新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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更新ペースはなるべく上げておきます。

それから、読者の皆様には申し訳なく思うのですが、日本の本格介入にはあと6~9話ほど必要になります。
自分としても介入までの描写を丁寧にしたいので、ご了承ください。


第四十一話『降下地点アルファ3』

数分後

リムイユ村 教会前通り

 

 午前3時25分、まだ月は高く昇っている。白輪は雲間から月明かりでリユイユ村を照らそうと試みるが、辺りを立ち込める硝煙がそれを阻む。村での戦いは敵の仮設司令部が設置してある教会の争奪戦となり、そして佳境を迎えつつあった。

 厳しく訓練した甲斐による質の高さと、それに伴う迅速的な行動によって瞬く間に村の外縁を制圧した降下猟兵と、士気旺盛を頼りに一気呵成に突撃するレジスタンスによってムー連邦の防衛戦はもはや形骸と化した。

 この連合軍は稀に捕虜となっていた友軍兵士や同志を家の地下室から解放したり、はたまたタンスの中に隠れていた村人を手厚く保護しながら掃討戦を繰り広げる。

 

 興味深い事に婦女子を無理矢理手に掛けていた髭ズラの現政権軍兵士が事態の急変を悟り、傍目も振らず逃げようとしたところを被害者の婦人が後ろから花瓶で頭を一撃、そのまま若い降下猟兵に付き出すと言う珍事すら発生したのだ。

 その際若い降下猟兵はどう対処して良いのか全く解らず、近くを走っていた背が低い女性兵に助けを求めたが、当の女性兵に勘違いされてスコップで殴られる笑い話も発生した。

 ……余談だが、第1降下猟兵師団を題材にしたドラマが作られた際、この話が俗説を交えながらも映像化され、当作品の数少ない癒しとなったと言う。

 戦場特有の艶笑譚を携えながらも降下猟兵第二中隊は王手をかけつつあった、しかし教会を攻めようと思ったところで障害に出くわす事となる。

 

「成る程、アレが件の装甲車と言う訳か。確かに重機関銃が相手で、こっちの弾が効かないのは厄介でしかないな………」

 

 エッケハルトは思わず独りごちた。一般乗用車を多角的な装甲板によって作ったかのような見た目の車両は、教会前の道路を挟んだ先の建物群に陣取り、こちらに撃ち掛ける兵士達に釈迦力となっており……

 神の悪戯かどういう訳か、グ帝陸軍制式の13ミリ機関銃と酷似した武器──つまるところM2ブローニング重機関銃──を宛もなく乱射していた。当然、そういう射撃で建物内の兵士に被害が出る訳もなく、戦線は膠着状態となっている。

 神の目線から見ればそうだろう。しかし、装甲車にジリジリと這って近づく、二人組の影があった。息を殺し、服が擦れる音に気を付け、相手が射撃を開始した時に移動して、発砲音に紛れる小細工までやる。

 ひたすらに気配を消す事にだけ注力している。その甲斐あってか、何とか鋼鉄の猛獣の懐に飛び込む事が出来た。

 

「戦車猟兵、目標を吹っ飛ばせ!!」

 

 そしてエッケハルトの号令の下、対戦車猟兵の2人組が身を起こし、片足だけ地面に付け、なるべく被弾面積を広げぬよう、軽装甲機動車へ土管ともパイプとも見て取れる物体を向けた。

 

-43型88ミリ対戦車ロケット砲-

 

 それは、開戦直前にグラ・バルカス帝国が開発した、所謂バズーカ砲に分類される新兵器であった。日本のミリオタなら一発でパンツァーシュレックと答え、その威力を想像して震えるだろう。

 口径88mmの対戦車ロケット弾は230mmの装甲を貫徹するに十分足る能力がある。いかに装甲車と言えど、正面装甲は12.7mm機銃に抗堪する程度──それでも歩兵にとっては脅威だが──の防御力しかない軽装甲機動車を一撃で吹き飛ばせる。それが装甲車らしい軽快性を利用した戦闘方法ではなく、簡易トーチカ代わりとして停止していれば狙うのも容易いだろう。

 背中にしょったリュックから尾部が突き出た砲弾を取り出しては、片手で砲身を保持しつつ掌で押し込むように装填。僅かながら力を込めるのがコツだが、これが中々上手く入らない。

 事前に手汗を拭ってなければ手を滑らせ、隙を見せて命取りとなっただろう。細いケーブルを引っ張り出して、飴細工のように砲弾の発射薬へくくりつけた。後方爆風を避ける為に射手の後ろへと回り込み、鉄兜を何回か叩く。

