飛雷神の最大の長所は何か? 逃げることだよ   作:余は阿呆である

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 まさかお気に入り数が1500も増えるとは……!

 読者の皆様には感謝しかないです


 今回は長くなったので前後編に分けてます

 ではどうぞ


5話 主人公見つけた!《前編》

 

 

 この六年で最早自宅よりも馴染み深くなった、公安御用達のトレーニングルームにて。

 ここでは馴染みのない人と俺は向き合っていた。

 プロヒーロー、スイリュー。つまり父さんだ。

 これから俺は、父さんと模擬戦をすることになっている。

 

 

 きっかけは昨夜。

 もう二日後には中学生になるという日に、父さんが突然こんなことを言い出した。

 

「湊翔がどれくらい強くなったのか、確かめてみたい」

 

 子供と大人の境目、その入り口と言ってもいい中学生。

 息子がここまで育ったことに感慨深さを覚えるのと同時に、今の時点でどのくらいやれるのか気になったのだと言う。

 

 公安に入ってからというもの。

 父さんとの訓練は組手くらいしかしていないので、確かに今の俺の実力がどの程度なのかはわからないのだろう。

 だから個性も使った模擬戦で、直接確かめてみたいと。

 

 とはいえ、ライセンスを持っていない人間の個性使用は、原則禁止。

 私有地にてライセンス所持者の監督付きならば、個性の使用許可申請を通すことも出来るだろうが……一般家庭たる我が家に、そんな戦闘出来るスペースなどあるはずもない。

 

 だから諦めよう、とはならず。

 父さんは公安の施設が使えないかと提案してきた。

 確かにあそこならば広さは充分にあるとはいえ、父さんは部外者。

 とても許可が降りるとは思えなかったが、父さんが必死に頼んできたので、仕方なく先輩に取り次いでもらった。

 あっさりオッケーを貰えた。うそん。

 

 先輩曰く、「俺とばっか戦ってるし、違う相手と戦うのはいい経験になるでしょ。飛雷神で来れば、場所バレの心配もないし」とのこと。

 ちなみに先輩との戦績は全戦全敗。実力というよりは相性の差だと主調しておく。

 相性差がある六歳も下の子供相手に一回も負けてあげないとか、大人げないことこの上ない先輩だよ全く。次に戦ったら絶対に泣かす。

 俺は勝負事とか全く好きではないが、負けるのは死ぬほど嫌いなのだ。

 

 そんな報復対象である先輩のお膳立てもあり、わずか一日で父さんとの模擬戦の舞台は整えられた。

 といっても、いつもの公安施設に父さんを連れて転移しただけだが。

 初めて来たこともあり、父さんは興味深そうに周りを見回している。

 無理もない。

 プロヒーローでも個人では所有している人間なんて極々稀と言えるレベルの、最新の機器や器具の数々。

 現役のプロヒーローとしてはそそられることだろう。

 そのままそっちに意識を向けて俺との模擬戦のことを忘れて欲しい。

 

 この六年で俺も成長した。

 そんじょそこらの高校生が徒党を組んで襲ってきたところで、無傷で鎮圧するくらい楽勝と言えるくらいには。

 でもプロヒーロー相手となれば話は別。

 さすがに勝てるわけがない。

 プロになる前だった先輩にも勝てなかった俺が、ベテランプロヒーローの父さんに勝つ?

 寝言は寝て言えって話だ。

 

 あいにく俺は経験になるからと負け戦に興じれる程大人ではない。

 むしろ俺の為を思っての戦いだろうが、負ければ確実に相手と戦いのお膳立てをした相手を恨む。俺が勝つまで絶対にその気持ちを忘れないって断言出来る。

 自分でも意味不明なレベルの筋金入りの負けず嫌いなのだから仕方ない。

 前世でも、幼い弟相手に大人げなくゲームでボコボコにして泣かせたことは、両手の指で収まらないくらいにあった。

 同じ数だけ親にしこたま怒られても治らなかった悪癖は、生まれ変わった程度ではなくなってはくれないらしい。

 

