新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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今回で脱出戦は最後です。


第三十四話『カルトアルパス脱出戦4』

事件発生から50分

マグドラ群島沖合 第零魔導艦隊

 

 ミリシアル海軍最強にして、最も伝統と格式が高いのが第零魔導艦隊である。

 この第零魔導艦隊は、その昔にミリシアルが魔法帝国の遺産を研究し、その技術を実用化し始めた頃から最新鋭の装備を優先的に配備していた艦隊である。

 装備だけでなく、その練度にも目を見張るものがあり、数多くの演習や実戦などでその練度の高さをいかんなく発揮してきた。その精強さは、「ミリシアルの栄光あらば、海に第零魔導艦隊あり、陸に近衛機甲師団あり」とも言わしめられた。

 編成は戦艦3、魔導巡洋艦2、魔砲艦3、小型艦(駆逐艦)8、これでも日本の第1護衛隊群からしても脅威に映るレベルの有力戦力。その彼らは、カルトアルパスで罪を犯した日本艦隊を追跡するべく、現場海域へと向かっていた。

 

「艦隊速度、32ノット。艦隊機動に問題なし」

「艦隊針路、方位271、接触予想時刻まであと20分!」

 

 旗艦〈コールブランド〉の艦橋で、各員の報告が響く。

 今のところ順調に航行を続けているが、肝心の日本艦隊の動向が分からない。偵察機などは撃ち落とされる危険があるため、出撃を控えている。

 なので各群島の見張りからの連絡に頼るしかなく、第零魔導艦隊司令官のバッティスタには一抹の不安が残っていた。

 

「……ニホン艦隊の進路は?」

「沿岸観測隊が20分前にフォーク海峡を脱出したのを確認したのを最後に、詳細不明になりました」

「電磁魔導レーダーでのコンタクトは?」

「まだです。このレーダーでは、海面のノイズと小型船舶の区別がつかないので……」

 

 旗艦〈コールブランド〉艦長のクロムウェルは、新しく導入された電磁魔導レーダの性能の低さに、信頼感を損ねていた。

 確かに相手の魔力に頼らずとも探知できるのは便利であるが、対水上レーダーの方はノイズ除去の性能が低く、海面のノイズと小型の反応を判別できないでいた。

 そのせいで、付近に展開しているのが漁船なのか日本艦隊なのか、はたまた只のノイズなのか、分からない状態にあった。これでは敵艦を探知して先手を与える作戦は実行不可能と言えよう。

 

──実際には、そのノイズの中に第1護衛隊が映っていた。

 

 海上自衛隊の艦艇は、転移以前からそのほとんどがステルス船体を用いる艦級への入れ替えが進んでいたため、レーダー反射面積がかなり低い。一番大型のやまと型護衛艦ですら、小型のフリゲート以下の反応だった。

 そのため、ミリシアルの電磁魔導レーダーでは海面のノイズと判別ができない。もうすぐで接触圏内に入るのにも関わらず、第零魔導艦隊は日本艦隊の詳細な位置情報を掴めずにいた。

 

「……どちらにせよ、湾外から脱出する進路は限られる。このまま獲物を追い立てるぞ」

「カルトアルパスの地方艦隊は戦力を喪失しましたが、我々は万全です。ニホン艦隊との戦力差も三倍ですから、負けるはずがありません」

「そうだ、これで負けるはずがない……」

 

 第零魔導艦隊のバッティスタは、日本艦隊という獲物を追い立てるような趣で艦隊を見据える。見事なまでの単縦陣を組み、一糸乱れぬ艦隊機動を取る第零魔導艦隊。それはまさしく獲物を狩る狩人と言える、絶対的な自信の現れだった。

 

 実際には、彼らも狩人に狙われているとも知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

マグドラ群島沖合 深海

 

 暗い暗い海の底、光すらも届かないその空間に、黒い鯨の様な物体が海中を進んでいた。それは海魔などの水生生物ではなく、水中吸音材・反射材で覆われた人工物、兵器である。

 第零魔導艦隊から見て、探知どころか思考の範囲外にある"海底"という戦場。日本国海上自衛隊所属の〈そうりゅう〉と〈うんりゅう〉は、息を潜めながらゆっくりとマグドラ沖の水深深くを進んでいた。

