自分でも一発ネタなのによくここまで書けたと思います。
同時刻 ムー大陸北部沿岸
海上自衛隊 大型護衛艦〈やまと〉
聳え立つ現代の城。
この大型護衛艦、もとい"戦艦"は、転移した日本が持てる技術の粋を集めて蘇らせただけの旧式兵器だ。
ただ大きくて威圧感のある船を作るなら、ミサイル巡洋艦で十分だろう。それこそ地球でロシアが有していたキーロフ級などが参考になる。
だがこの船の主武装はミサイルではなく誘導砲弾であり、前方に八門構えられた大口径砲からそれを打ち出す。
いわばこの船自体が砲弾を打ち出すための武器システムであるといっても過言ではない。それはかつてミサイルや航空機の登場で廃れたはずの戦艦のコンセプトと全く類似していた。
「監視衛星より続報が届きました」
大型護衛艦〈やまと〉の艦内。
薄暗い部屋にモニターの光だけが灯る、非常に目に悪い色合いのCICにて、艦隊幕僚の自衛官がそう言いながら手元のモニターに情報を表示する。
「世界連合の艦隊、進路変わりません。こちらを察知するべく広範囲に打撃群を散らばせており、総隻数は400を超えると思われます。オタハイト沖で空母艦隊が壊滅したとは思えないほどの大艦隊です」
秋山海将補は腕を組みながら、幕僚の言葉を静かに聞いていた。その隣には〈やまと〉艦長の日高の姿もあった。
「数時間前に先遣の潜水艦〈らいげい〉が接敵した潜水艦部隊は、この世界連合艦隊のための露払いだったと思われます。このまま当初の目的通り、我々がこの海域の海上優勢を確保するには、世界連合艦隊を完膚なきまでに叩き潰す必要があります」
「……わかった、報告ありがとう」
秋山海将補はその報告を聞くと、迷うそぶりを捨て、すぐさま決断を下す。
「我々水上艦隊は、このまま進撃し展開するすべての世界連合艦隊を叩く。航空護衛艦〈ふそう〉より艦載機を発艦、そのまま本隊を狙え」
「はっ。すぐさま〈ふそう〉に艦載機発艦を要請します」
「我々はこのまま進撃し、一番近い打撃群を狙う。本艦の直接砲戦で取り巻きの打撃群を撃破し、その後本隊を追撃する。以上だ」
「了解致しました」
簡潔な指示を下した秋山海将補は、一度被っていた海自制服の帽子を脱ぎ、白髪混じりの頭を撫でた。そしてため息を吐く。
「複雑ですか?」
日高艦長が秋山海将補の心情を察し、小声でそう言った。
「……見透かされてたか」
「なんだか締まりのない様子でしたので」
「迷いがないと言えば嘘になる。俺だってこんな戦い、望んでない」
「私もです。ですが今は──」
「そうだな。分かっているよ」
部下に考えを見透かされていたので、思わずその先を言うなという気持ちを込めてそう言った。
「(自衛官として、指揮官として、迷いを抱くのはよくないと分かっている。だが彼らと争う必要が本当にあるのだろうか?俺は疑問に思うよ……)」
秋山海将補の脳裏には、カルトアルパスで語り合った同じ戦艦の船乗りたちが思い浮かぶ。
彼らとなぜ争わなければならないのかという疑問は、この戦いで尽きることはない。おそらく疑問が解決する前に戦いが終わってしまうからだ。
第44任務群 旗艦〈ダスト・オーシャン〉
純粋な戦艦と比べれば見劣りするが、巡洋艦として見れば異常なほど大きな船がある。大型巡洋艦ダスト・オーシャン級の一番艦、〈ダスト・オーシャン〉はそんな船だ。
この船は巡洋艦戦隊の旗艦として、老朽化していた旧式戦艦の更新も兼ねて建造された巡洋戦艦だ。この船も軍縮の煽りを受けたものの、着工していたこの一番艦に関しては取りやめになる事はなく、無事建造され完成したのだ。
そんな大型巡洋艦の艦橋には、任務群指揮官のゼム中将を含む、第44任務群の幕僚たちがいた。彼らは迫り来る日本艦隊に備えるため、オタハイトより北に1000kmの海域を北上しながら封鎖していた。