 

「装填よし!!」

「フォイア!!」

 

 射手と装填手が決まった掛け声を言葉にする。それはムー装甲車小隊にとっては死の呪文だったろう。ボシュッ!とロケット花火のような音と共に弾頭が発射され、シュルシュルシュルと気の抜ける音と共に発射煙は軽装甲機動車へと旅立っていく。

 

「うわっ!?」

 

 発砲音に気が付いたムー装甲車乗組員が驚愕の言葉を口に出したがもう遅い、顔を向け、ロケット弾を目で追ったものの束の間、4.5tは有る軽装甲機動車は炎と共に一度その場でバウンド、地面に叩き付けられるとそのまま火柱を上げて沈黙した。

 

「障害は排除されたぞ!!それ、教会に突撃しろ!!」

 

 先任軍曹のホラーツがエッケハルトの代わりに中隊員達を叱咤し、自ら率先して半分要塞となった教会へと突撃した。

 無論、その光景を見て物怖じするほど降下猟兵は怯懦ではない、内部で立て籠るムー連邦兵が背を丸めて怖じ気づく程の音量の喚声を上げ、銃口に据え付けられた銃剣を白く輝かし、装甲車の残骸や倒れた敵兵に足を取られぬよう避けつつ走り抜ける。

 教会の窓からは未だに抵抗を続けるムー連邦兵達がおり、日本製小銃をフルオートで乱射するがしかし、疾風となってジグザグに走ってくる降下猟兵を捉えるには、その練度は明らかに足りていなかった。

 元々この地域のムー連邦兵は装備こそ日本製の物を(ただし大体が払い下げであり、耐用年数ギリギリで稀に暴発する物も存在した。無論、かの悪名高き機関銃まである)取り揃えていたが、最近の世俗に飲まれてモチベーションが下がっており、ただでさえ二線級部隊の集まりであった事から、その訓練内容は誉められた物ではなかった。

 

「グハッ!」

「うわぁ!?衛生兵ー!!」

 

 無論、自動小銃が連射されている訳であるから、不規弾となって何名かの降下猟兵を撃ち抜く事には成功した。

 あちらこちらで衛生兵を呼ぶ声が木霊し、引き寄せられるように同僚へと走り寄る人影がチラホラ出てくる光景が散見された。片腕を無くした友を何とか物陰へ持ってこようとレジスタンスが動き、そのまま被弾してミイラ取りがミイラとなる事例もまたあったが。

 精鋭の勢いを止める事は叶わず、次々と玄関や外壁に取り付く者が増え出した。こうなればもう、教会に立て籠る者達は袋のネズミだ。

 

「あっ、閉められた!」

 

 ドアを蹴り付け、銃床を叩き付ける音が響く。関の声が四面楚歌となって教会を震わし、中に居るムー連邦兵は怯えおののいている筈だった。

 しかしそれでも、豪華な木の扉は動きそうにない。何とか活路を見出だすか、このまま来るかもわからない救援を待とうとしているのか、ムー連邦兵達は裏側で粘っているのか。降下猟兵達に焦りと苛立ちが募り始める。

 

「おい、あいつら扉の裏側を押さえつけてんぞ!!」

「はよ開けんかいゴラぁっ!!」

「全員で押し込め!なんとしても食い破るんだ!!」

 

 降下猟兵の中でも背が高く、それでいて屈強な五人の兵士が、息を合わせて何回も扉へタックルする。裏で押さえつけているムー連邦兵は悲鳴を上げて、何としても侵入を阻止しようとする。

 

「せーの!!」

 

 ──ドンッ!

 

 息を合わせて体当たりをかます、しかし扉は動かない。

 

「せーのっ!!」

 

 ──ドンッ!

