飛雷神の最大の長所は何か? 逃げることだよ   作:余は阿呆である

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祝☆お気に入り数1000突破!

……前話の投稿でお気に入り数が三倍近くに増えて正直ビビりました
めちゃくちゃ嬉しいんだけど、ここまで伸びるの!? って驚愕とかが大きくて

何事にも動じない鋼メンタルが欲しいと切実に思いましたハイ


あと感想見ててわかる飛雷神の人気ぶりですね
まだ本編で出てもないのにほとんどが飛雷神関連という

なるべく早くカッコいい飛雷神の戦闘シーン出せるように頑張ります


それでは本編どうぞ


4話 三つの顔を持つ生き物なーんだ?

 忘れるな。イメージするのは、常に最強の自分。

 脳裏に焼き付いた理想の自分を、現実に再現しろ。

 手に持つは木製の手裏剣。その重さを感覚で計りながら、構えに入る。

 

 始まりは模倣だった。そこから何度も繰り返した経験から、自分にとっての最適化を重ねた構え。元となったものとは少し違うそれは最早身体に馴染んでいて、余分な力は一切入っていない。

 対象までの距離を目で計り、風向きを肌で感じる。

 呼吸を整えながら、理想の自分との擦り合わせを行っていき、全ての準備が完了した。

 そしてここだと思ったタイミングで、手裏剣を放った。

 

 飛んでいった手裏剣は綺麗な回転を描いて真っ直ぐ進み、十五メートル先に立つ的のど真ん中へと命中。

 カッ、と小気味良い音を立てた手裏剣に、ふうと息を吐いてから、満足気に頷いた。

 今日の結果は二七発二七中。つまり的中率は一〇〇パーセント。

 

 ふっ、完璧だ。

 飛雷神の転移先を自在にするために、マーキングのついた投擲武器を放つ訓練を開始して一年でこの成果。

 我がことながら自分の才能が恐ろしいぜ。

 もはや手裏剣術はマスターしたと言っても過言じゃないな、うん。

 

「よし、単発で静止した的なら当たるようになったな。次は利き手とは逆の手で挑戦しよう。それが出来たら連続投げに同時投げに両手投げ。最終的には動きながら動く的に当てられるようにするぞ」

 

 ごめんなさい過言でした。

 道はまだまだ遠いようです。ぴえん。

 

 

 

 

 転生してから七年弱。

 今日やっと、卒園式を終えた。

 長かった。来月からやっと、俺も学生を名乗ることが出来る。

 とはいえ別に、そんなに変化があるわけでもないが。

 勉学など新しく取り組まなければならないことが増えるとはいえ、そんないきなり人間は成長出来たりしない。

 つまりは同い年の遊び相手どもはまだまだ子供のまま。

 園児と小学校低学年に差などないに等しいのだ。

 

 いきなり道路に飛び出すこともあれば、しょうもない理由で喧嘩を始めて大泣きもするし、酷い奴などは一人で何処かへ行き迷子になって大騒動に発展することもある。

 ハイテンションロールプレイをやめて優等生の仮面を被ってからというもの、同い年なのにお兄ちゃん的ポジションへと据えられてしまった俺は、奴らの面倒を何かと見ることが多くなっていた。

 

 それは前とは別の意味で心身をすり減らされたもので、あと数年、いやもしかしたら小学校の間はもうずっと続くのかもしれない。

 せめて高学年になった頃には最低限しっかりして欲しいが……望みは薄いだろうな。特に男子。お前らちょっとは女子見習えマジで。

 まあ幼児プレイよりマシだし、そこはもう諦めるか。

 

 卒園式というのは情緒の育ってない子供、もしくは人生二週目の奴からすれば特に感慨深くもないのだが、親は違う。

 周りの親、ひいては我が両親は号泣していた。

 写真もめっちゃ撮られたし、テンションが上に振り切っていた言動の数々にはちょっと恐怖を覚えたくらいだ。

 前世含めて彼女すら出来たことのない俺にはわからない感情だが、きっと親にとってはそれだけの大事なんだろう。

 

 まあ今世は俺、イケメンだから結婚出来るだろうしいつかわかるだろ。

 鏡を見れば、純日本人なのに金髪碧眼の爽やかさ全開の顔がこっちを見ている。

 前世の冴えない顔とは比べるべくもないベビーフェイス。このまま成長すれば、将来は顔だけで食べていくのも夢ではないかもしれない。

 

 俺としてはそんな退廃的な生活よりは、可愛いお嫁さん一人を何とかゲットして一生仲良く出来るほうが万倍いいけど。

 ハーレムとかリアルで考えたらマジで無理だろ。絶対女同士のギスギスが当たり前の日常になるわ。

 やっぱり恋愛は一途が一番なんやなって。

 え? 実際にたくさんの女の子にちやほやされたらって?

