『今夜11時、三女神像の前で待っていて下さい』
10時50分、私は今日彼から送られてきたメールを繰り返し読みながら待ち合わせ場所で待っていた。
1月の寒い空気が肌を刺すように流れているが今の私は彼からのメールで有頂天。そんな寒さなんて通用しないのだ。
彼に初めて会ったのは3年も前のこと。トレーナーになって初めての日、新任式を終えた後。唯一の同い年同期ということで私から声を掛け、すぐに打ち解け合った。始めの頃はすごく優秀な人なんだなあ、というほんわかとした感じで見ていた。ちょっぴり特別な友達、その程度に思っていた。
そんな出会いから1,2か月後…。そんな時期にもなればお互いに担当ウマ娘がつくようになり、トレーニングに励むようになっていた。朝から晩まで担当のことを考え、最適なトレーニングと万全の安全管理を徹底していた。だが、私たちはそんな激務の中でも、隙を見つけては会って育成論について語りあっったりしていた。
そんな日々が半年ほど続き、お互いの担当がメイクデビューを迎えようとしていた頃。
「そういえば、桐生院さんって趣味とかないんですか?」
ある日ふと言われた言葉。だが、私はその時(恥ずかしいことに今もだが)に彼の質問に対して、具体的な答えを持っていなかった。生まれてこの方、優秀なトレーナーになることだけを目指して生きていたためだ。
したがって、私は彼の質問に首を横に振ることしか出来なかったのだ。
「じゃあ、今週末、一緒にどこか出かけませんか?休み…でしたよね」
お母さまが見ていたドラマでしか来たことがない“デート”。一生縁がないと思っていたのに、まさか彼とするとは思ってもなかった。
「はい!もちろんです!」
あの日の私は、間違いなく乙女そのものだった。
「あの!カラオケ…行きませんか!?」
初めて彼からデートに誘われてからしばらく経ったある日、私は勇気を出して彼をデートに誘った。前述の通り、俗世に全くと言っていいほど明るくない私にデート先の相談に乗ってくれたのは他でもない、私の担当ウマ娘であるハッピーミークと、彼の担当ウマ娘であるダイタクヘリオスちゃんだった。私たちトレーナー同士が仲良くなっているのと同じように、また彼女たちも仲良くなっていたのだ。
「…」
突然のお誘いを貰った彼は、意外そうな目でこちらを見ていた。その表情を確認した私は、何を慌てたのか担当のためだ~などと最もらしい(よくよく考えると変な話ではあるが)理由をあたふたと後付けしていた。
「ぷっ、あははは!」
だが、私の言い訳を聞いた彼は急に大声で笑いだした。おなかを抑えて、外だというのにお構いなしに地面を転げまわった。
「!?な、なんで笑うんですか///!?」
恥ずかしさのあまり、彼を強く責める。当然だ。あんなに惨めな言い訳をしたのだから。デート1つ、まともに誘えないような箱入り娘なのだ。だが、彼は私が想像していたのとは真反対の反応をした。
「あははははは!い、いや・・・桐生院さんがあまりにも可愛いもんであははは!」
「かわっ///」
お父様以外の男の人から『可愛い』と言われるのは初めてだった。この日を境に、私は彼をより一層男の人として意識をしだしたのだった。
それからも幾度のデートを重ね、私たちはより親密になっていった。新年の初詣(お互い担当と元日に行ったため初というのは違うが)なんかも行き、私は彼のことを益々好いていた。そんなある日。
「水族館…ですか?」
今度は彼が水族館に誘ってきた。彼は私を知らない世界へ連れて行ってくれる絵本の王子様のようで、今度もキラキラ輝く世界に手を取って連れて行ってくれるのだと、そう思っていた。
だが、そうではなかった。
「もうすぐ…マイルCSなんです。ヘリオスの」
「そう…ですね…」
水族館に泳ぐイルカを見ながら彼は私に弱音を吐いた。
始めは、なぜ彼が私にこんな話を振ったのか分からなかった。どうして急にそんな話を振ったのか。
「俺、正直不安なんです。あいつに、2連勝の冠を授けてやれるかが」
彼の担当、ダイタクヘリオスちゃんは昨年のマイルCS覇者で、今年のマイルCSでの2連勝が掛かっていた新人トレーナーがG1優勝バを生み出すだけで、かなりの注目度が彼に注がれた。余談だが、それは私にも同じで、既にミークもG1を2勝している。
「本当は、あいつもここにいるイルカみたいに自由に走ってもらいたいんです。でも、2連勝って思うとつい緊張して、それがあいつにも移っちゃって…」
水槽を撫でながら弱弱しく不安を吐露する彼を見て、私はハッとした。
今まで、私は彼のことを王子様の様に思っていた。だが、本当は違う。彼は…私の同期であり、『ライバル』なのだ。
「担当を、信じてあげてください」
だから私は彼の背中を押す言葉を告げる。
「え?」
「あなたが私に教えてくれたんじゃないですか。担当ウマ娘との信頼が大事だって」
私がミークを担当して間もない頃、私が暴走してミークを置き去りにしていた頃があった。彼女の意志を無視し、自分の知識を疑うことなく突っ走るその様子に、彼はアドバイスをくれた。私とミークがこうしてG1を勝利できたのは間違いなく彼のおかげだった。
「あなたとヘリオスちゃんは、間違いなくお互いを信頼し合っています。だからこそ、あなたの不安が彼女に移ってしまう。だったら…」
「俺が自信を持てば、大丈夫…と」
「そうです」と
力強く頷き彼を勇気づける。私のライバルは間違いなくこんな所で挫けない。私はそれを知っているから。
「…ありがとうございます。俺、頑張ってみます!」
「その顔で安心しました。マイルCS、頑張ってください」
そして、彼とヘリオスちゃんはマイルCS2連覇を収めたのだった。
「桐生院さ~ん!」
昔の思い出に浸っていると向こうから彼の声が聞こえてきた。腕時計を見ると11時05分。これは遅刻ですね。後でしっかりと埋め合わせしてもらう必要がありそうです。
そう思いながら私は、彼の方を向いて微笑んだ。
水族館パートはワクチンでボロボロの体で書きました。アホかな?
ちなみに一応結婚RTAの方と世界観は同じです。まあ・・・そんな要素欠片もないんだけど
想定は3、4話でサクッと締めたいです。時数も少なめにが目標