 

 人数も増やして更に体当たり、ミシり、ミシりと嫌な音が響く。

 

「オオサワ、なんか持ってこい!お前数学が得意だろ!」

「任せんしゃい!」

 

 東洋の植民地出身で、数学が得意として抜擢されていたオオサワが、近くのガレージからバールを持ってきていた。

 それを扉のわずかな隙間に捩じ込むと、思いっきり力を入れてバールを押し込み、扉の隙間を拡張する。要は、梃子の原理で押し広げる要領だ。

 扉がさらにミシミシと嫌な音を立てる。扉の向こう側では、悲痛な声が聞こえ始めた。

 

「も、もうダメだ!耐えられそうにない!!」

「誰か来てくれぇ!突破されちまう!!」

 

 扉を押さえていたムー連邦兵は更なる同僚を呼ぼうと後ろを向く。そして数刻もせずに驚愕する羽目となった。

 無情にも彼等は踏ん張っているのにもかかわらず見捨てられたのである。一目散に扉付近から逃げ出す者、突破されたら我々ごと敵を撃つ為に機銃を向ける者、そもそも外の敵に集中して気付いていない者、あんまりな状況に彼等は足元が崩れるかの感覚に陥り、目の前が真っ暗になった。

 

──それが契機となった。

 

 結局団結力が無く、挙げ句体格差もあって抵抗は失敗した。大体普通の兵士が──普通と言って良いのかは議論の余地はあるが──選りすぐりの降下猟兵に体力とパワーで勝てる筈もない。

 

「やろっ、逃がさんで!」

 

 押し倒されたムー連邦兵は大慌てで立ち上がり逃げ出そうとするも、突入に備えていた別の降下猟兵が罵声と共に44型突撃銃で7.7mm短小弾を浴びせかけ、背を向け逃げ出そうとする者を撃ち抜いた。

 ギリギリまで粘っていた故に逃げ遅れ、挙げ句体勢を崩したままだったのだから至近距離ではなす術なく、抵抗を試みた兵士達は血の池を作り骸となった。

 

「ヒュー、アイツら色んなモンをバリケードにしてんじゃん」

 

 部下が思わず口笛と共に感嘆の声を上げた。それ程までに政権軍の兵士は必死に防衛態勢を整えていたのである。

 教会の中であるので当然だが、整然と並ぶチャーチチェアに、普段聖職者が立って聖書を読む説教台に、奥には中央祭壇が設置されている。そこへ司教のように機銃手が得物を携えて侵入者を待ち構えていたのだ。どうも説教代わりに鉛弾をくれる心算なのだろう、正教徒のごとき厳格そうな顔でこちらを睨んでくる。

 二階建ての聖堂だが、どうも二階部分は身廊を見下ろせるよう左右に通路があるのみで、一階部分も相当高い為か、天井部分は10m以上の高さにあるように思える。相当古い建物のせいなのか、それとも修繕費が無いのか内装は所々に剥がれ落ち、積み上げられた煉瓦が見え隠れしている。

 しかし中央祭壇の後ろに控えるステンドグラスは中々に絶景であった。天から降り立つ天使へ祈りを捧げる聖女が描かれており、雲に紛れた月明かりが時々差し込む度に、室内には紫や緑、黄色に赤といった優しい煌めきが立ち込める。

 ただし無粋にもムー連邦兵は数々のバリケードを構築しており、今も必死に小銃を手に取ってこちらへ弾を浴びせかけてきた。

 乱雑に積み上げられた資料がまるで、手品で披露される鳩のようにヒラヒラと空を舞い、破片と土煙に硝煙が霧のように立ち込める。食い散らかしたレーションがカンカンカンと鳴子のようにばら蒔かれ、咳と悲鳴が戦争音楽を奏祭る。

 

「流石にキープ(本丸)ですし、必死か……」

「感心している場合か、行くぞ!!」

 

 玄関から雪崩れ込んだ降下猟兵達は急いで最寄りの柱や遮蔽物へと身を隠すが、運悪く数人がバリケードに据えられた機関銃に撃ち抜かれ、もんどり打って地面へと倒れ伏す。

 一分一秒を重んずる室内戦であるからどうする事も出来ない上、だいたいの兵士は即死していた。物陰から倒れた戦友を引っ張り、改めて戦死を確認して叫び声を上げる新兵の数々。それを古参兵が咎めて殴り飛ばす光景が敵味方双方で繰り広げられた。

 

「うわっ!?」

「ギャッ!!」

 

 障害物の裏側に隠れていた筈の味方が何人か打ち倒された。一応教会内は作戦室として使用する為の電球が吊り下げられたりしていたのだが、その殆どは戦闘の流れ弾によって破壊されるか、発電機が故障して付かなくなってしまっていた。

 それ故に室内は比較的暗く、それが原因で編入されて日が浅い兵士は暗闇に慣れていなかったのだ。訝しがって夜目が利く古参兵達が確認してみると、彼等が仮初の弾除けとして使っていた品物を見て驚愕した。

 

「教会椅子の裏に隠れるな、貫通するぞ!!」

 

