新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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第五十四話『陸上の圧力』

日本の参戦から3日目 キールセキ北西のとある森林

グラ・バルカス帝国陸軍 第4装甲師団 第19捜索連隊

 

 二月の凍てつく森。雪は降ってないが凍える寒さで地面は凍っている。

 そんな森の中を、小隊規模のグラ・バルカス歩兵たちがひっそりと進んでいた。しかし、彼らは突如として敵の銃撃に晒される。

 5.56mmの銃弾が掠め、気づいた兵士たちは即座に伏せたり身を隠したりするが、何人かの兵士たちは今の数秒の間に銃撃に倒れてしまった。

 

「敵襲だ!12時方向、敵歩兵多数!」

「撃ち返せ!ニホン兵を排除しろ!」

 

 先方を歩いていた歩兵達が敵襲に気づくと、指揮官は叫び、森の太い木を盾に応戦を開始した。

 彼らの手には新型の自動小銃が握られており、専用の中口径弾薬とともに、その火力を発揮するはずだった。

 しかし、相手も同じような自動小銃を所持しているのか、"タタタタッ"という甲高い指切り射撃の音が連続で響くと、こちら側の兵士たちが少しずつ削られていった。

 

「ダメだ、精度が違いすぎる!」

 

 木の影から応戦していた兵士は、そのあまりに高い火力と銃弾の応酬に耐えかねる、縮こまって身を隠すしかなかった。

 敵の自動小銃は、ただ連射できるだけでなく精度も高いらしい。しかもこちらの自動小銃は二人に一人が持っていれば上等なのに対し、彼方は全ての歩兵に対しても待たせているように感じられた。

 

「クソッ、奴らこっちの十倍は撃ち返して来やがるぞ!」

「こんなのが偵察部隊の火力かよ!」

 

 同捜索連隊所属で、ほぼ同期で腐れ縁が続く一等兵のアインツとハイネは、火力優勢な敵に悪態を吐きながらも応戦を続けている。

 悪路のため置いてきた偵察バイクから、34型汎用機関銃を取り外した連射。迫り来る敵を牽制し、制圧しようとしていた。

 しかし敵の姿がよく見えない。相手は高度な迷彩服を着ているのか、人間の視覚では撃ってくる火点しか見えない。それを頼りにして撃ち返しているが、アインツが右から回り込む人影を見つけた。

 

「ハイネ、右手だ、回り込まれてる!」

「分かってる!」

 

 ハイネは相棒に指差され、若干苛立ちながらも機関銃をそちらの方に向けた。

 森の中を蠢く人影に向かい、数回にわたって指切り射撃を行うが、その途端、カチン……という音と共に弾帯が途切れてしまった。

 

「チッ、弾切れだ!」

「置いておけ、もう下がるぞ!」

「馬鹿言うな、分隊唯一の機関銃だぞ!」

「アインツ、ハイネ、早く来い!追撃されるぞ!」

 

 背後から隊長に急かされる。

 彼らの前にまで敵は迫っており、もはや銃撃戦を行うには近すぎる。逆に制圧される前にこの陣地を捨てる必要があった。

 

「それ持って走れや!」

「わかったよ!」

 

 アインツにそう怒鳴られながらも、貴重な機関銃を手に持ち、後方へ急いで走る。だが少し後、隊長が何かを見つけて血相を変えて叫んだ。

 

「伏せろ!」

「え?」

 

 その言葉の意味を知る前に、二人は榴弾の爆発に吹き飛ばされた。

 アインツはほぼ直撃の位置にいたのか、爆炎に紛れて姿を消した。ハイネの方はギリギリ即死範囲を逸れていたのか、大きく吹き飛ばされた。

 

「がっ……あがっ……」

 

 ハイネは背中を打った。その爆発の正体を見ようと目を開ける。

 するとそこには、キュラキュラと無限軌道を鳴らしながら敵の偵察部隊を援護する大型の戦闘車両が居た。

 

「せ、戦車だと……」

 