「ゼム中将、ここより北西に400の地点に展開していた駆逐艦二隻が消息を断ちました」
その報告を聞き、ゼム中将は緊張した面持ちで振り返った。
「敵艦隊との接敵の報告は?」
「ありません。おそらく敵の電波妨害の中で誘導弾に撃沈されたものか、もしくは潜水艦による魚雷で撃破されたかと思われます」
ゼム中将は小さく歯軋りをする。この数時間の間でピケットラインを構築していた駆逐艦が次々と消息を絶っている。
艦隊はそれを受け警戒態勢を敷き、駆逐艦がいた方向へ向けて全力で向かわせているが、まだ敵艦隊とは接敵できていない。
「艦隊進路変更。駆逐艦のいた方位へ向け全速で向かえ」
「了解しました」
ゼム中将の命令を受け、単縦陣を組んだ艦隊が進路を変更しようとした、その時だった。
突然、艦隊の前衛にいた巡洋艦のうちの一隻から火柱が上がり、爆発が確認された。
「っ……なんだ!?」
それは突然の出来事であり、警戒態勢を敷いていたとはいえ艦橋の面々は目を見開いた。
『ぜ、前衛の巡洋艦〈ケラエノ〉が被弾しました!!』
その巡洋艦は艦橋と機関室に被弾したようであり、艦橋は打ち砕かれ抉られたような跡が残り、機関室に通じる煙突からは異常な黒煙が出ている。
行き足が遅れて少しずつ戦速が下がっていると思っていたその時、またもナニカが巡洋艦に降り注いだ。
『〈ケラエノ〉再び被弾!』
「ほ、砲弾だと……!?」
巡洋艦〈ケラエノ〉がまたも被弾する。
その時ゼムは、水柱が立ったのを見てそれが砲弾だと確信した。
二発の砲弾は、〈ケラエノ〉の弾薬庫を的確に撃ち抜いたのだ。一発はタウルス級特有の三段配置の艦首主砲、その二番、三番砲塔の基盤に対して、まるで吸い寄せられるかのように砲弾が命中。
もう一発も、これまた砲弾が意思を持っているかのように後部の四番砲塔に直撃。砲塔の天板を貫通して、貫通力は落ちずに弾薬庫にまで届いて炸裂した。両方の弾薬庫を、一撃で吹き飛ばしたのだ。
「ああっ……!!〈ケラエノ〉が沈む!!」
「どこから撃ってきたんだ!?」
『攻撃が、前衛二番艦の〈エレクトラ〉に!!』
見張りから悲鳴のような報告が届く。
前衛に展開していたもう一隻の巡洋艦〈エレクトラ〉が、一度に多数の砲弾を被弾。またも意思を持っているかのように、砲弾は〈エレクトラ〉に吸い寄せられるように全弾命中。
「〈エレクトラ〉炎上!!」
巡洋艦〈エレクトラ〉は燃料に引火したのか、そのまま大炎上しながらフラフラと迷走し始めた。どうやら指揮系統にもダメージが入ったらしい。
その時、艦隊の通信を担当していた士官が通信室を飛び出し、艦橋に駆け込んできた。
「ムー反乱軍の艦隊より報告!"我、電探にて遠方に発砲炎らしきわずかな反応を確認セリ"!」
報告してきたのは、ムーの反乱軍艦隊のうちの一隻だった。日本製装備で身を固めているラ・カサミ級の高性能レーダーが、発泡炎を探知したらしいのだ。ゼムはすぐさま距離を聞き出す。
「距離と方位は!?」
「距離は推定36万!方位250!!」
「な、なんだと……!?」
その報告を聞き、ゼム中将は絶句した。この場合の距離36万というのは、約360kmに相当する。明らかに砲弾の飛距離ではない。ゼム中将もこの時ばかりは自分の耳がおかしくなったのではないかと錯覚した。
「そんなっ……まだ敵は見えていないのですよ!距離36万から、砲撃を当ててきたって言うんですか!?」
「ならこの状況、なんと説明するつもりだ!?」
その想いは他の参謀たちも同じであったが、ゼム中将は指揮する立場としてその邪念を打ち払い、敵は360km先から砲撃してきたと無理やり結論づけた。
そうしている間にも状況は悪い方向に進んでいく。
