

 だがそれでも、隊長のオメガはこの任務に高揚していた。見ればわかる、相手の武装はあまりにも少ない、貧弱な船だった。無力化とは一見難しそうに見えるが、相手がこんなに貧弱ならば、こんなに簡単な任務はない。

 日本艦隊の多くの船は、主砲が一門の上、対空機銃も前後の二基程度しかない。頼みの綱の戦艦が気がかりだが、デカい割りに対空兵装は少なそうだった。

 航空機では戦艦は撃沈できないと言われているが、こんな貧弱な艦隊が相手ならば、戦果を上げられそうだ。それがオメガには楽しくて仕方ない。

 

「全機、降下せよ!!」

 

 オメガの宣言を受け、飛行隊は緩やかな降下から急速な降下に切り替え、突入を開始した。

 ジグラントⅡのダイブブレーキを展開し、日本艦隊に向けて急降下。上空4000mから攻撃を仕掛ける。

 その時、シルベスタの鋭い視力が日本艦隊からなにかの噴煙を確認した。主砲の射撃ではなく、艦中央からの噴煙だ。

 

「ん、なんだ?」

 

 それは、第1護衛隊が目標に向けて放ったESSMだった。それは上空に飛び上がると、まるで意思を持っているかのように方向を変え、オメガの隊へ向かっていく。

 

「バカなっ、誘導魔光弾だと!?」

 

 オメガがその光の矢を確認したその数秒後、隣を飛んでいた僚機のジグラントⅡが爆散した。完全なる直撃、命中する直前に矢が自爆したのも、オメガには見えてしまった。

 

「なっ……!」

 

 その爆発により、オメガの信頼できる部下だったパイロットは爆散し、脱出する間も無く破砕された。

 今度はその隣の機体が、次は左側の機体が、次々と落とされていく。

 とっさに回避運動をしようとした機体にも、矢が近づいただけで炸裂し、ジグラントⅡが爆散してしまった。

 

「(なんだこれは!?近づくだけで炸裂するのか!!)」

 

 その矢の正確性たるや、まるで散弾で鴨撃ちにされているような感覚だった。狩る側のはずの天の浮舟が、狩られる側のはずの日本艦隊に反撃され、滅多打ちにされている。かの忌まわしき誘導魔光弾で。

 その現実を受け止める前に、オメガは事態を察して命令を下す。

 

「ま、まずい!!全機、攻撃中止だ!引き返せ!!」

 

 あまりに猛烈な対空砲火を受け、オメガは叫んだ。

 攻撃態勢に入っていたジグラントⅡは、懸下された対艦爆弾を捨てて一気に上昇を図る。しかし、ジグラントⅡは引き起こしが早いとはいえ、上昇の性能はかなりキツイものがあった。

 

「あがれあがれあがれ!!」

 

 呪文のように言葉を唱えながら、懸命に機体を引き起こす。

 機体のエンジンも最大出力で加速しようとするも、ジグラントⅡは重く鈍く、すぐには上昇できない。その間にも、僚機が次々と落とされてしまう。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 強烈なGが体にのしかかり、上昇し終わるころには息が上がっていた。

 何とか上昇し、敵艦から離れたころ、オメガは周囲を見渡す。

 

「な、なんだと……こんなにやられたのか!?」

 

 上空に上がったころには、オメガの部隊は4機も残っていなかった。

 ほとんどの機体は撃ち落とされ、海上にその破片が散らばっていた。

 

「クソッ、これ以上は無理か……撤退だ!」

 

 戦友や部下たちが撃墜されたことに悔しさを感じながらも、オメガはこれ以上の攻撃は無意味だと、撤退を決断する。それはある意味英断だったと言えるだろう。

 

「オメガの隊が壊滅だと……?しかもあれは……!」

 

 一方のシルベスタも、日本艦隊の対空能力の高さに警戒度を高めていた。シルベスタからも、誘導魔光弾の軌跡がハッキリと見えていたからだ。

 

「くそっ、全機高度を3000まで降下!敵艦隊から距離を取れ、さもなくば撃たれるぞ!」

 

