新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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更新再開したい……


第四十六話『大国の威を借る狐たち』

数時間後

オタハイト沖300km

グラ・バルカス帝国海軍 旗艦グレード・アトラスター

 

 一体何万トンの鉄塊が、この海に沈んだのだろうか。

 周りに浮かぶのは、燃え上がる鉄クズばかり。後には悲鳴を上げる乗員と、油とボートの破片。浮いてきた水死体など。

 そして水底には、これの何百倍もの鉄クズと死体が、冷たい海の底へと沈んでいってるはずだ。

 つい先刻まで、ここには百数隻もの大艦隊が浮かんでいたことを考えれば、この地獄絵図は諸行無常と言わざる得ない。兵どもが夢の後とは、このような光景を言うのだろう。

 

「溺れかけてる者が最優先だ!救助急げっ!」

「はっ!」

 

 旗艦グレード・アトラスターで現場に駆けつけてきたカイザル達は、鉄屑だらけのこの惨状に目を背けたくなるのを堪え、乗員の救助を命令した。

 即座に船の乗組員達が、総出でボートを降ろしたりネットを広げたりして、救助者がグレード・アトラスターに登ってこられるよう態勢を整えている。

 現れた頼もしい大船を見て、溺れかけていた救助者達は最後の力を振り絞り、なんとか辿り着こうとしていた。

 船の近くにいた者は幸運だっただろう。しかし、中には冷たい冬の海に飲まれ、そのまま水死体になった者も少なくない。

 

「あらゆる手を尽くしますが、救助できそうなのは全体の半分も届きません」

「陸軍の輸送艦にも救援要請を出しましたが……到着するまで彼らが持つかどうか……」

「例の誘導弾にしてやられたな。クソッ……」

 

 悔しさを滲ませたカイザルは、目を伏せたまま横の壁を殴り、そのまま沈黙した。

 万全だった戦力差と作戦が、意図も簡単に崩れ去った挙句、逆にこちらが手痛い損害を被ってしまった。今は無力感と悔しさだけが、グレード・アトラスターの艦橋を支配している。

 そんな中、冷静さを取り戻した士官がカイザルに今後の方針を問いかける。

 

「カイザル閣下、今後はどうしますか?」

「……事前の打ち合わせ通り、後の戦闘はミリシアルに任せる。我々は増援が到着するまで救助に専念する」

「了解しました。ではその通りに」

 

 カイザルが短い言葉で、簡潔な命令を下すと、士官は艦橋から出ていった。おそらく艦橋後ろの極秘通信室に向かったのだと、艦長のラクスタルは横目で推測した。

 

「艦長、これほどの攻撃ができる相手を、ミリシアルに任せるって一体……」

「わからん。どうにもカイザル閣下ら一部の士官だけが知っているような作戦のようだが……」

 

 副長のユリウスが怪訝な顔で問いかけるが、ラクスタルも知りえない情報であるがゆえに、それ以上の言葉を発する事は出来なかった。

 ふと、海原が何かに押し退けられて波打った気がした。何か強大なものがそこにある気がして、ラクスタルは背筋が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

セントレア海上空

 

 その光景は、異質であると言わざるを得ない。

 冬の時化たセントレア海。白波が絶え間なく海をかき混ぜ、大波が海面を不規則に揺らすその海域に、それは現れた。

 海原を上から押し退けるような張力が、海面をかき分け波を圧した。その上に巨大で丸い影が現れ、海面を黒く染める。

 影を作っていたのは、空に浮かぶ車輪だった。全長260mを超える、巨大な空飛ぶ車輪。その外見から来る異様さと、その物体の巨大さが、見る者すべてを怖気づかせる。そんな物体だった。

 物体は人目に着かないよう、無人の島陰に隠れて身を潜めていた。まるで見られてはいけないかのように、ひっそりと。

 だがその車輪に生えた天頂のアンテナが何かの命令を受け取ると、その車輪は再び動き出した。ごうんごうんと、周囲の空気を揺らしながら、車輪はオタハイトの方向へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