「巡洋艦〈ミルザム〉被害甚大!」
「駆逐艦〈ストーン〉にも砲弾が命中!粉々です!」
「〈エレクトラ〉は船体が保てません!沈みます!」
「あの威力は戦艦クラスか!?食らったらとんでもないぞ!!」
「何故だ!何故当たるんだこの距離から!!」
第44任務部隊からすれば、遥か彼方の上空のその先、宇宙空間にある偵察衛星からの情報で狙われていることなど全く予想できなかった。
海面の反射などの気象条件、さらに混乱の中で接近した駆逐艦〈ストーン〉などの要因で多少砲弾が逸れたものの、やまと型護衛艦はほぼ確実に百発百中の砲弾を繰り出し続けていた。
「これが砲撃なら観測がいる筈だ!付近に航空機や潜水艦は見当たらないか!?」
「いえ!レーダーには航空機の反応は全くありません!」
『こちら艦橋見張り、潜水艦のシュノーケルも見当たりませんよ!奴らはどこから観測しているんですか!?』
見張り員の喚き声を遮るように、さらなる砲撃の音が海域に響き渡る。
顔を見上げれば、旗艦〈ダスト・オーシャン〉の前方、タウルス級重巡洋艦の〈アトラス〉が、一瞬で発生した水柱と爆炎によって覆い隠される。
やまと型護衛艦〈やまと〉から放たれた46cm誘導砲弾は、その4発の散布界を寸分違わず〈アトラス〉の船体に命中させた。砲弾の鋼鉄は、強固で頑丈な筈のタウルス級重巡洋艦の上部甲板を一撃で打ち砕き破壊する。
「前方!巡洋艦〈アトラス〉が!!」
ただ叩くだけではない、もはや粉砕と言って良いほどの一撃が〈アトラス〉の艦中央から右舷後方にかけて2発命中。それが運悪く魚雷発射管の付近であったが故に、〈アトラス〉は〈ダスト・オーシャン〉の目の前で大爆発を起こした。
その衝撃は艦尾まで伝わり、左に転舵しようとしていた舵に重大な損傷を与えた。船の進路はコントロールできなくなり、〈ダスト・オーシャン〉に覆いかぶさるようなコースを取り始める。
「減速!取り舵回避!!」
コントロールを失った〈アトラス〉は、炎上しながら衝突コースを進む。
それを回避しようと、〈ダスト・オーシャン〉は左側に舵を切った。艦長の指示で減速し、衝突を回避しようとしたが、それも虚しく距離は縮まっていき、ついにお互いの船体が接触した。
3万トンの船体と1万トンの船体が激突し、被弾の衝撃と同等、いやそれよりも遥かに深い傷が両艦を襲う。恐怖を煽る船体の軋む音が止んだ後、艦長が叫ぶ。
「損害報告!」
すかさず艦長が通った声を張り上げ、副長を含めた各部署の責任者に被害を問い質す。艦内無線機の中で無事な物は即刻被害状況を報告し、そうでない所は伝令が艦内を走り回った上でやってくる。その両方も無い部署は、恐らく重篤な被害を受けたのであろう。
「こちら左舷中央、喫水線上の装甲が大きく破損しています!」
「第2士官室損傷!4名が負傷、うち1人は意識不明!!」
「〈アトラス〉応答せよ!〈アトラス〉!!」
巨大なのは大型巡洋艦である〈ダスト・オーシャン〉の方であったため、彼女の傷はそれほど深くなかった。
しかし、衝突した〈アトラス〉の方は自ら格上にぶつかったために、そのダメージは大きかった。〈ダスト・オーシャン〉の八割程度の船体に、強烈な威力を物語る亀裂が入り、そこから掻き分ける海水が入り込んで傷を抉り、浸水し始めていた。
しかし〈アトラス〉では艦橋にて指揮官達が転倒し重傷者となった事で、その指揮系統が一時的に失われていた。炎上していることも相まって、乗組員たちは再び被弾したと思い、パニックに陥る。一時的ではあるが、〈アトラス〉は、艦としての戦力を損失し多大な隙が生まれた。
「司令!混乱により各艦の統率が乱れています!」