 

「…………深度500につけ」

「……了解、深度500」

 

 〈そうりゅう〉の属する"そうりゅう型潜水艦"は、通常動力型としてはかなり高い性能を誇る潜水艦である。

 静音性に関しては、入射音を音源と異なる方向に全反射させる反射材が開発され、船体全てがその水中吸音材または反射材で覆われている。その為、現代の戦闘艦でも探知するのは非常に困難なのだ。

 

「……マグドラ諸島の間を抜けました。現在位置、ケイル島北西約40海里」

「……針路そのまま」

「了解。針路、そのまま」

 

 現在、第零魔導艦隊はマグドラ諸島より東に進路を取り、護衛隊群と重なる針路上に布陣しようと速力20ノットで航行している。

 その様子は既に偵察衛星でも確認されており、〈そうりゅう〉と僚艦の〈うんりゅう〉は、第零魔導艦隊への対処のために潜航した。

 彼らは緊急時に備え──その緊急時が本当に起きるとはあまりにも想定外すぎたが──、海幕が事前に同海域へと派遣していたのだ。そして第1護衛隊が陥っている危機も、衛星通信で把握している。

 2隻は第零魔導艦隊の進路上を航行し、護衛隊群と接触する前に待ち伏せを行おうとしている。既に第零魔導艦隊の推進音は探知しており、進路も特定済みだった。

 

「……絶対に気付かないとは言え、静かになってしまいますね」

「ああ、気づかないどころか思考の外らしい。哨戒機もいない。これなら艦隊の目の前でお祭り騒ぎしても、バレなさそうだぞ?」

 

 潜水艦〈そうりゅう〉艦長の恒星 次男一佐は冗談めかしてそう言うが、乗員はニヤリと笑うだけで声は出さなかった。長年の訓練の結果、潜水艦の中で大声を出す事などない。これは彼らが訓練で身につけた、癖のようなものだ。

 

「艦長、この先10海里ほどで停止すれば待ち伏せが可能です」

「よし、では合図を待て。"うんりゅう"は?」

「"うんりゅう"は右斜め後方2000に居ます。深度は同」

 

 恒星艦長は僚艦の〈うんりゅう〉の位置──といってもIFFなどは水中では機能しないため僅かなスクリュー音のみで判別しているが──を確認する。

 恒星艦長は〈うんりゅう〉の艦長のことを信頼しており、長い付き合いで連携のために話し合いもしたことがある。なので合図を送る必要は無いだろう。

 それを確認すると、恒星艦長は後ろに座っていた機関士に指示を送る。

 

「機関、いつでも停止できるようにしておけ」

「了解です」

 

 その言葉を確認すると、艦橋にしばらくの沈黙が流れた。待ち伏せ地点に到達するまで、ほぼほぼ無言の状態が続く。何も会話のない無言の空間が流れる中、待ち伏せの地点に着いた途端、恒星艦長が口を開く。

 

「……機関停止」

「了解、機関停止」

 

 敵艦隊との距離が開いている内に、恒星艦長は機関を停止させ、無音での航行に入る。こうすることで待ち伏せの際、無用な音を発生させることなく戦闘を継続できる。現代の高性能バッテリーが成す、優れた隠密性だった。

 

「……深度600」

「深度600、潜航します」

 

 そしてさらに隠密性を高めるため、より深い深度に潜る。ミリシアルには潜水艦という兵器の概念すらないと言われているが、現場でそんな油断や慢心は出来ないのだ。常に最善を尽くし、念には念を入れる。

 そうして無言の時が流れる中、ソナー員が声を発する。

 

「推進音、エコー1から16、依然として近づきます。間も無く魚雷の射程内」

「……事前の通信で、撃沈はしないようにと言われていますが、どうしますか?」

「正面から撃ったら躱されるか、撃沈してしまうかのどちらかだ。上を過ぎ去って、後ろを向いたら撃ち込んでやろう。あと、船底爆発はさせるな。どんなフネでも1発で轟沈するからな」

「了解です。"うんりゅう"への合図はどうしますか?」

「必要ない。おそらく考えは同じだ」

 