 なので俺としては、どうにかしてこの模擬戦うやむやに出来ないかなーと思ってるんだけど……父さんの顔見る限り無理ですねハイ。

 先ほどまでのお上りさんみたいな雰囲気は消し飛び、これから戦争でも始めるのかと思うくらい闘志を漲らせている。

 もう何を言っても止まることはないのだろう。

 ここの使用を提案された時に、頑固として拒否していたら、こんな面倒なことにはなってなかったのかな。

 そんな栓ないことを考えながら、模擬戦に備えて身体をほぐすことにした。

 

 

 

 フィールドの範囲は二〇メートル四方。

 区切りとして、公安職員の個性によって即席で作られた、高さ五メートル程のコンクリート壁がある。

 これは他の人間や、何より最新鋭の道具達が巻き込まれないためのものだ。

 公安の予算ならば代わりなど幾らでも用意出来るとはいえ、税金の無駄遣いは避けなければならない。

 というか俺達親子の庶民感覚的に、壊した際に動く金額が怖すぎて壊すとか無理。

 そういう心配がなくなるという点で、この壁はとてもありがたいものだった。

 

 一〇メートル程の間を開けて、父さんと向き合う。

 互いに訓練時に着ているジャージ姿だが、俺は加えて両足にホルスターを付けている。

 ホルスターの中身は手裏剣とクナイ。

 最早手に馴染みすぎた投擲道具だ。

 別にハンデとかではない。

 元から父さんはプロ活動中の時も無手というだけだ。

 そもそもこの程度の装備で埋まる実力差なら苦労はしないのだが。

  

「お二人とも、準備はよろしいですか?」

 

 壁越しに審判を勤める公安職員のマイク音声がする。

 

「はい」

 

「いつでも始めてくれて構わない」

 

 肯定の返事をして、俺達は身構えた。

 

 

 

 

「それでは━━はじめっ」

 

 開始の合図とともに、左手で手裏剣を三枚投げつける。

 淀みのない動作で行われる、利き手とは逆の手での同時投げ。

 六年前とは違う。手裏剣術はもうマスターしたと自信を持って言える動作だ。

 

 真っ直ぐ向かっていく手裏剣に、父さんは野球ボールくらいの水の球を三つ出してぶつけた。

 ツプン、と水球の中に入る手裏剣。勢いを失った手裏剣は、プカプカと浮いている。

 あの速度の手裏剣に、あんな小さな水をピンポイントであっさり当てるとは。

 流石はプロだな。

 

「動きを止めるな!」

 

 などど感心している間に、父さんは攻撃態勢に入っていた。

 手裏剣を取り出した水球を圧縮し、勢いよく放ってくる。

 

 速っ!

 慌てて右に大きく飛んでかわす。

 水球は俺の横を通り抜け、鈍い音とともにコンクリート壁に激突。

 後ろをチラリと見れば、大きく抉れた跡があった。当たったら骨折くらいは覚悟した方がいいかもしれない。

 

 父さんの個性の名は、【流水】。

 水を生み出し操る個性だが、スペックそのものは大したことはなかったりする。

 一度に操れる水量は少なく、操作出来る範囲も短い。

 それを父さんは工夫と技術でカバーしていた。

 

 短距離でしか操れなくとも放てば遠距離攻撃に使えるし、量が少ないならピンポイントに絞って有効活用する。

 高速で飛来する複数の手裏剣に難なくぶつけるその手腕が、父さんの強さを物語っていた。

 

 追撃が来ないことを確認して、体勢を整える。

 父さんは新しい水球を四つ、自身の周囲に浮かせながらこちらの様子を見ていた。

 

 今の僅かな攻防で感じたのは、やりづらさだった。

 個性の違う先輩と父さんの戦闘時の動きは、当然ながら全く違う。

 攻撃方法、防御手段、機動力に手数、間合いの取り方。

 慣れきった戦いの流れとあまりにも違いすぎて、咄嗟に身体が動いてくれない。

 

 なるほど、先輩が言っていたことにも頷ける。

 実力差云々の前に、まず経験が俺には圧倒的に足りてなかった。

 普通に戦っても、やっぱり勝ち目はない。

 

 なら普通にやらなければいい。

 初見殺しのオンパレードで倒す。

 

 

 

 まだ公安に入る前、父さんとの訓練をしていた時は身体を鍛えるのがメインで、個性の訓練はしなかった。

 だから父さんが飛雷神について知ってるのは、公安就職前までにわかっていたことまでだ。

 公安での個性訓練で発覚した、飛雷神の特性と使い方については知らない。

 それを利用する。

 

