新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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お久しぶりです。
また更新いたします。


第四十二話『それぞれのプライド』

連邦での内戦発生から3日後

日本国 首相官邸

 

 情報省には、偵察衛星からの画像情報を集約分析する『衛星情報センター』という部署が存在する。かつては内閣情報調査室(内調)に置かれていたが、情報省発足に伴って内調ごと編入された部署だった。

 そのセンターの所長は現在、首相官邸に出向き、首相、官房長官、外相、防衛相、情報相の5大臣会合による国家安全保障会議(NSC)*1に参考人として出席していた。

 ムーでの内戦勃発とグラ・バルカスの介入を受け、急遽開催されたNSCに所長が出向いているのは、元自衛官でこの手の情勢の説明に最適だったからだ。センターの所長は内調時代から代々、自衛隊を退役した将官が務めている。

 

「こちらが、ムー連邦東岸の都市を写した偵察写真になります」

 

 所長がそう言うと、室内の大型モニターに複数枚の衛星画像が写された。

 

「ムー連邦の各地に、グラ・バルカスとミリシアルの連合部隊が空挺部隊を派遣しました。既に現地では戦闘が開始されています」

「これは……やはり先手を打たれたか」

「はい。しかも重大なのが、ムー連邦国内の反乱分子がグラ・バルカス帝国とミリシアル帝国の部隊を歓迎し、共闘しているところです」

 

 所長が見せた衛星画像には、ムーの民間空港に着陸した多数の輸送機と兵士、そしてそれらを歓迎するように取り巻くムーの群衆が写されていた。

 また別の衛星画像には、ミリシエント大陸からムー大陸に向かって海上を飛行する輸送機と輸送用グライダーの大編隊が映されている。いずれもグラ・バルカスとミリシアルが運用している機種だった。

 

「……なるほど、ムーの国内が荒れたのを見計らって空挺軍を送り込んだのか。やはり情報省の懸念通りだったな」

「ええ、我々が遠くに気を取られているその間、彼らは庭先の反乱分子を支援し、こうなることを見越していたのです。偵察衛星の数が少なく、第一、第三文明圏にそれが集中していたのも仇でした」

 

 偵察衛星網の整備は依然、進んでいなかった。

 転移で失われた衛星網を修復すべく、種子島宇宙センターは全力稼働の状態で人工衛星の打ち上げを続けているが、偵察衛星の数はまだまだ少ない。

 日本が転移したのはムー大陸から6,000kmも離れた絶海で、転移直後に船舶や航空機の遭難も起きたために、偵察衛星よりもGPS衛星と通信衛星の整備が優先されたからだ。

 

 ──いや、問題はそれだけではない。

 

 かつて国内で餓死者が発生する寸前までなった以上、食糧生産に多大な影響が出る気象情報を把握するための気象衛星は絶対必須だったし、転移で世界地図の書き換えが必要になったから、地形観測に観測衛星の整備も急務だ。4年前には大規模な太陽嵐が観測されたため*2太陽観測衛星だって必要である。

 しかもこの星は地球よりも遥かに巨大なので、GPS衛星にせよ偵察衛星にせよ、惑星全体をカバーするには地球よりも倍の数の衛星が必要となる。

 それどころか惑星が大きいせいで打ち上げロケットのペイロードが低下する問題が起きており、経済性の良いイプシロンロケットはペイロード不足で使えず、イプシロン以下しか打ち上げられない内之浦宇宙センターも使えない。

 経済性度外視でペイロードを倍増させる設計改変をしたH3ロケットの実用化で多少マシになったが、それでも衛星の軌道投入は種子島の射場をキャパオーバー寸前まで稼働させてやっと、というのが実状だった。

 そのせいで現在までに打ち上げられた偵察衛星の数は8基しかない。やむをえず地形観測用の光学観測衛星すらも偵察用途で兼務させ、新たな射場の建設も始めているほどだった。

 それでも現時点の運用基数では仮想敵国の常時監視はとても不可能であり、大半の偵察衛星は仮想敵国の上空に貼り付け、それ以外の衛星で各国の首都や基地などを定点撮影して分析するのが精一杯であった。