 他の部隊も警戒度を上げており、残りの攻撃隊は撤退し、制空隊も距離を取る。シルベスタはその警戒度を受け、味方を安全な空域に退避させる。

 これもまた、彼らにとっては英断だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

エモール王国 風竜部隊

 

 一方のエモール自慢の風竜部隊は、ミリシアルが命を張って戦っているにもかかわらず、戦闘に参加できないでいた。理由は、風竜が戦闘を拒否しているからだった。

 

『やめろ!ワシは行きとうない!あんな眩しいのと戦うのは無理だ!!』

「眩しいなんて知らねえよ!さっさと行けよ!世界の敵だぞ!!」

『知らぬ!アイツに近づいたら墜落してしまう!!それは嫌だ!!』

 

 風竜は感覚が鋭く、レーダーにも似た感覚器官を持っている。

 そのため日本艦隊から発せられる強力なレーダー波に惑わされ、攻撃を嫌がっていたのだ。実際、風竜の三半規管はイージス艦のレーダで惑わされ、平衡感覚を失う可能性もあるため、嫌悪感を覚えるのもあり得なくはなかった。

 竜人族の竜騎士が説得をしようとしているが、彼らは全くいう事を聞かなかった。

 

「報告!ミリシアル航空隊が攻撃に失敗し、撤退している模様!!」

「なにっ、撃退されたのか!?」

『ほれ見ろ、言ったことか!あんなのと戦うなんて無謀だ!!』

 

 風竜が言う事を聞かないことで、エモールは日本艦隊追撃の言い出しっぺにも関わらず、戦闘に参加できない状態となった。

 これにより、エモールは世界各国に醜態をさらすことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

ミリシアル地方艦隊

 

 一方の臨時連合艦隊、ミリシアルのカルトアルパス地方艦隊は、日本艦隊に向けて配下の巡洋艦を差し向けていた。艦隊は加速していき、速力33ノットにまで加速、日本艦隊より速度は優勢だった。

 だがしかし、そんな有利な状況にあるはずの臨時連合艦隊は、航空隊の状況を見て驚愕した。絶対の自信をもってぶつけたはずの攻撃隊が、日本艦隊から謎の噴煙が飛び出したかと思うと、瞬く間に数十機が撃墜されたのだ。

 

「司令……今のは……」

「ああ、光の矢が目標に向かっていた。あんな兵器は、この世に一つしかない……!」

「まさか、誘導魔光弾……!?」

 

 誘導魔光弾とは、かの古の魔法帝国が実用化したとされる超兵器の事だ。

 自ら意思を以って突き進む誘導魔法と、絶大な破壊力を持つ光弾の組み合わせであり、その使用には絶大な魔力と技術力が必要となる。

 その魔光弾を、日本はさも平然と使用して見せた。ぽっと出の転移国家で、弱小国であるにもかかわらず、だ。

 

「しかし、誘導魔光弾は魔法帝国の技術です!我が軍でも最近になってやっと劣化型が……」

「俺だって信じられない。だが、自ら正体を明かしたということは……やはりニホンは確信犯だ!」

 

 転移国家で弱小国の日本が、魔光弾などそう簡単に使えるはずがない。

 そう、ならば日本は魔法帝国からその技術を供与してもらっている可能性が高い。つまり、これで日本が魔法帝国の尖兵であることが証明されてしまった。……無論、彼らの中だけの話であるが。

 だが確証を得たパテス司令は、日本艦隊を明確に世界の敵だと認識。マイクを手に取り、連合艦隊の全艦へ通信を繋いだ。

 

『連合艦隊の全艦に告げる。今見ての通り、ニホン艦隊は誘導魔光弾を使用した。かの魔法帝国が実用化したと言われる、あの忌まわしき兵器をだ!』

 

 パテスはあまりこういうのは得意ではないが、今回ばかりはそうも言っていられず、誘導魔光弾の出現に混乱する世界連合艦隊を鼓舞し続ける。

 

『これにより、ニホンは魔法帝国の尖兵だという事が証明された!奴らは確信犯だった!ニホン艦隊を逃すな、ここで逃せば世界は再び闇に包まれるであろう!各員、世界の平和のため奮闘せよ!!』

『うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

 臨時とはいえ、司令官の言葉を受けた世界連合艦隊の士気は、天上を貫くかの如くずば抜けたように上がっていった。

 自分たちが正義だ、ニホンが悪だとすることで、彼らに使命感を与えることに成功した。これで一応、世界連合艦隊が瓦解することはないだろう。

 

「司令、どうしますか?」

「どうもこうも、作戦に変更はない。このまま奴らを撃破し拿捕する」

「しかし……誘導魔光弾で我々が反撃を受ける可能性も……」

「問題ない。見たところ奴らは甘い、俺たちを撃沈するつもりはないらしい」

 

 古の魔法帝国の文献によると、誘導魔光弾には対水上艦用のモデルもあるらしい。

 おそらく射程に入っているにも関わらず、それを撃ち込んで来ない事を考えると、パテスは日本艦隊に甘さがあると見抜いていた。

 

「砲撃を開始するぞ。空がダメなら、水上から砲弾を撃ち込んでやれ」

「はっ!砲術、弾種徹甲装填!ニホン艦隊を捕捉し次第、砲撃を開始せよ!!」

 

 パテスの言葉を受け、ニウム艦長は砲術に対して的確な指示を出す。慌ただしくなる艦橋で、パテスは水平線上に微かに見える日本艦隊を睨んだ。

 

「……恨むなよ、この世界は不条理で出来ている。甘いやつは破滅するだけだ」

 

 旧属領出身で、軍内でもかなり不当な扱いを受けた経験のあるパテスはそう言う。それはこれから攻撃を受ける日本艦隊に対しての言葉か、もしくは自分への戒めか。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

港町カルトアルパス沖合 海上自衛隊第1護衛隊

 

 勇敢な港湾局の仕事により、カルトアルパスの湾内から出航した海上自衛隊の第1護衛隊に、一瞬だけ安堵の息が流れた。

 艦隊は航空攻撃に対して見事無傷で凌ぎ切っており、ミサイルでの戦果により敵航空隊は撤退して行った。

 

「敵航空機、撤退していきます」

「何とか凌いだか……」

 

 航空機の攻撃は凌いだが、第1護衛隊は速度をそのままに、戦闘隊形を解かなかった。まだ水上に敵艦隊が迫っているので、警戒を解くことができないのだ。

 相手はおよそ33ノットで接近してくるため、30ノットまでしか出せない第1護衛隊は敵巡洋艦に追いつかれそうだった。射程圏内に入られれば、直接水上砲撃を受けることになる。

 

「敵巡洋艦、さらに加速!距離24000!」

「司令、水上からも来ます。背を向けて逃げなければならない都合上、やまと型以下全ての護衛艦が発砲できません。我々は一方的な砲撃に晒されます」

「分かっている……」

 

 護衛隊の中で最有戦力であるやまと型大型護衛艦は、主砲の前方集中配置の特性上、真後ろに対して砲撃ができない構造上の弱点があった。

 現代艦である以上、後部にヘリコプター甲板を設ける事が絶対条件であった為に仕方ない事なのであるが、このようなシュチュエーションでは致命的な欠陥である。

 だが秋山海将補は、このような事態になっても反撃の許可を出さなかった。それは日本が置かれた政治的な危うい立場が、反撃を躊躇させていたのだ。

 

「司令、やはりミサイルで敵艦を撃沈する許可を……」

「撃沈は……ダメだ。我々が反撃をして撃沈すれば、あいつらは余計に付け上がって攻撃的になる」

「それはそうですが……もう既に航空機は撃墜しました。敵艦を撃沈しても、問題ないのでは?」

「命令は命令だ、この世界の世論を考えろ。反撃は最小限に、砲弾に対する警戒を続けるんだ」

 

 焦る日高一佐が反撃の許可を求めるものの、秋山海将補の意思は固かった。

 先ほど港湾局の職員に助けられたことも影響しているのだろう、非道な不意打ちをされてもなお、秋山海将補は相手への反撃は最小限に努めていた。

 

『見張りよりCIC!巡洋艦の主砲がこちらに指向されてます!』

「これでも見逃してくれないか……迎撃用意!」

「了解!対空戦闘用意!」

 

 いよいよ敵巡洋艦の射程圏内に入ったのか、ミリシアルの巡洋艦が第1護衛隊に向けて主砲を照準した。

 

