新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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陸戦に入ってすぐで申し訳ないんですが、ここから三話くらい海戦パートに入ります。


第五十一話『海での蹂躙・前編』

【速報:新世界大戦へ自衛隊介入】

 

001:ネットニュースの名無しさん 2020/2/8 17:10:07

祭りじゃ!祭りじゃ!

 

002:ネットニュースの名無しさん 2020/2/8 17:12:10

異世界勢終了のお知らせ

 

003:ネットニュースの名無しさん 2020/2/8 17:13:48

自衛隊無双、開幕

もう何やっても良いよ、ぶっ飛ばしちまえ

 

004:ネットニュースの名無しさん 2020/2/8 17:13:52

土人どもが日本に歯向かってんじゃねーぞ

 

005:ネットニュースの名無しさん 2020/2/8 17:14:12

異世界バカスwwww自殺志願者の群れかな?

 

006:ネットニュースの名無しさん 2020/2/8 17:14:12

野蛮人達トチ狂ってて草、次のレイフォルが決まったな

 

007:ネットニュースの名無しさん 2020/2/8 17:14:34

所詮獣畜生とDQN魔法使いばっかだから考える脳が無いんだろうよ

 

008:ネットニュースの名無しさん 2020/2/8 17:14:35

やはりエルフは下等生物故に食用に用いるのが最適、エルフの聖水を飲みたい

 

 カイザルはそこまで読んでタブレットを傍の士官に手渡した。いい加減、情報収集のためとはいえ日本のネットにアクセスするのにうんざりしてきたからだ。

 

「全く、コイツら好き勝手言いおって……」

 

 艦隊旗艦〈グレート・アトラスター〉の艦内で独りごちたカイザル。その言葉に、タブレットを渡した情報局の職員はこう言った。

 

「これで分かったかと思います。日本の民衆は戦争に乗り気であり、厭戦気分なとは全く見られないと」

「そのようだな……これでは民衆を懐柔させるのは無理か」

「この先の戦いは覚悟を決めなければなりません。あの日本は本気で迫って来るでしょう」

 

 情報局の職員はそう言う。

 民主主義の国なら民衆が戦争に反対することはよくある。それを利用できるだろうと思っていたが、見通しが甘かった。カイザルは頭を抱えるしかない。

 その時、艦長のラクスタルが敬礼を挟んでやってきた。艦の出港準備が整ったことを知らせに来たのだ。

 

「カイザル閣下、本艦の出港準備が完了しました」

「分かった。ではすぐにでも出港する!艦隊は進路を北へ取り、そこで日本艦隊を迎え打つ!」

「了解です。全艦、出港用意!」

 

 カイザルの言葉と共に、〈グレート・アトラスター〉の艦内に出港を告げるサイレンが鳴り響いた。

 

「閣下、私はこれで」

「ああ。ありがとう」

 

 と、出港前に情報局の職員が船を降りるようで、カイザルに敬礼を挟んだ。

 その彼を見送りつつ、カイザルはため息をついた。日本艦隊と戦うことに、まだ複雑な感情を抱いていたからだ。

 連合艦隊では多くの者が死んだ。ミレケネスも死んだ。軍人として死は覚悟しているが、前者のように戦って死ぬならまだしも、不要な争いで死んだミレケネスは納得できない。

 彼女は何のために死んだのだろうか。

 そして今から始まるであろう日本艦隊との戦いに、意味はあるのか。

 

──早く、振り上げた拳を、降ろすのだ。

 

 ミレケネスの最後の言葉を思い出し、カイザルは深く目を瞑った。帽子を深く被り、彼女に静かな黙祷を捧げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

ムー大陸北部沿岸

 

「艦長より全乗員へ。総員戦闘配置、対潜水艦戦闘、魚雷戦用意」

 

 やろうとしていること、そして乗員たちの興奮に比して、命令そのものは非常に静かに伝達された。乗員たちが足音を極力立てずに、持ち場につく。

 海上自衛隊の原子力潜水艦 〈らいげい〉は、今や忍びから暗殺者へとその姿を変えようとしていた。

 水測室に詰めているソナー員は、既にかなり大きな騒音をはっきり捉えている。そして、音紋照合をはじめとする諸元測定も終えていた。

 