「何をやっとる、各艦に伝達を繋げ!部隊毎に単縦陣だ!!各艦2隻ごとに小集団を組み、適切な距離を取り、チャフ・フレア・煙幕を展開しつつ前進せよ!!」
『また砲撃が来ます!!』
その一撃は、完全に沈黙し乗組員が脱出し始めていた〈アトラス〉に降り注いだ。
砲撃と衝突により破断寸前にまで至っていた船体が、その2発の砲弾が艦中央に集中したことにより、大ダメージを負ってしまった。
さらに不運なことに、その爆発は艦底部にも集中した。これにより、パニックになって飛び降りた乗員にまで衝撃が飛来。海に浮かぶ乗組員もろとも、粉々に粉砕してしまった。
砲弾を放った〈やまと〉からすれば、そのような〈アトラス〉の悲惨な状況は知る由もなく、ただレーダー上に映る反応にトドメを刺しただけである。
だがその様子を艦橋から見てしまった第44任務部隊の士官たちには、"要救助者まで狙い撃ちにされた"という印象を与えた。
「あっ、〈アトラス〉が……」
「クソッ!鬼畜ヤムートめ!」
ゼム中将は唇をかみしめてそう言いつつ、なんとか混乱を打ち払おうと、残存艦隊に指示を出す。
「艦隊を集結させろ!反応があったニホン艦隊に切り込む!」
「上空、砲弾飛翔音!こっちに来ます!!」
「くそっ!衝撃に備え!!」
だがそんな彼らの思考を読んでいるかの如く、的確なタイミングで旗艦の〈ダスト・オーシャン〉にも砲弾が降り注いだ。
鈍い衝撃と共に、船が揺れる。三万トンはあろう大型巡洋艦も、戦艦クラスの大口径砲弾には耐えられず、あちこちから悲鳴が上がった。
衝撃から立ち直った艦長が、マイクを手に取り各部に問いかける。
「くっ……各部損害報告!!」
『右舷中央に被弾!三番、五番高角砲が消失!火災発生!』
『左舷艦尾被弾!左舷電源回路一番から三番断線!予備回路に切り替えます!!』
「応急班、ダメージコントロール急げ!」
「艦長!今の一撃で艦隊通信機器がイカれました!」
「予備の機器を使用しろ!今の状況で旗艦を移譲させるわけにはいかん!」
『砲撃!また来ます!!』
艦長が状況の収集に努めようと努力している間に、二発目の砲弾が降り注いだ。さっきから思っていたが、砲弾の降り注ぐペースが早い。相手は複数隻いたとしてもこの発射速度はおかしい。
そう思っても現実は無常。船を割り裂くかのような衝撃と共に、旗艦〈ダスト・オーシャン〉は大きく揺れてあちこちから火花が飛び散った。
「損害報告!!」
『艦中央部被弾!爆発により装甲剥離!煙突に亀裂発生!!』
『第一機関室に被弾あり!艦内で火災発生!黒煙が逆流しています!』
「第一機関室の火災を消し止めろ!行き足を止め──」
艦長が指示を下そうと懸命に頑張るが、またも砲弾がそれを遮った。
今度は人一倍大きな衝撃で、艦橋に被弾したものだと瞬時に皆が理解した。
「艦橋被弾!被弾!!」
「第二艦橋応答せよ!第二艦橋!!」
「艦内電源、完全に損失!!」
艦橋が急に薄暗くなり、非常電源すら付かない。そんな中、ゼム中将は揺れる船の中で配管に背中を激しく打ち、呻き声をあげていた。
「ぐっ……あがっ……」
「司令!司令!!」
ゼムは必死に声を出そうとするが、首の骨が折れているため声が出せない。
「司令、指揮権の移譲を命じてください!早く!」
「(そうだ、俺はもう指揮できん……他の奴に代われ……!)」
しかし無慈悲にも、再び彼らの耳に金切り音が聞こえた。まるで死神の鎌が振り下ろされるかのように、それは近づく。
「
艦長らが最後に聞いたのは、ゼム中将の断末魔のような呻き声だった。
結果
第44任務部隊、壊滅
ゼム中将:戦死
司令部要員:全滅
大型巡洋艦〈ダスト・オーシャン〉:生存者2251名中882名
撃沈被害:21隻中17隻
自衛隊による救助者:撃沈艦艇乗組員総数の約3割
次回もなるべく早く書きます。