 

 そんなもん鼻の下伸ばしまくってフィーバーするに決まってるだろ! 男の子だもん! 普通に考えて当たり前だろうが常考!

 学生時代はたくさんの淑女達と遊べるだけ遊び倒して、二十代後半くらいに理想のお嫁さん見つけ出して財力アピールで堕として結婚するんだい!

 

 

 ━━まあ全部、それまで生きてられたらの話なんですけどね!

 

 

 あ、ヤバい。一気にテンション下がった。

 いつだって現実という冷や水は、人の夢の温度をあっさり奪っていきやがる。

 いやこの世界の現実ってフィクションが元なんだけどね。

 くそぅ、少年漫画って人に夢を与えるもんだろうが。人から夢奪ってんじゃねえよバカ野郎。

 

 はぁー、俺って二十年後ちゃんと生きてんのかねえ。今世は九十まで生きて孫に囲まれて大往生したいんだけど。

 などと自室でぐだぐだと考えていたら、泣き腫らしてた顔を整えた父さんが訪れてきた。

 

「湊翔、少し話が……どうした難しい顔をして」

 

「(自分が)平和な未来を迎える為にはどうすればいいか考えてた」

 

「(世界の)平和な未来について考えてた……!? そ、そうか。その歳でもうそんな視点を……流石だな」

 

 なんかとても感心された。

 自分の将来心配するのって、この歳だとそんなにおかしいか? いやおかしいか。六歳児が恵まれた環境でしていい思考じゃねえわ。

 深掘りされたらいらんこと言いそうなので、この話は流すことにしよう。

 

「それより父さん、何か話があるんでしょ?」

 

「ああ、そうだった……湊翔、大事な話なんだ。リビングで話そう」

 

「? わかった」

 

 やけに真剣な表情の父さんに頷き、部屋を出る。

 訓練以外でこんな顔してる父さんを見るのは初めてだ。一体何の話なんだ?

 気になったので、ちょっと催促してみる。

 

「何の話か、先に聞いてもいい?」

 

「そうだな……一言で言うと、お前へのスカウトの話だ」

 

 ほう。スカウトとな。

 なるほど、確かに大事な話だ。

 ものによっては将来に関わってくることもあるしな、うん。

 ……いや六歳児のスカウトってなに?

 全然思い付かないんだけど。

 普通に考えてスカウトで思い付くのは、スポーツとか芸能界関連か?

 

 スポーツはないな。

 格闘技は家でしかやってないし、走り込みが人目についたところでそれだけでスカウトなんて来ないだろ。多分。

 となると、芸能界?

 ふっ、とうとう俺の時代が来てしまったか。

 この爽やか系イケメンを将来アイドルにするために、今のうちに大手事務所が声をかけてきたに違いない。

 

 全くモテる男は辛いぜ。

 こっちは生死のかかった問題に直面しているというのに、人気アイドルルートの開拓など……やるしかないな。

 いやほら、ヒーローを目指すものとしては? 期待には応えないといけないわけだし?

 だから仕方なく生存ルート開拓の片手間くらいならやってもいいっていうか?

 べ、別に不特定多数の女の子達からちやほやされたいとか思ってないんだからね!

 

 部屋を出た時とは違って、身体は羽のように軽くなっていた。

 内心ではスキップを踏みながら、父さんの向かいに座る。

 芸名は何がいいかなー、などと考えていたら、ゲンドウポーズの父さんが前置きなしに本題を口にした。

 

「ヒーロー公安委員会から湊翔、お前にスカウトの話が来ている」

 

 スン、とスキップしていた内心の俺の顔がチベスナ顔になる。

 まさかのトリプルフェイスルートだった。裏社会にどっぷり浸かる未来確定である。

 何処で人生の選択肢ミスった俺。

 いきなり出てきた特大の爆弾におののいていると、父さんが経緯を話してくれた。

 

