同時刻
エヌビア国際空港
第一空挺団が確保したエヌビア国際空港には、輸送機が次々と着陸していた。
滑走路脇には、弾薬、燃料、医療資材、車両が積み上げられている。
応急修理を終えた管制塔では、航空自衛隊員が発着順序を整理していた。
『こちら空中機動部隊。重傷者一名および捕虜二十名。地上搬送を要請する』
「了解。装甲車両を含む車列を派遣する」
第一空挺団の車列が空港を出発した。
装輪装甲車と16式機動戦闘車を先頭に、救急車両と捕虜輸送車が続く。
目的地はキーセルキ市街地北部の合流地点。
その間、補給を必要とするAH-2攻撃ヘリがエヌビアへ戻ってきた。
「アロー隊、着陸する」
「燃料班!」
「機関砲弾と誘導弾を優先的に補給だ!」
エンジンを停止させることなく、地上要員が機体へ駆け寄る。
燃料ホースが接続される。
弾薬が補充される。
短時間の点検を終えると、攻撃ヘリは再びローターの回転を上げた。
第一空挺団の車列がキーセルキへ向けて走り出す。
その上空を、補給を終えたAH-2が追い越していった。
空港とキーセルキを結ぶ道路は、すでに自衛隊の補給線として機能し始めていた。
午前八時過ぎ
キーセルキ北部市街地
第一空挺団の車列は、予定された合流地点へ到着した。
空中機動部隊の隊員たちが、即席担架に乗せられた重傷者を慎重に救急車両へ運ぶ。
「意識は維持しています」
「バイタルは?」
「安定しています。ただし腰部と脚部の損傷が疑われます」
「空港へ運び、輸送機で後送する」
捕虜となったグラ・バルカス帝国軍高級将校たちも、護衛付きで車両へ乗せられた。
彼らは市街地上空を飛び交う日本のヘリコプターを、呆然とした表情で見上げている。
「出発する!」
車列は方向を変え、エヌビア国際空港へ戻り始めた。
上空では、補給を終えたAH-2攻撃ヘリ部隊がキーセルキへ接近していた。
『アロー1より地上部隊。再び市街地上空へ入る』
『了解。司令部周辺の警戒を頼む』
AH-2は低高度で道路上を進む車列とすれ違った。
地上の隊員が手を上げる。
攻撃ヘリは機体をわずかに傾け、それに応じた。
その時だった。
道路脇に並ぶ建物の隙間、瓦礫の陰から、一人の男が立ち上がった。
グラ・バルカス帝国空軍の飛行服を来た空軍パイロットだった。本来ならば、エヌビア国際空港から航空機で出撃するはずだった男である。
空港が占拠されたことで帰還先を失い、徒歩で後退する途中、陸軍の残存部隊と合流していた。
彼は陸軍兵から受け取ったパンツァーファウストを肩に担いでいた。
上空を通過するAH-2。
高度も距離も近い。
男は照準器を覗き込んだ。
「今だ!」
後方にいた陸軍兵が叫ぶ。
発射音、白煙が道路へ広がった。
『ミサイル!左下!』
AH-2の操縦士が回避操作を行う。
だが、距離が近すぎた。
弾頭は機体中央を外れたものの、後部のティルトローター基部へ命中した。
爆発が起き、ローター周辺から破片と炎が噴き出す。
『被弾!』
『ローター損傷!推力低下!』
機体が大きく傾いた。
操縦士が必死に姿勢を戻そうとするが、ティルトローターを失ったことでバランスは完全に失われていた。
『アロー3、墜ちる!』
『高度を取れ!』
『無理だ!』
AH-2は回転しながら高度を落とした。
ローターが建物の屋根を削り、瓦と木材を空中へ撒き散らす。
機体はそのまま道路脇の建物へ激突。激しい衝撃、続いて爆発。黒煙と炎が市街地の中から立ち上った。
無線が一瞬、静まり返る。
『アロー3、応答せよ』
返事はない。
『アロー3!』
