『グラ・バルカス帝国軍の海外派遣軍第一陣のムー大陸出征は、内乱発生の第一報を受けてから1週間と経たないうちに迅速に始められた。
対日戦に備え、かねてより神聖ミリシアル帝国植民地──それもムー大陸にほど近い複数の飛び地の各飛行場に展開していた彼らは、夜明け前から活動を開始。
帝国国内は本格介入するか否かで未だ意見が分かれていたが、介入派が事前の根回しで送り込んでいた第一陣の出征により、本格介入が事実上決まることとなった。
第一陣の降下猟兵らは当時主流だったアヴィオール型輸送機や、軽戦車すら搭載可能な輸送用グライダーを改造した最新のピーコック型大型輸送機など計335機に乗り込み、一路ムー大陸へと出発。
それはミリシアルどころか、あの日本よりも迅速な介入であった。大陸に展開した降下猟兵らは現地の反乱軍と合流し、即座に戦闘へ介入した。
彼らに遅れてミリシアル軍も227機のゲルニカ35型輸送機と、それのほぼ三分の一の輸送用グライダーに空挺部隊を乗せて派遣。また介入した両国軍の後続には多数の重装備を抱えた輸送船団が控え、さらに彼らの本国でも本格介入が準備されていた。
しかし後続が到着する頃には日本の本格介入も始まろうとしており、かくしてムー連邦は地獄と化した』
──後の時代、クワ・トイネ公国にて発刊された歴史書
中央暦1643年2月1日
ムー連邦北部 工業地帯
着地したエッケハルトは、薄暗い闇夜の中で自身の装備品を確認する。
まず近くを見渡して探してみたが、小銃などを収めた袋などは転がっていなかった。となると木に引っ掛けたのか、もしくは降下中に遠くへ落としてしまったかのどちらかだ。
どのみち辺りは暗く、とても探せるような状況ではない。
「オイオイ……最高の展開だな……!!」
エッケハルトは敵中孤立の中で皮肉を飛ばす。
彼に残った装備はナイフ一本だけ、これのみでサバイバルを強いられていた。
無論、降下猟兵達はこのような状況を予想して訓練こそしているが、かと言ってこのまま心細く森をさ迷うのは精神的にも辛い。早々に味方を見付けるなり、必要な物資を確保するなりして安全を確保したいところではある。
だが、辺りを見回して耳を澄ませても風の音と対空砲の音だけしか聞こえない。視界は暗いため、匂いも頼りに索敵をしてみるが、近くには人影すらいないらしい。
安全は確保されている。逆に言えば、味方もいないという事であろうが……
「……仕方ない、進むか」
このような時、自分だけ進むのは合流の可能性を低くしてしまう悪手なのだが、この場合は待っていても仕方がなかった。
むしろ、せめて隠れるなりしなければ自分の安全すら保証されない。致し方ない移動だった。
エッケハルトはナイフを右手に握りしめ、物音を立てない特殊な匍匐前進で草むらを進んでいた。幸いにも森の中は鬱蒼としていて、身を隠すにはちょうどいい。
「くそっ、外れろよ、おい」
と、付近の対空砲から奏でられる連続した破裂音の中。
かすかに若い兵士の愚痴が耳に入る。それも第2中隊で何度も聞いた、自分の部下の声にも思えた。
「セバスティアンか………?」
声に聞き覚えはあったが、もしかすると敵かもしれない、身を隠しながらそれに近づく。葉と葉の狭い隙間から様子を窺うため、息を殺して接近した。
果たせるかな、中隊隊員のセバスティアンが木々に蓑虫の如くぶら下がっていた。絡まった落下傘を外そうともがいているらしい。これで武器が無くても安心だ。ひとまず彼を降ろし、一人目の味方と合流できればそれだけで僥倖である。
と、町に帰ってこれた遭難者のような嬉々とした気持ちで彼に近づこうと歩を進めようとした所で、エッケハルトは向こうから近付く殺気に気が付いた。思わず立ち上がりかけた足を止め、大慌てで頭を引っ込める。
「うわぁ、やめろ!」
両手を前に押し出して何かを止めようとするジェスチャーの直後、彼の命乞いに被さるように響く発砲音。音と連動し振り子の様に揺れる降下猟兵の"躯"。一連の動作が終わり森の中で静寂が広がる。