 何でも個性を奪って与えることの出来る裏世界のドンが俺を狙ってる可能性があるから、スカウトの名目で公安が保護してくれるのだとか。

 もちろんただではなく、俺は将来的には公安直属のヒーローとなり、表沙汰に出来ないような仕事もしなければならなくなる。

 父さんの交渉のおかげで正式にヒーローになるまでは、公安の仕事とは無関係でいられるみたいだけど……全然安心出来ないんですが。

 

 いやわかってるよ。これもう選択肢一択しかないって。

 そこらのチンピラヴィランならともかく、超常黎明期から存在する化物相手に個人でどうにかするとか不可能だし。

 公安で保護してもらえるなら、安全性は遥かに高まる。今を生きるために将来ちょっと後ろ暗い仕事するくらい割りきるべきだ。

 それくらいの損得勘定、精神年齢大人な俺はやろうと思えば簡単に出来る。

 

 でも嫌なもんは嫌なんだよー!

 考えてもみろ。公安なんて機密情報の塊みたいな組織、一度入ったら一生辞めれるわけがない。

 もし辞めたいなんて抜かせば秘密裏に処理されることは必須……!

 俺は原作終わったら一般人として生きていくつもりなのに、このままだと待っているのは一生死と隣り合わせのライフワーク。

 

 いずれ『表ではヒーロー、裏ではヴィラン組織のスパイ、しかしてその正体は公安』なんてトリプルフェイス生活させられるに違いない。

 あんな言動の隅々にまで意識張り巡らす生活、ストレスで死ねるわ。それかボロを出して殺されるか。

 くっ、老後に布団の上で死ぬという細やかな夢を叶えるのはもう無理だってのか。ガッテム。 

 

 自身の未来がお先真っ暗で嘆いていたら、父さんが申し訳なさそうに口を開いた。

 

「いきなりこんな話をしてすまない。湊翔には出来るだけ何も知らずに、普通の生活を送って欲しかったんだ」

 

 普通の生活……毎日吐くほど訓練するあの日々が?

 思わずそう口にしそうになるが、自粛する。

 今そういう空気じゃないし、訓練は俺から望んだもの。そこに不服はなかった。

 ただあれを普通と呼ぶのに首を傾げるだけで。

 

「いや、それもただの言い訳だな。ただ湊翔に話す勇気がなかっただけだ。息子一人自分で守ることも出来ない男なんだと、お前に失望されるのが怖かった」

 

 いや相手、現代版魔王みたいな化物でしょ?

 そんなやつから守れないから父親失格だー、とか言わんよ流石に。

 むしろ自分の力に酔わず、適切な機関に協力を仰ぐのは英断でしかない。

 それが喜ばしいかは話は別だが。

 

「俺は弱く、情けない。どんな奴からもお前を守ってやると言えるほど強くはなれない。それでも、どんな手段を使ってもお前を守りたいんだ。この方法が正しいとも、理解してくれとも言えない。ただお前のことを想っていることだけは信じて欲しい」

 

 信じるどころか、父さんのやったことは正しいし理解もするよ。

 ただ俺のメンタル的な問題でめちゃくちゃ行きたくないと駄々をこねたくなるだけで。

 今なら生まれたとき以来の恥も外聞もない大泣きが出来る気がする。

 やらんけど。

 

「……五日後に、お前の返答を聞く為に公安の人間が家に来る。それまでに、覚悟を決めておいてくれ」

 

 あ、なんかショック受けた顔してる。

 そういえばさっきから何も返答してなかったな。

 でも許して。今ちょっとその辺の余裕ないから。後でフォローするから。

 父さんに無言で頷いた後、俺はフラフラとした足取りで自分の部屋に戻った。

 

 

 

 ベッドに身を沈めて思うことは一つだけ。

 さっきの話、聞かなかったことに出来ないかな?

 今までのことは全部夢で、起きたら俺は父さんか母さんの個性を受け継いでいて、大成は出来ないけど平穏な日常を歩める未来が待ってるんだ。

 だからきっと頬を思いっきりつねっ……たら痛かったので現実ですねはい。

 

 ああー、現実逃避してー。

 そんなことしても事態は何にも変わらないどころか時間が経つほど悪化するだけとわかってても、現実逃避したい。

 もう現実逃避だけで一生過ごしたい。

 まだ五日あるし、今日くらい何も考えず幸せな妄想しても問題ないよね?

 死んだ目でありもしない幸せな未来を妄想する六歳児か……もう一種のホラーだな。

 

 ハハハ、と渇いた笑い声をあげていると、コンコンとノックの音。

 

「湊翔。ちょっと話したいんだけど、今大丈夫?」

 

「母さん? 大丈夫だけ……あっ」

 

 特に何も考えず返事をした直後に気づく。

 自分があまりにも迂闊な行動を取ってしまったことに。

 まずい、この状況は……!