オタハイト湾

ムー連邦政権軍 首都臨時混成艦隊

 

 一方の政権軍。臨時混成艦隊の旗艦〈ラ・カサミ〉では、ミサイルの着弾の様子がモニター上に映し出されていた。着弾の様子はレーダーでは確認できないため、この攻撃の成果は日本国の監視衛星の報告を待つしかない。

 誰もがモニターに釘付けになる中、通信士がついに入ってきた報告を声に出す。

 

「ニホン軍より入電!只今の攻撃、敵空母艦隊の大多数撃破を確認セリ!」

「よっしゃあっ!」

「やったぞ!!」

 

 通信士が叫んだ報告を受け、艦橋は割れんばかりの歓声に包まれた。

 脅威を排除し、敵艦隊を丸々一個壊滅させたという戦果は、ムー連邦海軍創設以来、指折りの大戦果だ。日本製の武器を使ったとはいえ、その絶大な結果と影響は計り知れない。思わず若き衆達が喜びを露わにした。

 

「……よし、戦闘配置解除。戦闘用具収め」

「了解です。戦闘用具収め!」

 

 CICにて報告を待っていたレイダーは、そんな歓喜の渦の中でも冷静にそう指示を出した。

 今まで戦闘配置に張り付いていた乗員達を、敵の脅威が排除されたこの隙に、なるべく長く休ませておかなければならない。

 まだまだ艦隊が生き残るには次がある。運河を使った撤退準備に入る前に、今は休息を取らなければならなかった。

 レイダーも艦長室で少し休息を取ろうかと、CICを離れようとした、その時だった。

 

「っ!!レーダーに新たな機影を探知!巨大な反応が一機!」

「なにっ?」

 

 レイダーは監視員の声に反応し、急いで戻ってきた。そして監視員が覗いているレーダーのスコープ画面を覗くと、そこには巨大なレーダー反射の反応が映し出されていた。

 

「なんだこれは……?」

「わかりません。しかし、この反応は一機の巨大な物体から発せられるものです。全長だけで260mを越えています……」

「こちらとの距離50000。目標の速度は200kmを超えています」

 

 隣の監視員が目標の距離と速度を伝える。

 レイダーはまだ見ぬその物体が、船としては異常な速度でこちらに向かってきていることを悟り、冷や汗を流した。

 

「……飛行機としてみると遅いが、この大きさの船としてみるとかなり速い。なんなんだこれは……」

 

 レイダーが思考に耽っていると、今度は通信士から連絡が入る。

 

「司令!目標より通信が入っています!」

「通信だと?」

 

 レイダーはその報告に首を傾げる。通信士の方へ歩み寄ると、確かに艦隊の通信機に対し、目標から強力な電波が浴びせられていた。

 

「降伏勧告でしょうか?」

「……繋げろ、奴の話を聞きたい」

 

 通信士が怪訝そうな表情で聞くのを横目に、レイダーは短くそう命じた。

 通信士はダイアルを操作し、目標からの通信がこちらと会話できるよう調節した。準備ができたところで、レイダーがマイクを取り発言する。

 

「……私はムー連邦中央管区艦隊艦隊司令官、レイダー中将である。通信を呼びかける貴官は何者だ?わざわざ通信を寄越してくるとは、相当な自信家と見受けられる。貴官の所属と官姓名を述べよ」

 

 レイダーがそう呼びかけると、即座に声が返ってきた。

 

『……おお、気づくのが早かったね。魔導通信を使わない科学式とはいえ、流石に探知能力は高いようだ』

 

 相手からはいかにも胡散臭そうな、少し年齢を重ねた男性の声が返ってきた。

 

『私は神聖ミリシアル帝国対魔帝対策省、古代兵器分析運用部、空中戦艦パル・キマイラ艦長のメテオス・ローグライダーである。……そうだ、顔も見せてやろう』

「なに?」

 

