新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

50 / 58
特に何も言うことはありません。
この物語をちゃんとたたみます。


第四十七話『借り物戦争』

同時刻

神聖ミリシアル帝国 空中戦艦パル・キマイラ

 

 魔帝省の主任研究員であるメテオス・ローグライダーは、激しく憤っていた。戦闘が始まる前からプライドをへし折られて顔が真っ赤である。

 

『馬鹿め』

 

 と言われただけでこの有様である。彼は喧嘩や議論でも沸点が低いのか、若い頃からこの手の挑発に乗りやすかった。

 

「私を馬鹿と罵った罪は重いよ!」

 

 メテオスは叩き切られた通信に激怒しながら、砲雷長へ向けて叫ぶ。

 

「砲雷長、奴らに飽和攻撃だ!対艦魔光弾をお見舞いしてやれ!」

「はっ!」

 

 メテオスの命令を受け、乗組員は対艦用ウルティマへエネルギーをチャージ。発射準備を完了させた。

 

「魔力チャージ完了!」

「ウルティマ魔光弾、発射!発射!」

 

 ウルティマのチャージが完了したとともに、発射の命令が下される。途端、パル・キマイラの上部構造物が眩い光を放ち、青く光る水晶玉を打ち出した。

 

「続いて下部爆弾倉解放!滑空爆弾を放り込め!」

「了解!滑空爆弾投下!」

 

 ウルティマと並行して、パル・キマイラの爆弾倉が解放された。そしてそこから、日本の資料をもとに開発、量産された滑空爆弾が滑り落ちる。

 翼を展開した滑空爆弾は──小さいシビルという意味で"ニア・シビル"と名付けられた──空中を滑るように降下、ムー艦隊へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

ムー連邦陸軍 第77戦車連隊戦闘団

 

 ムー海軍と空中戦艦が戦闘を始めた様子は、陸軍からでも確認できた。

 ゲリラやパルチザンの制圧を終え、第77戦車連隊戦闘団は海の近くの倉庫に集結。捕虜を処刑している最中だった戦闘団長のツィゲール大佐は、海上で行われている戦闘を双眼鏡で眺めていた。

 

「大佐、捕虜の処刑、完了しました!」

「うむ」

 

 部下から報告を受ける。

 

「海軍さんの方は大変そうですね……」

「ああ。このままでは残った対艦ミサイル連隊にも被害が出そうだな……」

 

 岸壁から双眼鏡で戦闘の様子を眺めるツィゲール大佐は、そんな感想を漏らす。

 実際のところ、ムー艦隊と空中戦艦の戦いはほぼ互角だった。というよりも、お互いに決定打に欠ける泥沼だ。

 

「こちらで加勢してやりたいが……どうする?」

「こちらの戦車砲ではとても届きません」

「あの豊富な武装だ。バレたら即座に反撃される……出来れば不意を突きたいが……」

 

 ツィゲール大佐は少し考え、自分の後ろを見た。この倉庫には第77戦車連隊戦闘団のほとんどの戦力を隠して補給しているが、その中にロケット砲の部隊がいるのが真っ先に見えた。

 

「よぉし、あれを使おう」

 

 頭の中で不意打ち作戦を練り込むと、ツィゲール大佐はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

ムー連邦海軍 中央管区艦隊

 

「諦めるな!手を抜いたら負けるぞ!」

 

 ムー連邦海軍の中央管区艦隊は、空中戦艦を相手に互角の戦いを繰り広げていた。厳密に言えば、相手は一隻なので実質的に不利なのは中央管区艦隊の方だった。

 

「ラ・ユキ被弾!行き足止まります!」

「ラ・クエース、砲弾の残弾なし!戦線を離脱します!」

 

 損害が目立ち始めた。損傷した艦はなるべく後方、運河の方へと退避させているが、これでは艦隊の手数は減る一方だった。

 そして、相手の空中戦艦の方は手を緩める気配がない。魔法を使ったミサイル、下部の主砲、滑空爆弾など、とにかく手数でムー艦隊を圧倒し、一隻で釘付けにしていた。

 やはり古代の兵器、日本の力を持ってしても勝てないのか……

 レイダーがそう思った時、絶望はさらに加速する。

 

「レーダーに反応!方位150、空中戦艦がもう一隻来ます!」

「何っ!?」

 

 中央管区艦隊の悲運は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

空中戦艦パル・キマイラ

 

『手こずってるようだな。加勢するぞ』

「来たか、ワールマン!」

 