 

 慌てて待ったをかけようとしてももう遅い。

 母さんは既に、部屋の扉を開けた後だった。

 

「……ああ、やっぱり。酷い顔してる。あんな話の後だものね」

 

 そう言う母さんは、予想通り()()()()()()()()俺を見ていた。

 瞬間、冷や汗が全身から溢れ出す。

 手足に震えが走り、心臓が激しく脈打つ。

 乱れそうになる息を必死に整えながら、打開策を練るために頭を必死に回す。

 

 母さんにも公安の話を通しているのは、考えればすぐわかることだ。

 父さんの母さんへの信頼度は筋金入りだからな。

 故にこのタイミングで母さんが訪ねてくる理由なんて、俺を心配してのことくらいしかないと気づけたはずなのに……。

 己の迂闊さが恨めしい。

 

 そう、俺が恐れているのは、母さんが俺を心配していることそのものだ。

 それは別に、母に心労をかけたことが許せないなんていうマザコンちっくな感情ではない。

 純度一〇〇パーセントで自分のためのものだ。

 母さんはこういう時に、よくする行動がある。

 それは━━

 

「大丈夫、大丈夫だからね。何があっても、お母さん達は湊翔の味方だからね」

 

 抱擁、つまりはハグである。

 力いっぱいに、母さんは俺を抱き締めてくれた。

 強く、けれど優しい抱擁だ。子供に安心感を与えてくれるその行為に、しかし俺の動悸は急激に激しくなっていった。

 頭痛と耳鳴りまでしてきて、本格的に体調が不味いことになってきた。

 

 母の胸とぴったりくっついた耳から聞こえてくる心音。

 それが、俺の恐れていたもの。今世における最大の天敵。

 

 母さん、というか人の心音を聞くと思い出してしまうのだ。

 転生して一番最初の出来事━━出産時の、あの暗くて苦しくて狭くて臭いのが何時間も続いた地獄を。

 脳髄に記憶されたトラウマが、フラッシュバックするんだ。

 多分、胎児の間は母体の心音をずっと聞いていたから、それと連動して思い出してしまうんだと推測してるのだが━━これがキッツい。

 

 心音を聞くだけで頭痛、目眩、吐き気、その他諸々の症状が出た上に、その日はほぼ決まって生まれた時の悪夢を見てしまう。

 ガチのPTSDである。

 これが発覚したときはマジで神を呪ったぞ。

 

 なんせこの先、俺に彼女とかが出来ても抱き合うことすらまともに出来ないんだからな。

 ハグなしで結婚まで至れる方法とか存在したら教えて欲しい。

 裏社会のボスの件といい、公安の件といい、今世俺に厳しすぎない?

 このまま抱き締められ続けると症状は悪化していき、最悪気絶してしまう。

 

 なので俺は自分の安全のためにも、一刻も早く母さんの心配を取り除くことにした。

 

「ありがとう母さん。もう落ち着いたよ」

 

 震えそうになる身体を気合いで抑えつけ、さも母さんのおかげで安心した風を装う。

 親の愛を感じることで、今まで苛まれていた不安から解放された。そう見えるように全力で演じる。

 相手は生まれた時から一緒にいる肉親。僅かでも気を抜けば一瞬でバレる。

 

 今だけは自分をハリウッド主演俳優だと自己暗示し、意識が飛びそうになるのを必死に耐えながら、俺は微笑みさえ浮かべて母さんの抱擁から自然に離れた。

 

「そう? まだ少し顔色が悪いけど……」

 

「平気だよ。それに今は、少し一人で考えたいんだ」

 

「湊翔……わかったわ。邪魔しちゃってごめんなさいね」

 

「母さんを邪魔だなんて思うわけないでしょ。心配してくれてありがとう」

 

「……本当に、子供が大きくなるのって早いのね」

 

 母さんは軽く俺の頭を撫でてから、部屋を出ていった。

 少し間を開けて、戻ってくることはないと確信してからベッドに倒れこんだ。

 

 あ、危なかった……!

 あと少しでも長引けばマジで気絶するところだった。

 運動したわけでもないのに乱れてる呼吸を、少しずつ整えていく。

 十分ほどして、ようやく本当に落ち着いた。

 

 のでさっさと今後について考えることにする。

 え? 現実逃避?