 不可抗力とはいえ、偵察衛星網を完璧な状態へできなかったことに武田首相は苦い顔をしつつ、所長に今の状況について質問する。

 

「……敵の予想兵力は?」

「ムー国内の反乱分子、民兵組織、元正規軍、さらにミリシアル、グラ・バルカスの部隊を合わせるとオハタイト付近だけで30万以上です」

「さ、30万……」

「今後もし世界連合の各国が参戦し、本格的な派兵が行わればさらに増えるでしょう」

 

 絶望的というに相応しい状況だった。

 

「……現地の状況は?」

「それについては私から。防衛省で分析したところ、ムー連邦の国民と軍隊同士で争いが起きていますが、装備の質では政権軍有利です。しかし、グラ・バルカスとミリシアルの援護を受けた反政府軍の方が巻き返しつつあります。政権軍は苦戦を強いられるでしょう」

 

 厳田防衛大臣が告げた防衛省の分析は、事前からムー連邦統治軍における日本製装備の普及率と、反乱を起こした部隊の所在を突き止めて割り出したものだ。

 あくまで予想に過ぎないが、これからグラ・バルカスやミリシアルの支援、もしくは本格参戦があれば政権軍はジリ貧になる。

 

「私からも一つ懸念が……問題なのが、現地の商社への出張などでムー国内にいる邦人が多数います。外務省で把握している限り、その数はおよそ2万人です」

「邦人が2万人?それはまずい、もし彼らが殺されでもしたら……」

「彼らの安全のため、邦人には国外脱出命令を出しましたが……海路はともかく一部地域では空路も押さえられています。陸路でムー国境を渡るというのは、無理があります」

 

 外務大臣からの報告も絶望的と言えた。

 陸路でムー国境を渡るには日本企業が整備した幹線道路を通るしかないが、その道路のほとんどは政権軍や反乱軍の進軍ルートな上、そもそもの距離も遠い。

 国境線を渡りさえすれば良いのかもしれないが、マイカルから国境線までは陸路で約300キロ、オタハイトからに至っては約800キロ以上も移動する必要がある。

 この数字は東京から名古屋、東京から広島までの距離に等しい。ましてや道路は使えず、戦場を避け、自家用車の燃料の補給もままならない状態での脱出はかなり難しいのだ。

 

「防衛大臣、救出のため、自衛隊を派遣するのは?」

「それについては、すでに空自の輸送機部隊をレイフォルに移動させました。また、陸自の即応部隊(中央即応連隊)と第2ヘリ団*3が即応状態のままレイフォルで待機中。現地駐留の第7師団等にも、陸路からの救出も視野に出動準備を急がせています。準備が整い次第、命令あらばすぐにでもムーへ展開させられます」

 

 レイフォル戦で現地に上陸し、レイフォル軍残党と死闘を繰り広げた陸自の第7師団や第8師団などは、レイフォル戦の終結後も治安維持や敵残党処理を名目にレイフォルでの進駐を継続。

 彼らは終戦と同時期に急増した新入隊員や徴用自衛官で構成された新編の師団/旅団と合流し、レイフォリア方面隊やレイリング方面隊として再編成されていた。

 それらは日本にとって事実上の新たな領土かつ生命線となったレイフォルを守るために展開しており、ムー大陸での内戦発生後は速やかに戦闘準備を整えつつある。

 

「そうか。なら──」

「しかし、肝心のムー政府が我が国の本格介入を渋っています。ムー政府からの要請がない今、それを行うのは侵略行為と見做されます。奴らの思う壺です」

「なっ……こんな時に限ってか?」

 

 正式な要請がない中での他国の介入は、この世界でも侵略行為とみなされる。そうなれば日本側の正当性が無くなり、グラ・バルカスやミリシアルだけでなく、ありとあらゆる国が参戦することになるだろう。

 

「仮にも列強国ですし、あっちの政治家にもプライドがあるのでしょう」

「今まで散々我が国の言いなりだったってのに……いや待て、ならグラ・バルカスやミリシアルも侵略じゃないのか?」

 

