飛雷神の最大の長所は何か? 逃げることだよ   作:余は阿呆である

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 前半に比べて短いです


6話 主人公見つけた!《後編》

 

 

 中学校への入学が間近に迫った頃。

 俺は一つ、やるべきことを決めていた。

 主人公探しだ。

 少年漫画の主人公の年代は、大体は中学生か高校生くらいが多い。

 つまり、中学生になればいつ原作が始まってもおかしくないのだ。

 

 ある日いきなり、交通事故にあったことをきっかけに、霊界探偵として妖怪達と戦うことになるかもしれない。

 ある日いきなり、赤ん坊の家庭教師が家にやって来て、マフィアのボス候補だと告げられ理不尽な教育を受けることになるかもしれない。

 ある日いきなり、月を破壊した怪物が担任教師となり、地球を守る為にそいつの暗殺を毎日行わなければならなくなるかもしれない。

 

 中学生とは、何が起こってもおかしくない年代なんだ。

 

 だから俺も常に気を引き締め、いつ原作が開始してもいいように備えなければならない。

 そう決意していた俺の頬は今、弛みきっていた。

 

 仕方ない。仕方ないことなんだ。

 

 なんせ━━今世で初めて友達が出来たんだからな!!

 

 幼稚園? あれは友達ではなく、保護者と児童の関係。

 小学生? 放課後も休日も訓練してて遊ぶ暇なかったのに出来ると思う?

 先輩? 先輩は先輩であって友達じゃないから。

 

 なんだかんだ、今世は友達を作ることが出来なかった。

 年齢がネックになってたから仕方ないことなんだが。

 だから中学生になったら、主目的である主人公探しとは別に、裏目標として友達作りを掲げていた。

 それも出来ればこの世界の主要人物ではなく、物語とは全く関係ないようなモブ相手とだ。

 

 勿論理由はある。

 確かに物語を円滑に進めるならば、主要人物とは仲良くなった方がいいのかもしれない。

 でも俺の目標はあくまでもその後。原作終了後に平穏な生活を送ることなのだ。

 

 考えてもみて欲しい。

 何年も血生臭い戦いをしていた人間が、何のコネクションもなしにいきなり一般人に戻れるだろうか。

 昨日までヴィランとの命懸けの戦闘が当たり前だった奴が、普通の人に馴染めるのだろうか。

 

 まぁヒーローには出来る人多いんだけど。

 今あげたのって結局はコミュ力あったら解決するからね。

 コミュ力の塊みたいなのが多いヒーローなら、環境が大幅に変わっても問題なく生きていけるのが過半数を締めることだろうさ。

 ただ俺は違うってだけで。

 

 別にコミュ症とかではない。

 普通だ普通。

 仲良い奴には舌がよく回るし、初対面だと印象良くする為に表情作る。苦手な奴はさりげなく避けるし、嫌いな奴には皮肉を言うこともあった。

 全て前世の話だが。

 今世は俺、素の性格ずっと隠してるからな。

 そこが問題だった。

 

 優等生の仮面というのは、ヒーローを目指す上では都合がいいので、ずっと続けていた。

 公安からの指導もあり、子供の頃とは比べ物にならないくらい上手に演じれている。

 でも優等生を演じるというのは、結構疲れるのだ。

 だから一般人に戻った暁には素の性格を前面に出していこうと思ってるんだが……それが心配なんだよな。

 

 何せもう十年以上前だ。

 最後に素の口調で話したのは。

 心の中では元気いっぱいな素の俺は、実際に口に出してみたら果たしてどうなるのか。

 どもったり、思っていたのと違うことを喋ったり等、コミュ症あるあるなことをやらかす予感しかしなかった。

 

 だからそういうのに備えて、ただの一般人の友達を作っておきたいんだ。

 いずれ一般人に復帰した際に、少しでも馴染みやすくする為に。

 あと原作のストーリーに絡まない安全枠として。

 

 いや主要人物と関わってたら、いつ事件が発生してもおかしくないからね。買い物してたところを襲われたのがきっかけで、大事件に発展していくストーリーとかもあり得るから、マジで気が抜けない。

