大手イラスト投稿サイト、規定変更により異世界関連作品を大規模非公開化、取引禁止
『大手イラスト投稿サイトが今月末、規約変更により異世界関連作品の排除に乗り出した。一部有力筋からの情報によると、カードブランド会社からの懸念が有った物とされる。一部クリエイターや利用者から反対意見が出されている上、表現の自由に反する故に、今後利用規約をどう詰めるのかが注目されている』
──中央暦1642年1月30日 日本国 読読新聞
図書館で焼き討ち、職員ら12人死亡。原因は異世界関連作品?
『正化市立図書館が昨日正午、複数の暴徒に焼き討ちされた。図書館は全焼し、職員と利用者12人が死亡した。
警察によると、犯行は異世界関連作品への規制を推奨する政治団体が行ったと推測されている。異世界関連のライトノベルや児童書を図書館から廃棄するよう求める声が増える昨今、正化市立図書館は1954年採択の『図書館の自由に関する宣言』を理由に、異世界関連作品の蔵書と貸出を続けると表明していた。犯人らはそれを理由に襲撃したとみられる。
今回の事件を受けて図書館協会は、「図書館は資料を収集し提供する自由がある。その自由が侵される事は断じて容認できない」との声明を出している』
──中央暦1642年2月4日 日本国 報日新聞
1642年2月14日
ムー連邦 首都オタハイト
オタハイト中央公園 イベント会場
オタハイトの柔らかな光に彩られた夜の闇に、一筋の光が流れる。それは夜空に輝く星などではなく、緑の色に輝き、集団でその空に舞い上がった。
その光の集団は、あらかじめ定められたプログラムに従い、空に模様を浮かび上がらせるパフォーマンスを開始した。
緑の光が線を描き、様々なマークへと変貌する。その美しい光の軌跡は、夜の闇に染められた空によって際立ち、美しい演技となる。人々はその美しいパフォーマンスに見惚れ、目を輝かせていた。
「ほう……あれがドローンか」
その空の様子を、一人の怪しげなシルクハットの人物が面白げに眺めていた。
この光の正体は、集団飛行プログラムを組まれた200機近くのドローンである。ドローンに色付きのLED電球を取り付け、このようなパフォーマンスを可能としたのだ。
このプログラムは日本から来た小学生によってプログラムされたらしく、その事実も含め、この人物を驚かせていた。
「(ドローンによる集団飛行か……これは使えるかもしれんな)」
そんな考えを巡らせている間に、ドローンのパフォーマンスが終わってドローンらが所定の位置に着陸した。
小学生はその素晴らしいパフォーマンスを讃えられ、大人に囲まれて賞賛を受けている。しばらくは、大人たちから引っ張りだことなり、いろんな企業からオファーを受けていた。
「(ふむ、では近づいてみるか)」
それがしばらくして収まった後、怪しげな人物はすっかり帰宅ムードになっていた小学生に、横から声をかけた。
「ゴホン……あー、失礼。君が、先ほどの飛行をプログラムした子かね?」
「あ、はい!そうですが、あなたは?」
怪しげな人物は小学生との接触に成功し、思わずニヤリと笑った。そして自己紹介として、持ち前の会社の名刺をその小学生に渡した。
「失礼、私はこういう者です」
「"マイカル飛行郵便"……ですか?」
名刺は小学生に疑いなく受け取られた。小学生は覚えたばかりの漢字を思い出しつつ、その名刺を読み上げる。
「はい。主に我々は飛行機械による郵便物の運搬を行なっております」
「へぇー……」
平和的なコンタクトに成功し、小学生は思わぬ方向からのコンタクトに驚くも、その後すぐにビジネスの会話に自然と話が膨らんだ。
「それじゃあ、今は遠距離の荷物しか扱えないんですか?」
「はい。我が社は6機の航空機を保有しているのですが、どうしても飛行場の箇所の制約で、都市間での物資のやり取りになってしまうのです。もっと短い距離で多数の荷物を運べるなら、良いのですがねぇ……」
「あ、それでしたらドローンを郵便物の運搬にも使うのはどうですか?大きめのドローンを使えば、10kg程度の重さでも運べますし、使えると思いますよ?」
「おお、それはすごい!でしたら、我が社にも集団飛行のプログラムを提供していただけたなら……」
「ええ、もちろんですよ!平和のために使うなら、何でも構いませんから」
「おお、ありがとうございます!」
そう言って商談が成立するも、怪しげな人物の持つ会社には裏があった。
この運送会社は、ムー連邦政府が立ち上げたペーパーカンパニーである。もちろん、調べても足が付かないように様々な工夫が凝らされていた。
「(ドローンの搭載量なら、人一人殺せる量の爆弾なら搭載し飛行できる。それを大量に飛行させ、人に向かって突撃し自爆する!これを数百機単位で行えば、何百人もの相手を低コストで殺せるはずだ!)」
このペーパーカンパニーの社長は、このドローンを使ってある兵器を作ろうと画策していた。それは最近連邦領内で燻っていた反乱の兆しに対して向けられる、極めて非人道的な虐殺兵器であった。
「(これが実用化した暁には、反乱勢力の鎮圧にも使えるだろう!奴らが違法な集会をしたならば、途端に自爆ドローンの大群が襲い掛かる!これを国内の過激派による犯行と言い訳をすれば、批判を逸らしながら反乱の芽を鎮圧できるはずだ!)」
その後、集団飛行プログラムと顔認識機能を備えたドローンを入手した政権軍は、これに爆弾を搭載して兵器化し、大量生産に入る。
小学生が思い描いていたドローンの平和利用とは、全く逆の方向でこれが実用化してしまったのだった。
1642年5月20日
国際港湾都市カルトアルパス ミリシアル海軍基地