 これは話を聞いていた武田首相も、当然のように思う疑問であった。確かに立場は違えど、グラ・バルカスやミリシアルがやっているのは反政府勢力の支援、つまり侵略である。やっていることはもっと酷いはずだ。だがこの疑問に関しては、情報担当大臣が苦い顔をして否定する。

 

「いえ、内戦の勃発直後から()()()()()()()を名乗る何者かが世界連合に救援要請の電波を飛ばしています*4。敵方には介入する大義名分があるのです。だいたい、彼等は名目上はムー反乱政権軍に荷担する”義勇兵”と言う立場でありますから………」

「なんてこった……先手を打たれたか。なら、少数でいいから邦人救出部隊を派遣できないか?こういうのは特殊部隊の仕事だし、少数ならムー政府だって認めやすくなるだろ」

「それなら可能かも知れませんが、少数規模で2万人もの邦人救助は不可能です。流石に救助者の数が多すぎます」

 

 少数精鋭の特殊部隊とはいえ、流石にそこまでの膨大な数の邦人を輸送する手段がないのだ。派遣したところで焼け石に水でしかない。

 

「一応、すでに空自とムー空軍で共用協定を結んでいるオタハイト第Ⅰ空軍基地*5へ、連絡機の名目でC-2輸送機を派遣して邦人退避を開始しています。ですが、共用協定を結んでいる空港はそこだけですし、それに政権軍が安全を確保しているオタハイト一帯はともかく、マイカルなど他の都市では輸送機の展開どころか安全の確保すらままなりません」

 

 防衛大臣がそう言うように、オタハイト一帯での邦人退避はすでに始められていた。空自は最近配備し始めたばかりのC-2輸送機〈改〉*6を大挙して送り出し、すでに2,000人近い邦人を空路で脱出させようとしている。

 だが仮にも安全の確保されているオタハイトの邦人より、反乱軍支配下にある危険地帯の邦人の方が避難の優先度が高いのは言うまでもなかった。

 また、オタハイト以外の安全地帯に関しても、オタハイト第Ⅰ空軍基地のように共用協定を結んでいる飛行場がないことから連絡機という建前も通らず、多数の邦人が不安なまま現地で脱出機を待っている。

 ムー政府が要請しない限り、本格的に動くことは難しいだろう。

 

「やはり、本格的に事を起こすには、ムーからのアクションが必要か……」

「いまは我々外務省がムー連邦と秘密裏にコンタクトを取っておりますが、それ故に時間が掛かっている状況ですからね……」

「やむを得ん。防衛大臣、自衛隊に本格介入の準備を急いでくれ。それから先んじて特殊部隊の投入を行い、邦人を救出する」

「分かりました」

「邦人は必ず救出いたします」

「それと情報省、外務省、防衛省で情報収集も行っていただきたい。今はとにかく情報を集める。スパイでも偵察機でも何を使っても構わない。本格介入が出来ない以上、他にやれることをするしかあるまい」

 

 ムー政府の判断に懸かっている以上、日本政府に出来ることは少なかった。

 いや、むしろ日本側は内戦勃発から3日と経たずに「連絡機」の建前で脱出機を送り、本格介入の準備も進めているのだ。

 まだ介入できないとはいえ、短日の間にここまでやった上で無能と罵るのであれば、それは内情を想像するだけの発想力すら欠落している只の馬鹿者でしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 第二文明圏標準時刻13時38分

ムー連邦 アイナンク国際空港

 

 ムー連邦各地に戦火が飛び火しつつある頃。

 日本資本によりジャンボジェット機の就航を可能とする大規模な改修工事が行われたムーのアイナンク空港でもまた、激しい戦闘が起きていた。

 

「ニホン人をこの国から一掃せよ!突っ込め──ッ!」

「「「ウォオオオ──!!」」」

 

 現在、アイナンク空港にはムー全土で発生した内乱から逃げてきた日本人が殺到しており、それを追ってきた反乱軍兵士や民兵たちが押し寄せようとしている。

 

「全警官へ、武装勢力の空港侵入を許すな!」

「傭兵各位、この空港を守り抜け!報酬分の仕事はしっかりとやれよ!」

 