月明かりに照らされる哀れな兵士の"骸"。
ギィ………ギィ………と静かに揺れる様を、マルチカム迷彩の軍服に身を包んだ二人組がライトを当て、嘲笑の目を向けていた。
その手には日本がムーに払い下げた旧式の──といってもこの世界では最新式だが──自動小銃、64式小銃が抱えられており、銃口から薄っすらと硝煙が上っている。
「へっ、これで二匹目だぜ、おバカさんを殺ってやったのはよ」
「反乱軍に誘き寄せられて空から来るとは、"飛んで火に入るなんとやら"、だな」
「ったく、火事ドロどもが。だが、こんな間抜けな死に方するなんて本当にバカな連中だぜ」
嘲笑いを浮かべた二人組は、大して周囲を確認するでもなく適当にライトを振り回してから立ち去っていった。
エッケハルトは今すぐ飛び出してナイフを突き立てたい感情を抑え、息を潜めて草むらの陰で彼らが立ち去るのを待った。
そして彼らのライトの光が見えなくなったのを確認し、ぶら下がったセバスティアンへゆっくりと駆け寄る。身体の方を確認すると、彼には首と心臓に二発ずつの銃弾が浴びせられていた。出血も致死量だ、すでに意識はなく助かる見込みはない。
「バカはどっちだ犬畜生が……」
思わず反吐を散らすかのように、エッケハルトは毒を吐いた。仲間が目の前で無抵抗のまま殺されるというのは、いかに訓練を潜り抜けた降下猟兵達でも耐え難い。
「ッ──」
その時、遠方から乾いた銃声が森に響き渡った。それに気づいたエッケハルトはまた姿勢を低くし、茂みに紛れて隠れる。
銃声は種類の違う、連続した銃声だった。これは撃ち合いのパターンだ、近くで戦闘が起こっていることを知らせるものだと訓練で教えられた。
そういえば、先ほどの奴らは誇らしげに「二匹目」と言っていた。おそらく他の隊員たちに対しても、降下直後を狙われて狩られているのかもしれない。
仲間のために早めに行動しなければならないと感じたエッケハルトは、彼の死体の付近を注意深く捜索することにした。何か武器が転がっているかもしれないと探すも、周囲にめぼしいものは見つからない。あたりが暗いこともあり探すのは困難で、長くは続けられなかった。
「チッ……」
先ほどの兵士なのか、それとも別の兵士かはわからない。
だが遠方からライトの光が二つ、エッケハルトの方に照射されている。薄暗く見える影から見てもおそらく味方ではない、ヘルメットの形が違うからだ。エッケハルトはまた地面に伏せ息をひそめる。
「くそっ、物音がしたぞ、どこに居やがる」
「降下部隊の生き残りかもな。どこだこのネズミ野郎……」
小銃を抱えた兵士たちが、エッケハルトが潜む茂みの中にゆっくりと近づく。ハンドライトがエッケハルトがいる茂みを探して、ひとつずつ照射される。
絶体絶命の状況の中、それでもエッケハルトはナイフを逆手に持ち、一矢報いる機会を窺っていた。
──その刹那を貫く銃声。
サーチライトを持っていた兵士に向け、乾いた銃声と共に彼の頭部を銃弾が貫く。ヘルメットの隙間を狙った正確な一撃により、彼は脳髄の神経を破壊され、意識は止まったままその場に倒れた。
「銃声!?」
残ったもう一人の兵士が、銃声を聞きつけ素早く木の陰に身を隠す。やられた兵士はエッケハルトの目の前に倒れ、ライトがつけっぱなしのまま手元に転がってきた。
周囲を見渡し、木の陰からその様子を見ようと顔を出した途端、もう一発の銃弾が彼の頬を掠めた。
「クソッ、なんで俺の位置が──」
その時、彼は気づいた。最初にやられた仲間が持っていたライトが不自然な位置に転がり、彼の位置を正確に照らしていたことを。それに気づいた兵士は手でそのライトを退けようと、慌てて手を伸ばした。
──その瞬間をエッケハルトは待っていた。
彼はライトに向かって伸ばした手を掴み、鍛えられた握力でそれを引っ張り草むらから飛び出した。