『ソナー室より艦橋、目標数12隻、距離2000、速力3ノット。音紋照合の結果、グラ・バルカス帝国特型潜水艦クラスと確定しました』

「艦長、了解した。艦長より発射管室、1番から6番に魚雷装填」

 

 命令を受けた発射管室では、詰めていたクルーたちが整然と動き出した。

 実戦に否応なく心が踊る、それでも何度も訓練したとおりに身体は動き、速やかに魚雷の装填を完了する。

 

『発射管室より艦橋、1番から6番に魚雷装填良し』

「艦長よりソナー、敵潜の方位・距離・速力知らせ」

『ソナーより艦橋。敵潜水艦12隻、方位0-0-7、距離2,000。速力変わらず3ノット』

「艦長了解。1,500を切ったら攻撃する。速力7ノットに上げ」

「航海より艦長、速力7ノット、ようそろ」

 

 特型潜水艦ということは、水中速力は最大6.5ノット程度だ。エンジンの静音性まで考慮すれば、どう考えても〈らいげい〉から彼らは逃げられない。

 

「艦長より発射管室、1番、4番に目標諸元入力始め」

『発射管室より艦橋、1番4番に諸元入力始めます…!』

 

 少しずつ準備が整っていく。

 

『ソナーより艦橋、目標距離1,700』

『発射管室より艦橋、目標諸元入力良し』

「艦長より発射管室、1番、4番発射管に注水せよ」

『発射管室より艦橋。1番4番、注水します!』

 

 発射管に装填されているのは17式魚雷。パッシブ・アクティブ音響誘導のみならず、有線誘導をも可能にしてある魚雷である。

 その速力は50ノット以上。もはやグラ・バルカス帝国の潜水艦は、逃げることが叶わない。

 

『発射管室より艦橋、注水完了。発射準備良し!』

 

 魚雷の発射準備が完了し、火器管制端末の発射ボタンにそっと指が添えられた。そこへ、待望の報告が上がってくる。

 

『ソナー室より艦橋。敵距離1,500!』

「1番、4番、発射!」

 

 指が動き、カチリとボタンが押し込まれた。直後、バシュッ、と鈍い響きが艦体を2回震わせる。

 知性を持った銛となった魚雷二本が、敵潜水艦に向けて勇躍飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

グラ・バルカス帝国海軍 リーテ潜水艦隊

 

 ディーゼルエンジン特有の匂いが満ちる、薄暗い艦橋。何人もの人間が計器類を見詰めたり機械のスイッチを操作する中、その中心に1人の人物が座している。

 栄光ある潜水艦隊"リーテ"の司令官、ネトリール准将閣下だ。

 

「中佐、もう一度作戦を確認するぞ。

ニホン海軍の艦隊を、水上からミリシアル帝国及び我が帝国の打撃群が攻撃する前に、水中から我がリーテ艦隊が魚雷を以て攻撃する。そして、討ち漏らした敵艦に対しては水上砲戦にて止めを刺す……だったな?」

「はっ、その通りでございます。最精鋭たる我がリーテ艦隊を以てすれば、数に劣るニホン海軍は大多数を葬り去れるでしょう」

 

 かつて帝国がユグドに存在した頃、当時の敵対国だったケイン神王国の攻撃によって、属領を奪われたことがあった。

 その際、我々リーテ潜水艦隊は属領沖に展開していたケイン神王国の艦艇を次々と撃沈し、最終的にケイン側のこの攻勢は制海権を失ったことで失敗した。

 水上艦と潜水艦に同時に対応するのは非常に難しい。この作戦なら、あのニホン海軍だろうと相手できるだろう。

 

「油断ならんぞ。彼らの武装を使ったムー海軍は、水上で誘導弾を持ってして我々を撃滅したのだ。本家の彼らは、一体どんな武装を持っているのやら……」

 

 慎重なことで知られるネトリール司令官閣下だが、こんな気弱な発言は聴いたことがない。

 

