飛雷神の最大の長所は何か? 逃げることだよ 作:余は阿呆である
なんで他の人は書くのがあんなに早いの……?
ユーは幼稚園の頃なにしてた?
オモチャや遊具で遊んだ? 絵本を読んで貰ってた? それともおやつ食って昼寝とかしてた?
普通はそうだ。
それで何の問題もない。
じゃあ成人男性がそんな生活送ってたらどう思う?
もちろん障害者でも病気でもない至って健常者である人間がだ。
俺なら正気を疑う。
つまり何が言いたいかと言うと━━幼児生活辛い。
なんであいつらってあんな元気なの?
体力なんて大人に比べてろくにないはずなのにめちゃくちゃ走り回って大声で喋りまくって表情を百面どころか二百面相くらいさせて。
もうね、付き合うのが大変。
加えて素のテンションだと周りからしたらつまらなそうに見えるらしくて、心配されたり不快に思われたりと面倒なことになりかけた。
前世の記憶があるなどとこの超常社会においても異常なのは明らかなので、何がなんでもそのことを隠したい俺としては、周囲には極々普通の子供と思われなければならない。
なので常時ハイテンションでいることにした。
単純な積み木重ねる作業を某機動戦士のプラモデルを作るくらい真剣にし、何度も聞いた絵本の朗読を推しの声優の読み聞かせの如く目を輝かせて拝聴する。
絵に描いたような元気な幼稚園児を全力で演じてみせた。
素面で酔っ払いの真似事をしてる気分だったよ。
何も面白くないのにハイテンションでい続けるのマジできつい。
唯一の癒しはお菓子とお昼寝の時間だけだ。
あの時間だけが俺の心を癒してくれる。出来れば一生グータラしてたい。
そして家に帰ったら、笑顔の両親に園での出来事を事細かに話す。給食で好物が出たとか滑り台が楽しかったとかどうでもいいことまで。
これを俺の主観で観測すると「幼児プレイを両親へ赤裸々に語る成人男性」の図になる。
信じられるか? 平日は毎日こんなことを繰り返してるんだぜ。
軽く首を括りたくなるレベルの地獄である。
よく今まで正気でいられたと自分を褒めてやりたい。
休日も同じようなことしてたら、確実に狂っていた。
もしテレビ鑑賞が趣味でなかったら、休日も公園などに連れていかれて幼児の相手をさせられてただろう。
母さんのママ友付き合いの機会を減らしてしまうことに申し訳なさを感じはするが、休日くらいは家でのんびりしたいのだ。
この世界のテレビは、もっぱらヒーロー関連のものが多い。
ヒーローの仕事についての解説や、ヒーローの紹介に取材。ゴールデンタイムの番組では、副業として芸能活動をしているヒーローを毎日見かけるし、中には俳優をしているヒーローまでいる。
テレビでヒーローを見ない日はないんじゃないだろうか。
前世にはなかったヒーローに関することは非常に興味があるので、休日は喜んでテレビにかじりついている。
普通ならテレビばっかり見てるのは親に注意されそうなものだが、父さんの職業に興味持ってるのが嬉しいのか、母さんは隣でニコニコしながら一緒に見ていることが多い。
いやー、父さんがヒーローのおかげで休日にゴロゴロテレビ見るという、ダメ人間スタイルを堂々と出来るわけだから感謝感謝。
そんなね、趣味に没頭してるときにね、気づいちゃったわけですよ。
この世界がフィクションの世界で、俺の今世がその作品のキャラに憑依したものだって。
しかもそのキャラが、将来的に闇堕ちか死亡の可能性が高いってことに。
そうとなれば特訓しかないわけですよ。
親がヒーローなんだから英才教育ルート一択なわけですよ。
ただの幼児なら泣いちゃうくらいきつい訓練かもしれない。でもメンタル大人だからダイジョブダイジョブ。ヨユーヨユー。モーマンタイモーマンタイ。
むしろ幼児生活に比べたら精神的には遥かに楽に違いない。
はっ、思い付いた。
ヒーローを目指すと決めたからって理由で、落ち着いた態度を取るように心掛けるようになったってカバーストーリー作れば、あのハイテンション地獄から解放されるのでは?