 両手にクナイを持つ。左手のクナイと床にマーキングを付けてから、左手のクナイを父さん目掛けて投げた。

 父さんはそれを水球の一つで防ぐ。

 直後、俺は父さんの背後に転移した。

 

「っ、消え━━なっ!?」

 

 視界から消えた俺が背後に現れたことに、驚く父さん。

 隙だと思って右手のクナイで斬りかかったが、手首を捕まれて失敗。

 そのまま腹を蹴られそうになったので、先ほど床に刻んだマーキングへと逃げた。

 

 飛雷神の特性その一。

 マーキングの元へ、自分、あるいは触れた物を転移する。

 より正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その特性を活かして、水球に捕らえられたマーキングを起点に背後に飛んだのだが……まさか体術だけでしのがれるとは。

 ポジティブに考えれば個性を使う間もないくらい咄嗟だった、ネガティブに考えれば個性を使うまでもなかった。

 前者であることを願いたい。

 

 今、俺から見て父さんは背を向けている上に、蹴りを外したことで体勢を崩している。

 仕掛けるならここだ。

 今度は両手で、手裏剣を六枚投げつける。内、マーキングを付けているのは一枚。

 その一枚は、残りの五枚よりも僅かに遅れて放っている。

 丁度父さんから見れば、先行している手裏剣の影に隠れて見えないように。

 

 これこそ俺が手裏剣術を学ぶと決めたときから習得を決意していた再現技、影手裏剣の術!

 NARUTOの主人公であるナルトとそのライバルであるサスケ。いつもいがみ合っていた二人が初めて共闘し、格上の敵から師を助け出した超カッコいい技である。

 あまりにカッコよくてそのシーンだけ二〇回くらい読み直したのはいい思い出だ。

 手裏剣はこれをやるためだけに習っていたと言っても過言ではない。

 

 本当は風魔手裏剣で再現したかったんだけど、それ使うなら他の武器使った方がいいと周りに止められたため断念したんだよなあ……。

 くぅっ、この技は風魔手裏剣でやってこそだというのに……ロマンのわかってないやつばっかりだ!

 

 恐らく父さんは、先ほどの仕掛けを何となくでも気づいてるだろう。

 だからこの攻撃を水球で防ぐ際に、水球をなるべく自分より前に持って行くか、あるいは自身が下がるかで水球との間に距離を作るはず。

 それを踏まえて、影手裏剣は手前のものより僅かに軌道をずらしてある。

 これで手前の手裏剣が水球に防がれたとしても、認識されてない影手裏剣は水球の横を素通りして父さんへと向かう。

 それに驚き隙を作ったところで影手裏剣に転移すれば、今度こそ攻撃を通せるという目算だった。

 

 その目算は物の見事にぶっ壊された。

 

「甘い!」

 

 叫びと共に父さんは飛んだ。

 いや跳んだ。自分の真下にバスケットボールサイズの水球を作り、それを踏んで上空高くに跳び跳ねた。

 

「嘘だろ!?」

 

 何だ今の現象!? 意味不明すぎるんだが!?

 驚きすぎて完全に動きを止めた俺に、父さんは容赦なく水球を何発も放ってきた。

 

 慌ててかわされた影手裏剣のマーキングに飛んで事なきを得る。

 上を見れば、壁よりも遥か高い空中で、父さんはバスケットボールくらいの水球を足場にして、バインバインと跳ねていた。

 

 ……マジで何だあれ?

 思わず思考停止しそうになるが、すぐに冷静になり、状況分析に入った。

 あれは多分、水に弾性を与えてるんだよな。圧縮したり膨張させたりする応用なんだろう。

 それで操作中の水は浮かせられるから、それに弾性を付与して跳ぶことで疑似飛行を可能にしたのか。

 ……水系統の個性で空飛ぶ人って初めて見たわ。

 

 俺は父さんのヒーロー活動を見たことが余りない。

 せいぜいパトロールしているところをたまに出くわす程度だ。

 間がいいというか悪いというか、事件に対処しているところに遭遇はしなかった。

 だから父さんの個性を使った戦闘を目にするのは、今回が初めてだったりする。

 

