新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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今回の戦闘描写で良いかどうか、少し気になる。


第五話『二度目の悲劇』

 

 港湾都市レイスグに、レイフォル海軍の旗を掲げた戦列艦が集結していた。相手が大砲を持って武装している事から、海を挟んで対峙する陸上自衛隊員達に緊張が走る。

 

「犬神だ、何か進展はあったか?」

「いえ……相手側は海賊ではなくレイフォル海軍だと名乗った事以外、未だ進展なしです」

 

 港湾都市レイスグに駐留している陸自小隊の分隊長、犬神剛准陸尉が現場に到着。指揮を取ろうと部隊員から状況を聞き出す。

 彼らが今レイスグに居る部隊の約半数である。陸上自衛隊は前々から問題視されていた人員不足により、パガンダ全土を制圧し続けるだけで人員が枯渇してしまっていた。

 本土で治安維持と食糧配給のために活動しているのも、この問題に拍車をかけている。

 

「どうする……海上保安官を人質に取られては、迂闊な行動もできんぞ」

 

 彼らの視線の先、レイフォル海軍の戦列艦の艦上に海上保安官の隊員達が一列に並べられていた。おおかた、人質と言うことであろう。

 

「SATとか居ないんですか?この事態のプロでしょう?」

「彼らは王都に居る……到着までしばらくかかる。我々だけで交渉するしかない」

 

 人質救出のプロであるSATは、王都にて活動しているためヘリで来るにしてもしばらく掛かる。

 

「……ですから、我々はあなた方との戦闘を望んでおりません。話し合いで解決できませんか?」

『そちらから撃ってきたのに、話し合いで解決できると思うのか!?なぜ我々を攻撃した!?』

 

 犬神が来るまで現場を取り仕切っていた分隊長の城島 仁史が、レイフォル海軍を名乗る一団と交渉を続けているが、説得に難航しているらしい。適当な言葉で時間を稼いでいるが、両者のの緊張は最高潮に達している。

 

「それは……少なくとも我々はその様子を見ておりません。なので、真意については答えかねます」

『ふざけるな!こちらは戦列艦と乗員を失ったんだぞ!これは明らかな宣戦布告であろう!』

「違います、不幸な行き違いです!本当に宣戦布告をするつもりなら、今のこの場であなた達を攻撃しています。ですが、していないでしょう?」

『それは証拠にならんだろう!』

 

 言葉は通じるが、話し合いになっていないのが現状だった。

 現場に居た日本側の証言者がいない以上なんとも言えないが、彼らは海保側が先に撃ったと主張している。

 海保側がなんの理由もなしに先に発砲することは考えにくい。もしそうなら何かの挑発行為があったか、それに呼応して威嚇射撃をしたかが考えられる。

 

『ガイルド司令。こいつら、もう殺してしまいましょう。話の通じないアイツらへ見せしめにしてやるんです』

『待て、それをしたら我々が悪者ではないか』

『こいつらから先に撃ってきたんですよ!?我々は悪くない!』

「おい待て、何をしている!?」

 

 一人の副官が刃物を取り出し、捕虜として捕らえられた海上保安官の首元に当てると……

 

「待て!止めろ!」

 

 副官はその海上保安官の首を、ナイフで引き裂いた。

 

「こ、こいつら殺しやがった!」

「許さねぇ!」

 

 一部の隊員が激昂し、小銃を構えた。怒りによって緊張が衝突に変わろうとしている中、城島と犬神はそれを止めようとするも、間に合わず隊員が発砲してしまった。

 

──ダンッ!!

──ダダダッ!!