「巡洋艦Aが発砲!弾数6、命中コースにあらず!」

「流石に1回目では合わせられんか」

 

 だがその次、さらにその次と敵巡洋艦は発砲を続ける。

 各艦のデータリンクもなく、砲術士が手作業で数値を合わせているぎこちない砲撃であるが、流石に中口径なだけあって連射力が高い。

 各艦が数発の砲弾を発射し、ついにその時が訪れた。

 

「巡洋艦Bより第5斉射を確認!2発が命中コース!」

「来たぞ……迎撃開始!」

 

 流石に5回目になって調子が出てきたのか、2発が命中コースとなった。

 秋山海将補は対応し、迎撃を命じた。各護衛艦が対空戦闘に突入し、近距離用のESSMを準備。この対空ミサイルの能力なら、命中コースにある砲弾だけを撃ち落とせる。

 

「目標捕捉。ESSM発射、サルヴォー!」

「ESSM、発射、発射!」

 

 敵艦が斉射を浴びせると同時に、ESSMを発射。護衛艦〈あたご〉と護衛艦〈あさひ〉のVLSから、ミサイルの噴煙が放たれる。それはそのまま上昇し、光の矢となって砲弾の迎撃に向かう。

 手数が多い主砲弾であったとしても、距離が開いている限り、護衛艦の能力で迎撃可能なはずだ。その期待通り、ESSMは命中コースの敵砲弾と交差する。

 

「マーク、インターセプト!」

 

 数秒と経たずして、ESSMが目標の砲弾に着弾する。命中コースに沿っていた二発の砲弾が空中で破砕され、爆発を起こした。

 

「目標撃墜!本艦への脅威を排除!」

 

 その報告を受け、隊員たちはひとまず一撃を防いだと安心した。

 だが油断はできない、その間にも他の巡洋艦から砲撃が相次ぎ、対応に追われる。

 

「続いて巡洋艦AとCより第6斉射を確認!3発が命中コース!」

「……奴らめ、手数を変えてきたな。ESSMで引き続き迎撃を!」

 

 もちろんこの時、誘導魔光弾で砲弾を撃墜されたことで地方艦隊は一時混乱していた。

 しかし、パテス司令はすぐさま混乱を収束させ、戦法を変えてきた。地方艦隊の全艦で砲撃データを共有することを命令したのである。

 これは所謂人力データリンクであり、旗艦が割り出した諸元を各艦で入力し、共有するものである。

 もちろん全機械式には計算速度で敵わないし、精度だって完璧じゃない。そもそもこのような射撃統制は正規艦隊の訓練に盛り込まれている項目で、地方艦隊でやるには練度不足が否めなかった。

 だが、それでもカルトアルパス地方艦隊は気合でそれをやってのけ、何隻かの同型艦同士で諸元を共有することに成功していたのである。

 

「マークインターセプト!……迎撃成功!」

「このまま凌げるか?行けるか?」

「……航空隊到着まで、あと10分」

 

 厳しい状況であるが、なんとか脱出に漕ぎ着けそうな状況を見て、秋山海将補は冷や汗を流す。

 日高一佐はあらかじめセットした腕時計を確認しつつ、その時を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

グラ・バルカス帝国 戦艦〈グレード・アトラスター〉

 

 一方のグラ・バルカス帝国海軍、戦艦〈グレード・アトラスター〉の艦内では、すでに砲撃準備が整っていた。

 艦内は戦闘配置となり、主砲も砲弾が装填され、発射する準備が整っていた。相変わらずまだ出港はできないが。

 

「艦長、砲撃指示来ました」

「分かった。やるしかないか……」

 

 そのすぐ後、ミリシアルのカルトアルパス地方艦隊から通信が入り、座標と共に砲撃諸元が送られてきた。要は援護してくれというわけである。

 

「全艦に通達する!これより二ホン艦隊に対し、主砲による攻撃を行う!」

 

 艦長のラクスタル大佐が指示を飛ばす。

 相変わらず〈グレード・アトラスター〉の炉に火は入っていないので、出港することなく湾内から主砲戦を行うことになっている。

 

