新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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第五十三話『海での蹂躙・後編』

 いったいどれだけの血と将兵が、この海に沈んだのだろうか。

 国籍も、種族も、艦種も関係なく、ただただ理不尽な超遠距離砲撃によって敵となった日本の戦艦の姿を見ることもなく、連合軍の艦隊は海の底へと沈んでいく。

 辺りには無残な姿になった戦艦や巡洋艦、推力を失った駆逐艦が漂流し、船に積まれた物資や残骸、顔を海に沈めた水死体が散らばっている。

 燃料で動くタイプの船から漏れ出た油に火がついて、辺りは燃え盛る地獄と化している。雲がどんよりと覆いかぶさり、煙で光が遮断される。

 辺りはまるで、ここだけ夜になったかのような陰鬱な雰囲気があった。

 黒煙は百キロにわたって尾を引き、範囲も膨大であったため、衛星の高度からでも観測できるほどだった。海から煙の尾が風にたなびいている衛星写真は、もしかしたら後世の歴史書に載っているかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムー大陸北部沿岸

海上自衛隊 大型護衛艦〈やまと〉

 

「敵本隊、主力艦艇が全滅。脅威は排除された模様」

「〈えちご〉より通信、”我、残弾10%以下”」

 

 敵の本隊が全滅し、そんな残酷な様子が衛星から届いていたが、海上自衛隊のCICでは事務的な報告がなされるだけだった。

 無論、乗員の中にはこの虐殺のような一連の戦闘に思うところがなかったわけではない。

 しかし彼らは極度に事務化された軍隊であり、脅威に立ち向かう自衛官なのである。感情を表に出すことはなかった。

 

「残りの残党は敗走していきます」

「敵旗艦はどうだ?」

「火災炎上中の模様。喫水も下がっています」

「そうか……」

 

 そしてそれは、司令官として君臨する秋山も同じだった。

 彼と艦長の日高の脳裏に浮かぶのは、あの時カルトアルパスで交流したグレード・アトラスターの面々。乗員の中にも交流があった者がいるかもしれない。

 しかし、思いにふけることはあっても戦闘をやめることはなかった。彼らは皆、自衛官としての任務を優先し、葛藤を捨てたのだから。

 

「……ラクスタル艦長、申し訳ない。あなたの淹れたコーヒーは美味しかったです」

 

 その中でただ一人、秋山だけは死んでいった彼らに敬意と追悼を表するため、静かに目をつむったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

 

 この日、眠らない魔法都市にて、史上初めて空襲サイレンが鳴った。

 沿岸部に張り巡らされた電磁魔導レーダーが、超高速で接近する多数の機影を探知したからである。

 

「空襲だ!走れ走れ!!」

「敵はニホンの艦載機と思われる!各員全力で迎撃せよ!!」

 

 天の浮船のパイロットたちは、もうミリシアル本土にまで敵が迫っていることに戦慄とかつてない緊張を抱いていたが、それを振り払うかのように愛機のもとへと走っていった。

 本土防空軍に配備された最新の天の浮船、エルペシオ3のコックピットにパイロットが取り付き、整備兵がエナーシャハンドルでエンジンを起動しようとしたとき、それはやってきた。

 

「敵機上空!西だ!」

 

 誰かが必死に叫んだ。

 パイロットと整備兵たちの視線が、一時的にそちらの方向を向く。途端、轟音が過ぎ去った。

 基地上空を飛び去って行った数機の戦闘機が、爆音と衝撃波をもってして彼らを揺さぶった。

 その途端、滑走路に投下されたいくつもの小型爆弾がさく裂。滑走路をズタズタに破壊して、基地の機能をそいだ。そしてそれは、エプロンに駐機されていたエルペシオ3の列にも投下されていた。

 

「伏せろぉぉぉぉぉ!!」

 

 誰かが叫ぶが、その場で伏せられた者は少なかった。防空軍のパイロットと整備兵たちは、爆発と激しい熱風に揺さぶられ、数多くの機体と運命を共にした。

 

「くそっ、くそっ、ニホン人め!!」

 

