新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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第四十九話です


第四章
第四十九話『蹂躙せよ・前編』


陸上自衛隊 野戦指揮所

 

 旧バルクルス要塞付近に建設された駐屯地に、その野戦指揮所はあった。そこに陸将以下各部隊の師団長たちが集まる。

 

「改めて確認しよう、現地で動かせる部隊は?」

「現在、レイフォル自治区に駐留している陸自兵力は10個師団と5個旅団、およそ20万名です」

 

 レイフォル戦以降、陸上自衛隊は大幅に強化されている。現在では16個師団と10個旅団を抱え、充足率や補給なども強化され、今までの問題から脱却した立派な陸軍組織であった。

 レイフォル特区に駐留している陸上自衛隊の部隊は10個師団と5個旅団。本土には6個師団と5個旅団を残し、パガンダに1個旅団を配置しているのを考えると、相当な力の入れようだった。

 

「ですがこれの15倍の敵が相手と考えると、流石にこの人数では厳しいかと。そもそも防衛や予備戦力を考えると、この師団数からさらに半分ほど減るわけですから」

「多く見積もって動かせるのは6個師団と4個旅団か……」

「最大勢力の第7師団は動かしたい。師団隷下の4個戦車連隊戦闘団を用いて空洞洞窟を通過、グラ・バルカス帝国の戦車師団を強襲するべきだ」

 

 陸上自衛隊の最大勢力である第7師団は、北部方面隊から送られた常設の機甲師団であり、戦車配備数が最も多い。

 そのうち第7師団は隷下の3個戦車連隊を4個戦車連隊戦闘団と1個普通科連隊戦闘団(機械化)に増強しており、戦車保有数は従来の220両から300両以上に強化されていた。

 

「万全を期して第2師団を一緒に動かしましょう。2個機甲師団の投入ならばキールセキまで押し返せます」

 

 第2師団も、第7師団と同じく北部方面隊より送られてきた師団である。こちらも機甲師団としての改変を受けており、主力として勝負するにはちょうど良いだろう。

 これら機甲師団の投入により、自衛隊はこの地域だけで合計10個RCTを投入可能になる。これだけの戦力なら反転攻勢を行い、反政府軍勢力をキールセキまで押し返すことが可能だ。

 

「2個師団が侵攻する際、正面から破るのではなく、もう一手を打ちましょう。流石にこの戦力だけでは不安があります」

「侵攻作戦なら空挺作戦が最適でしょう。ちょうど良い目標があります」

 

 幕僚の一人が地図の一箇所を指差す。

 

「エヌビア空港、ここにはグラ・バルカス帝国の有力な航空団が集結しています。第1空挺団を用いてここへ空挺降下し、制圧しましょう。キールセキへの足掛かりです」

「ではついでに、キールセキ周辺にヘリボーンも展開させましょう。ちょうど第12師団が待機中です」

「良いだろう。空挺部隊の本領発揮だ、目に物見せようじゃないか」

 

 幕僚の意見を飲み、陸上は新たに命令する。

 

「ラルス・フィルマイナ基地で待機中の第1空挺団に連絡。2300に作戦を開始し、エヌビア空港へ夜襲を仕掛けろ」

「はっ」

「それから空挺部隊の第二陣として、第12師団より空中機動部隊を編成。キールセキ市街地に向けヘリボーン降下、同市街地を制圧する」

「了解しました、直ちに各方面隊に伝えます!」

「よし。第7師団、および第2師団は夜明けの0300までにアルーへ進駐。翌0600に空洞洞窟を突破し、本格的にキールセキを叩く!」

 

 南部では第5師団、第11師団、第12師団、第14旅団がソナル王国への備えとして駐留。こちらは山岳地帯が多いため機動力を重視した編成となり、第12師団に至ってはヘリコプターを中心に配備している。

 最後に北部戦線。ここには第6師団、第8師団、第10師団と3個旅団が駐留している。北部は戦線が広いため、連隊戦闘団と歩兵による防御戦を重視した結果6個配置となった。

 残りの師団はレイフォル各所に駐留し、治安維持とレイフォル独立軍によるゲリラ活動の鎮圧に追われている。とてもじゃないが手を回せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムー大陸西部

アルーの街 自衛隊駐屯地

 

「な、なんですか? このゴテゴテした90式は……?