 

 数発の弾丸だった。89式小銃から撃ち出された弾丸は真っ直ぐ飛翔し、港を飛び越え、一番手前にいた戦列艦の甲板上の水兵に命中した。

 それは交渉のためにわざわざ300mまで近寄ってきた調査艦隊の旗艦〈パナシュラ〉であった。

 

『発砲!発砲!』

『くそっ!反撃だ!……貴様ら、もう容赦せんぞ!』

「まずい!」

 

 今この場で交渉は決裂した。戦列艦が戦闘態勢に移行するのを見て、城島と犬神は事態の収拾を諦める。

 

「応戦準備だ!もうどうにもならん!」

 

 その合図と共に、自衛官達が実弾を詰め込んだ武器を構える。89式が、ミニミが、そして重機関銃の全てがレイフォル軍人に向けられる。

 

「ってぇ!!」

 

 その合図と共に、戦列艦の甲板に向けて無数の銃撃が放たれた。弾丸は甲板に集まっていたレイフォル海軍軍人達を、次々と撃ち殺していく。

 

「ぐわっ!」

「銃撃だ!隠れろ!」

「た、助け……!」

 

 次々と仲間が倒れる。その様子に、ただならぬ恐怖を感じた海将ガイルドは柱の陰に隠れて攻撃をやり過ごしていた。その間も仲間が次々と倒れていく。

 

「チッ……反撃だ!艦隊は砲撃を開始しろ!」

 

 それでも艦隊司令ガイルドは指揮を立て直そうと、周囲の水兵たちに大声で指示を出す。だがその瞬間、向かい側の建物から自衛隊による狙撃で膝を撃ち抜かれた。

 

「がっ……!」

 

 そして、間髪容れずに狙撃銃のボルトが引かれる。倒れる直前、ガイルドはその建物からスコープフラッシュを見た。

 

「ガイルド司令!」

「くっ……あんな距離から……」

 

 圧倒的な射程から打ち出された弾丸はガイルドの足を撃ち抜き、逃げる足を潰した。

 

「反撃だ、撃て!砲撃で制圧しろ!!」

 

 ガイルドはそれでもなお指揮を続け、艦隊全体に命令を下した。

 銃撃に晒されていなかった戦列艦が動き出し、戦列艦の数十門も備え付けられた大砲が動く。

 内部で砲兵が大砲を装填し、再び発射位置に取り付けば、数十発の炸裂弾が港に撃ち込まれる。

 爆裂が港戦隊を襲い、自衛官達の身動きを封じた。

 

「クソッタレ!!」

 

 さすがに装甲のない歩兵では、戦列艦程度とは言え砲撃に晒されると身動きが取れなくなる。犬神は地面に伏せ、他の隊員達は建物の中に隠れ、なんとか態勢を維持していた。

 84mmカールグスタフを持っているので、反撃してやろうかと思ったその時、援軍が駆けつける。

 

「犬神!戦車で支援する、後方に下がれ!」

「猿渡か!」

 

 猿渡学率いる10式戦車の部隊が、港湾都市レイスグに到着したのだ。犬神は彼らに後の対処を任せるべく、一旦後方に下がった。

 

「あとは頼んだぞ!」

「ああ!任せておけ!」

 

 10式の内部では、自動装填装置により砲弾が装填され尾栓が閉まった。合図としてランプが光り、レイフォル海軍へ向けて120mm滑腔砲が照準される。

 

「てぇっ!!」

 

 猿渡の合図で砲弾が放たれ、空気を震わせる爆裂音と共に砲弾が放たれる。砲弾はそのまま戦列艦の船腹へと飛んでいき、相手の装甲ごと土手っ腹を撃ち抜いた。

 内部で信管が作動し、砲弾が炸裂。HEAT-MP弾の爆発が戦列艦の内部を抉り、相手の火薬庫に火をつけた。

 

「な、なんだと!?」

 

 戦列艦は水に浮く火薬庫のような存在である。そのため一度でも火薬に火が付けばあとは大爆発で粉微塵に吹き飛ばされる。

 旗艦〈パナシュラ〉は狙われず、ガイルドは味方が爆沈する様子をその目で見ていた。あまりに正確で強力な一撃に、冷や汗が出る。

 

「次!旗艦以外は全て吹き飛ばせ!」

 

 相手の爆発を確認し、猿渡は次の目標を指示する。そして次の戦列艦も主砲で吹き飛ばし、相手は火達磨と化した。

 

「な、なんだあれはぁ!?」

「狼狽えるな!魔導砲を直撃させろ!」

 