 生き残った対空魔光砲群が、遅いタイミングで対空射撃を開始し、基地から色とりどりの光の弾が打ち上げられる。

 しかし、すでに爆弾を投下し超音速で飛び去って行った海上自衛隊のF/A-18Jには全く攻撃が届かず、無意味な空振りに終わるだけだった。

 それだけでなく、無意味な抵抗を続ける彼らに向かって、さらに上空から次々と誘導爆弾が投下されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 ルーンポリス上空

海上自衛隊 航空護衛艦〈ふそう〉所属 第1011飛行隊

 

『ワダツミ05、ボムズアウェイ……命中!』

『ナイスヒット。高射砲の破壊を確認した』

『こちらワダツミ03、敵対空施設の7割を破壊した。砲火も退いてきている』

 

 報告を聞いた編隊長の樋口は、操縦を前の席に任せ、後席から自分の目で戦果を確認する。

 敵防空施設の大多数を破壊したのか、ルーンポリスから打ち上げられるカラフルな光の弾は少なくなっていた。

 

「どうです?」

「戦果は上々。頃間だな」

 

 編隊長の樋口に対し、前席の操縦士が声をかけてきた。それに対して樋口は簡潔に答える。

 この複座型のF/A-18JFは、以前のカルトアルパス撤退支援の時には配備されていなかった機体だった。複座型の生産体制も確立されたため、隊長機や対地攻撃任務機のために配備が進められている。

 ともかく上空から見て、自分たちの任務である敵防空施設の破壊は達成されていると判断した。

 まだ隠蔽されている対空砲がある可能性を考慮したが、それを考慮してはきりがないので、樋口は作戦を次の段階に進める。

 

「……”やましろ”の各隊へ、こちらワダツミ。敵防空施設の大半を制圧。施設への攻撃を開始せよ」

『了解した。これより攻撃を開始する』

 

 樋口の報告を信じ、〈ふそう〉と行動を共にする〈やましろ〉の艦載機がルーンポリス西側から侵入。低空飛行を解除し、一気に上昇。軍事施設への攻撃態勢に入った。

 〈ふそう〉と〈やましろ〉の二隻は、連合軍主力艦隊の撃破の任務を帯びた〈やまと〉以下数隻の艦隊から分派しこの攻撃任務に就いている。

 ”ドゥーリットル作戦”と名付けられたこのミリシアル本土空襲作戦の目的は、連合軍の後方軍事施設の破壊とミリシアル市民に対する揺さぶり。数千年の歴史の中で一度も本土が空襲されなかったミリシアルの威信と戦意を削る、戦争を早期に終結させるための作戦……

 

「(頼むから余計な被害は起きるなよ……)」

 

 樋口は作戦の破壊目標が軍事施設のみに絞られている理由を察しているのか、心の中でそう独り言ちた。

 

『ウミカゼ各隊。攻撃開始』

『了解。各機目標を指示』

『ウミカゼ03、ボムズアウェイ!』

 

 攻撃が開始された。

 〈やましろ〉の各飛行隊は、搭載されたJDAMなどの誘導爆弾をそれぞれ目標に投下。ある者は停泊していた軍艦に、またある者は軍需工場に、またある者は政府施設へ……

 

『各隊攻撃完了。残弾なし』

『こちらウミカゼ・リード。戦果を報告せよ』

『こちらウミカゼ05。停泊中、および建造中の新型戦艦を計5隻破壊。港湾施設にもダメージを確認』

『ウミカゼ07、政府庁舎のアルビオン城に命中弾多数。一部施設の倒壊を確認』

『軍需工場の完全破壊を確認。現在敷地は炎上中』

 

 攻撃は単調な作業のように、いつの間にか終わっていた。

 眠らない魔法都市ルーンポリスには数多くの黒煙が立ち込め、火災が広がっている地区もある。

 この絵図だけでも連合軍の士気を揺さぶるには大きすぎるかもしれない。

 

『こちら”ふそう”。これにて作戦完了を宣言する。ワダツミ、ウミカゼ各隊は母艦へ帰投せよ』

『こちらウミカゼ、了解。これより帰還する』

「……こちらワダツミ、了解した。帰投する』

 

 その様子を最後まで上空から確認していた樋口は、僅かな諸行無常を感じながらも、帰投命令に従い隊を母艦へ帰投させた。

 




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