「なッ──」
そして膝蹴りで相手の体勢を崩し、倒れた瞬間を狙って間髪容れずに喉元へナイフを突き刺した。
一撃を入れると、すぐさまナイフを引き抜いて、今度は胸のプレートの隙間に向かってもう一撃を振りかざした。
「ガハッ……」
そのナイフをまた引き抜き、もう一撃をまた喉元に入れる。そして、もう一度突き刺そうとナイフを抜いた時、彼はすでに虫の息だった。途端に冷静になり、エッケハルトは攻撃を止めた。
とっさの判断が罠として働いたようだ。実はエッケハルトは目の前に転がってきたライトの位置を、兵士に気付かれないようにこっそりと変えていたのだ。そのライトの光は、姿の見えない狙撃手に敵の位置を知らせ、この木の陰に釘付けにしたのである。
まさかそのライトを振り払おうとするとは思わなかったが、これはエッケハルトの作戦勝ちだった。
戦闘を終えたエッケハルトは、まだ狙撃手がこちらを向いていることをちらりと確認する。自分が敵ではないと知らせるため、相手に聞こえる声量で合言葉を叫んだ。
「サターン!」
「タイタン!」
合言葉に間違いはなかった。
その声を聞いたエッケハルトは、ひとまず胸をなでおろして危機が去ったことを安堵した。
「レジスタンスのフィリップだ、お初にお目にかかる」
「第1降下猟兵師団の降下猟兵連隊、第二中隊中隊長のエッケハルトだ。よろしく頼む、フィリップ殿」
挨拶を交わしたレジスタンスの青年は、にこやかな表情で握手を求めてきた。本来ならば中隊長であるエッケハルトから差し出すのが通例だが、レジスタンスは軍隊ではないためそこら辺の規律が緩いのかもしれない。
「まさか中隊長殿直々とは思わなかったぞ。なおさら救出が間に合ってよかった」
「降下猟兵というのは孤立しやすい兵種であるからな……助けてくれて感謝する」
「ああ、それと──」
そう言って、レジスタンスの青年は肩にぶら下げていたものを取り出し、水平に向けそれをエッケハルトに手渡した。
「これを持つと良い、50m先に転がっていた」
渡された銃に対して、エッケハルトはあからさまに顔を曇らせた。
渡されたのは44型突撃銃、ストック部分にはセバスティアンがふざけて刻み込んだ傷痕が付いている。これが手元にあったなら、あの若い降下猟兵は死なずに済んだはずだった。
「……すまん、借りるぞ」
「この先を行った所に君の仲間達が集まっている、道案内しよう」
プレートを引き抜きながら謝罪しつつ、早急に部隊を掌握する為に移動を開始した。十数分して森を抜けた先に廃墟となった工場を見付け、近付くにつれて状況がわかってきた。
時々高射砲弾の爆発や閃光弾で地表が明るくなる中、現地住民の情報によって周辺の安全が確保されているのか、中では降下猟兵達と地元のレジスタンス隊員達がたむろしていたのである。
「案外……集まっているんだな」
「地表に降り立った君達をひたすら導いたからな、村の皆も手助けしているよ」
気の良い青年が言うには、この日を我が国の工作員に知らされた現地住民達が、現政権軍や政府より農村からの目を掻い潜って色々と示し合わせていたらしい。
村の子供達が草むらに隠れて降下猟兵が降り立った所を大人達に報告したり、タクシー運転手が自動車*1のトランクに兵士を隠して臨検を突破したりしたそうだ。聞いて驚いた事だが、老夫婦が藁を満載した馬車で降下猟兵をかくまったとも。
ここまでの優遇っぷりに、エッケハルトは却って不気味にすら感じた。まさかこれは罠であって、集まった所を一網打尽にでもするつもりか?と一瞬勘繰ったが、目の前の青年は何とも平凡純粋そうで、腹芸には向いてなさそうなのが何とも言えない。
「ここだ、地下に主な幹部達が集まっているぞ」
思わず地下の発電機室へと通じる階段を前にして、彼は入り口の横に立っている降下猟兵へとアイコンタクトを取った。彼は第2中隊の面子ではなかったが、記憶を頼りにするとどうも第4中隊にこんな下士官が居たなと思い出す。