 これに対し、邦人を保護するため派遣された日系民間軍事会社と、空港警備のために日本の都道府県警察から派遣されていた警官らが共同して交戦しているのだった。

 日本政府は空港を実質的に租借地とし、空港警備のために民間軍事会社と警官隊を展開させても良いと、ムー連邦中央政府に認めさせているのである。

 当然ムーの人々は良い顔をしなかったが、対価に通商諸権利や兵器輸出の優遇を行うことで、日本はムーの政府要人の首を縦に振らせている。

 

「武装勢力が空港の全周から押し寄せてるぞ!」

「撃て、撃ち続けろッ!」

 

 反乱軍に対するは、日本全国の都道府県警察から出向し、アイナンク空港に配備された警官ら250人で構成される空港対テロ警備隊である。

 空港警備隊の警官らは自分たちに配備された豊和工業製AR-18アサルトライフルを構え、空港施設内から反乱軍の兵士に向けて断続的に5.56mm口径弾をぶち撒く。

 AR-18は元々1970年代に豊和がライセンス生産していた銃で、新世界諸国への輸出用として再生産された。生産性が高いので安く、性能もまぁまぁ良いことから各都道府県警察でも採用、大量に配備されている。

 それ以外にも空港施設の屋上に陣取った特殊部隊SATと機動隊の狙撃班が、これまた豊和工業製のM1500狙撃銃で援護射撃を行い、敵兵を寄せ付けない。

 空港警備隊はテロや戦争などの非常時に備え、AR-18などの火器、弾薬などを大量に空港に備蓄しており、さらに警備車と称した警察用装甲車も多数配備していた。

 転移前なら国際社会から非難轟々となるであろう非常識極まる行為だったが、転移後の数々の経験は日本人をしてそこまでの変容をもたらし、現地国政府から強引に許可をもらったのだった。

 

『滑走路に民兵が侵入しつつあり、至急増援を乞う!』

『ダメだ!どこも人員が足りてない、自衛隊が到着するまで持ちこたえろ!』

『拳銃でもライフルでもガス銃でもいい、全部持ってこい!警官も全員投入だ、空港警察署の連中も総動員させろ!』

 

 空港警備隊は今回の戦闘に全力を投入していた。

 元から警備活動を想定していた機動隊員や、騒乱直前に本国から緊急派遣されてきた特殊部隊SATの隊員だけでなく、空港警察署の制服警官まで総動員されている。

 中には水色の制服に「POLICE」と大書きされた防弾チョッキを羽織り、交通統制用の白ヘルメットか自衛隊払い下げの66式鉄帽を被らされただけの制服警官が、AR-18やニューナンブM60リボルバーを持たされて戦っている姿も少なくない。

 空港交番の若い女性警官が、明らかにサイズの合っていない防弾チョッキを制服の上に着せられ、AR-18を手に銃撃戦へと駆り出されている光景まであった。完全なる総力戦である。

 

「正面からゲリラが突っ込んでくるぞ!撃ち続けろ!」

「ガス銃分隊はガス撃てッ、催涙ガスを煙幕にするんだ!」

 

 特に空港前の駐車場では激しい銃撃戦が起きていた。

 警備隊は駐車場にパトカーや警備車を配置して即席のバリケード兼遮蔽物とし、さらに催涙ガス弾を発射して煙幕とすることで、反乱軍への銃撃を続けている。

 対する反乱軍は練度の低い非正規兵や民間人出身の暴徒も多く、ガスで視界と呼吸を遮られながら無謀な突撃を繰り返し、警官隊の自動小銃の連射に仕留められていく。

 もっとも、空港警備隊の方も機動隊員やSAT隊員以外は促成でAR-18の扱い方を習得させられた警官が多く、射撃の練度が高くない点ではどちらも大差なかったが。

 

「くそっ、なんで俺達自衛隊みてーなことさせられてんだ?自衛隊に行きたくないから警察に入ったってのに」

「知らねーよ、愚痴る暇があったら早く撃て!」

 

 若い警官が弾倉交換しながらボヤき、それを別の警官が咎めながら撃ち続ける。

 徴用自衛官制度は警官や消防士などの特定職に就いている場合、招集を免除される。さらにパガンダやレイフォルの治安維持に大量の警官を派遣する必要に迫られた警察庁は、警察職員の定数を大幅に増やし、採用基準も一新して警察官の大量募集を始めた。