 

 アルーの街に集まった自衛隊駐屯地にて、隊員の1人が訝しむような目線でその装甲車両を指差す。彼の言葉尻には不安と疑心が垣間見えるが、それもそのはず、彼は今日になってこの急拵えの車両に乗ることとなったのだ。

 それが単なる配置換えならまだしもよかったかもしれない。乗るのが同じ戦車ならば、よかったかもしれない。だがこの車両はもはや戦車ではなく、考えられる中で最も最悪な車両だった。

 

──乗りたくねぇ……

 

 彼の本能が、この車両を前にそう叫んでいた。

 

「無様なもんだろ?こいつは90式改造装甲車、爆発反応装甲付き。戦死確定さ」

 

 戦車長となる上官が、操縦士の彼に対してそう皮肉を交えた。

 確かにこの車両、90式の面影がある。垂直に切り立った砲塔正面は90式のそれであるし、車体からもそれが区別できる。

 だがこの90式には主砲がなく、砲塔から取り払われている。その隙間を埋めるが如くめちゃくちゃに爆発反応装甲が貼り付けられており、異様な見た目になっていた。

 車体正面にも爆発反応装甲が貼り付けられ、鋭いドーザーも装備しており、正面から見た威圧感が半端でない。

 戦車が現代の"騎兵"であるならば、こいつはさしずめ"重騎兵"と言えよう。元々重圧な装甲にさらに装甲を足していくその様は、正面からの攻撃はなんとしてでも弾き続けるという、確固たる意志が見える。

 だがそれは、同時に敵の攻撃を受け止め続けなければならないと言う、命知らずの役割でもあった。

 

「こいつは察しの通り、戦車連隊戦闘団の先陣を切る存在だ。敵の砲弾を受け止め続けて盾になる。そして仲間の車両の突破を手助けする。馬鹿みたいだろ?」

「……こんな事なら90式に乗ってた経験を言いふらすんじゃありませんでした」

「隠してもどうせ履歴で丸わかりさ、諦めろ」

 

 彼はかつて90式戦車のドライバーであり、最近になって10式に乗り換えていた。だが本人は10式の性能には満足しておらず、90式を信奉していた。

 やれ「10式は軽すぎる、90式の方がパワーが高くてよかった」と愚痴っていたのだが、その経験が上官の耳に入ってしまい……

 結果、その90式の操縦経験を活かし、この地獄の改造装甲車に乗せられると言う貧乏くじを押し付けられたのだ。

 

「こんなんで敵機甲部隊の盾になれって言うんですか?」

「そうだ」

「死ねって言いたいんですか……?」

「死なない為の爆発反応装甲だろ」

 

 操縦士は呆れてため息をつく。

 

「……まあ、情報によると敵の機甲戦力は旧日本軍における四式チト戦車レベルとの事だ。APDSすらない75mm砲でこっちを貫通できるとは思えんがな」

「…………」

 

 残念ながらその情報は、操縦士を安心させるには足りなかった。他部隊はこの車両を盾としてしか考えないんじゃないか?と不安が募る。

 

「さて、愚痴っても仕方ない。間も無く作戦時間だ、乗り込め」

「待ってください、砲手は?」

「武装は遠隔操作のキャリバーだけだ、要らないだろ」

「…………」

 

 砲手を一名削って損害を少なくすると言うのも、まさに盾そのものじゃないかと、愚痴を言いたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国陸軍

第11装甲師団隷下 第27捜索連隊

 

 連合軍はほぼ無傷で空洞洞窟の手前まで来ていた。

 政権軍からの抵抗らしき抵抗はあるものの、撃ってきてはすぐに逃げる戦法を繰り返しており、占領地は瞬く間に増えていった。

 

「よし、手を貸すぞ。登れ」

「せーの!」

 

 2人の偵察兵が、無線機を背負って空洞山脈の支柱を登っていた。彼らは地上にバイクを置き、ある程度の高さまで登ると、縦の柱から横に伸びた柱に立ち周囲を眺めた。

 

「はぁ……はぁ……だいぶ登りましたね」

「ああ、柱が登れそうだったから登ってみたが……案外行ける所まで来たな」

 

 偵察兵の二人は双眼鏡で周囲を確認する。

 

「ほら、ここからなら洞窟の様子がよく見えるぞ。それ見ろ、約1000m先に政権軍の対戦車ミサイル陣地だ」

「ニホンからの輸出兵器でしたね……アイツには結構戦車がやられましたから、なんとかしないと」

「まずは報告をしよう。無線がつながればの話だが……」

 

 そう言って先任の方が無線機を持ち、通信を入れる。

 

「こちら第3分隊のエゲル曹長、ポイント2-5-2に敵陣地を確認。後続は注意されたし」

『了解…ザザッ……現在対策を検討中…ザザッ……現地にて待機されたし』

「こちらエゲル曹長、了解した。こちらでもなんとかしてみる」

『了解…ザザッ……オーバー』

 

 通信を終えると、部下の方が話しかけてきた。

 

「こんな天井だと迫撃砲も通りませんからね。あんな簡単な陣地にすら苦戦しますよ」

「この天然ドームが迂回できたら良かったんだが……しかし、ここしか戦車の通り道がない」

 

 先任が再び双眼鏡を手に取って、正確な距離を目視で確認する。

 

「正確には710mか……狙撃なら行けるか?」

「ここは無風ですから、距離さえ正確なら多分行けると思います」

「よし、ソイツで撃ってみろ。俺が観測をやる」

 