メイル(砲術長)、主砲射撃用意。弾種榴弾」

「了か……待って下さい。徹甲弾ではなく榴弾ですか?」

「そうだ。榴弾だ」

 

 砲術長は己の耳を疑ったが、ラクスタルの指示は言い間違いではなかった。

 対戦艦用の兵器として貫通力を高めた徹甲弾は、戦艦の分厚い装甲をブチ抜くのに最も効果を発揮する砲弾だ。

 だがラクスタルはその徹甲弾ではなく、地上目標や非装甲目標へ使うはずの榴弾の使用を命じていた。

 榴弾は着弾すると大爆発を起こすので、地上や非装甲の目標などには効果的だが、装甲貫通力は低いので戦艦への攻撃には効果が薄い。

 

「艦長、榴弾ですと敵戦艦の装甲を貫通できないと思いますが……」

「それで良いんだ。言ったろう、今回ばかりは、あまり頑張らなくていいと」

 

 そう言われて砲術長はようやく理解した。

 なるほど、どうやら今の艦長にフネを沈める気はないらしい。職務放棄な気もするが、例え榴弾でも攻撃したという事実に変わりはない。

 ──まぁ、どうせ俺も二ホン人を憎んでる訳じゃないし気が進まない。ここは艦長に賛同しよう。

 ラクスタルの意図を汲んだ砲術長は、頷いて命令を復唱する。

 

「……分かりました。主砲用意、弾種榴弾!」

 

 砲術長が射撃指揮所に指示し、主砲塔がゆっくり旋回する。

 帝国史上最大かつ最強の火砲である45口径46cm砲。威力も射程も絶大だが、二ホンの戦艦は〈グレード・アトラスター〉よりも巨大だし、榴弾なら沈むことはないだろう。

 ラクスタルも砲術長もそう信じて疑わなかった。

 日本の護衛艦が被弾を想定しておらず、装甲が皆無に等しいこと。最も装甲の厚い〈やまと〉でさえ、戦列艦の魔導砲以上の被弾は想定していないことを、彼らは知らなかった。

 

 一方の射撃指揮所では、砲術士らが砲撃戦の用意を進めていた。

 

「榴弾で装甲目標を撃つたァ……艦長も思い切った事をするな……」

 

 ベテラン砲術士のフラグストンは仕事柄、自艦よりも巨大な戦艦を撃つことへの多少のワクワク感と、艦長があまり相手を沈める気がないことに多少の落胆を感じている。

 出来れば正面から正々堂々と戦いたかったが、世界連合が不意打ちまがいのことをしている以上、その望みは叶わないだろう。だから一介の軍人としてその思考を頭の隅に追いやり、着実に職務をこなしていた。

 

「艦長はあまり頑張らなくて良いと言ってきたが……ま、恨みはないしな。少しくらい手は抜いてみるとするか」

 

 フラグストンは艦長の指示通り、少しは手を抜くつもりだった。

 砲術長が目標への照準を命じ、主砲発令所の機械式演算器が弾きだした諸元より照準を整えていく。

 前部砲塔2基が旋回し、6門の46㎝砲が二ホン艦隊への照準を完了する。〈グレード・アトラスター〉は主砲戦の準備を整えた。

 

「目標距離34000!射撃準備よし!」

「よし、発射ァ!!」

 

 耳朶を打つ轟音とともに、6つの砲身が発砲炎を噴き上げる。6発の46㎝榴弾は放物線を描きつつ、二ホン艦隊の元へと飛翔していった。

 だがその軌跡は、寸分違わずニホン艦隊への夾叉だった。

 

 砲術士らは艦長の指示を受け、手を抜いて照準をしたつもりだった。

 しかし帝国海軍でもっとも高い命中率を叩きだすことで知られるフラグストン砲術士を筆頭に、彼らは手を抜いて射撃したつもりが、条件反射的に精密射撃をしてしまっていた。これは完全なる職業病であった。

 正確に照準された6発の46㎝砲弾が二ホン艦隊に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

海上自衛隊第1護衛隊 護衛艦〈やまと〉

 

 巡洋艦からの攻撃を躱しつつ、湾外を目指す第1護衛隊。

 今のところ目立った損傷は見られず、弾薬が足りなくなるような事態にもなっていない。だがレーダーが新たな反応を探知し、彼らをさらに追い詰める。

 