 とはいえ家で個性の話はするし、スイリューについてネットで調べることも結構ある。

 だから父さんの戦い方についてはある程度知ってるつもりだったんだけど……マジでつもりなだけだったな。

 こんな技全く知らんわ。

 

 ネットにも上がってなかったし、多分この場が初見せのはず。

 どうやら思っていたよりも、父さんがこの模擬戦にかけている想いは大きいみたいだ。

 

「父さん、いつからそんなこと出来るようになったの?」

 

「成長しているのはお前だけではないということだ」

 

 そう言うや、父さんは水球を蹴って移動する。

 弾性によって加速しながら水球を生成し、それによって行われる更なる加速と軌道変更。 

 それを繰り返して縦横無尽に飛ぶ様は、飛行系統の個性を持ったヒーローとも遜色なく見えた。

 

「お前が俺を目標にしてくれてると知ってから、俺も改めて己を鍛え直した! お前の憧れに恥じない様に! 先達としての越えるべき壁であれる様に! そして何より、どんな奴からもお前を守ってやると言える様に!」

 

 父さんの言葉に、思わず目を見開いてしまう。

 それは父さんの熱い思いを聞いたから━━ではなく。

 すっかり忘れていた、俺が父さんを目標にしているという設定を思い出したからだ。

 あー、そういえばそんな理由で訓練お願いしたんだっけ。

 もう九年近く前のことだから完全に忘れてたわ。

 

 俺にとってはただの建前でも、父さんにとってはこんなとんでも技を生み出してしまうくらいには大切な言葉だったのだろう。

 どうしよう。罪悪感で胸が破裂しそうなんだが。

 とりあえずこの事実は胸の中に閉まって、墓場まで持っていこう。

 嘘も一生貫けば真実ってやつだ。

 

「父さん……ありがとう」

 

 あと忘れていてごめんなさい。

 父の言葉に感動した息子の演技をしながら、心の中で謝っておく。

 

 父さんは少しだけ笑ってから、引き締めた顔をした。

 

「そういうのは戦いが終わってからだ! 行くぞ!」

 

 空中機動中に、父さんはこちらに水球を連続で放ってきた。

 全部で五つ。

 移動しながら放っているため、全ての発射位置が異なっている。

 先ほどまでの同一方向からのものとは違った、多角的な攻撃。

 素の身体で避けるのは無理と判断し、マーキング付きのクナイを前方へ投擲する。

 すぐに飛雷神しようとしたところで視界が捕らえた。

 投擲したクナイへ向かう水球を。

 

「まずっ……!」

 

 転移先への攻撃に、即座に方針転換。

 向かってきた水球目掛けて、マーキング付きの手裏剣を投げた。

 五発目、つまり一番後続の水球へと命中。

 当然それで攻撃が止まるはずなく、ただ手裏剣が水球の中に捕らわれただけで終わった。

 だけどそれでいい。

 

 先頭の水球が当たる直前。

 その手裏剣を起点に、水球の進行方向とは真逆に転移した。

 下にいる俺に向かっていた水球の真逆、つまり上空へと。

 

 父さんがいる空域よりもまだ大分低いが、距離は縮まった。

 これなら手裏剣で狙える。

 八枚の手裏剣を両手に持つ。

 

 動く標的を狙う際、重要なのは予測だ。

 右に行くのか左に行くのか、あるいは突然止まるのか。突っ込んでくる、後ろに下がる、急に方向転換する。

 予備動作から考えられるあらゆる未来の行動パターン。そこからただ一つの正解を導き、動き出すよりも先に狙いを定めなければならない。

 

 父さんの動きをよく見て、軌道を予測する。

 ここだ、と思うタイミングがきた。

 水球を出して方向転換しようとした瞬間。そこで八枚全てを投げた。

 三枚、方向転換する角度を推測し、その軌道上に。

 三枚、そこから急停止、あるいは少し逸れるように進路変更した場合の軌道上に。

 二枚、それらの軌道上の上と下に、マーキングを付けて。

 あらゆる行動を予測し、次に繋げる布石まで打った攻撃だ。

 

 父さんは全ての予測を裏切り、俺に突っ込んできた。

 

 あの方向転換はこちらに突撃する為のものだったみたいだ。

 

 その軌道だと俺の投げた手裏剣の何枚かに当たるのだが、当前のようにそれらを水球で防いでいる。

 父さんから見れば、向かってくる手裏剣と突っ込む自分の速度が相乗した景色だったはずなのに、軽く反応してみせるのには最早呆れるしかない。

 プロって皆こんなこと出来るのか?