 何も考えず、銃弾から逃れたいと言う本能に従いチャーチチェアの裏側に隠れた事もあったのだろう、対象物の厚さを測り損ねた哀れな兵士が次々と倒れていく。

 ムー連邦軍の軽機関銃は対物射撃に優れた7.62mm仕様、バキバキと神経に触るような音を立てて薄い木製の背板が崩壊していき、それに追い立てられた者が今度は5.56mmの弾丸のシャワーを浴びる。

 対してグ帝降下猟兵はと言えば、初手で猛烈な弾幕を張られたばかりに中々42型機関銃を運び入れる事が出来ない。

 如何に出現当初から大分軽量化されたとは言え、機関銃は機関銃だ、総重量11.6kgもある。

 しかも本来は防衛用である上に、狭所ばかりで取り回しの良い武器が何よりも重要とされる室内戦で持ってこれる筈もない。

 えっちらおっちらと重たい銃を運んでいれば、ただ鴨撃ちになるだけだからだ。状況は明らかに防衛側が優勢……

 

「くそっ、流石に司令部とあってか抵抗が激しすぎる!!」

「このまま兵力に物を言わせてゴリ押しするか!?」

「そんな無茶な、いたずらに損害が増えるだけですよ!!」

 

 突撃銃を撃ちまくりながら愚痴を言い合う兵士達、当然、このままでは埒が明かないのは自明の理。急報を聞き付けた敵の周辺部隊がやって来て我々を包囲するかもしれない。そうなれば拙い、大変不味い。

 軽歩兵である以上重火力は持ってきている訳がないし、だいたい手元の弾薬は無限ではないのだ。

 幾らレジスタンスへ事前に渡していたり、共同して物資をかき集めたとは言え、使えば減る物だ、ナイフだけで今後を凌ぐ気はさらさら無い。

 

「くそっ、どうする……?」

 

 手持ちの弾薬が尽きた為に敵兵が握っていた銃──それは日本がムーに輸出していたAR-18であった*1──で敵兵を一人、また一人と処理していたエッケハルトは、現状を打開する方法を模索していた。

 

 しかしこれが、中々思い付く話ではない………

 

 例えば、部隊で野球をやっていた兵士に手榴弾を投げさせる事を考えてみたのだ、天井まで結構余裕があるのだから、思い切り投げても跳ね返ってはこないだろう。しかし、この状況では投擲する間もなく、早々に的となって蜂の巣にされるだけだ。

 とてもじゃないが、優秀な兵にリスクが高い賭け事はさせたくは無かった。士官としては褒められた考えではないだろうが、無駄死にを回避しようとする点は評価できる。

 彼の額に冷や汗が流れる、どうすれば良いんだと目を見開いて活路を見出だそうとすると、するとどうだろう、ムーの機銃座の後ろにある闇の中に隠れた、古くカビが生えた木製の扉があるではないか。思わず口角が上がる。

 

「おい、無線機でエドヴィンを呼び出せ」

「は、はいっ」

 

 多数の銃撃を浴びせられながらも、無線手は慣れた手つきでエドヴィンに通信を繋ぎ、エッケハルトの秘策を簡潔な命令として電波に乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

教会裏 共同墓地

 

 命令を受け取ったエドヴィンは、受話器を無線機のホルダーに戻すと、苦笑いしながら教会の方へと向き直った。

 

「成る程、教会の勝手口が北側にある筈だと、ねぇ……」

 

 月を背後に従えた鐘楼。白き光のベールを纏って幻想的な雰囲気を醸し出している摩天楼。だが──

 無粋にも頂上付近から散発的な雷鳴が轟いていた。そりゃ村を一望できる絶好のポイントなのだから仕方がない、俺だって機銃を据えるわな、と彼はうんざりとした顔でトンガリノッポを見つめていた。

 

「なぁおい、対戦車猟兵や擲弾筒手を呼び出す事は出来るか?」

「無理ですね、至る戦線で引っ張りだこですよ」

「それは困ったなぁ……多分狙撃手も余裕が無かろうし、うーん……」

 

 目線を下げると、こんどは打って変わって陰気な雰囲気を漂わせる墓地群が広がっていた。教会の裏は墓場、この原則は異世界でも変わらない、腹が立つ事に。

 腕を組んでウンウンと唸る彼の肩をトントンと叩く者が居た。首をゆっくりと回してみれば、居たのは顔中を泥塗れにして、何故かニコニコ顔でいるレジスタンス組織の青年である。

 

「あー、なんだ?何かあったのか?」

「いやですねぇ、コレ、使ってみませんかね?」

 