視線で何かを言いたげな雰囲気にしていると、彼の意図を察したのか安心させるように頷いた。まぁ大丈夫なのだろう。
地下への階段は錆び付いた鉄骨で出来ており、一段一段降りていくのに連動してカツーン、カツーンと甲高い音が鳴る。それが暗闇に消えてくものだからどうにも息苦しく、加えて湿度もある上に埃っぽいのだから長時間居たいとも思えない。
降りきったと思えば今度は取って付けた小さな豆電球しか明かりが頼りの、長い長いシミばかりの廊下へと出てきた。おいおいここはお化け屋敷か?と呆れた瞬間、右のドアがいきなり開いて人影が姿を見せる。思わず身構えるが、そこに立っていたのは部下の第3小隊長であり、あばた顔の若い少尉であるエドヴィン・マイヤーズであった。
「エドヴィンか!?」
「中隊長殿!?よくぞご無事で!!」
己が上司の中隊長を見つけたエドウィンは、目をぱっと見開いてそれに驚き、久方ぶりに恩師と会ったかのような表情でエッケハルトを見た。思い出したかのように素早く敬礼するのを見て、エッケハルトは安堵し銃を下した。
「いやぁ良かった良かった、無事に降りられたのだな」
「ハハハ、それはこっちの台詞ですよ。ささ、どうぞ中へ、奇跡的に各小隊長全員が集まっております。後は中隊長のみだがどうしようか?と話し合っていたところなのですよ」
そう言ってエドウィンの案内でその薄暗い部屋に入ると、確かに中には各小隊の面々が集合し、地図を広げたテーブルを取り囲んで話している最中だった。
「中隊長がおいでなすった!敬礼!」
部屋に入るなり、エッケハルトは小隊メンバーからの熱い視線と敬礼を受け取ることになる。
エッケハルトはそれを一瞥し、小隊長全員が無事に降りられたのを見て安堵する。道中の空路から地表に降り立ち、降下狩りを避けてここまでたどり着いた面々……
セバスティアンのように、ここまでたどり着けなかった隊員も中にはいるかもしれない。そう思うと、より気が引き締まる思いだった。
「総員傾聴!!」
エッケハルトは声を高らかに、小隊長たちの注目を自分に集めた。
「……無事に降りられたが、作戦はまだ第一段階だ。我々の任務は混乱するムー連邦政権軍に対しての攪乱、及び降下地点の制圧保持にある。降下猟兵の優位性を維持すべく、なるべく早くから作戦を開始するぞ、いいな?」
『はッ!!』
エッケハルトの釘をさす言葉により、小隊長全員の気が引き締まる。
彼の言う通り、降下猟兵の仕事は降下してからがスタートで、敵を奇襲的に攪乱、降下地点を保持し続けることにある。装備が軽装な降下猟兵は、増援の本隊が来るまでの混乱を敵に与え続けるのが本領だ。
「さて……ホラーツ」
「はっ」
「私が来る前にいくつか話し合ってたみたいだが、進展はどうだ?」
エッケハルトはまず、自分の右腕たるホラーツに声をかけた。彼は先任軍曹として士官たちを纏めるべく、先に降り立って降下地点を保持していた。運よく平地に降り立ち、仲間と共に武器は早めに回収したため降下狩りを躱すことができたという。
「はっ、レジスタンスからの情報によりますと、降下地点のRZアルファの周辺には、小規模な政権軍の治安部隊が駐屯しているようですぜ。部隊の推定規模から察するに、歩兵は3個大隊ほど」
「付近に有力な部隊は?」
「今のところ、天敵となる装甲部隊などの情報はありやせんね。やはり情報局の見立て通り、反乱軍との前線に投入されているものと思われますぜ」
ここでいう前線とは、現在首都オタハイト三方から包囲する反乱軍の部隊と、それを防ごうとあちこちに展開して横槍を入れる政権軍の部隊のことを指す。
便宜上「前線」と彼は評したが、実際両軍とも日本の建設会社が整備した高速道路*2を用いて展開しているため、まばらな点とそれを結ぶ線の戦いが起きているのが現状だ。