将来のために強くなれるし、ハイテンション地獄から抜け出せるし、加えて周りは成長を喜んでくれる。
まさに一石三鳥。我が計略は孔明並であったか。
よーし、それじゃ父さん帰ってきたら早速お願いするかー。
いきなりこんなこと言い出すわけだし、建前の理由いるよな。
んー、「父さんのようなヒーローに早くなりたいんだ(キリッ」とでも言っとけばいっか。
いやー、父さん帰ってくるの楽しみだなー。
どうせ初期は軽い運動や格闘の基礎習うくらいだろうし、しばらくは気楽にやりますかー。
━━そう思ってた時期が俺にもありました。
「今日はここまでにする」
厳かな声で告げる父さんの前には、陸に打ち上げられた魚の如くピクピクしている少年がいた。
というか俺だった。
いや、英才教育舐めてました。
まさかここまでやるとは。
よく考えなくても、一流の人間に育て上げるんだから、幼児だからって生ぬるいわけがなかった。
フィクションの貴族とか王族とかも、子供なのにそこまでする!? ってくらい色々習わされてたし、恐らくこれが英才教育の普通なんだろう。
前世でスポーツ選手の二世とかずるいよなとか思ったことあるけど、全然ずるくないわ。純然たる努力の結果だったんだと今ならわかる。
もし将来俺のことずるいとか言うやついたらシャイニングウィザード決めたろ。
訓練内容自体は思っていた通りの体力作りと格闘の基礎だったんだが、想定の十倍はしごかれた。
まずは走り込み。近くの緑地公園の周りを走らされたんだが……具体的な距離を事前に伝えられなかった時点で嫌な予感はしてたんだよ。
予感通り、立てなくなるまで走らされました。
止まりそうになる度に「まだ走れるだろう!」と後ろから追従してた父さんに怒鳴られるのを繰り返し、ほとんど歩くようにしか足を動かせなくなっても続けさせられ、どんなに頑張ってもこれ以上は無理って段階になってからようやく解放された。
終わった時はホッとした……なんてことはない。解放された安心感ややり遂げた達成感など微塵もなく、虚無だった。何かを感じる余裕とかとうに無くしてたからね。
意識も疎らになってて、気づいたらいつの間にか父さんのトレーニングルームに連れて来られてた。
今度は格闘の訓練らしい。
嘘でしょ? 普通そこは休憩でしょ。
そんな願い虚しく、疲れた身体に鞭を打って技術を身体に覚えさせる為の訓練が始まる。
基本の構え、拳と蹴りの打ち方、投げ技に間接技、防御技回避技受け身の取り方。
それらを軽く一通り実演付きで説明されてから、一つずつ覚えてさせていくと言われる。
まずは受け身からだそうだ。
めっちゃ投げられた。
マットの上に手加減してとはいえ何度も何度も投げられた。
父さん曰く、習うより慣れろ。
つまり口下手で説明上手く出来ないから身体で覚えろってことですねわかります。
視界が回って回って回りまくる。体操選手並に回りまくる。正しくは回されてるだけなんだが。
回された分だけ、背中でマットにキスするんだけど……これがきつい。
手加減されてるから痛みはそれほどなんだけど、叩きつけられたときの衝撃が身体に走るのが結構辛いんだよね。
身体がビクンッて跳ねる感覚がなかなか慣れない。
それを繰り返し、投げられたマットから起きあがれなくなったとき、ようやく初日の訓練は終了した。
初日から死にかけの魚状態になってるわけだけど、俺大丈夫だよね?
原作始まる前に訓練で死なないよね?
あ、ヤバ。
意識、落ち━━
目覚めたら朝だった。
いや確か晩飯と風呂はちゃんとしたような……?
ダメだ、記憶が曖昧すぎる。でも腹とか減ってないし身体もすっきりしてるから、ちゃんとしたんだろう。多分。
不思議と身体は不自由なく動いた。
あれだけやっといて翌日にはニュートラルな状態になるとかどゆこと?
漫画世界の住人だから身体の構造が前世と違うのか、あるいは幼児だからか。
幼児って体力ゼロになるまで動いても、翌日にはピンピンしてたりするからね。
これが若さか。前世の俺が失ってたもの。
なるほど、父さんが幼児相手でもあそこまで容赦なかったのは、問題ないってわかってたからか。
流石はプロヒーローだ。
身体に対する理解度が違う。
精神的にはきっついけど、まぁ死ぬよりはマシだ。
死なないためならこれくらいやってやるよ。
ただし原作終わったらだらける。めっちゃだらけてやる。
世界救った恩賞で一生遊べるくらいの金貰って悠々自適に余生を過ごしてやるんだ!
あ、なんかそう思うと凄いやる気出てきた。
少年漫画なんだし、成人迎える前には原作終わる確率が高いはず。
たかが十年ちょっと頑張るだけで残りの五十年以上を遊んで暮らせると思えば、とても安い買い物だ。
うぉおおおお! 漲ってきたぁ!
よしっ、そうと決まれば起床起床。
高いテンションのまま部屋を飛び出したときに遭遇した父さんに、今日もよろしくー! と伝えて、顔を洗いに行く。
飯食ったら幼稚園へゴーだ!
早速今までのハイテンションから大人ぶった態度にチェンジしたんだけど……先生や園児の親達から物凄い暖かい目で見られた。
解せぬ。