 狙撃手は43型半自動小銃を手にすると、ゼロインを710mに修正し、スコープ倍率を上げて狙いをつける。そして引き金を引いた。

 

「……命中、射手が負傷」

「よし、反撃手段は潰した」

「次だ。真ん中の、ケピ帽被ったやつを狙え」

 

 引き金を引く。

 

「命中、指揮官らしき人物の頭が吹き飛んだ。いい腕前だな」

「風もありませんからね、簡単すぎますよ」

 

 指揮官を潰された政権軍の兵士たちは、装備を持って一目散に逃走を開始した。一斉に散会しつつも後退を選択していたので、統率が保てているのかわからない。

 

「指揮官を失っただけであの体たらく……随分練度が低いようだな」

「これくらいにしておきましょう、そろそろ位置を変えないと」

「そうだな、あれで陣地は無力化されたしな」

 

 そう言って陣地を離れようとしたその時、先任の方が遠方に何か違和感を感じて止まった。

 

「ん?」

「どうしましたか、曹長」

「奥から何か来るぞ、土煙が上がってる」

 

 二人は元の場所に戻って双眼鏡を覗く。するとその視界に映っていたのは、見慣れない新型戦車の大群と、その周りを固める大量の車列だった。

 

「あの車列、随分と練度が高い。あれは……政権軍じゃないぞ!」

「まさか……噂のニホン軍ですか?」

「クソッタレ……司令部!司令部!こちら捜索連隊第3分隊C《ドレイ・ツェー》班!敵の未確認戦車を10両以上を確認!今までの奴らと違う!」

『ザザッ……ザザザッ……』

「司令部!司令部!くそっ、こんな時に!」

 

 肝心な時に通信が繋がらないのをボヤキながら、二人は支柱を降りて砂の地面に着地した。

 

「バイクに乗るぞ!伝令で直接知らせるんだ!」

「何か変な音がします!」

「なに?」

 

 部下が指差す方向を、曹長は咄嗟に確認した。そこには周囲の景色から見て何か異様な、何か小さな物体が高速で飛んでいた。

 

「羽虫?」

 

 彼らはその物体の正体が、自衛隊のドローンである事に気づくことはなかった。

 何せ遥か遠くにいたはずの車列から戦車の主砲が向けられ、ドローンの観測情報を元に放たれた砲弾が、彼らの立っていた場所に着弾したからだ。

 2人は10式戦車の放ったキャニスター弾に巻き込まれ、司令部に緊急事態を報告する間も無く、粉々に吹き飛ばされてしまった。

 




『90式戦車』
 10式戦車の一世代前にあたる自衛隊のMBT。旧式ながらもまだ耐用年数が許容されていた為、転移後もこれらに改修措置を施し、部隊で現役として運用している。
 転移後の陸自の機甲ドクトリンの変化に伴い、90式戦車は比較的至近距離での戦闘能力が求められ、様々な改修により性能の向上が図られた。

・基本スペック
乗員:3名
重量:52t
速度:時速70km
装甲:複合装甲
武装:
44口径120mm滑空砲×1
車載12.7mm RWS×1
同軸74式7.62mm機関銃×1
装備:
C4Iデータリンクシステム


・型式
90式戦車C型
 改修された90式の基本形。
 防御力向上のため、各部に爆発反応装甲と追加装甲を装備。新たに12.7mm RWSも装備し、敵弾に耐えながら戦車中隊の先鋒となって道を切り開ける戦車に生まれ変わった。

90式戦車D型
 90式戦車C型のさらなる改修型。
 近接戦闘だけでなく市街地線にも対応できるようにしたモデルで、RWSを12.7mmと96式自動擲弾銃との選択式とし、砲塔に10式戦車D型と同じ日本製アクティブ防御システムを搭載。敵弾に対する装甲の防御力だけでなく、間接的な防御能力も強化された。
 さらに砲塔側面に射出型Sマインを搭載し、付近にいる敵歩兵を一掃することも可能。そして車体は特殊コーティングで覆われており、粘着爆弾が張り付かないようになっている。
 最終的な重量は嵩み、56.8tにまで悪化。とてもじゃないが本土では扱えず、ムー大陸専用の特級品になってしまった。90式戦車がかつて「北海道専用戦車」と呼ばれていた事をもじり、一部で「ムー大陸専用戦車」と呼ばれている。


・派生型
90式強襲装甲車
 耐用年数ギリギリかつ、さまざまな理由で改修ができなかった90式の再利用品。
 状態が悪く、壊れかけだった90式の砲身を撤去し、爆発反応装甲各所に盛りに盛りまくった事で重防御の装甲車と化した。戦車部隊の先鋒として突撃、強襲を行うのが目的であり、敵弾を受け止め盾として味方部隊を守り、戦車の突撃を援護する。
 武装はRWSのみで、砲手席も排除。なのでこの装甲車に乗りたがる自衛官は少なく、巷では「90式ブリキ缶」「戦死確定」などと詰られている。
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