新世界の敵、日本国   作:篠乃丸@綾香

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第五十七話『ヘリボーン』

エヌビア国際空港襲撃後

グラ・バルカス帝国陸軍第4装甲師団 師団司令部

 

 エヌビア国際空港への襲撃から、まだ数時間も経っていない頃。

 キーセルキ北方の前線に展開するグラ・バルカス帝国陸軍第4装甲師団の司令部では、夜明け前から通信兵たちが慌ただしく動き回ってる。

 通信機からは、断片的な報告しか入ってこない。

 キーセルキ市街での銃撃戦、エヌビア国際空港への空襲、正体不明の敵地上部隊。そして、空港守備隊との通信途絶。

 それらが最悪の予感として彼らにのしかかっている。

 やがて、前線通信所から届いた報告を手にした参謀が、師団長のもとへ駆け込んだ。

 

「ボーグ少将! 緊急報告です!」

 

 地図を睨んでいたボーグ少将が顔を上げる。

 

「何だ?」

「キーセルキ方面が、敵の襲撃を受けました!」

「なにっ!? キーセルキが襲撃を受けただと!?」

「はい! キーセルキ市街地とエヌビア国際空港が、敵の空挺部隊による攻撃を受けたとのことです!」

 

 司令部内がざわめいた。

 キーセルキは前線部隊へ物資を送り出す重要拠点である。

 そしてエヌビア国際空港は、その輸送を支える航空拠点だった。そこを失えば、第4装甲師団を含む前線部隊は、背後から補給路を断たれることになる。

 

「守備隊はどうしたんだ!?」

 

 ボーグが声を荒らげる。

 

「空港には防空部隊がいたはずだ! それに、中隊規模とはいえ戦車部隊も残留していただろうが!」

 

 参謀は言いにくそうに視線を落とした。

 

「それが……敵も装輪戦車を投入したそうで……」

「そ、装輪戦車だと?」

 

 ボーグは一瞬、言葉を失った。

 

「待て。敵は空挺部隊なのだろう?」

「はい」

「たかが少数の空挺部隊ではないか! なぜ戦車中隊が止められん!」

「敵装輪戦車は、我が軍の戦車を大きく上回る射撃能力を持っているようです。夜間にもかかわらず、移動しながら正確に砲撃したとの報告があります」

「移動しながら……?」

「戦車中隊は交戦後、短時間で壊滅。生き残った車両も空港南方へ撤退しました」

 

 参謀は報告書を握り締めた。

 

「さらに敵空挺部隊は、空港の管制塔、格納庫、燃料施設、臨時司令部を相次いで制圧。空港は依然として敵に奪われたままです」

「空港司令官は何をしている!?」

「パース空将を含む司令部要員との連絡は途絶しています。捕虜となった可能性が高いかと」

 

 ボーグは拳を机に叩きつけた。

 

「なんということだ……!」

 

 だが、報告はそれで終わりではなかった。

 

「敵はすでに滑走路を使用しています」

「何?」

「我々の防空網を抜け、大型輸送機が次々と着陸しているとのことです。兵員だけでなく、装甲車両や物資、通信機材も運び込んでいるようで……」

 

 参謀は一度言葉を切った。

 

「エヌビア国際空港は、すでに敵の前線基地として機能し始めています」

 

 司令部の空気が凍りついた。

 空港を破壊されたのではない。奪われたのだ。それも、日本軍がそのまま使用できる状態で。

 ボーグは壁に広げられた戦域図へ向き直った。

 エヌビア国際空港からキーセルキまでは、わずか二キロ。第4装甲師団の現在位置は、その遥か北方にある。

 日本軍が空港を起点としてキーセルキを脅かせば、第4装甲師団の補給路は脅かされる。

 さらにキーセルキを完全に奪われれば、師団は正面の敵と背後の日本軍に挟まれる形となる。

 

「敵航空機がエヌビアへ進出すれば……」

 

 幕僚の一人が呟いた。

 

「我々の後方地域すべてが、敵航空攻撃の圏内に入ります」

「キーセルキの倉庫群も危険です。燃料、弾薬、予備部品の大半が集積されています」

「鉄道も遮断されれば、この師団は数日と持ちません」

 