 〈うんりゅう〉艦長を信頼している恒星艦長は、合図も共有も必要ないと判断した。そんなやり取りが続く中、第零魔導艦隊が真上を通り過ぎる。

 

「……艦隊推進音、直上を過ぎ去ります」

「……………」

 

 無意識のうちに静かになる。艦内が極めて無言な空間に包まれ、その直上を第零魔導艦隊が過ぎ去っていく。このまま過ぎ去れば、第1護衛隊と接触する可能性がさらに高くなる。

 

「反転180度」

「了解、反転180度」

 

 スクリューを微弱に回転させ、水力を駆使して180度反転する。〈そうりゅう〉が反転し始めた頃、息が合っていたかのように〈うんりゅう〉の方も旋回し、敵艦隊の背後を取った。

 

「水雷長、反転次第に魚雷の1番2番、水上捜索で準備。目標、中央の大型戦艦A」

「了解。魚雷、1番2番。水上索敵、目標指定」

 

 魚雷の設定を行う水雷長が、ある疑問に聞くべきか少し迷った後、恒星艦長にその疑問を問いかける。

 

「艦長、確認ですが目標は一隻ですか?」

「ああ、"うんりゅう"と合わせて2隻だ。2隻が航行不能になれば、残りの船は救助に使わざるを得ない。それだけで艦隊は戦力を喪失する」

「わかりました。では、発射管注水」

 

 恒星艦長の答えを聞いた水雷長は、疑問が解決したことを受け、迷いなく発射管を注水する。水圧で水が入った発射管には、2本の18式長魚雷が詰め込まれていた。

 

「……1番2番、発射」

「1番、2番、魚雷発射!」

 

 水雷長が掛け声と共に、魚雷のスイッチを下げ、赤く光ったランプを押し込む。発射管の魚雷に電源が入り、鋼鉄の漂う漆黒の鯨から、海神の槍が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

マグドラ群島沖合 第零魔導艦隊

 

 ミスリル級魔導戦艦〈コールブランド〉の見張り員ケイトは、いつも通り艦尾の方向を見渡せる艦橋の見張り台に立ち、ウェーキを描く大海原を見張っている。この方向では、何か異常が起こることも無いので暇な配置である。せっかくの戦闘の様子も、ここからでは見えなかった。

 

「……ん?」

 

 それでも見張り員としての職務を続けていたケイトは、海中に何かの航跡を見つけた。

 

「なんだあれ?海魔か?」

「ん、どうした?」

 

 何かを発見したケイトが、それを上官に報告しようと振り向いたその時、長魚雷は〈コールブランド〉の艦尾に命中した。

 

「うわっ!?」

 

 あまりに激しい衝撃に、ケイトはその場で転倒して手すりに頭をぶつける。鈍く激しい痛みと共に、ケイトは頭を擦って切ったのか、傷口から血が出てきた。

 

「いってて……!」

「な、何が起こった……?」

 

 同じくその場にこけた上官が立ち上がり、他の見張り員も立ち上がる。

 

「お、俺が見ます……!」

 

 ケイトは朦朧とする意識の中、何か不味いことが起こったと察し、衝撃のあった艦尾の方向を見る。

 

「っ!?う、嘘だろ!?」

「どうした!?」

「か、艦尾が……!」

 

 ケイトが見るはずだった〈コールブランド〉の美しい艦尾は、完全に消失していた。正確には艦尾の機関部周りが吹き飛ばされており、スクリュー部ごと"ナニカ"にごっそり持って行かれたような、そんな光景だった。

 

「た、大変だ……!急いで艦橋へ知らせろ!」

「は、はいっ……!」

 

 ケイトは痛む傷跡を抑えながらなんとか歩き、見張り台後部に備え付けられていた魔導艦内電話を手に取った。

 

 一方の〈コールブランド〉艦橋の方でも、突然の衝撃により混乱が生じていた。なんの前触れもなく船が大きく揺れ、爆発音が聞こえたため、司令官のバッティスタは周りの乗組員達に状況を問いただす。

 

「なんだ!何が起こった!?」

「分かりません!突然爆発が……」

「爆発がどこで起こったか調べろ!」

 