 そういう心配のない友達欲しいんだよ切実に。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、緑谷出久。

 不幸な事故で迷子となった俺を中学校まで案内してくれる救世主であり、同じ学校の同級生となる少年だった。

 

 俺の見立てでは、緑谷は間違いなくモブである。

 ヒョロっとした身体に冴えない見た目。名前もザ・一般人って感じの、発音も漢字も至って普通のもの。

 人見知りの気があるのかちょいちょいどもるし、かと思えば好きな(ヒーローの)ことを話し出すと止まらないオタクだったりする。

 ヒーローものの仲間とは思えなかった。

 

 でも良い奴だった。

 初対面の赤の他人である俺が困ってそうだったからと、人見知りを圧して話しかけてくれるくらいに。

 中学初日の登校途中だ。

 内容によっては遅刻していた可能性もある。

 もしそうだったとしたらどうしたのかと、自己紹介の後に試しに聞いたら、緑谷ははにかみながら「多分、遅刻してたと思う」と言いきった。

 俺の緑谷への株が爆上がりしたのは、言うまでもない。

 

 条件のモブであることは達成。そしてお人好しすぎる人柄。

 これはもう友達になるしかない。

 そう思って俺はあれこれと話しかけた。

 最初はぎこちなく応対していた緑谷だったが、ヒーロー好きという共通項がわかってからは打ち解けるのが早かった。

 

「この間のオールマイト特集の番組見た!? 今まで解決した事件ランキングやインタビュー、視聴者参加型のクイズとか色々あったよね! 僕はやっぱり事件ランキングが一番夢中になったかな。全部知ってる事件なんだけど編集されたものを改めて見返すと新しい発見が幾つも見つかって。ヒーロー評論家の人達が番組そっちのけで討論始めた時は混ざりたくなったなあ。勿論他の企画も凄く良かったよ! インタビューではオールマイトが過去の事件を見返すことで、今思っていることが聞けたし。クイズは全問正解だと超激レアなオールマイトのグッズの抽選権が貰えるから全力で臨ん━━」

 

 うーん、このノンブレス長台詞。

 前世で俺をオタクの沼に引き込んだ奴を思い出すわ。

 容姿似てないけど雰囲気がそっくりすぎる。

 オタクってやつは皆こんななのかね?

 あ、俺もオタクでした。ニワカだけど。

 

 緑谷のヒーロー知識は凄まじかった。

 俺もヒーローについてはそれなりに詳しいつもりだったが、この分野でもニワカだったと思い知らされる。

 緑谷最推しのオールマイトのマイナーな情報は勿論、俺も知らないヒーローや、果ては父さんについても詳しく知っていた。

 俺も知らないようなことまで。

 

 えっ、父さんってインタビューとかあったの?

 地元の一部で密かに人気あるから非公式ファンクラブが結成されてる?

 別のヒーローがスイリューにお世話になったことや、酔うと息子自慢しかしなくなることを語ってる記事や動画がある?

 ……帰ったら詳しく聞くか。

 

 ちなみに緑谷にはスイリューの息子だとは話していない。

 当たり前だ。

 酔ってる時に自慢してる息子って俺なんだぜ、とか恥ずかしすぎて言えんわ。

 どんな内容を話してるのか……やめよう。自分への褒め言葉想像するとか痛々しすぎる。 

 

 そんな風に楽しく会話していたら、あっという間に学校にたどり着いてしまった。

 思ってたよりも学校近くに転移していたみたいだ。

 クラス表にて確認すれば、運良く二人揃って同じクラス。幸先のいいスタートだ。これはいい中学生活になりそうな予感。

 始業まで残り五分というところで教室に到着。中に入れば、突然緑谷が青い顔をした。

 

「ひぇ……!?」

 

「? 緑谷、どうかしたのかい?」

 

「なっ、ななななんでもないよっ! はっ、早く席につこうっ」

 

「えっ、あ、うん……」

 

 急にめちゃくちゃどもり出したから、こっちもつられてどもってしまった。

 爽やか優等生のイメージが崩れる行動は避けたいというのに全く。

 元凶の緑谷を見れば、何故か身を縮ませながらコソコソと席順の書かれた黒板を確認し、自分の席に向かっていた。

 なんだあれ? 誰かから隠れてるのか?