カルトアルパスの海軍基地では、先に発生した日本艦隊追撃事件による被害から回復しつつあった。
外患誘致罪で逮捕、射殺された港湾労働者たちの穴を埋めるべく、ミリシアル海軍主導で海軍から人員を引き連れてその機能を復旧させていた。
今後は先の事件のような民間の妨害を防ぐため、港湾管理は海軍に一任されるという。そのためこのカルトアルパスは、急速に軍事拠点としての機能が拡充されつつあった。
「私は今日まで様々な港を見て来たが、凄まじいな……」
そのカルトアルパスの軍港内にて、グラ・バルカス帝国の技師がこの軍港を視察していた。
彼はグラ・バルカスの一級技術士官であるカンダルだ。ミリシアル海軍の下級士官が、彼を引き連れて軍港の視察を案内している。
「港の規模で言えば、我が国の主要港にも引けを取らない。軍港も非常に近代的で、工業化されている。魔導文明の軍港もいいモノですな」
「ありがとうございます。やはり文明の形態は違うとは言え、港というのは似通うものなのですかね」
そんな会話をしながら、カンダルはミリシアルの軍港の視察を続けていた。
カルトアルパスの一件以降、グラ・バルカスとミリシアルの間では軍事的な急接近が起こり、各所において対日戦略での連携が模索されている。
今回カンダルがやって来たのも、有事の際にグラ・バルカス帝国の艦艇がカルトアルパスに寄港し、整備や補給を受けられるのかどうかを詳しく調査するためだった。
「ん?」
カンダルは基地の各所を巡ってその調査を続けていたが、その時偶然、近くの浮きドックが少し離れた沖合に停泊しているのが見えた。
「なあ、あの戦艦はなんだ。損傷しているようだが?」
「ん、ああ、あれは我が海軍の第零魔導艦隊の旗艦”コールブランド”ですね。今は損傷個所の修理を受けているところです」
「修理?見たところ艦尾の総とっかえのようだが……?」
「あー、それはここだけの話なのですが……」
下級士官は両手を合わせて打つ、胡麻をするように擦る。どうやらあまり外に漏らしていい内容ではないらしく、小声でカンダルに耳打ちした。
「……実はですね、カルトアルパス事件の際に第零魔導艦隊も現地に急行したのですが、その際にて機関部にて謎の爆発がありまして……」
「謎の爆発?」
「ええ、それはもう、大混乱だったらしくって……中には”白い尾を引く海魔を見た”と言っている乗組員もいまして、それが一人や二人じゃないので上層部も困っているのですよ」
その説明を受け、カンダルは何か引っかかるような違和感を覚えた。
その海魔とやらの特徴には、思い当たる節があったのだ。
「……なあ、出来ればでいいんだがその〈コールブランド〉を見せてくれないか?特に、損傷した艦尾の方を」
「え?まあ、良いですよ。多分許可が出ると思います」
そう言って下士官は、カンダルを近くの通信機に案内し、上層部に許可を取り付けるべく通信を開いた。
以外にも、見学の許可はすんなりと下りた。カンダルは下士官に連れられて近くのカッターボートに乗り込み、そのまま浮きドックの近くに移動した。
「っ……こりゃひどいな」
ボートから見える浮きドック内の”コールブランド”は、艦尾が丸ごとごっそり破壊されていて、内部構造が露出していた。
艦尾のパイプなどが千切れ、スクリューは見る影もなく折れ曲がっている。
損傷個所は二つのリング状の破裂痕が広がっており、その爆発の威力を物語っていた。
「一つづつ見ていきたいところだったが……これは相当な大爆発だったんだな」
「艦尾は完全に分離、機関室に生存者はいませんでした。船が沈まなかったのは、本当に幸運というほかありません」
「……こんな損害を与える爆発なんて、一つしか考えられない」
カンダルはこの損傷具合を見て、技師としての経験からひとつの推測を導き出した。
「それはどういう……」
「これは魚雷の仕業だ。おそらく艦尾に二発、着発でぶち当たったんだろう。艦尾の大穴がそれを証明している」
「魚雷……え、なんですかそれは?」
カンダルの推理を聞いたが、ミリシアルの下士官が訳も分からずそう言った。
下士官のその言葉には、カンダルは両目を見開いて驚愕の声を上げる。
「まさか、魚雷を知らないと!?」
「は、はい……」
「ならば、"いきなり爆発した"とか言っていたが、潜水艦の姿も探知できなかったのか!?」
「”センスイカン”……?なんですかそれは?」
まさかそれすら知らないのか、と愕然とすると同時にカンダルは納得した。
どうやらミリシアルには海中兵器の概念がそもそもないらしい、確かにこれでは潜水艦どころか魚雷の存在を知らなくて当然だ。
「そうか、そういうことか……!」
「え?」
「この船は、その潜水艦と呼ばれる海中を潜る隠密兵器によって攻撃を受けたんだ。強力な魚雷……少なくとも1TNTトンクラスの水中自走爆弾だ。戦艦だろうが艦尾はへし折れる」
「か、海中を潜る兵器ですって!? ニホンはそんな空想小説のような兵器を実用化しているのですか!?」
「ああ……おそらくはそういうことだ」
その分析を受け、下士官は慌てたように冷や汗を流した。
それもそのはず、このような海中兵器への対策は皆無だからだ。このままでは、日本の海中兵器にいいようにやられてしまう。
「なんてことだ……急いで上層部に伝えなければ!」
「そうだな、俺たちも対策を進めよう。少なくとも戦艦をこんな目に遭わせるような魚雷を、放っておくわけにいかない」
そう言ってカンダルと下士官は、カッターボートを急いで沖合に戻す。
沖に戻ると同時に、下士官はカンダルを放って急いで上層部に報告しに行ったという。