 司令官のバッティスタ少将に代わり、艦長のクロムウェル大佐が状況把握のため指示を飛ばす。乗組員達は各部の魔導盤で艦の状況を確認し、何が起こったのかを調べようとする。

 

「艦長!艦の速度が低下、スクリューの反応なし!機関室との連絡途絶!」

「推力ダメです!このままでは航行不能になります!」

「まさか機関部がやられたのか……!?艦の状況を調べろ、異常を掴め!」

 

 クロムウェル大佐は通信士の言葉を受け、機関室が壊滅したと瞬時に予想した。状況把握に全力を努めさせたが、ここで艦長にとって驚愕する報告が届いた。

 

「艦長、大変です!艦尾が丸ごと抉り取られていると、見張り台より報告が!!」

「な、なんだと!?艦尾が丸ごと消し飛んだのか!?」

「ば、バカなっ……我々は戦艦だぞ!艦尾もそれなりに強固に作られているはずなのに……!」

「救護班とダメコン班を艦尾へ!!」

 

 動揺するバッティスタ少将に対して、さらに不運な報告が相次いだ。同じく混乱する僚艦とコンタクトを取っていた通信士が、艦の後方2000mを航行していた〈クラレント〉の状況を知らせる。

 

「司令!僚艦の"クラレント"も同様の被害を受けた模様です!同じく航行不能!」

「なっ……だとしたらこれは攻撃か!一体どこから攻撃を受けた!?」

「分かりません!ニホン軍だとしても、こちらは何も探知出来ませんでした!」

 

 だが僚艦合わせて2隻の戦艦が、いきなり航行不能になることなどただの事故ではあり得ない。バッティスタ少将はこの損害が事故ではないと、瞬時に予測した。

 

「通信、"ガラティーン"の方はどうだ?」

「"ガラティーン"の方は損害ありません。航行は可能ですが、これでは我々は……」

「戦力の三分の二を失ったか……くそっ、誰だか知らないがやってくれる!!」

 

 今の損害が攻撃だと予測したバッティスタ少将は、僚艦に対して周辺の警戒を行うよう、素早く指示を飛ばす。

 

「巡洋艦戦隊は周辺の警戒を強化しろ!"ガラティーン"は本艦を救援、小型艦戦隊は"クレラント"を救援せよ!」

「ダメコン班、機関室に到着!ダメです、機関室は丸ごと消し飛んでます!」

「浸水は軽微ですが、これでは我々は……」

「ああ、くそっ!後少しだったのに!!」

 

 あと少し、あと少しで日本艦隊に対して攻撃できる圏内にまで到達できたのに、いきなりのトラブルで戦わずして戦力を損失してしまった事に対し、バッティスタは悔しさを抱く。

 拳を机に乱暴に叩きつけ、手に滲む痛みなど知らず、顔を赤くして歯軋りをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

事件発生から60分

第8護衛隊 航空護衛艦〈ふそう〉

 

 青い海原に浮かぶ、巨大な航空母艦とその護衛艦たち。

 日本国海上自衛隊の航空護衛艦〈ふそう〉は、今着艦作業の真っただ中だった。艦載機のF/A-18J/JFは、艦の上空で旋回待機し、順番に母艦に降りてくる。

 千鳥足のようにフラフラと不安定に降りてくる様は、しかし見る者によっては完璧と評してよいほど綺麗な着艦動作だった。

 一機ずつアングルドデッキの斜め甲板に降りて来ては、寸分違わず甲板の手前に降り立ち、見事なまでの練度でアレスティングワイヤに引っ掛ける。ほぼすべての機体が一番手前のワイヤに引っ掛けているのは、本当に見事という他ない。

 

「艦長、まもなく収容作業が終わります」

「……ああ、ご苦労」

 

 先任伍長からの言葉に、航空護衛艦〈ふそう〉艦長の山本一佐は安堵した。搭載していた艦載機全てが戻ってきたことに、今までの緊張が拭われた気持ちだ。

 空母の艦長として、出撃させた艦載機が戻ってくるほどの安心は他にない。かつて所属していた〈いずも〉の艦長から一転、転がるように戦後初の空母の艦長を務めるようになった山本一佐は、早くも空母の艦長としての意識を持ち始めていた。