 そんなことしてる暇あるわけないだろ。一秒でも早く今後の指針決めて母さんの心配を取り除かなければ。

 じゃないとまたハグされる。

 それは絶対に嫌だ。

 俺は母さんが来る前とは正反対に、現状について真剣に考えを巡らした。

 

 

 とはいえ選択肢は父さんから話聞いたときと同じく一択。

 公安に入るしか道はない。

 俺の個性を狙ってるらしい裏社会のボス、オール・フォー・ワン。

 こいつに対処する術を持ってない以上、俺は公安に守ってもらうしかないのだ。

 

 え? 飛雷神で逃げればいいじゃんて?

 無理無理。

 俺の個性、強力な代わりに欠点もデカイんだよね。

 なんと転移系個性のくせに、飛距離がたった一・五キロしかない。

 いや正しくは、マーキングが俺から直線距離で一・五キロより離れてしまうと消失してしまうのだ。

 これのせいで、俺は他の転移系個性と違って超長距離移動が出来ない。

 飛雷神で逃げれるのは最長一・五キロまで。そこから先は走るなり交通機関を使うしかない。

 

 そこらのチンピラ程度ならともかく、世界的に影響力のあるらしいオール・フォー・ワンからの逃亡は、素人の俺でも無理だとはっきりわかる。

 いっそ公安の話が全部嘘だったらとも思うけど、その可能性も低い。

 これは論理的根拠というよりも、メタ的視点によるものだが。

 

 オール・フォー・ワンって、凄いラスボスっぽいんだよね。

 立場とか行動とか能力とか。

 マジで魔王そのもので、ラスボスだと言われても違和感が全くない。

 そしてラスボスなら、主要人物の過去などに因縁があってもおかしくない。

 それが波風湊翔こと俺なんじゃないかって話だ。

 

 本来の原作だったら、この時点でオール・フォー・ワンに拐われて闇堕ちしてたのか、それとも個性だけ抜き取られて殺されていたのか、はたまた公安に入った諸悪の根元として敵視してるのか。

 原作知らないので正確にはわからないが。

 とにかくそういった理由から、公安の話は本当だと俺は思っているのだ。

 

 んで公安に入るのは確定として、考えるべきなのは入り方だよな。

 とある恋愛漫画でも言っていた。

 好きになった方が負けだと。請うた側の立場が低くなるのだと。

 これは何にでも言えることだと思う。

 

 つまり公安に入る際、保護して下さいと頭を下げるのではなく、オール・フォー・ワンを捕まえるのに協力()()()()といった体を取るのだ。

 そしてこう要求する。

 オール・フォー・ワンを捕まえた暁には、公安を辞めさせろと!

 

 ……いや流石に無理筋かなぁ。

 オール・フォー・ワンってラスボスだし、どうせ遅くても俺が二十代の間には倒されると思うから、その間くらいなら汚れ仕事でもやってもいいと思えたんだけど……まぁ、試すだけ試してみるか。

 

 

 

 なんか上手くいった。

 要求通したくて色々言ったけど、それが功を奏したのかね。

 俺の言ったことは要約すると「人の未来を壊すオール・フォー・ワンの存在は許せないから協力するけど、俺は誰も殺さずに救うことを諦めないヒーローになりたいんで、諸悪の根元倒したら公安辞めます」という感じのもの。

 

 なお嘘は言ってない。

 ()の未来を壊すオール・フォー・ワンは許せないし、人殺しとかやっぱ嫌だから出来るだけ避けたいし、公安とか辞めれるなら秒で辞める。

 ほら嘘じゃない。

 ただ相手がどう解釈するかは知らないが。

 

 それから二日後。今日は初めて公安の施設へと伺う日だ。

 ちなみに移動方法は徒歩でも車でもなく飛雷神。

 交渉が終わった際に、公安のスカウトマンが渡してきた一枚のハンカチ。それにマーキングが刻んである。

 後は約束の時間になったら、そのマーキングへ飛べば目的地だ。

 

 移動時間が零になるのはもちろん、秘匿の観点からもこの移動方法は最適と言える。

 俺は公安所属となったが、だからと言って全ての時間を公安に費やすわけではない。

 当初の予定通り、俺は来月から小学校に通うことになっていた。公安としての時間は、放課後と休日だけ。

 