地上部隊の隊員たちが、煙の方向を振り返った。
「攻撃ヘリが落ちたぞ!」
「墜落地点を確認!」
「救助班を向かわせろ!」
別のAH-2が急旋回し、攻撃を受けた建物の周辺へ機首を向ける。
『発射地点を確認。敵歩兵複数』
「待て! 墜落地点に搭乗員がいる!」
『了解。射撃を保留する』
自衛隊員たちが路地へ走り込む。
つい数分前まで、作戦は予定どおり進んでいた。だが、一発の対戦車兵器が、その楽観を打ち砕いた。
敵の主力部隊は劣勢で、指揮系統も崩れつつあるが、組織的抵抗は維持されていたのだ。空港を奪ったからといって、敵の抵抗が消えたわけではない。
キーセルキの戦いは、まだ終わっていなかった。
数分後
AH-2攻撃ヘリがキーセルキ市街地へ墜落したという報告は、エヌビア国際空港へ戻りつつあった第一空挺団の車列にも伝えられた。
隊員たちは表情こそ表に出さないが、内心激しく動揺していた。
車列指揮官は無線を聞き終えると、即座に命令を下した。
「全車、進路変更!」
「空港へ戻るのではないのですか?」
「攻撃ヘリの搭乗員を回収する。先頭車、次の交差点を右折。キーセルキ市街地へ戻れ!」
16式機動戦闘車を先頭とする車列が、街道上で次々と向きを変えた。
負傷した空中機動部隊員と、捕虜となったグラ・バルカス帝国軍高級将校二十名を乗せたまま、車列は再びキーセルキ市街地へ向かう。
それは搭乗員救出のために必要な判断だった。
だが同時に、エヌビア国際空港とキーセルキ市街地を結ぶ街道から、自衛隊の機動予備が一時的に消えることを意味していた。
同時刻
キーセルキ北部
市街地北部に残存していたグラ・バルカス帝国陸軍の一個歩兵連隊は、空港の陥落後も組織的な抵抗を続けていた。
その連隊長は、市街地とエヌビア空港を往復する自衛隊の車列を、偵察兵からの報告によって把握していた。
「日本軍車列が進路を変更しました」
「どこへ向かった?」
「市街地北西部です。先ほど墜落した回転翼機の方向と思われます」
連隊長は地図を見下ろした。
キーセルキ市街地と北方のエヌビア国際空港には、一本の主要街道が伸びていた。
日本軍は空港を補給拠点とし、市街地へ兵員と物資を送り込んでいる。
逆に言えば、この街道を遮断すれば、市街地へ降下した部隊を孤立させることができる。
「今だ」
連隊長は街道上の一点を指した。
「第三大隊をここへ進出させろ。対戦車砲と機関銃を配置し、道路を封鎖する」
「しかし、日本軍の装輪戦車が戻ってくる可能性があります」
「だから今しかない」
連隊長は低い声で答えた。
「敵車列は撃墜された航空機の救出へ向かった。空港と市街地の間は、一時的に空白になっている」
「ムー新政権軍にも連絡を。さらにミリシアル特殊部隊へ、市街地北部から侵入するよう要請しろ」
「日本軍を分断するおつもりですか?」
「そうだ」
連隊長は地図上の街道に、太い線を引いた。
「空港の第一空挺団と、市街地の空中機動部隊を切り離す。一度分断してしまえば、あとは各個に包囲できる」
「はっ!」
命令を受けた部隊が、キーセルキ北方の建物と林を利用しながら移動を開始した。
日本軍の上空監視を避けるため、大規模な車列は組まない。
歩兵は分散して進み、対戦車砲は家屋の陰へ隠し、道路上には即席の障害物が築かれた。
やがてエヌビアとキーセルキを結ぶ街道は、グラ・バルカス帝国軍の火力下に置かれた。
同時刻
AH-2墜落地点
墜落したAH-2は、キーセルキ北西部の住宅街にある二階建て建物へ激突していた。