 これにより徴用自衛官として自衛隊に招集されたくない一部の若者たちが、こぞって警官を目指すことになったわけである。

 

──大抵の場合、彼らは警察学校で教官達から徹底的にしごかれまくり、自身の判断を強く後悔したのだが、それはまた別の話。

 

 そしてその中の一部は今こうして自衛隊まがいのことをさせられており、「自衛隊に入るのと同じじゃねーか!」とさらに後悔することになった。

 

『こちらターミナルビル屋上の狙撃班、バスターミナル方面より敵戦車侵入!』

 

 空港敷地内のバスターミナルから反乱軍の戦車──内乱前から反政府勢力のもとに密輸されていたグラ・バルカス帝国製の2号中戦車ハウンド1が空港に侵入する。

 主砲を対戦車戦闘に適した47mm砲に換装した改良型ハウンド2の充足と、後継として開発された3号中戦車の配備により帝国陸軍から余剰となったハウンド1は、粗雑なムーの税関の監視の目を潜り抜け、反乱組織の下へ届けられたのだ。

 

『……あっ!』

 

 ハウンド1は自身よりも二回りも大きな日本製リムジンバスの残骸を避けて空港に侵入すると、砲塔を旋回し、空港施設の屋上に陣取っている機動隊狙撃班に向けて57mm砲の照準を合わせた。

 しかしそこへ別方向から対戦車ロケット弾が飛来しハウンドに直撃、一瞬で車体が内側から膨れるようにして弾け飛んだ。

 

『敵戦車、ロケット弾により沈黙!』

「ロケット?どこにそんなモンあった?空港警察署には無かっただろ」

『何とぼけてんだ、PMCのロケット弾だよ!』

 

 2号中戦車ハウンドを撃破したのは、警官とともに籠城戦を続けるPMC──日系の民間軍事会社「ブラックマリン・ジャパン社」の傭兵が放ったものだった。

 徴用自衛官制度が成立する少し前、日本政府は防衛力向上の一環として国内での民間軍事会社(PMC)設立を後押ししており、ブラックマリン・ジャパンはその際に複数のPMC日本支部が合併する形で誕生した企業だ。

 彼らは内乱発生前からムーに事業展開する大企業が護衛、警備目的で雇って展開させており、今現在は彼らの雇い主が避難しているアイナンク空港にて、警察とともに攻防戦を繰り広げている。

 傭兵が敵戦車に向けて発射したのは、北方領土のロシア軍倉庫から購入、回収したRPG-7V2対戦車擲弾である。

 日本国内で個人所有していれば間違いなく検挙確定の兵器であるが、PMCに関しては政府の厳しい監査の下でなら保有を許されていた。それに、対戦車兵器を持たない警官隊からすれば、彼らはこの上なく心強い味方である。

 

『あっ、バスターミナル方面からさらに多数の敵部隊が侵入中!PMC社員が交戦を開始!』

 

 反乱軍はハウンド戦車を先頭に突撃を仕掛けようとしていたらしく、戦車の突撃したバスターミナルに反乱軍兵士がわらわらと溢れ始めた。

 しかし肝心のハウンド戦車はRPG-7V2で撃破されてしまい、代わりにブラックマリン社の傭兵達が現れて銃撃を加える。

 RPG-7V2と同じくロシア軍倉庫から回収したAK-74M、米軍相模総合補給廠から回されてきたM4A1カービン、あるいは警察と同じAR-18などに各種カスタムを施して武装した傭兵たち。

 彼らは転移前に兵役経験を積んだ外国出身者が過半数を占めており、その練度の高さにより反乱軍兵士を次々と仕留めていった。

 突撃してきた反乱軍兵士30人弱に対し、ブラックマリン社の傭兵は僅か10人程度だったが、僅か5分で反乱軍側を撃退し制圧していた。

 

『……報告。バスターミナル方面から突撃してきた武装勢力はPMC社員らが撃退に成功した模様』

「すげえな、もう制圧か。やっぱりPMCは練度高えわ……」

「そりゃ、アイツらは戦場のプロだからな。警備目的の俺たちとは格が違うのかもしれん」

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

アイナンク国際空港 西に20km上空

 