「ネトリール司令、我らは最高練度の潜水艦隊です。日本艦隊対策に新装備も導入しました。必ずや敵を殲滅できるでしょう」

「ラトバリタ、気を抜くな。我らは確かに最高練度の最新鋭潜水艦隊だが、ニホン軍は決して油断できない相手だぞ」

 

 ネトリール司令官閣下は警戒しすぎだ、と作戦参謀は思った。

 いくら何でも、水上艦と潜水艦隊に同時に対処できるはずがない。作戦参謀自身にも油断はない。

 その時、「ん、何だ?」と小さな声が聴こえた。見ると、ソナーマンがヘッドホンに手を当てながら、聴音機のハンドルを回している。何かを聞き付けたらしい。

 ややして、ソナーマンが愕然とした表情で叫んだ。

 

「司令!水中に不審な推進音を探知!これは魚雷です!我が艦隊の後方から、急速に接近してくるっ!」

「なにぃ!?」

 

 思わず変な声が口から飛び出てしまった。ネトリール司令官閣下も目を見開いている。

 その時、鈍い音が艦外から直接聴こえてきた。

 

「これは……〈ウルス〉のいる方角から炸裂音!〈ウルス〉が沈んでいきます!圧壊音探知!!あっ、魚雷がもう一発!」

 

 作戦参謀が息を呑む。

 

「この距離…僚艦『デルス』の位置か、水中爆発音! 続いて圧壊音探知、『デルス』轟沈ッ!!」

 

 信じられなかった。作戦参謀はいったい何が起きているのか、全く分からない。

 潜航している潜水艦に魚雷を命中させるなど、どう考えても不可能に近い。しかし、二隻があっという間に魚雷によって沈められてしまった。

 しかも、魚雷は後方から飛んできた。ということは──

 

「まさか、我々は敵に後ろを取られたというのか…!?」

 

 ネトリール司令官閣下の苦しげな呟きが、静まりかえった発令所に響いた。

 

「魚雷を放った敵艦はどこだ!?すぐ近くにいるはずだ。アクティブソナーを使って構わん!早く探せ!!」

「はっ!」

 

 ネトリール司令の指示を受けて、ソナーマンが動き始める。

 彼らの乗るE-400型潜水艦〈アリアロス〉には、最新のソナーが搭載されている。後の世で「アクティブソナー」と呼ばれているものだ。

 耳鳴りがするような、低い音を周囲に放つ。しかし、ソナーマンの顔色は優れず、さらに悪化した。

 

「て、敵艦確認できません!!」

 

 ネトリール司令は青ざめ、言葉を失った。すかさず作戦参謀が口を挟む。

 

「魚雷が突然現れたところからして、空から投下されたのではないでしょうか?」

「航空機からだと?」

 

 ネトリール司令が目を丸くした。

 確かに雷撃機を使えば空から魚雷を投下できる。しかし、潜望鏡も出していない我々を、いったいどうやって航空機で探知したというのか。

 

「(航空機が潜水艦を探知するとなれば、磁気探知機などの装置が必要……だが、そんな大掛かりな装置を艦上機に搭載できるとは思えん。どうする?)」

 

 航空機が相手となると、こちらの反撃手段はかなり限られる。

 E-400型には、制空戦闘も可能な特殊攻撃機"アクルックス"が三機搭載されているが、浮上してから発艦が完了するまでには10分はかかる。敵が既に頭上にいるのでは、現実的ではないだろう。

 他には、対空機銃も数丁あることはあるが、こちらも発射準備ができるまでに数分はかかる上、当たるかどうか分からない。

 

「例のデコイをいつでも使えるようにしておけ!」

「はっ!」

 

 E-400型には、新兵器として"デコイ"と呼んでいるノイズメーカーがある。

 化学反応によって気泡を多数発生させながら水中を漂うもので、使用すれば敵の探知行為を撹乱できるだろう。

 

「新たな魚雷、後方から接近!!」

「来やがったか!」

 

 ソナーマンの悲鳴のような報告。

 その時、艦の外から異様な音が聴こえてきた。

 先ほどのアクティブソナーと同じ、鈍く低い音。金属を叩いて位置を探るような、死神の声。

 それを聴いた瞬間、全員が真っ青になった。

 