 

「……これで我らは世界の敵か。私の予想通りになってしまったな」

「どういうことです?」

「いや、どうにも後戻りできなくなったと思ってな」

 

 山本一佐は帽子を脱いで、頭の汗を拭うと、暗い面持ちでそう言った。

 その意味を理解できていない先任伍長は、艦長の隣に立ってその事を問いかけた。

 

「確かに外交上重大な事件ではありますが……日本経済が立ち行くなら問題はないのでは?」

「そうもいかんよ。まあ、詳しい事は裏で話そうか」

「はい」

 

 艦長が席を外す為、艦橋要員に一声かけると、彼は先任伍長を連れて艦橋裏の通路にて立ち止まる。そしてそこにあった自動販売機にカードをかざし、二つの缶コーヒーを購入すると、片方を先任伍長に渡した。

 

「……確かに日本の状況はレイフォルを占領し、独立した諸国から資源を吸い上げることで大きく改善された。我々自衛隊の装備や充足率も、今の武田政権の強力な呼び掛けによって改善されている。このコーヒーだって、ムーと交易してからようやく飲めるようになった」

 

 山本一佐は、その言葉と同時に缶コーヒーを開けた。

 地球にいたころのベトナム産とは違い、ムー産のコーヒーは風味が違う。少し酸味が強めだ。素人には分からないが、長年愛飲しているとその違いが分かる。

 

「だが、本当にここで終わるのか?と私は疑問に思うんだ」

「と、言いますと?」

 

 先任伍長からの問いに対し、山本一佐は200ml程度の小さな缶コーヒーをグイっと飲み干してから話を続ける。

 

「日本だけの需要だけじゃそのうち頭打ちになる。いかに産業の空洞化を埋めたり、また起こるかもしれない転移に備えての増産が行われているとしてもだ」

「それは……確かにそうです」

「そうだ、ならその有り余った工業力は何処へ向かう?日本だけの需要ではいずれ起こるであろう、少数生産による価格の増加をどう防ぐ?」

 

 先任伍長はその言葉を受け、認識の甘さを知った。

 自衛隊ではあまり政治について学ばないのであるが、山本一佐は佐官階級なので戦略や政治についても学ぶ機会が多い。それゆえの危機感の表れであった。

 

「その無意識の恐怖心、警戒心は近場の国を襲うんじゃないか?と、私は思うんだよ」

「そんなまさか……」

「無いとも限らない。もしかしたら相手の方が先に仕掛けてくるかもしれない。が、いずれにせよ戦争は避けられんだろう。もちろんそうならないのが一番だが、そんなに世界が優しくないことは今日証明されただろう?」

「……その通りです」

「なら君も覚悟を決めた方がいい。すべての平和はまやかしで、結局それは戦争への準備期間でしかないんだからな」

 

 そう言って艦長は、空になった缶コーヒーをリサイクルボックスに捨てると艦橋へと戻っていく。先任伍長はそれを見送りつつ、残りのコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

事件から2時間後

神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

 

 外務省統括官リアージュは、激しい苛立ちを抱いていた。

 現在カルトアルパスで先進11カ国会議が開催されているが、初日でエモール王国が初参加国の日本国に対して糾弾し、結果として会議は紛糾。その後、日本はエモールの要求に対して回答をはぐらかし、会議から退席する事態となった。

 あまりにも身勝手な行動を受け、エモール王国は日本国に対する追撃を決定。ミリシアル帝国もその威信をかけて追撃に参加し、二段三段にもわたる綿密な作戦で日本艦隊を拿捕する予定だった。

 だが、緊急会議と称してルーンポリスに向かったリアージュは、国防省からとんでもない報告を受ける。日本艦隊に対する追撃が、失敗したという報告だ。 

 

「逃げられただって……?損害も与えられずにまんまと……?ふざけているのか!?」

 

 リアージュは短時間で自信満々に作戦を立てていた軍部に対して、そのあまりにお粗末な結果を加味し、最大限の怒りをぶつけた。

 