 次々と告げられる報告を聞きながら、ボーグは険しい表情で地図を睨み続けた。

 敵正面には、ムー政府軍を中心とする部隊がいる。

 そこへ日本軍の空挺部隊が後背へ現れた。

 今すぐ包囲されるわけではない。しかし、このまま現在地に留まれば、いずれ退路を断たれる。

 

「なんてことだ……」

 

 ボーグは低く呻いた。

 

「これでは後背を脅かされて、ろくに戦闘もできんではないか」

「師団長、どうなさいますか?」

 

 幕僚たちの視線が集まる。

 ボーグは数秒だけ考えた。

 やがて、地図上の現在の防衛線から指を離し、南方の都市を示す。

 

「仕方ない。ここは撤退だ」

「撤退……ですか?」

「戦線をペリアロまで下げる」

 

 司令部内に動揺が走った。

 

「しかし、上級司令部からは現防衛線を維持せよと──」

「無理だ! 現防衛線を守ったまま補給路を断たれれば、第4装甲師団は丸ごと動けなくなるぞ!」

 

 ボーグの怒声が幕僚の言葉を遮った。

 

「戦車は燃料がなければ鉄屑だ。弾薬がなければ砲も撃てん。敵に包囲されてから撤退を始めても遅い!」

 

 彼は地図上のペリアロを指で叩いた。

 

「主力はペリアロまで後退し、そこで戦線を再構築する。同時に、一部兵力をキーセルキ方面へ分派する」

「空港奪還部隊ですか?」

「いや」

 

 ボーグは首を振った。

 

「空港を奪還できるなどと考えるな。戦車中隊を短時間で壊滅させた敵だ。状況も分からぬまま部隊を送り込めば、各個撃破されるだけだ」

「では、分派部隊の任務は?」

「キーセルキの物資を可能な限り搬出する。搬出できない弾薬と燃料は処分しろ。日本軍に渡すな」

「はっ!」

「偵察部隊も出せ。敵の兵力、車両数、航空機の展開状況を確認する。ただし、交戦は避けろ」

 

 幕僚たちは次々と命令を書き留めていく。

 

「全隷下部隊に通達!」

 

 ボーグは司令部全体へ響く声で命じた。

 

「夜明けまでに撤退準備を完了させる! 不要な物資は放棄し、故障車両は爆破処分! 敵航空隊が活動を始める前に、可能な限り部隊を南へ移動させろ!」

「はっ!」

「急げ! 日本軍がキーセルキから南下を始めれば、我々は袋の鼠だ!」

 

 司令部の将兵たちが一斉に動き始めた。

 通信兵は各連隊へ撤退命令を送り、参謀たちは後退経路と橋梁の通過順序を確認する。

 補給部隊では、輸送車両へ燃料缶と砲弾が積み込まれ始めた。前線の戦車部隊にも、現在地を放棄する命令が伝えられる。

 まだ日本軍の姿は見えていない。

 それでも、エヌビア国際空港の陥落は、第4装甲師団を戦わずして後退させた。

 日本軍がわずか一夜で確保した滑走路は、単なる航空施設ではない。そこから送り込まれる兵力は、グラ・バルカス帝国軍の前線全体を背後から切り崩す刃となったのである。

 

 そして空が白み始める頃。

 

 第4装甲師団の車列は、ペリアロへ向けて南下を開始した。

 そのはるか後方。

 奪われたエヌビア国際空港から、最初の日本軍戦闘機が降り立とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本国陸上自衛隊第一空挺団は、キーセルキ市街地から北へ二十八キロに位置するエヌビア国際空港へ奇襲攻撃を敢行。作戦開始から二時間も経たないうちに、エヌビア国際空港はほぼ完全な状態で自衛隊の手に落ちた。

 この成功を受け、日本側作戦本部はただちに次の段階へ移行。

 第一空挺団が確保した空港を橋頭堡として、キーセルキ市街地へ空中機動部隊を投入する。

 編成の中心となったのは、第12師団と第2ヘリコプター団だった。

 