 空港までに続く曇天の空路を、単縦陣を組む複数の大型輸送機が進んでいた。鯨を思わせる青灰色の塗装が目立つその機体は、低空を縫うように這いながら目的の空港までゆったりと飛行し続けていた。

 航空自衛隊第402飛行隊が保有するC-2輸送機の群れは、条件付きで派遣された政権軍の新鋭機にエスコートされながら、アイナンク国際空港への強行着陸を試みている。

 日本国外務省の半ば脅迫じみた交渉でムー連邦中央政府が邦人退避()()認めたことで、ようやくオタハイト以外の空港や飛行場での邦人退避が始まろうとしていた。

 

「まもなく空港上空に入ります!」

「よし……ガンシップは先行しろ、地上掃討だ。SAMがいないとは限らない、無茶はするなよ」

『了解、先行します!』

 

 指揮官の命令を受け、C-2改に先んじて国際空港の上空に突入したのは、機体各所に大量のロケットポッドと機銃を搭載した”AC-2ガンシップ”の二機編隊だ。

 その名の通りC-2をガンシップに改造した貴重な兵器で、この仕様は後装式に改造した120mm重迫撃砲や、新型装甲戦闘車用に開発された40mmCTA機関砲、ライセンス生産品のJM61A1 20mmバルカン砲など、多数の地上攻撃用兵装を同時に搭載している。

 今回の連絡便にはC-2が編成されたため、同じ航続距離と飛行性能を持つC-2改造機の本機が連絡便の護衛として駆り出されていた。同じ機体でまとめた方がこの様な任務においては適切である。

 

「空港上空に到達、これより地上支援を開始します」

「赤いスモークが見える!あれだ!」

「バルカン砲対地掃射、てぇっ!」

 

 地上で反乱軍と必死の籠城戦を行っている空港警備員たちを援護するべく、AC-2は戦闘を開始した。駐車場方面から政権軍が突撃を敢行したのを狙い、バルカン砲による掃射を反乱軍に浴びせる。

 丁度ブラックマリン社の隊員が赤いスモークを敵側に向かって投げたため、AC-2は味方を誤射することなく地上の反乱軍を蹴散らすことができた。

 

「AC-2がもう一度フライバイしたら着陸態勢に入る。政権軍機、エスコートは頼んだぞ」

『了解。こちらも連邦空軍の師であるニホン空軍を護衛できるのは光栄だ。貴隊はそのまま空港へ直進せよ、背中は任せてくれ』

 

 輸送機を護衛するのは、政権側の連邦空軍の機体だ。許されたのが連絡機のみという都合上、空自戦闘機による輸送機の護衛は認められず、政権軍の機体がその役目を担っている。

 政権軍の飛行隊なだけあって、装備している機体はマリンではなく、日本製輸出用ジェット戦闘機に更新されている。

 わざわざ前線での航空支援を切り上げ、本作戦に駆り立てられた部隊であるが、パイロット達は自分達優先なのか不平不満は言わなかった。

 どちらにせよ、政権側の貴重な航空戦力を使わせてもらっている日本の立場が、ムー連邦にとって如何に大きいかが窺い知れる。

 

ウズメ(空自E-767)よりサラマンダー隊(政権側飛行隊)へ。方位210より、速度200ノットでボギーが多数接近。国際空港へ向かっている』

 

 後方から作戦を管轄する空中管制機より、護衛機に警告が送られる。護衛機側はデータリンクに対応していないため、パイロットはその連絡をもとに、自機のレーダーに注目した。

 

「こちらでも確認した。ざっと40はいるな……速度から見て反乱軍のマリン改だ」

『隊長、やりますかぁ?』

『もちろんやりますよねぇ?こっちは新しいキルマークを描きたくてウズウズしてますよぉ』

 

 獰猛な狩人のように、部下のパイロット達が空戦を望む。部隊の隊長はマリン改程度なら即座に排除できると考え、隊員のガス抜きも兼ねて命令を下す。

 