 これは俺が公安所属であることを隠すためのものだ。

 戸籍を偽造すれば小学校に通う必要もないが、それだと何処かでボロが出るリスクは避けられない。

 故に外では普通の小学生として過ごし、家に帰ってから飛雷神で誰にも知られることなく公安施設へと赴き、訓練を受ける。

 効率は落ちるが、秘匿性の方を優先した結果、この方法が採用されることになった。

 俺としては別に小学校に通いたいと思わないので公安漬けの日々でも良かったんだけど、父さんも母さんも凄い喜んでたから良しとしよう。

 

 約束の時間までもう少し。というところで気になることが一つ出来た。

 これから飛ぶ場所についてだ。

 俺は現存しているマーキングなら、現在地を感覚的に探れるんだが……ここって最近商業ビルが建った辺りじゃなかったか?

 んで今気づいたんだけど、そもそも俺の家からたった一キロちょっとの距離に公安の施設あるのおかしくね?

 まさか……俺の為だけに、事前に作ったとか? まだ公安に入るかもわからない段階から?

 

 ……よし、このこと考えるのはやめよう!

 俺一人にかけてる金額がちょっとえげつない桁になってそうな事実とか、俺は気づかなかった! 

 プレッシャーを感じる真実なんて、なかったんや。

 頭を振って心臓に悪い推測を頭の片隅へと追いやり、飛ぶ準備をする。

 といっても、持っていくものは何もない。

 

 電子機器も、筆記用具も、トレーニングの道具も全て向こうで用意してある。

 むしろ何も持ち込まないことを徹底するように言われていた。

 

 これから向かう場所は当然極秘。

 その為に飛雷神を使うというのに、万が一にも俺に発信器やら盗聴器やらが付けられていたら台無しだ。

 なので公安から貰っていたレーダー機器で、俺の身体や服にその類いのものが付けられてないか事前にチェックするのが必須事項となっていた。

 

 金属探知機やら電波探知機やらで一通り調べ終わり、問題ないとわかってから飛雷神で飛ぶ。

 何気に一キロ以上の長距離を転移するのは初めてだな。

 そんな感慨にふける間もなく、目的地には一瞬で到着した。

 

 慣れ親しんだ自室の景色は瞬きの間に消え、目の前に広がったのは白く、窓のないだだっ広い部屋だった。

 ビルの壁全部と、天井を五階層分くらいぶち抜いたくらいの広さだろうか。

 これだけのスペースでかつ窓がないってことは、ここって地下なのかね。

 

 部屋には様々なトレーニング用の道具や機器が綺麗に並べられている。

 どれも最新鋭のものなんだろうな、と何となくわかる見た目だった。それこそ一つ一つが諭吉を何十枚も切らないと買えないものばかりのはず……絶対に壊さないように気をつけないと。

 

 そんな部屋には、俺以外に四人のスーツ姿の大人達がいた。

 彼等が俺の訓練を見てくれる公安の人間なんだろう。

 そのうちの一人、マーキング付きのハンカチを持った、二日前家に来ていた男が話しかけてきた。

 

「ようこそ湊翔君。早速だが、君には今からここで厳しい訓練を受けてもらうわけだが……覚悟はいいかい?」

 

 覚悟か……全然出来てないな。

 ぶっちゃけここに来たのってほとんど流れに身を任せた結果なとこあるし。

 

 当然ながらそんな本音をぶちまけていい場面ではないので、俺は力強く嘘を吐いた。

 

「覚悟なら、ここに来る前に済ましてきました! ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

 

 俺の返答に、男は満足そうに一度頷いた。

 

「結構。ではこれより君の訓練課程の説明を始めます。心して聞くように」

 

「はいっ!」

 

 こうして、俺の公安生活は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは何事もなく小学校生活を送ることが出来た。

 ヘラヘラ笑ってるけど全く油断の出来ない先輩が出来たり、とある縁で誰もが知るあの人と知り合ってしまったりなどのハプニングもあったが、想定していたよりはずっと平穏だった。

 

 訓練密度のえげつなさに、両手の指では数え切れないくらいに心が折れかけたりもしたけど、命の危機とかは全くなかったので特に問題にする程のことでもない。

 俺も図太くなったものよ。

 未だにトラウマ克服出来てないけど。

 

 そうしてかなり特殊な小学校生活を無事終え、卒業すること数週間。

 記念すべき、中学校へ入学する日。

 

 

 

 

 

 ━━その日俺は、運命と出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、恋愛的な意味ではないのであしからず。

 

 




次回、とうとう原作キャラ登場!


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