 第2輸送ヘリコプター群からは、偵察用のOH-1四機。

 日本版ナイトストーカーズとも称される第102飛行隊のUH-60十機。

 第110飛行隊のUH-60十機。

 第111飛行隊からは、特殊作戦群を乗せたCH-47二機。

 バルクルス方面航空隊からは、第1戦闘ヘリコプター隊第1飛行隊のAH-2攻撃ヘリ八機。

 第12師団隷下の第12ヘリコプター隊からも、UH-60十機とCH-47八機が参加した。

 さらに上空では、BP-3およびBP-1が戦場監視と通信中継を担当する。

 

 作戦は単純。

 

 汎用ヘリと大型輸送ヘリによって部隊をキーセルキ市街地へ送り込み、複数地点を確保する。第一空挺団と連携して市街地の敵部隊を撹乱し、指揮系統を寸断。その間に南方から第7師団、第2師団が進撃し、キーセルキへ突入する。

 降下後のヘリコプター部隊は、エヌビア国際空港へ移動。第一空挺団が確保した滑走路と補給施設を拠点として燃料と弾薬を補給し、攻撃ヘリと偵察ヘリを絶え間なくキーセルキ上空へ送り出す計画だった。

 帰還経路については、南方から進撃する地上部隊がキーセルキへ到達した後に確保される。つまり空中機動部隊は、それまで市街地の中で持ちこたえなければならない。

 

 しかし、この時点で作戦本部に大きな不安はなかった。

 

 敵はグラ・バルカス帝国軍、神聖ミリシアル帝国軍、ムー反乱軍、そして現地民兵の混成部隊である。

 兵力は多いものの、装備、通信、夜間戦闘能力、航空支援のすべてにおいて自衛隊が優越している。

 第7師団と第2師団ならば、短時間で敵戦線を突破できる。

 空中機動部隊が孤立する時間は、ごく短い。作戦本部はそう予測していた。

 投入される隊員たちにも、目立った不安はなかった。強いて懸念を挙げるならば、携行できる弾薬量が限られていることだった。

 だが、それも地上部隊が予定どおり到着すれば問題にはならない。

 

 誰もが、この作戦は短時間で終わると考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本参戦から五日目 午前4時50分

ソナル王国上空

 

 夜明け前の空を、数十機のヘリコプターが南へ進んでいた。

 

 低空を飛ぶUH-60と、その後方を進む大型のCH-47。左右にはAH-2攻撃ヘリが展開し、さらに前方ではOH-1偵察ヘリが地形と敵部隊の動きを確認している。

 機内には、完全武装した隊員たちが向かい合って座っていた。

 窓の外には、薄暗い大地が広がっている。

 

『全部隊、ソナル国境を通過』

 

 無線に報告が流れる。

 

『現時点で敵航空機および対空脅威なし。進路を維持せよ』

 

 隊員たちは声を上げなかった。

 ただ、小銃を握り直し、装具を確認する。

 その最中、遠く東の空が、わずかに明るくなり始めていた。

 UH-60の機内で、小隊長が無線を聞いて頷く。無線の内容は第7師団と第2師団を含めた10個RCTが、連合軍の防衛線に対して再び攻勢を仕掛けていた。

 キーセルキ空港への空挺降下を受け、部隊を引きぬかざる得なかった彼らで防御できる規模ではないはずだ。

 

「地上部隊も順調らしい」

 

 隣の隊員が答える。

 

「なら、昼までには合流できそうですね」

「ああ。こっちは降りて、場所を確保して待つだけだ」

 

 その言葉を疑う者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前7時05分

キーセルキ市街地上空

 

 キーセルキの街並みが、ヘリコプター部隊の前方に見えてきた。

 キーセルキは、ムー大陸南部の交通と軍事の要衝である。

 市街地には石造りの建物と近代的な工場が混在し、主要道路にはグラ・バルカス帝国軍の車両が放置されている。

 その上空を、航空自衛隊のF-2戦闘機が高速で通過した。

 

『こちらレコン1。目標を確認。対空砲陣地、三』

『撃破しろ』

 