 

 疑問には思ったが、まあいいかと俺も黒板で確認してから、自分の席についた。

 

 荷物を机に置き、主人公っぽいやついないかなーと教室を見回す。

 お、緑谷いた。俺から見て右に二つ、後ろに二つの位置か。割と近いな。

 その緑谷は生まれたての子鹿のように震えながら、チラチラと何かを見ていた。

 視線を辿る。そこは俺の席から前に一つ、右に一つの位置。

 絵に描いたようなヤンキーがいた。

 

 即座に視線をそらした。

 いや、あれヤバイって。

 切れたナイフよりも鋭そうな目付きとか、刺せるんじゃないかってくらいに全方位にツンツンしてる髪とか、机に足を乗せて周りを威圧してる態度とか。

 何かドス黒いオーラみたいなもんまで見えるし。

 やだ、この子ホントに一般人?

 見たとき一瞬、ヴィランが教室にいるって思っちゃったんだけど。

 服に潜ませてるクナイ取り出しかけたからねマジで。

 

 なるほど緑谷が恐れてるのはこいつか。

 確かにオタクにとって、ヤンキーって怖いもんな。

 関わりたくないから目立たないようにあんな行動してたのか。

 納得納得。

 俺もなるべくなら関わりたくないので、絡まれないように寝たフリをした。

 そこ、公安のくせにチキってるとか言わない。

 これはあれだから。友達の為の戦略的撤退だから。

 決してビビってる訳じゃないから。

 

 

 斜め前のヤンキーが突然ヒャッハーと叫びながら個性をフィーバーしないかと怯えながら迎えた中学初のHRは、特に何事もなく終わった。

 でもめっちゃイライラしてる。

 何に対してかはわからないけど果てしなくイラついてるのだけはわかる。

 もういつ暴れだしてもおかしくない感じだった。

 

 気分はいつ爆発するかもわからない時限爆弾の側にいる一般人。

 チッチッとタイマーの音は聞こえるのに、時間表示はされてないという恐怖に襲われてるみたいだった。

 これならマジの爆弾の方がまだマシだ。飛雷神で逃げれば済む話だし。

 今飛雷神で逃げたら、いきなり個性使って入学式サボったヤベー奴にしかならない。

 故にこのプレッシャーから逃れる術は、現状皆無だった。

 爆弾よりも厄介とは、こいつは将来大物になるかもしれないな。

 

 等とバカなことを考えている内に、クラス全員で体育館へと移動する時間になった。

 これより記念すべき入学式が始まる。

 不安要素のヤンキーは、雑に列をなしての大移動の間も大人しくしていた。

 ひょっとしてヤバいのは見た目だけなんだろうか。

 そういえば朝も遅刻したりせずに自分の席に座ってたし、案外中身はまともなのかもしれない。

 

 開会の言葉の後に入場し、国歌斉唱。

 それが終わってから始まる、偉い方々の長い話。

 当然真面目に聞く気は欠片もなかった俺は、その間思考に耽っていた。

 主に主人公について。

 

 主人公とは、どんな存在なのか。

 一言に主人公と言っても様々なタイプがいる。ジャンルや作風によって千差万別だし、一言で纏めれる共通項など俺には思いつかない。

 憧れる存在、共感出来る存在、面白い存在、あるいは全く理解出来ない存在なんてのもいる。

 

 では“バトル系少年漫画の主人公”という縛りがあったらどうだろう。

 先ほどまでよりは絞れるはすだ。

 

 俺が思うバトル系少年漫画の主人公で最も大事だと思える要素は、カッコよさだった。

 戦闘シーンや困難に立ち向かう場面、あるいは台詞や在り方、前に進み成長する姿。

 そういう時に、読者が思わず拳を握ってしまうような、心の底からカッコいいと思えるのが主人公なんだと、俺は思っている。

 