どちらにせよこの北部の工業地帯の多くは政権軍の部隊が出払ってもぬけの殻になっていたのは事実であり、降下猟兵にとってはチャンスだった。
「後方の工業地帯とはいえ、蛻の殻なもんですなぁ」
「しかし、相手が歩哨部隊と言っても侮ってはいけません。一部兵士には、ニホン製の武器が配備されているとの情報もあります」
部隊の中で一番冷静で、危機察知の能力が高いドミニクが警告を促す。
訓練生時代は慎重すぎるが故、教官から「臆病がすぎる」と揶揄されたこともある彼だが、エッケハルトはそうは思わず、むしろ彼の危機察知能力には助けられている。今回も彼の慎重さは敵の火力に注目していた。
「それって、降りる前に見たあのミサイルとか?」
「それもありますが、我々降下猟兵にとって一番の脅威はニホン製の装甲車や小火器類です。一部の火力は我々と同等と考えても、大げさではないかと」
日本製の兵器や武器が強力なのは、降下する際にいくつかの輸送機が落とされたので記憶に新しい。
聞いたところによると、日本製の小火器はほとんどが自動小銃だそうで、戦車や装甲車なども輸出しているという。どれほどの物かは不明だが、第二文明圏においてはムー連邦だけでなく、ニグラートやマギカライヒ、イルネティアですらも輸出兵器で近代化を果たしているというので、それなりに使える代物なのは間違いないだろう。
「……中隊長、夜間のうちに仕掛けますか?」
敵の装備についての意見を聞いた第二小隊のアインは、エッケハルトの方を向いて忌憚なくそれを提唱した。確かに一理ある意見で、敵の装備がこちらと同等ならば、夜間のうちに奇襲を仕掛け、優位な条件下で殲滅したいものだ。
「そうだな……装備や配置を見る限り、昼になってから仕掛けるのは厳しそうだ。日が昇らないうちに片付けたほうがいい」
「私もそう思います」
「俺も同意しますぜ」
夜襲を仕掛ける、という意見には部隊全員が納得しているようであり、後ろで控えるレジスタンスたちも何人か頷いていた。どうやら考えは一緒らしい。
「なら決まりだ。我が第二中隊は大隊からの作戦指示に従い、夜間のうちに付近の政権軍部隊に対して攻撃を仕掛ける。第一目標はここから2km先のリムイユ村、日付が変わる0100までに突入する、以上だが質問は?」
「…………」
「ないようだな。では作戦開始は本日の2330とする!10分前には集合しろ、愉快な遠足に乗り遅れるなよ!」
『了解!!』
「以上、解散!それまでに軽く仮眠をとっておけ」
小隊長各員を解散させ、隊員には早めの仮眠を取らせることにした。今から三時間ほどしかないが、全く寝ないよりはマシである。
「……エトヴィン!少しいいか?」
「ハッ!!」
「これを」
エッケハルトは会議室を出ると、また後ろ姿が見えるエトヴィンに声を掛け、呼び止めた。駆け足で歩み寄ってきたエトヴィンに手を差し出し、持っていた金属部品を渡した。
エドヴィンは何かを手渡され、その金属のカケラを見た。そこには配下の隊員の名前が記されていた。
「これは……セバスティアンのプレート……!!」
「……降下した際、俺の目の前で撃たれた。勇敢な最期だったよ」
もちろん嘘だ。ぶら下がったままあっけなく死んだなんて、悲しすぎて言えない。彼の名誉を少しでも守るべく、あえて嘘をつく。
「畜生……セバスティアンまだ19ですよ。酒と女の味を知る前に、死んじまうなんて……」
ここで戦争とはそういうものだだの、取り繕ったような慰めは悪手である事をエッケハルトは知っている。
エッケハルトは「せめて今居る部下は守れよ」、と仮初めの目標を立てさせ、小隊長としての意識を付ける。
ケジメとはなんたるかを教授し、これ以上余計な事を双方口に出さないよう肩を軽く叩いた。
無論、これは彼自身にとっての戒め、結果的にセバスティアンを見殺しにしたのも同じなのだから。
だからせめて、今銃を手にしている間だけは部下の危機を救う努力を行わなければならない。戦闘前の浮わついた自分を殺すのだ。