 メテオスと名乗ったその男は、背後にいる誰かに短い命令を下した後、しばらく沈黙した。

 レイダーが呼びかけようかと思った矢先、艦隊の情報を表示するはずの日本製液晶モニターに、突如として仮面をつけた男の顔が映し出された。

 

「なっ……!?」

『これでよし。君たちの端末をジャックさせてもらったよ。改めまして、私は神聖ミリシアル帝国、空中戦艦パル・キマイラ艦長のメテオス・ローグライダーである。レイダー殿、名前は覚えてくれたかな?』

「…………」

『では改めて、こちらから警告をさせてもらおう。レイダー閣下が指揮する艦隊、およびオタハイトに閉じこもるすべての政権軍に告げる。"降伏せよ"……さもなくば全ての政権軍に対して攻撃を行う』

 

 なんのことかと思えば、相当手の込んだ降伏勧告のようで、レイダー以下CICの乗組員達は拍子抜けだ。思わず失笑してしまう。

 

「ふんっ、何を言うかと思えば……我々政権軍がそんなこけ脅しに屈すると思うか?」

『あのねぇ、我々が乗っているのは古の魔法帝国が作り出した空中戦艦なのだよ。砲撃力、速力、そして空中にいると言うアドバンテージ……全てを含めても君たちに勝ち目はないよ』

「ほう、ミリシアルの秘密兵器と言うわけか。だが我々は、先ほど数百隻もの敵艦隊を壊滅させたのだぞ?喧嘩を売る相手を間違えていないか?」

 

 挑発には挑発で応えるかの如く、レイダーは強い言葉で返す。

 

『古の魔法帝国を舐めない方がいい。魔法帝国の技術力は、君たち科学文明すら凌駕する。力の差は我々の方が上だ』

「魔法帝国の遺産に胡座を掻いておいて、よくそんな大口が叩けるな。自分たちで未来を切り開くこともせず、何様のつもりだ?』

『それは君たちも一緒であろう。政権軍の兵器は、そのほとんどがニホン製の輸入品だと聞くぞ』

「輸入品ではない、ライセンス生産だ。遺産の復元すらままならないような貴様らとは違う」

『口だけは達者なようだ……もう一度だけ言うぞ、"降伏せよ"。これは最後の警告だ』

 

 侮辱に侮辱を重ねるように、あからさまに見下してくるメテオス。相当な自信があるのか、その言葉には強者の貫禄が宿っていた。

 だが、ムー連邦の海軍軍人としてむざむざと降伏を選ぶつもりは無かった。隣にいるレーダー監視員に問いかける。

 

「……レーダー、目標は捉えられるか?」

「はい。艦のレーダーは空中戦艦を捉え続けています」

「よし」

 

 レイダーはそれを確認すると、即座に通信士に声をかけた。

 

「では通信士、奴に"馬鹿め"と伝えてやれ」

「は、はい?」

 

 通信士は予想の斜め上をいく返信内容に、思わず聞き返してしまう。

 

「聞こえなかったのか……"馬鹿め"だ!」

「了解っ。返信は"馬鹿め"、通信終了!」

 

 レイダーが再びその内容を叫ぶのを聞き、通信士はその返信の意図を察した。そして短い打電でその言葉を伝えると、液晶画面のメテオスは通信を切った。

 

「化け物が来るぞ!総員戦闘配置!」

「了解!総員、第一種戦闘配置!対空戦闘用意!」

 

 艦内が再び慌ただしくなる。

 乗組員達がそれぞれの配置に駆け込み、化け物との戦いに備える。

 ここに、この戦争において初となる日本製兵器と魔法帝国の遺産という、大怪獣決戦が幕を開けた。

 




少し短いですが、更新ペースが滞っているのと、区切りのいいところなのでこれで投稿しました。
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