 

 ただ、この展開は俺にとってとても都合が良かった。

 

 今のシチュエーションならやれるかもしれない。

 トンデモ技の披露で中断してしまった、初見殺しオンパレードを。

 

 間近まで迫ってきた父さんが、拳を振り上げる。

 拳は囮で、本命はそれから転移して避けた先を攻撃する為に取ってある水球だ。

 それが、俺に勝ち筋を描かせるきっかけとなった。

 

 俺は、父さんの拳を受け止めるように、手を前に出した。

 

「むっ?」

 

 怪訝な顔をする父さん。

 先月まで小学生だった俺と大人の父さんでは、当然体格は後者が勝っている。

 加えて上から下に向けての勢いと全体重を乗せた一撃だ。

 普通に考えたら受け止められるはずもない。

 

 その通りだ。

 俺は受け止める為ではなく、触れる為に手を出したのだから。

 

 父さんの拳が掌に触れた。

 瞬間、父さんごと床のマーキングへと転移する。

 

「なぁっ……!?」

 

 驚く声を上げる父さん。

 それは自分ごと転移したことに対してではない。

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 飛雷神の特性その二。

 転移すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 例え一〇〇メートル上空から落下しようとも、一度転移すればそれまで働いていた重力はなくなり。

 殴る途中で転移すると、勢いが消えたのに中途半端な姿勢で力んでるからつんのめってしまう。

 そして今の父さんは、全身を使って拳を放つ体勢で空中に静止している、極めて隙だらけな状態だった。

 

 防御用に出してた水球は転移させていないので、空中に置き去り。

 予想外の飛雷神の特性への驚愕で、精神的にも隙を晒している。

 仕掛けるなら今しかなかった。

 

 握っている手を、父さんの拳から手首へと移す。

 そこを起点に背負い投げ。

 普段なら絶対に防がれるが、今回は綺麗に決まった。

 

 と思ったら、変な感触が手に伝わった。

 床に叩きつけた時、ぶよんとまるでクッションに沈むような感触が。

 背中に弾性のある水球を作ったのだとすぐに気づいた。

 これも防ぐとは。想定内だよチクショウめ。

 

 背負い投げの勢いを利用した弾性の反発で、そのまま離脱されそうになる。

 だから今度は父さんだけを転移させた。

 起点は背負い投げの際に掴んだ、父さんの手首に付けたマーキング。

 

 飛雷神の特性その三。

 対象に刻んだマーキングを起点にしても、その対象を転移させられる。

 これは結構な盲点だったりする。

 転移と聞けば長距離の移動を想像するのが普通だ。

 故に一メートルしか転移出来ないこの特性には気づきにくく、気づいたとしても意味がないと思うかもしれないが、実はそうでもない。

 他の特性と合わせれば。

 

 飛雷神の特性その四。

 転移しても姿勢は変わらないが、角度を変えることは出来る。

 東向きだった身体を西向きしたりな。

 相手の背後に転移する時はこの特性を利用している。

 そしてこの特性は前後だけでなく、上下を変化させることも出来た。

 

 俺は転移で、父さんの姿勢を縦に一八〇度回転させた。

 結果、父さんは頭を地面に向けた状態で俺に背中を向けることになる。

 

「……っ!?」

 

 視界がいきなり上下逆転したことで、流石の父さんも少しだけパニックになっているみたいだ。

 俺はその背中に触れ、更なるマーキングを刻み、飛雷神を発動。

 今度は床に俯せになるように転移させる。

 

「なっ……こ、ぐっ……!?」

 

 もう父さんからは何が起きてるかわからないだろう。

 慣れてない人間にとって、間を置かない連続転移は情報処理が追い付かず、思考が乱れやすい。

 

 ここまで念入りに隙を作り出した上で、俺は父さんの背中に乗って動きを封じ、その首筋にクナイを突きつけた。

 