「フンッ、もちろんだ。アルファ分隊が敵機を要撃、これを排除する」

『よっしゃ!』

「んで悪いが、ブラボー分隊は引き続きエスコートを頼む」

『えー、俺たちゃ貧乏くじですかい?』

「そう言うな。師匠を護る名誉の任務だぞ」

『チェッ……』

 

 そう言って飛行隊の隊長は、日本製の新たなる愛機──T-4B多目的練習機を駆り、空戦へ赴く。

 機体を右へブレイクさせ、エンジン出力を上げる。部下達がそれに追従し、敵機と対峙する。

 

「サラマンダー01よりアルファ分隊、俺に続け。早い者勝ちだ」

 

 マスターアムオン、自機と部下達の機体武装の安全装置が解除される。

 

「距離3000、ミサイルロック……FOX2!」

『発射ぁっ!!』

 

 隊長の合図で、右翼に取り付けられたAIM-9サイドワインダーを各機が一斉に発射する。

 流れる箒星のような軌跡を描くそのミサイルは、まだ点にしか見えない敵のマリン改を追尾。

 マリン改は慌てて回避しようとするが、ミサイルの速度では、見えてから回避するのでは遅すぎる。あっという間に十機以上のマリン改が損失した。

 

「ハッ、当然の結果だ」

 

 政権軍の飛行隊は、反乱軍のマリン改と急速にすれ違う。

 マリン改はエンジンを日本製にしていること以外、さほど見た目に変わりはない。

 聞いたところでは携帯ミサイルを搭載できるというが、そんなものが反乱軍にあるとは思わなかったし、なにより今回撃たなかったのを見るに持っていないのだろう。

 ならば脅威じゃない。

 隊長は機体を翻し、急速に右にブレイク。速度を調節し、ヨタヨタと飛ぶマリン改の後ろにつく。エンジンを日本製にしても、基本性能が低いままのマリン改など、ジェット機たるT-4Bの敵じゃない。

 

「とらえたぜ!」

 

 機銃の引き金を引く。胴体下部にガンポッドとして搭載された、日本製の20mm三連装バルカン砲が敵機に火を吹く。

 20mmの雨霰に晒されたマリン改は、たちまち穴だらけとなり分解。粉々の破片になって散っていく。その尾翼に、特徴的な青字に黄色のラウンデルが見えた。

 

「剣のマーク……こいつら第33飛行隊の連中か」

 

 隊長は相手の所属を察し、あることを思い出した。

 

「隊長機は……パーテリム・サガン!」

 

 隊長はニヤリと笑う。配置が変わっていなければ、この飛行隊の隊長はかつての教官であるパーテリムだ。隊長が新人だった頃に散々空戦と体罰で扱いていた、今でも憎き鬼教官だ。

 隊長は目につく機体を叩き落としながら、目を血眼にして隊長機を探す。目のいい彼は、政権軍有利で進められる空戦の最中に見覚えのあるマークを見つける。

 それはパーテリムのパーソナルマークであった、スペードのマークだ。色も形も間違いない。

 

「見つけたぞぉ……パーテリム!」

 

 隊長はかつての恩師を見つけると、周囲の機体には目もくれず、速攻でパーテリム機へと迫った。

 

「パーテリム、お前、俺がひよっこの時は随分と厳しくやってくれたよなぁ……」

 

 距離が近づく。パーテリムも自分に気付いたのか、開放式の操縦席からこちらを見た。

 

「あの時の俺とは、違う!」

 

 機銃の引き金を引く。確実な不意打ちであったが、パーテリムは機体を急降下させ、斜線から逃れた。機銃弾がパーテリムの周囲を掠める。

 

「チッ……」

 

 舌打ちをする。そのままフライバイで高度を取った隊長は、低空をヨタヨタと飛ぶパーテリムのマリン改を上から見据えた。

 

「流石にマリンは低速性能が高い。だが、上を取られてはなぁ!」

 

 相手はいくら操縦がうまくても、相手は旧式の複葉機。グラ・バルカスやミリシアルから譲渡された機体ならまだしも、あんな旧式機でジェット機と渡り合えるはずがない。

 

「落ちろっ!!」

 