 いきなり現れた陸上の怪物に対し、ハイネはよろけながら後退りするしかなかった。その時、ハイネの傍らに衛生兵と隊長が駆けつけた。

 

「ハイネ!しっかりしろ、傷は浅い!」

「あ、アインツは……?」

「奴は死んだ」

「クソッ……」

 

 ハイネは何かと交友が長かった腐れ縁の死を知り、歯軋りをするしかなかった。

 そんな彼らの下に、ジリジリと迫り来るかのように敵の戦車と偵察歩兵達は進軍してくる。隊長はそれを岩場の陰から見据えていたが、側の部下が指示を問う。

 

「隊長、どうしますか?」

「我々の装備ではどうしようもない。撤退するぞ」

 

 隊長の決断は早かった。

 部隊には対戦車戦闘を行う人員も余裕もなかったため、当初の任務である敵の偵察を諦めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

第4装甲師団 師団司令部

 

「参謀長。敵の打撃力は予想以上です。このままでは戦線の維持は困難です」

「第19捜索連隊の第2中隊が敵戦車と遭遇。またも撤退中です」

「くそっ、コイツは不味いことになったな……」

 

 戦況が芳しくなく、師団司令部のテントで参謀長が唸っていた。彼らの表情は暗い。通信機からは各部隊からの悲惨な報告が相次いだ。

 そこへ、前線司令部への督戦から観測機を用いて師団長のボーグ少将が帰ってきた。彼に対して部下たちは敬礼を挟み、ボーグ少将は開口一番に状況を聞き出す。

 

「私だ。戦況はどうなっている?」

「あまり、良いとは言えませぬな……」

 

 第4装甲師団が担当する戦区は三つであった

 まずは第2装甲旅団長シェダル大佐が率いるシェダル戦闘団がキールセキ北西のマシツ村付近で布陣する戦区に配備。こちらは第22装甲連隊と第21装甲連隊主隊、歩兵大隊と砲兵大隊がそれぞれ1個で構成される。

 第31装甲擲弾兵連隊長ツィー大佐が率いており、第21装甲連隊支隊と歩兵大隊と砲兵大隊で構成されるツィー戦闘団がキールセキ南西のキサカ村で布陣する戦区

 そして第1装甲旅団長スィオネ大佐が率いており、第11装甲連隊と第12装甲連隊、歩兵大隊と砲兵大隊で構成され……両者の村を結ぶ交通の要衝であり、何線もの主要道路が通る小規模な街"ペリアロ"に駐留するスィオネ戦闘団。合計三つの戦区に別れ戦闘を行なっていた。

 無論この近辺に展開している師団は第4装甲師団だけではなく、北部の戦線には第11装甲師団、南部の戦区には第8装甲擲弾兵師団が展開し、こちらも同じような編成で対応に当たっていた。

 

「どの戦区でも一応遅滞作戦が成功してはおりますが、長時間持ちこたえられるか…と言ったところです……」

「第19捜索連隊の活動も、あまり功を奏しているとは言えません。各地へ散った小規模部隊の掃討どころか、随伴の装甲部隊により返り討ちに遭っている始末です」

 

 この小規模の部隊とは、第2師団と第7師団の両偵察隊を基に編成された偵察戦闘大隊である。この部隊には数輌の10式戦車が配備されており、第19捜索連隊に痛打を与えて返り討ちにしていた。

 一方の第19捜索連隊は、広い戦区の広域捜索の為に小隊規模で散らばっており、望むべき対戦車戦闘は不可能だった事も、この結果の一因となっている。

 

「敵はそんな小さな偵察部隊にも、戦車を配備しているのですか?」

「……事前のゲリラからの報告では、相手は二個装甲旅団程度ではなかったのか?」

 

 グラ・バルカス帝国陸軍は、事前にゲリラなどから情報を集め、第2、第7師団のある程度の情報を掴んでいた。大まかな師団の配置についても。

 しかし詳しい編成や兵器に関して情報を集めようとしたところ、情報省の粘着的な妨害によりほとんど成果を得られず、戦力についてはあまり事前情報がないまま戦闘を迎えてしまった。