「……俺の、負けか」

 

 状況を把握した父さんの呟きが、決着の合図となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~、つっかれたぁ~」

 

 自室のベッドに沈みながら、深くため息を吐く。

 やっぱりただの鍛練よりも、戦闘訓練はずっと疲れるな。

 しかも終わってからが大変だった。主に父さんが。

 質問攻めにあうわ、息子の成長に漢泣きするわ。宥めるのにめちゃくちゃ労力使う羽目になったぞ。

 精神的には模擬戦よりも疲れたのには文句を言っても許されると思う。

 

 明日はもう入学式だってのに、何でこんなに疲れなきゃいけないんだろうか。

 父さんにまた戦おうって言われたけどごめん被る。

 今回勝てたのはあくまで、父さんが飛雷神の特性をほとんど知らなかったからだ。

 次は対策もされてるだろうし、ほぼ確実に負けること間違いなし。

 俺がもっと強くなるまで、勝ち逃げさせてもらおう。

 

 時計を見ればもういい時間だった。

 もうそろそろ寝た方がいいか。

 ま、多少は寝過ごしても問題ないんだがな。

 実は事前に、校内へ転移出来る様に仕込みを施してある。主に楽する為、もとい遅刻防止の為に。

 毎日徒歩三〇分の距離往復するの面倒くさいとか決して思ってないよ、うん。

 

 私物のボールペンにマーキングをして、それを敷地の仕切りであるフェンスの隙間から校舎裏の目立たない場所に置いておいた。

 これで始業の五分前に家を出ても間に合う。

 完璧だ。

 毎朝惰眠を貪ってやろう。

 フゥーハッハッハッハッ!

 

 

 

 

 

 翌日、俺は知らない道で一人呆然と佇んでいた。

 

 

 

 え? どゆこと?

 確かに俺、中学校に転移したはずなんだけど……。

 

 足元を見れば、道路の隅に捨てられたボールペンが。

 ……あー、これ動物がここまで咥えてきたのかな。

 何となく興味持って咥えて、飽きて捨てたってところか。

 

 ま、まぁ問題ない。

 今日は初日だから、早めに家を出たのだ。

 まだ時間はある。

 自宅と公安施設に刻んだマーキングの位置と比較して、三角測量を用いて現在座標を割り出せばまだどうとでも……。

 

 あ、公安施設のマーキング消えてる。

 ここは公安施設からは遠い場所だったみたいだ。

 ここから自宅までの距離と方向はわかったが、それだけでは現在地がわからない。

 知らない場所だからな。どっちが東かも見分けがつかなかった。

 

 この辺りは山もないから、景色からの判別も難しい。

 今日が曇りじゃなければ、太陽の位置から東がどっちか把握することも出来たんだがそれも無理。

 住所の書かれた電柱は見つかったが、知らない町の名称だった為収穫なし。

 つまり中学校の方角も距離もわからないまま。

 始業の時間まで残り二〇分。

 ……これ詰んだのでは?

 

 や、やべぇえええええええええ!

 初日から遅刻、それも原因が飛雷神使ったズルの失敗だとバレたら、確実に父さんと公安の上司から折檻される……!

 な、何とかしなければ。

 

 とはいえ現状手立てが思い浮かばない。

 周りを見回しても住宅街ばかりで、運悪く通行人もいないから道を聞くことも出来なかった。

 道を聞くためだけに知らない家のインターフォンを鳴らすのってのもアレだし……くっ、どうすれば!?

 

「あっ、あの!」

 

 頭を抱える俺の背後から、少し上擦った声がする。

 振り返ればいつの間にか、同じ中学校の制服を着たモジャモジャ髪の少年がいた。

 少年は何処か緊張の面持ちで、けれど真っ直ぐこちらを見ながら、救いの言葉をくれた。

 

「さっきから困ってるみたいですけど、どうかされましたか?」

 

「折寺中学までの道を教えてください!」

 

 迷うことなく俺は救いの手にすがり付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 これが、この先長い付き合いとなる、緑谷出久との出会いだった。

 




 前半の戦闘シーンが長くなりすぎた……おかしい、飛雷神をちょっと書くだけのはずが何故こんなことに



 後編は翌日の朝七時に投稿します
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