「敵艦発砲!今度は〈グレード・アトラスター〉です!」

「ついに彼らも撃ってきたか……」

 

 戦艦〈グレード・アトラスター〉による発砲は、海上自衛隊第1護衛隊の方でも捉えられていた。

 飛翔する弾体をフェイズドアレイレーダーから放射されたレーダービームが捉え、すぐさま弾道を解析。対砲兵レーダーと同じ要領で発射地点を突き止め、〈グレード・アトラスター〉による射撃と一瞬で判断する。

 それと同時に予測される弾道の解析が行われ、一瞬の間を置いて着弾地点が算出された。

 

「敵弾、本艦を夾叉します!」

「なっ、初弾から夾叉させやがった!」

 

 弾道解析の結果に海自隊員らが驚愕する。

 敵艦から見て自艦より遠くに着弾する弾を遠弾、近くに着弾する弾を近弾といい、自艦が遠弾と近弾に挟まれることを夾叉という。夾叉されたということは、敵の砲撃精度が著しく向上することを意味していた。

 数十秒後、〈やまと〉の周囲に46cm砲弾がことごとく落下し、着水の轟音とともに巨大な水柱を打ち立てる。

 数瞬の後、水柱の直下で爆発が起き、水柱が根元から吹き飛んだ。

 

『敵弾、弾着!全弾爆発しました!』

「爆発……?まさか榴弾で攻撃してきたのか?」

 

 艦橋からの無線報告に秋山海将補は疑問を抱く。

 ──なぜ徹甲弾ではなく榴弾を……まさか彼らは護衛艦の装甲が薄いのを知っているのか?

 秋山海将補の思考回路内で誤解が成形されかけたが、その思考は中断を余儀なくされた。〈グレード・アトラスター〉が第二射を発射したのをレーダーが捉えたからだった。

 

「敵、第二射を発射!弾数6、内1発が本艦命中コース!!」

「二射目で合わせて来たというのか!?」

「ESSMで迎撃しろ!榴弾なら誘爆させれば迎撃できる!」

 

 日高一佐が指示を飛ばし、砲雷科員が迎撃用ESSMの発射準備を始める。今度は僚艦ではなく、命中コースにある〈やまと〉自体がESSMによる迎撃を行うのだ。

 発射準備は一瞬のうちにして整い、砲雷長が指示を飛ばす。

 

「ESSM、発射、サルヴォー!」

「ESSM、発射、発射!」

 

 〈やまと〉の両舷に敷き詰められたVLS、その一部から発射炎が噴き伸び、ESSMミサイルが飛翔していく。

 一瞬で46cm砲弾との距離を詰めたESSMは、そのまま46cm砲弾へと突進。信管を作動させて爆発した。

 

「マークインターセプト!」

「敵弾、命中コースから逸れました!……あっ」

「どうした」

 

 迎撃には成功したらしい。

 だが、敵弾の弾道を監視している隊員が間の抜けた声を漏らし、それに気づいた日高一佐が声をかける。

 ──まさか迎撃に失敗した訳じゃないよな。

 そう一抹の不安を抱えながら日高一佐は問いかけたが、事態は日高一佐が抱えた不安とは別方向に悪くなっていた。

 

「迎撃した敵弾は誘爆していません。命中コースからは逸れましたが、軌道が変化しました。まもなくカルトアルパス市街に着弾します!」

「なんだって!?」

 

 実のところESSMは46cm砲弾に命中していた。

 近接信管を作動させたESSMは、46cm砲弾に至近距離で爆発を浴びせかけ、誘爆を狙った。だが46cm砲弾は誘爆することなく、爆発によって弾道を本来のルートから大幅に逸らすだけに至った。

 46㎝砲弾の行き先は、不幸にもカルトアルパス市街だった。さらに運の悪いことに、着弾地点の至近には誘爆しやすい魔石燃料の備蓄タンクが置かれていた。

 数十秒後、46cm砲弾が着弾。装甲化されていない目標に絶大な破壊力を発揮する46㎝榴弾が、カルトアルパス市街に破滅をまき散らした。

 




カルトアルパス脱出は次回も続きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。