「た、探信音!?」

「敵艦からか!?」

「総員落ち着け!」

 

 ネトリール司令が一喝した時、ソナーマンが恐怖に震える声で報告してきた。

 

「これは魚雷です! 魚雷が、探信音を発しながら近付いてきます!!」

「バカなっ!?」

「敵魚雷、向きを変えた模様!〈バール〉の方角に向かっていく!」

「何だと……まさか魚雷も誘導するというのか!?」

 

 思わず変な声を上げてしまったが、こればかりはどうしようもないだろう。

 まさか空のロケット兵器だけでなく、海中の魚雷まで誘導してくるとは──

 

「〈バール〉機関最大で急速潜航中…デコイを連続射出しました!」

 

 ついにデコイが使われたようだ。果たして、この最新兵器が通じるかどうか。

 永遠にも思える数十秒の後、答えは出た。

 破裂音がした。

 

「〈バール〉が敵魚雷に被弾!沈没します!!」

 

 発令所は、葬式の会場を思わせる重苦しい沈黙に包まれた。

 

「最新式のデコイでも……通用しないというのか!」

 

 クルーの誰かが悲鳴を上げている。

 

「くそっ!全艦、デコイを全弾射出しつつ、深深度潜航!できる限り深く潜って、敵の魚雷と探知を逃れるしかない!!深深度潜航の音波を出せ!急げっ!!」

 

 ネトリール司令が吐き出すように命令した。その間にもソナーマンが絶叫している。どうやら二隻の僚艦が立て続けにやられてしまったらしい。

 これが、これがニホン軍の実力だというのか。こちらのデコイが通用せず、しかも潜水艦を追尾する魚雷を放てるその性能。

 あまりに一方的だった。

 

「敵魚雷、さらに6本出現!なっ、これは……」

 

 ここでソナーマンが、信じがたい報告を上げた。

 

「魚雷出現の直前に、水中で巨大な気泡の出現音を探知しました!! 信じられません…敵の魚雷は、水中にいる潜水艦から発射されている模様!!」

「なんだって!?」

 

 誰かが悲鳴のような声を上げた。だがネトリールはこれで合点がいく。

 

「潜水艦か、そうか……!」

 

 苦しげに呟いた後、ネトリール司令は命令を繰り返した。

 

「命令に変更はない、このまま急速潜航だ! デコイはありったけ使え!!」

「ヤボール!」

 

 そしてネトリール司令は、代用コーヒーをたっぷり口に含んだ時のような苦い顔つきで、ぼそりと言った。

 

「ニホンと我々では、水中音響学の次元が違うということか。悔しいが、奴らには我々の艦では勝てない……」

「魚雷、こちらに接近してきます!」

「エンジンを切れ!」

「は?」

「聞こえなかったか?エンジンを切れ!」

「は、はい!」

 

 機関長がエンジンを停止、バッテリーによる無音潜航に入った。照明が赤ランプに切り替わり、電源を節約する。

 深度が限界に達しつつあり、全体がガタガタと軋み始めた。その中でもネトリールは静かに息を潜める。

 

「(これが最後の手段だ。これでダメなら、本格的に終わりだ)」

 

 その時、乗組員の耳に何かの爆発音が二回聞こえた。自艦の損傷ではない、ソナーマンが口を開く。

 

「爆発音探知!これは……」

「何が起こった?」

「……魚雷が何かに接触し、早爆したと思われます。おそらく地形的要因かと」

 

 思わず声が小さくなるが、その報告を聞き、ネトリールは操舵手に指示を伝える。

 

「バッテリー潜航にて3ノットで退避する。進路を取り舵50に」

「了解です。進路、取り舵」

 

 ネトリールの言葉を受け、〈アリアロス〉はゆっくりと転舵した。その方向は日本艦隊からも背後の潜水艦からも逃げられる唯一の退路であった。

 結果として、彼らは生き残ることに成功した。

 実際のところ、魚雷の再装填が間に合わず見逃されたのであるが。

 




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