 魔導通信に見知った声が聞こえる。パル・キマイラ級二番艦の艦長として任命された、ワールマンだった。

 

「ワールマン、私が旗艦を務める。お前は北側の農地から回り込め。私は南の港湾施設から挟み撃ちにする」

『わかった。まかせるがいい!』

 

 メテオスは簡潔な指示を下すと、二隻のパル・キマイラは、中央管区艦隊を挟み込むように展開、その全火力を敵に集中させた。

 メテオスのパル・キマイラは港湾施設の倉庫付近を飛び回り、敵に火力を集中させた。

 その時だった──

 

「か、艦長!地上に敵部隊が──」

「なにっ!?」

 

 爆撃のため地面に目線を送っていた乗組員が叫ぶ。だが、パル・キマイラ級は高度にシステム化された船であるため、見張りはほとんどおらず、気付くのが遅れた。

 そんなメテオスのパル・キマイラに向け227mm多連装ロケットが、一斉に火を吹いて向かっていった。

 ロケット弾を放ったのは、第77戦車連隊戦闘団のMLRSだった。搭載されたロケット弾は、的確にパル・キマイラを狙って放物線を描き、そして着弾した。

 二発が構造物で逸れただけで、残りの十発が爆弾倉付近に命中した。炸薬は内部を貫通、乗組員をズタズタに引き裂きながら火焔を撒き散らし、中の滑空爆弾に火を灯す。

 結果、パル・キマイラは上空わずか200mで大爆発を起こした。これにはロケット弾を放った部隊も巻き込まれ、車両が横転、野晒しだった人員は全滅した。

 だが地上部隊の奇襲攻撃により、パル・キマイラという大物は粉微塵に破壊された。残骸が倉庫の上にバラバラになって落ちていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

パル・キマイラ級二番艦

 

「メテオス!!」

 

 ワールマンは親友の名を叫ぶ。だがその言葉虚しく、一番艦はバラバラの残骸となって倉庫街に落ちていった。

 

「くっ……おのれ……!」

 

 この数ヶ月間で親友のように親しくなっていたメテオスとの突然の別れ。ワールマンは激怒した。

 

「くそっ、決着をつけてやる!シビル重爆弾、投下用意!なんとしてでも落とせ!」

 

 そう言ってワールマンは、パル・キマイラ級二番艦を加速させ、ムー連邦艦隊の懐に潜り込む。多少の損害を被りつつも、爆弾倉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

ムー連邦海軍 中央管区艦隊

 

「陸軍の奴らには勲章をやりたいが、見逃してはくれぬか……!」

 

 レイダーは大金星を上げた陸軍の勇姿に敬意を払いつつも、自分たちが生き残ることに精一杯になっていた。

 すでに艦隊の五割の戦力を損失、残った艦隊も砲弾を撃ち尽くしていたり、損傷が激しかったりする。

 まさに満身創痍だった。

 

「敵艦、高速で真上を通ります!」

「残った砲弾を全てぶち込め!」

 

 その後は雨霰のような砲弾、対空機関砲の嵐で迎撃しようとする。だが接近するパル・キマイラに命中させども、大した損害になっていないのか行き足が止まらない。

 

「敵艦、上空に来ます!」

「敵艦が爆弾倉解放してます!」

「衝撃に備えっ!」

 

 最後の力と怒りを振り絞って接近したパル・キマイラは、自爆覚悟でシビル重爆弾を中央管区艦隊へ投下した。

 爆発は上空五〇m付近で発生した。流れ弾がシビルに命中したからだ。

 幸か不幸か、それがお互いの被害を拡大させた。空中爆発により、お互いを巻き込んだ大損害を発生させる。

 ラ・カサミ改は爆撃目標だったため、その爆発をモロに喰らった。上部構造物がひしゃげるように溶けた。中の乗員は蒸発するか、酸欠で死んだ。

 他の艦も爆発の余波を受け、ボロボロだった構造物に限界が来た。乗員が脱出するまでの時間は稼いだが、その後沈んだ。

 爆弾を落としたパル・キマイラも無事では済まなかった。ほとんど自爆に近い形での大爆発。その衝撃を受け、空中戦艦は真っ二つに折れてラ・カサミの近くに沈んだ。

 

 その後、オタハイトで抵抗していた政権軍は不自然な撤退を見せた。運河の周辺を通り、日本の勢力圏である西側へ、大規模な車列を作って消えていく。

 そして、オタハイトからは誰もいなくなった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。