 再び射線に付いた隊長は、機銃のトリガーを引いた。しかし、また避けられる。今度はこちらも速度を落とし、低空でパーテリム機の後ろについた。

「こいつ、ちょこまかと……!」

 

 何発か執着的にトリガーを引くが、全て当たらず、明後日の方向に逸れる。パーテリムは冷静に機銃弾を避けているようだ。

 

「もういい……終わらせてやる」

 

 埒が開かなくなって苛立った隊長機は、操縦桿のスイッチを、機銃から温存していた左翼のアムラームに切り替えた。

 本来なら、ジェット機は自衛用にサイドワインダーを一発だけ残して作戦を終えるはずだ。少なくとも空自のパイロットならそうする。

 しかし、彼はそんなことなど忘れていた。赤外線でロックし、ミサイルの引き金を引く。

 

「プレゼントだ、受け取れ!」

 

 翼端から放たれたミサイルが、パーテリム機の尾翼に着弾。爆発により操縦席のパーテリムは見えなくなり、機体も粉々になった。

 

「ケッ、時代遅れの化石共が」

 

 その余韻に浸る暇もなく、機体が大きく揺れた。何かの爆発音と共に、機体に警告が鳴り響く。

 

「っ……な、なんだ!?」

 

 慌てて機体後方を見る。

 そこにあるはずの白い尾翼は、破片のようななにかにグロテスクに抉り取られ、穴だらけになっていた。

 舵は利かない、おそらく今のせいで油圧を損失した。尾翼が吹き飛んだことにより、パイプの油が全て空になってしまったのだろう。

 この威力の攻撃は、考えられる限り一つしかない。高射砲だ。

 

「ど、どこから……」

 

 隊長機が地上を見渡すと、多少開けた畑から火点がいくつも放たれているのが見えた。その時、隊長は自分が反乱軍の対空陣地に誘い込まれていたことを悟った。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 すでに操縦システムを損失していた隊長機は、そのまま化石同然の対空砲火に晒され、穴だらけとなって撃墜された。

 機体は反乱軍陣地に墜落し、それがそのまま彼の墓標となった。

 

 なお、この空戦の間に空自の輸送機は任務を完了。ブラボー分隊の隊長が指揮を引き継いだことにより、作戦は成功に終わった。

 隊長機は罠に嵌められたのかもしれない。

 

*1
以前は4大臣会合だったが、情報省新設とともに情報担当大臣を加えて5大臣会合となった。

*2
原作の外伝2巻でC-2をエスペラントに墜落させた太陽嵐のことである。

*3
転移後に新設された大規模ヘリコプター部隊。

*4
政権軍側は隷下部隊が政府に忠実であったことから、政府の命令無しに日本へ勝手な救援要請を出すことはなかった。

*5
先のグローバルホーク撃墜事件にて、空自の日本製グローバルホークが発進した基地。

*6
C-2に不整地離着陸対応改修キットを組みこみ、胴体延長まで施した大胆な改修モデル。




情報コラム

・T-4B練習機(拡大発展型)
航空自衛隊の大規模拡大と既存のT-4練習機の老朽化対策、海外への輸出の為に生産された。
エンジンは新型のF5-20(X-2心神に搭載されたXF5-1の改良品)に換装され、カナード翼を追加、主翼も強度とサイズを増したものへ交換、他にも各所へ補強材を組み込み、それに伴い機体も大型化、もはや別物と言ってよい程の機体に仕上がっている。
胴体下部のハードポイントにはAH-1SのM193機関砲をベースにしたガンポッド(20mm3連装バルカン砲)が搭載できるようになり、ハードポイントは翼下に4箇所、両翼端に2箇所の計6箇所へ増加。増槽、500ポンド誘導/無誘導爆弾、AAM-3またはAAM-5空対空ミサイル、多連装70mmロケット、マーベリック対地ミサイルの運用が可能となった。
新世界大戦の空自は、各航空団に連絡機として配備された本機を軽攻撃機として使用したほか、輸出された機体がムー大陸での戦闘に使用された。
なお今後の航空自衛隊の装備機は全てこれにしろとほざいた財務省の公務員や、財務省お抱えの軍事ジャーナリストが存在した(そして追放された)。
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