 一応相手の兵力を調べる段階において、自衛隊の一個師団の定員が7000名程度に留まるという事実をかろうじて入手できた事もあり、連合軍は第2、第7師団の戦力を旅団相当と判断していた。

 

「相手が旅団規模の場合、人数ではこちらの方が優っているはずですが……」

「……どうやら油断ならない相手のようだ。参謀長、僅かでいい、敵に関して何か詳しい情報は?」

「はっ、現在纏っている報告を集計しました。こちらをご覧ください」

 

 ボーグ少将にそう問われ、情報担当の参謀が丁度各部隊からの報告を机の上の地図に書き出しており、まとめてあった。

 ボーグは地図上に描かれた戦線と味方の駒、そして敵が進軍してきているルートなどが示されてある。

 

「まず、各戦区に対して攻撃している部隊はいくつか名前が判明しています。彼らの主力はニホン陸軍バルクルス方面軍所属の"第2師団"と"第7師団"の二個装甲()()です。敵の通信妨害により詳しい敵の配置は分かりませんでしたが、僅かな通信と伝令の報告によって得られた現在の予想配置がこちらになります」

 

 情報担当は手元に纏められた情報を元に、敵の形を模した赤い駒を並べる。その様子を見て、ボーグは顎に手を当て小さく唸った。

 

「これらの配置から分かる様に、敵は装甲連隊を中心とし、装甲擲弾兵部隊などを多数随伴させ、正面の平地に対して圧力を仕掛けています。村や街などの要所は無視しており、戦線の突破と包囲を目論んでいる様です」

「……敵の進軍速度が速い。半日前は10km先に前線があったはずだ」

「各戦線の指揮官によると、予想以上に敵の装甲部隊が強力との事。編成の全てが"重戦車"とも言うべき大型戦車で構成されているらしく、中戦車主体の我が軍は苦戦を強いられています」

「編成の全てが重戦車だと?」

「はい。敵重戦車は装甲、火砲、機動性共に非常に高い性能を有しているとのことです」

「ふむ、数的不利を質でカバーしようという魂胆か……?」

 

 ボーグはニホンの装甲部隊の編成について理解に苦しむ。我々の常識で語れない存在なのだとは理解していたが、いざ現実で対峙してみると、その異質さは計り知れない。

 

「それから各装甲連隊には、一個から二個中隊規模の装甲擲弾兵が常に随伴している様で、大型装甲車や砲兵なども各地で確認されております」

「敵の配置もよく分からんな……なぜそんなに部隊を細かく区切る必要があるんだ?普通なら、もっと纏めた規模で、一気に襲い掛かってもおかしくないのに」

「おそらくですが、ニホン軍は人員が足りていないのではないでしょうか?広い戦線をカバーするのに部隊が足りない場合は、もっと細かく区切って配置する必要があります」

 

 補給担当の参謀が口を挟んだが、ボーグは彼の言葉には一理あると感じた。そうでなければ軍隊として不利な"薄く広く"という部隊配置はなされない。

 

「なるほど。その可能性はあり得るかもしれん」

「その一方で、我々は兵器も人も今のところは充足しております。まだ兵員の士気も万全であり、予備も多数あります」

「なら数を生かし、奴らの戦線を広げさせる戦い方をするしかあるまい」

 

 ボーグ少将は素早く考えをまとめて決断する。このような場合の作戦指示はなるべく早い方がいい。

 

「通信兵、この情報を各戦線の部隊に共有しろ。ミリシアル軍にもだ。我々は正面に圧力を加えるニホン軍を南側へ陽動し、戦線を広げさせる」

「はっ、了解しました、今すぐ手配します」

 

 通信担当の参謀に簡潔な指示を下す。彼らが忙しなく動き始めるのを確認したボーグは、顎髭を指で撫でながら、一人思考を照らす。

 

「準備が整うまでは対戦車部隊に耐えてもらうしかあるまいな……」

 

 ボーグはこれから師団のため真っ先に犠牲になるであろう対戦車部隊に対し、哀れみと謝罪が入り混じった複雑な感情を抱いた。

 




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