機体前部は大きく潰れ、ローターの羽は道路の反対側まで飛ばされている。燃料は漏れていたが、大規模な火災には至っていなかった。
墜落音を聞きつけた住民たちは、恐る恐る建物の外へ出ていた。市街地で戦闘が続く中、日本軍の航空機が墜落したのである。
好奇心に引かれた者や、乗員の様子を確認しようとした者。そして、日本軍への反感から石や棒を手にした者もいた。
住民たちは次第に墜落機の周囲へ集まり始めた。
操縦席から脱出した搭乗員の一人は、機体脇の瓦礫に寄りかかっていた。
飛行服は血に染まり、片脚は不自然な方向へ曲がっている。
もう一人は機体内部に取り残され、意識を失っていた。
「日本兵だ」
「まだ生きているぞ」
「捕まえろ」
「待て、近づくな! 燃料が漏れている!」
住民たちは互いに叫びながら、少しずつ搭乗員へ近づいていった。
その時、道路の先からエンジン音が聞こえた。
16式機動戦闘車が交差点を曲がり、その後方から第一空挺団の車列が現れる。
「墜落機を確認!」
「周辺に民間人多数!」
「武装している者もいるぞ!」
車列は墜落地点の手前で停止した。
隊員たちが車両から飛び降り、小銃を構えながら横一列に展開する。
「離れろ!」
拡声器を持った隊員が、現地語で警告した。
「航空機から離れろ! 負傷者を救助する!」
住民たちはすぐには動かなかった。
何人かが後退する一方、棒や小銃を持った者たちはその場に留まる。
倒れている搭乗員へ近づこうとする者もいた。
「止まれ!」
再び警告。
しかし、興奮した一人の男が搭乗員へ手を伸ばした。
「警告射撃!」
小隊長が命じる。
自衛隊員が銃口を上へ向け、短く発砲した。
乾いた銃声が市街地に響く。住民たちは悲鳴を上げ、一斉に身を伏せた。
「下がれ!」
「道路から離れろ!」
防弾盾を構えた隊員たちが前進する。
16式機動戦闘車もゆっくりと動き、住民と墜落機の間へ車体を滑り込ませた。
その威圧感に押され、住民たちは路地や建物の中へ散っていく。
「救護班、前へ!」
衛生隊員が負傷した搭乗員へ駆け寄った。
「聞こえますか!」
「……ああ」
「味方です。もう大丈夫です」
「もう一人が……中にいる」
「分かっています」
機体内部へ救助班が入る。
潰れた操縦席周辺の部材を切断し、意識を失った搭乗員を慎重に引き出した。
「一名、意識あり。脚部重傷」
「もう一名、意識なし。呼吸あり!」
「担架を!」
二人の搭乗員は救急車両へ収容された。
だが、周囲の警戒にあたっていた隊員が、北東方向から聞こえる銃声に気づいた。
「市街地北側で交戦音!」
「味方部隊か?」
「確認中!」
その直後、空中機動部隊の指揮所から緊急通信が入った。
『こちらコマンドリーダー、空港方面街道に敵部隊が進出している。街道が遮断された』
「何だと?」
『多数の歩兵部隊が市街地北部へ侵入している。現在守備隊が交戦中』
車列指揮官は地図を開いた。
墜落地点からエヌビア国際空港へ戻るには、すでに敵が展開した街道を通過しなければならない。
「敵は、こちらが進路を変えた隙を突いたのか……」
『市街地部隊も包囲を受けています! 至急支援を!』
救出には成功した。
だが、その代償として、空港とキーセルキを結ぶ陸上連絡線が断たれた。
私的な宣伝ですが、小説家になろうにて一次創作を書いております。
本作を一次創作として焼き直した作品となっておりますので、ぜひご覧ください。
『日の丸は異世界の敵』
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