 指を差した方向に目線だけを向ければ、43型88ミリ対戦車ロケット砲に似ているが、それよりかは一回り短い鉄の筒が鈍く黒光りしながら木箱の中に鎮座していた。

 

「政権軍が愛用している無反動砲ですよ、さっき貴方達がロケット砲を使っているのを見て思い出したのですがね、これで陣地を攻撃すれば……」

 

 浮かれ顔で彼が指すのは、これまた日本がムーに提供したM2 カールグスタフ無反動砲であった。

 1979年に導入された初期型モデルであり、今改めて使うとなると使い勝手の悪さが目立つ。本場の陸上自衛隊では、これを元に改良を施したモデルを生産しこれを更新している。

 そのため更新で追いやられたこれら無印型は、他の日本製兵器と同様、外貨獲得目的でムーに提供されていた。

 

「使えるのか?」

「オレは大砲の事解んないですけど、幸い元政権軍の知り合いがここに居るんで、彼に頼めば多分」

「よし、やってくれ」

 

 そう言われた二人のレジスタンスたちは、ニコニコ顔で手分けして作業に取り掛かった。木箱の中に収められていた無反動砲を取り出し、それを射手役が肩にかついで構えた。

 隣の箱から砲弾のような小さい弾薬を取り出すと、後部口を開き横にスライドさせ、砲尾にそれを突っ込む。非常に慣れた手つきだった。

 

「後方確認……発射用意……発射ぁ!」

 

 射手が引き金を引くと、カールグスタフの撃発機構が薬莢側面の雷管を叩いた。心地よい砲撃音と共に、教会目掛けて84mm榴弾が放たれた。

 教会裏の墓地から放たれた砲弾は、緩い放物線を描きながら教会の裏手に直撃する。84ミリ榴弾が直撃した鐘楼は、ウニのような白煙を上げて吹き飛んだ。

 恐らく経年劣化か、はたまた銃撃によるせいなのか、崩壊しかけていた柱はトドメを刺されてしまい、あろう事か三角帽の屋根は今なお墓地で抵抗を試みる政権軍の頭上に落下、そして瓦礫の山によって彼等を”埋葬”したのだ。

 それは神聖な建物である教会を司令部にし、魔改造の限りを尽くした罰当たりな者に対する、神からの天罰だったのであろうか?

 

 もくもくと粉塵が巻き起こり、とてもではないが突入出来ないので様子を窺っていると、数十秒後には何とか状況が確認できる程度には視界が晴れた。瓦礫の山や人体の一部があちらこちらへ散らばっている。その傍らに色々な敵兵士がゆっくりと蠢いていた。

 人影だと確かに解ると言うのに、その全長は成人男性のほぼ半分程度しかない人間が地を芋虫のように這って動いている。それは、両足を瓦礫で切断された不運な兵士に違いない。

 体の左半分が無くなっている兵士が、所在なさげにフラフラとさ迷っている。それは、左腕を引きちぎられた不幸な兵士に違いない。

 この世の地獄のような光景がそこにあった、幾ら狼藉を働いていた連中とは言え、ここまでの生き地獄を強要させる事なんてあるだろうか?

 

──ダン!ダンッ!

 

 虚しく銃声が響き渡る、その音は隣にいるレジスタンスの猟銃の銃口から出てきた音であった。

 

「お、おい……」

「…………」

 

 情けの一撃とでも言うのか、それとも憎き現政権兵士への復讐の一発とでも言うのか。若い降下猟兵が声を上げるが、不思議とエドヴィンは一連の出来事に心が揺れ動く事は無かった。

 

──何故なら、彼もまた心が憎しみに壊れかけていたから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

教会跡地 地下

 

 教会の崩落を機に、リムイユ村での戦闘は一旦収まった。司令部が破壊されたと思った残りの政権軍兵士らは、鐘楼が崩れた時点で残りのトラックや装甲車に乗り込み、尻尾を巻いて散り散りに逃げていったのだ。

 それに追いつく足を持ち合わせていない降下猟兵らは、ひとまず追撃を止め、リムイユ村にて朝を待つこととした。

 

「ほう、地下に周辺の地図が……」

「はい。ところどころ破けていますが、重要な情報源になりますよ」

 

 天井が崩落し、風通しが良くなった教会跡地にて。エッケハルトは、エドヴィンが崩落し埃だらけになっていた教会の地下から見つけ出してきた周辺の地図を見聞していた。

 エドヴィンによると、教会の地下は神父の寝室として使われていたようであり、ベッドなどは片付けられ、テーブルや椅子が置かれていたという。察するに、政権軍の士官たちが臨時の司令室として使っていたのだろう。