 当然、脇役でもカッコいい人なんて幾らでもいるが、やっぱり一番カッコいいのは主人公であるべきだ。

 異論は認める。

 オタクは論争してもいいけど、価値観の強要はNGってのが持論だから。

 だから腐女子の皆さんは、男キャラ同士のカップリング論争で自分の陣営に俺を無理やり引き込もうとしないでくださいホントに。

 腐女子の上位種である貴腐人。その深淵を覗いた恐怖を、俺は永遠に忘れない。

 

 話がずれたが、とにかくこの世界の主人公も、カッコいい奴なんだと俺は推測しているわけだ。

 とはいえカッコよさだけで決めつけるのもいけない。この世界はヒーロー物の作品。いくらカッコよくても犯罪者ならば、それは主人公ではなく敵役となってしまう。

 故に主人公とは、主人公要素を持ったカッコいい奴でなければならない。

 

 その肝心の、主人公要素がどんなものかというと。

 はっきりとした目的がある、感情の波が激しい、自らの意思を堂々と口にする、他と比べて才能がある又は極端に才能がない、能力が絵になる、終始一貫してブレない、仲間を大切にする、誰かを守る為に力を使う、何処かしら欠点がある、名前に使われる漢字が当て字、特徴的な口調なり口癖がある、ツンツン頭、エトセトラ。

 

 今上げた内の七~八割当てはまり、尚且つカッコいい奴。

 もしそんな奴が、この世界の主要人物である俺の身近、つまりは同級生にいたなら。

 

 そいつが主人公だ。

 

 

 ……………………………………………………多分。

 

 

 いや原作知らなくて手がかり0なのに確証とか得られる訳ないだろ。

 主人公っぽい奴見つけたら要チェック。

 現状で出来るのはこれだけだ。

 まあ、そうそう主人公の条件満たす奴なんていないし、いたら高確率で当たりだと思うんだけどなぁ。

 そんな簡単に見つかる訳ないけどさ。

 

 入学式も終わり、教室にて自己紹介タイムに突入しても、俺はウダウダと考えていた。

 あー、誰か自己紹介で前人未到の夢を堂々と語るとかしてくれないかなー。

 一回見たら一生忘れないような、他の追随を許さないくらいインパクトのあるやつ。

 等と思っていたら、斜め前のヤンキーの番が回ってきた。

 するとヤンキーは、突然机の上へと立ち、声高々に叫んだ。

 

「俺の名前は爆豪勝己! いずれはオールマイトをも超えるNo.1ヒーローになり、高額納税者ランキングに名を刻むことになる男だ! 覚えとけモブどもォ!」

 

 両手から爆発音を鳴らしながらの宣誓。

 クラスの誰もが、教師までもが口を間抜けに開けてポカーンとする程の衝撃を受けている。

 俺もその中の一人だった。

 そして回り始めた頭が状況を理解すると、顔を机に伏せた。

 今の顔を人に見せるわけにはいかないから。

 

 派手な個性。

 ツンツンした髪。

 特徴的すぎる口調。

 黙っていても目につく存在感。

 勝つという文字が入った名前。

 そして何より、あのオールマイトを超える等という大言を堂々と言ってみせた、その強い意志。

 

 ━━ああ、これは確定だ。間違いない。

 

 主人公要素盛りだくさんなこともそうだが、何より今の名乗りを聞いて、心が訴えかけてきていた。

 こいつがそうなんだと。

 

 まさか初日から見つかるとはな。

 主目的と裏目標、両方達成とか運が良すぎるだろ。

 

 俺は弧を描く口元を隠しながらヤンキー━━爆豪を見やった。

 まるで犯人の名を告げる名探偵の様な気持ちで、心の中で指差し叫んだ。

 

 

 

 主人公は、お前だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その十分後。

 鬼の形相で緑谷に絡む爆豪を見て、やっぱりヴィランかもしれないと思った。

 

 

 




 今話の裏タイトル『湊翔、致命的ガバをやらかすの巻』
 

 やっとここまで書けた!

 この作品、最初にこのネタ思い付いたのが始まりなんですよね。
 本当は一話でここまでくる予定でした。
 こう、一万字くらいでパーっとダイジェスト形式で。

 これからも予定通りには書けないんだろうなあ……

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