 レイフォル海軍の軍人達も、戦車という陸上で大砲を運用する謎の物体の登場に狼狽える。

 だが海軍軍人としてここまでやられてタダでは済まさない。生き残った士官が大砲での反撃を命じる。

 

「撃て!」

 

 数十門の大砲が一斉に放たれ、10式戦車を爆風で覆い隠す。その爆裂の派手さに撃破を確信したレイフォル海軍の軍人達であったが、煙が晴れると共に反撃の120mm砲弾が轟いた。

 彼らの背後にいた戦列艦が、その砲弾の餌食となり大爆発が起こる。魔導砲を喰らっても平然と反撃するその様子に、レイフォル海軍の軍人達は大きく狼狽えた。

 

「う、嘘だろ!?」

「魔導砲の炸裂弾が効いていないのか!?」

 

 そして、次の砲弾が彼らの隣にいた戦列艦に轟き爆裂を起こす。衝撃波により密集していた他の船にも被害が及ぶ。

 

「ぐわっ!!」

「くそぉ!あいつの砲撃は届くのかよぉ!」

「勝てねぇ!俺は逃げるぞ!」

 

 情けない声を上げながら、死ぬわけにはいかないと海面に飛び込む水兵達もいた。

 だがそんな彼らの戦列艦に対し、10式戦車の部隊は容赦なく砲弾を放って爆破していく。

 

「た、助け……」

「死にたくない!俺は死にたくない!」

 

 海面にはレイフォル海軍の軍人達が散乱し、辛うじて海に浮いていた。

 

「こいつら……!」

 

 海上保安官達を処刑したくせして図々しく助けを求める姿を見て、犬神は吐き気と怒りが湧いてくる。

 

「重機!あいつらを全員撃ち殺せ!」

 

 犬神の命令によって、海面に浮いているレイフォル海軍の軍人達は次々と射殺されていく。重機関銃の性能は、死にかけの彼らには威力が高すぎた。

 

「うわぁ!撃ってきたぞ!」

「や、やめろ!俺は何もしていない!」

「蛮族共めぇ!捕虜まで殺すのかよ!」

 

 彼らの悍ましい命乞いと罵声も、しばらくの銃撃の後で止んでしまった。海面に人間だったものが飛散し、美しい青々としたレイスグの海は血と瓦礫に埋まる。

 

「な、なんと言うことだ……」

 

 旗艦〈パナシュラ〉だけは残されていた。自衛官達は海上保安官の遺体が乗っているこの船をあえて残して攻撃し、他の船は全て撃沈していた。

 だが〈パナシュラ〉の甲板上にはもはや動くものが誰もおらず、ガイルド以外は全て血みどろの死体になっていた。

 

「こ、降伏する……遺体を渡すから、部下の命だけは……」

 

 ガイルドはここまで損害を被ったところで、やむなく降伏宣言を出した。両手を上げてゆっくりと柱から出てくる。

 

「がっ……」

 

 だがガイルドは柱から出てきたところで、スナイパーに狙撃された。

 

「そんな……降伏したのに……」

 

 ガイルドはそこで力尽き、誰もいない血みどろの〈パナシュラ〉だけが残される。

 一方、この惨事を騒ぎを聞きつけてレイスグの住民達が様子を見ていた。彼らは何か地獄を見てしまったような様相で、自衛隊員達に恐怖を抱いて睨みつけている。

 

「なんだよお前ら……見せ物じゃないぞ!散れ!!」

「ひっ……!」

 

 犬神が集まった住民達に対し、大声で怒鳴った。

 

「こ、こいつら捕虜まで殺しやがって……!」

「もう許せねぇ!お前ら蛮族なんて出ていけ!」

「お前らなんて死んじまえば良いんだ!レイフォルに殺されれば良いんだ!」

 

 そんな中でも住民達は勇敢に、そして自分達のプライドを守るべく彼らに罵声を浴びせる。

 だがその勇敢な行動も、怒り狂った犬神の前では火に油を注ぐだけであった。彼は怒りの様相で住民達に対して、9mm拳銃を発砲した。

 