 突入したエドヴィンによれば、身なりのいい制服を着た隊長クラスと数人の下士官が、崩落した床の瓦礫に押しつぶされていたという。そして潰れたテーブルの上に置いてあったのを拝借したら、地図だったのだという。

 

「見てください、簡単な部隊配置もメモされています。ここの周辺を囲って"114inf"と書かれていますので、駐屯していたのは政権軍の第114歩兵師団の歩兵部隊と思われます」

「他の村にもそれぞれ1個中隊……ならここら一帯の幹線道路沿いで一個連隊ほど。そして南側の橋の近辺にもう一個連隊が同様に配備、そんなところか」

 

 エッケハルトは持ち前の想像と洞察力を用いて、周辺に展開していると思しき政権軍部隊の規模を予測する。自分だったらどう部隊を配置するかなども、考えに交えつつの考察だ。

 エドヴィンが拾ってきた地図は数枚あり、他の地図と照らし合わせてみる。どうやらエッケハルトの予想は大体が的中してそうだった。

 

「各幹線道路に一個連隊ですか……しかし、各連隊に"戦闘団"という名称が付けられているのは気になりますね」

「直訳すると"連隊戦闘団"か?そういえば確か、ニホンのジエイタイとやらが戦闘団方式だと聞いたな」

「政権軍のほとんどの部隊は、ニホンによって近代化されていますので、編成もそれに倣ったのでしょう」

「ふむ……だが他の中隊が襲撃した村と合わせると、奴らはあの夜のうちに3個中隊を失っているはずだ。結構な損害は出せている」

「畳み掛けるなら今ですね……」

「まあ待て、今日の夜には重装備を持ち合わせた増援が来るはずだ。それまではRZアルファを保持しなければならん」

 

 何とも歯痒いことであるが、自分たちは降下猟兵だ。降下地点を敵の襲撃から守り続けなければ、増援も補給も迂闊に降下できない。そらからの補給路が絶たれれば、自分たちは敵地に孤立することになる。

 

「とりあえず、今は村の陣地化と大隊長への報告を行う。彼はもうすぐここに視察に来るはず……更なる攻撃はまた夜になりそうだな」

「分かりました。では昼の間は村を守備することに徹しましょう」

 

 報告を終えたエドヴィンは、エッケハルトに敬礼を送ってそのまま教会から退室する。裏手は瓦礫の山になっているので、律儀に正面玄関から立ち去っていった。

 残ったエッケハルトは、周りの兵士たちを一瞥し、あえて開けた場所に向かってタバコを取り出した。

 貴重な嗜好品であるが、構わず取り出し一本に火をつける。天井が崩落し、開けた場所になっているので煙の匂いも気にならないはずだ。

 

「さて…………」

 

 ほろ苦いタバコを口に咥え、軽く息を吸い込む。タバコの匂いを口に漂わせ、淡い快楽に頭を揺らす。

 しばらくしてから、タバコを口から取り出す。深く息を吐いたエッケハルトは、開けた空を見上げながら、自分たちの行く末を案じる。

 祈りを捧げる聖女のステンドガラスは、首から上が破壊され、見るも無惨な有様だった。

 あわよくば、こうして人を殺めた自分たちに天罰が下らないように願うばかりだ。

 

*1
AR-18は豊和工業がかつてライセンス生産しており、生産性が非常に良いことから新世界諸国への輸出用として再生産が行われていた。




・情報コラム

『ムー連邦軍の練度問題』
 ムー連邦統治地上軍は平時から40個師団規模の兵員を抱える一大軍事組織であるが、その練度には一抹の疑問が残る。
 ほとんどの兵士は徴兵などで入隊した若手で占められ、大体が高い訓練経験を積む前に徴兵期間が終わるので、実際には書類上の兵員数より戦闘力が低いとされている。
 これは前線となる国境線が西側に偏っており、精鋭部隊は都市部に固めて配置し、徴兵経験者は有事になってからまた再訓練させることでも十分対応できたからである。
 そのためムー連邦の徴兵は、「とりあえず短くてもいいから兵役経験を積ませる」ことを重視し、練度問題は半場放置気味であったという。平時はなるべくこう言ったコストを削るのが吉ではあるが、今回の紛争では練度や士気に関わる大問題と化してしまった。
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