 数分後、地上で閃光が走る。

 市街地の屋上に設置されていた機関砲陣地が爆発した。

 続いて、広場に展開していた高射砲が誘導爆弾の直撃を受ける。敵の対空陣地は発砲する間もなく、次々と破壊された。

 

『対空目標、沈黙』

『キーセルキ上空の航空優勢を確保』

 

 午前7時10分。

 AH-2攻撃ヘリ八機が市街地へ進入した。

 機首下部のセンサーが建物と道路を走査する。

 

『道路上、敵車両二』

『武装トラックを確認』

『攻撃する』

 

 短い発射音。

 誘導弾が放たれ、敵車両が炎に包まれた。

 別のAH-2が機関砲を発射し、広場に集結していた武装兵を建物の陰へ追い払う。

 

『降下地点アルファ、安全確認』

『ブラボー、敵影なし』

『チャーリー、軽微な抵抗。制圧可能』

 

 攻撃ヘリの報告を受け、UH-60とCH-47が市街地へ入る。

 第一波として投入される隊員は二百五十六名。

 残る兵力と迫撃砲部隊は、降下地点の安全が確保され次第、後続便によって運ばれる予定だった。

 

「一分前!」

 

 機内に声が響く。

 

「降下後は建物沿いに展開! 道路中央へ出るな!」

「了解!」

 

 UH-60が建物の間にある広場へ降下する。

 ローターの風圧で砂埃と紙片が舞い上がる。

 

「降りろ! 降りろ!」

 

 側面扉から隊員たちが飛び出した。

 

 小銃を構え、周囲の建物へ銃口を向けながら広場の外周を確保する。

 

「北側、クリア!」

「東側路地、味方展開中!」

「次の機体が来るぞ!」

 

 CH-47も低空で進入し、広場の反対側へ着陸する。

 後部ランプが開き、隊員たちが次々と降りる。

 作戦は順調だった。

 少なくとも、その瞬間までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 市街地南西部へ降下しようとしていた一機のUH-60が、建物の間へ高度を下げた。

 左右の窓から、隊員たちが地上を警戒している。

 

「降下地点まで十五秒!」

 

 その時。

 路地の奥にいたグラ・バルカス帝国兵が、筒状の兵器を肩に担いだ。

 日本側が後にパンツァーファウストと呼称する、簡易対戦車兵器だった。

 

「右下! 対戦車兵器!」

 

 搭乗員が叫ぶ。

 白煙が噴き出した。

 

「ブレイク!」

 

 操縦士が反射的に操縦桿を倒す。

 UH-60が機体を大きく傾け、急激な回避機動に入った。

 飛来した弾頭は機体の後方を通過し、建物の壁へ命中する。

 爆発。石片と煙が吹き上がった。

 攻撃そのものは回避した。

 だが、突然の急旋回により、側面扉付近にいた隊員一名が体勢を崩した。

 

「危ない!」

 

 隣の隊員が腕を伸ばす。

 間に合わず、隊員の身体が機外へ投げ出された。

 

「一名落下!」

「隊員が落ちた!」

 

 UH-60は広場の端へ緊急着陸した。

 

「救護班、来い!」

 

 小隊長と数名の隊員が、落下地点へ走る。

 隊員は建物の庇をかすめ、瓦礫の積もった路上へ落下していた。

 意識はある。

 だが、自力では動けなかった。

 

「聞こえるか!」

「……はい」

「どこが痛む?」

「腰と……脚が……」

「動くな。担架を作る」

 

 衛生隊員が状態を確認する。

 

「骨盤か脊椎を損傷している可能性があります。ヘリで運ぶのは危険です」

「後送は?」

「ここには車両がありません」

 

 小隊長は無線機を取った。

 

「こちら降下地点チャーリー。重傷者一名。地上搬送が必要だ」

『チャーリー、こちら指揮所。エヌビア空港へ車両派遣を要請する』

「了解。こちらで担架を作成し、合流地点まで運ぶ」

 