「お前ら……俺たち日本人のこと、なんだと思ってやがる!」

 

 犬神は煙を吹く9mm拳銃を手に、困惑する住民達に怒りをぶつけるべく、部下達に最悪の命令を出す。

 

「我慢ならない!全員、実弾を再び装填!こいつら全員撃ち殺せ!」

「っ……!」

 

 民間人を敵と見做し、射殺する。あってはならない命令が、狂犬とかした犬神によって発せられた。

 

「復唱どうした!これは命令だ!こいつらも敵だ!機関銃で全員皆殺しにしろ!」

「で、ですが……」

「お前も殺されたいのか!!」

 

 犬神は、反論しようとした部下に対しても銃を向ける。その様子を見て命の危機を感じた自衛隊員達は、実弾を住民達に向けた。

 

「くそっ……!くそぉぉぉぉ!!!」

 

 引き金が引かれる。

 ありとあらゆる弾丸が全て、日本人を見下した住民達に向かって放たれる。連続した銃撃音が轟き、連続した死が住民達を襲った。

 

「きゃぁぁぁ!!」

「な、なんだこの銃は!!」

「逃げろぉぉぉ!!」

 

 住民達は背中を向けて逃げようとするが、銃弾は彼らを逃さず炸裂していく。人が、老若男女構わず射殺されていく。

 その地獄が終わった時、後に残ったのは死体だけであった。

 

「民間人、撤退していきます……」

「追え!追うんだ!アイツらも全員同罪だ!ぶち殺してやれ!」

 

 怒り狂う犬神は、もはや止められない。彼はこのままレイスグの住民達を全て殺さんとする剣幕で、部下達を叱咤する。

 だが、彼の暴走は後ろから殴りかかられたことにより止まった。拳で吹き飛ばされた犬神は、その相手を見て冷静になる。

 

「犬神!お前、何をした!!」

 

 百田太郎こと百田小隊長が、大罪人と化した犬神を殴った拳を握りしめていた。犬神は軍人としての何か大切なものが、崩れ去ったのを感じた。

 

 

 

 

 

 

日本国 首相官邸

 

 首相官邸では、新たな敵の出現により再び決断を迫られていた。

 

「なんと、巡視船とその乗組員が……」

「はい、その際レイスグにてレイフォル海軍の旗艦を拿捕しました。しかし、その余波で民間人にも被害が……」

 

 既に〈しきしま〉の件とレイスグの件が首相に伝わり、再び頭を抱えていた。

 

「なんてことだ……今度は奴らの盟主国と戦闘状態になるとは……」

「この世界には狂った国しかいないのか?我々はまた戦わなければならないのか!」

 

 彼らはまだ吹っ切れる直前で、疲れが溜まっていた。パガンダの食糧を持ち出して精神的に疲れていた矢先に、この事件が起こったことで彼らは異世界に対して静かな怒りを抱いていた。

 

「この世界に、話の通じる輩は存在しない」

 

 武田首相も、この件を重く受け止めている。

 

「レイフォルが宣戦布告を行うのであれば、我々は断固として戦うしかないだろう」

 

 彼は最近寝れなくなったせいで出来た隈を擦り、ゆっくりと立ち上がった。

 

「展開中の自衛隊の部隊を招集し、レイフォルと降伏するまで戦う。それしかあるまい……」

「っ……わかりました。自衛隊を対レイフォル戦に投入いたします」

 

 厳田防衛大臣がそう言うと、すぐさま電話を繋いで自衛隊の招集を開始した。

 今度はパガンダのような小さな国ではなく、列強国を相手にしなければならないという悲劇。武田総理はその重みに耐えかね、ため息をつく。

 

「総理、お気を確かに。この世界で生き残るには、戦い続けるしかありません」

「……そうだな、ありがとう。私はやるよ」

 

 こうして二度目の戦争が、日本に降りかかった。降りかかった火の粉は振り払わなければならない。そのために日本は戦うのだから。

レイフォルはどうする?(6/22まで)

  • 降伏させるべき
  • 徹底抗戦させるべき
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