「冗談じゃないぞ!世界最強であり、この世に敵なしと謳われる我が神聖ミリシアル帝国が、その国の威信をかけて魔帝に連なるニホンの艦隊を追撃して、何の成果も与えられずにまんまと逃げられたなどと、国の威信が崩れるではないか!!」

「……」

「こんな失態をさらせば、文明圏外属国が大量に離反し始めるし、列強や文明圏国も、我が国を軽く見始める!国体や、繁栄の維持のためには、その責任ある地位と実力を見せなければならないはずだ!何をやっているのだ!!」

 

 リアージュの剣幕に対し、軍部の責任者として出頭した国防長官アグラ・ブリンストンは何も言い返せなかった。ただただ浴びせられる非難を受け、じっと耐えている。

 

「世界の平和を脅かすニホン国に対し、武力を以って毅然として対処するのは当然の事!それが達成されないとは、どうかしている!軍部は作戦に絶対の自信があったではないか!!」

「……外務統括官殿、たしかに仰る通り、今回のニホン艦隊追撃が失敗した事は想定外であり、恥ずべき事です。ただ、奴らはそれほどまでに強いのです」

 

 彼の怒りがひと段落したところで、アグラはリアージュに対して詳細の説明を始める。

 

「奴らの艦隊には何度も航空攻撃を仕掛けましたが、彼らは誘導魔光弾を投射し、こちらの航空機を多数撃墜しました。その後、どこからともなく飛来した艦載機からも誘導魔光弾が発射され、航空隊は壊滅……追撃をしていた地方艦隊に対しても、艦載機の対艦攻撃によって戦闘不能にされました」

「ゆ、誘導魔光弾だと……!?まさか奴ら、本当に魔法帝国からの支援を……!」

「おそらくその通りだと思います。その後、第零魔導艦隊が現場海域に急行しましたが、到着の直前で何者かによる不明な攻撃により、こちらも無力化されました」

「何者かによる不明な攻撃……?その詳細は分からんのかね?」

「現時点では、ニホンによる攻撃の可能性が高いという事以外は、全く分からない状態です」

「他の艦隊の追撃は?」

「目標はすでに領海外に出ていますので、今後の追撃はどの艦隊でも不可能です」

「ああ、くそっ!」

 

 ここまで逃げられたとなれば、日本艦隊に対する追撃の手段は無いに等しいだろう。艦隊速度ではほぼ互角なことが確認されているため、今から他の艦隊を差し向けても間に合わなかった。

 

「……つきましては今回の件、追撃に失敗したことは各国に正直に話すべきです。作戦を提言したあなた方外務省には、説明責任があります」

「矢面に立たない国防省長官殿は気楽だな。そんな事をすれば、本当に我が国の能力を疑われかねないぞ?これならまだ、"第零魔導艦隊はニホン艦隊と戦って損傷しました"と嘘をつく方がマシだ。それでいいじゃないか」

「嘘をついてもいずれバレる状況です。海域にはニホン艦隊の残骸も無ければ捕虜もいない、言い出しっぺのエモールが"捕虜を引き渡せ"と言ってきたら、それだけで真相が明るみになります。下手な発表をするよりかは一時的に恥をかくだけの方がダメージは少ないはずです」

「ぐぅ……ほんとに気楽に言ってくれる」

 

 リアージュは苦虫を噛んだような苦渋の表情をし、これから起こる各国に対する説明責任の重さを理解した。

 厳密にいえば、言い出しっぺなのはエモールなのであるが、ミリシアル国内に限って言えば、ノリノリで参加したのは外務省である。なので、責任はリアージュ以下外務省関係者に降り注ぐこととなった。

 関係者の胃がキリキリと痛む中、カルトアルパス事件は終了した。

 




情報コラム

『カルトアルパス派遣の編成』
第1護衛隊群(司令部:横須賀)
・第1護衛隊(カルトアルパスへ入港)
やまと(BBD-001)、まや(DDG-179)、あさひ(DD-119)、しらぬい(DD-120)
・第8護衛隊(沖合で待機)
ふそう(CV-101)、いずも (DDH-183)、あたご (DDG-177)、はやはる(DD-137)、はやなつ(DD-138)
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