 隊員たちは小銃の負い紐と周辺の資材を使い、即席の担架を組み立てた。

 負傷者を慎重に固定する。

 最初の損害だった。だが、作戦全体を揺るがすものではない。

 その時は、まだそう考えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 降下した空中機動部隊は、市街地内の複数地点を確保した。

 しかし、キーセルキに展開する敵部隊はすぐに反応する。彼らの主体となるのは、民兵と、ムー連邦の反乱部隊と、連合軍の予備戦力として配置された歩兵師団だった。

 彼らは市街地の道路と建物を利用し、日本軍を包囲しようとした。

 

「北側道路、敵歩兵!」

「数、約三十!」

「屋上にもいる!」

 

 銃撃が始まった。

 自衛隊員たちは建物の角と窓枠を利用して応戦する。19式小銃の射撃音が、石造りの街並みに反響した。

 

『こちらアロー2。地上部隊、援護が必要か』

「アロー2、北側交差点に敵集団! 味方から百五十メートル!」

『確認した。機関砲を使用する』

 

 上空からAH-2が旋回してくる。

 機関砲が短く発射され、交差点の敵兵が散開した。

 

「前進!」

「交差点を確保しろ!」

 

 隊員たちが道路を渡る。

 敵は数では優勢だったが、部隊間の連携を欠いていた。

 民兵は独自に動き、ムー反乱軍は指揮命令を待ち、連合軍歩兵師団は司令部防衛を優先している。

 対する自衛隊は、上空のヘリコプターと地上部隊が常に情報を共有していた。

 敵が一か所に集まれば、攻撃ヘリが追い払い、屋上に機関銃が現れれば偵察ヘリが位置を知らせる。

 路地から接近する部隊は、上空のBP-3によって探知された。

 空中機動部隊は、徐々に市街地の中心部へ進出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国陸軍 キーセルキ方面司令部

 

 司令部は、市街地中央部にある旧ムー政府庁舎を接収して設置されていた。

 周囲には土嚢陣地と機関銃座が築かれ、一個中隊規模の守備隊が配置されている。

 だが、日本軍の攻撃は正面からだけではなかった。

 

『こちらリトル1。司令部建物を確認。屋上に機関銃二。中庭に車両三』

「了解。攻撃ヘリに屋上陣地の制圧を要請」

『了解。アロー1、攻撃に移れ』

 

 AH-2が低空から進入する。

 屋上の機関銃座が発砲する前に、機関砲弾が土嚢と銃座を吹き飛ばした。

 中庭の車両にも誘導弾が命中する。

 

「突入班、前進!」

 

 特殊作戦群を含む部隊が、建物の左右から接近する。

 正門前の守備兵が発砲する。

 

「右側から射撃!」

「制圧しろ!」

 

 自衛隊員が建物の陰から応射し、別班が裏口へ回る。

 

「爆破準備!」

「設置!」

「離れろ!」

 

 扉が内側へ吹き飛んだ。

 

「突入!」

 

 隊員たちが内部へ流れ込む。

 狭い廊下で、グラ・バルカス帝国兵の半自動小銃と19式小銃が撃ち合う。

 

「左の部屋!」

「クリア!」

「階段上に敵!」

 

 閃光手榴弾が投げ込まれる。

 爆発音。視界と聴覚を奪われた守備兵が次々と制圧された。

 上階では、高級将校たちが書類の焼却を試みていた。

 

「敵が二階へ侵入!」

「機密文書を処分しろ!」

「間に合いません!」

 

 扉が破られる。

 

「武器を捨てろ!」

「動くな!」

 

 抵抗しようと拳銃へ手を伸ばした将校が、護衛兵に止められた。

 

「閣下、無理です!」

 

 短い睨み合いの後、拳銃が床へ置かれる。

 キーセルキ方面司令部は制圧された。

 確保されたグラ・バルカス帝国軍高級将校は、合計二十名。彼らの中には、周辺の兵站、航空部隊、前線部隊を統括する幕僚も含まれていた。

 

「司令部制圧完了」

『了解。捕虜を合流地点へ移送せよ』

「重傷者と同じ車列に乗せる。護衛をつけろ」

 

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