エアコンの暖かい風が満ちた部屋で、机に山積みされた書類を必死に片付ける。その多くはインタビューの依頼であり、それらを1枚片す度にスケジュール帳の枠がまた一つ潰れていく。これ全部がインタビューの依頼だったのならば、俺のスケジュールは向こう1ヶ月は埋まりきってしまうだろう。
全部が俺のだったら、の話だが。
「これがヘリオスので…これが俺…はあ!?彼女はいますか!?いる訳ねエっての!」
この書類の多くは俺の担当でありズッ友、ダイタクヘリオスのである。
URAファイナルズ、マイル部門を優勝した彼女はここ、大会後1週間取材づくしの日々を送っていた。数多くの出版社が取材の申し込みしてきた。今や彼女は一躍時の人であり、そんなヘリオスのトレーナーということで俺への取材も増えたのだ。そりゃトレーナーに注目する物好きはそう多くはないが。そんな取材の中にはああいった余計なお世話なことをするとこもある。そりゃあ俺だってトレーナーってだけで一般人だ。彼女くらい欲しいけどそんなの出版社に言われる筋合いはない。
まあ…好きな人がいないわけじゃないけど///。
ふと気になって時計を確認する。今は…よし、まだ10時半だな。
時間に余裕がある事が分かって一先ず安心する。そう、今日はおデートの日だ(彼女でもないのにデートなんて言うのは少し変だろうか)。最も、こんな時間だからどこも行くことは出来ない。ただ単にトレーナー寮に一緒に帰るだけだ。本当にデートと言っていいのか不安になってきた。
ちなみに相手は桐生院さん。俺の同期のトレーナーで担当ウマ娘はヘリオスと共にURAファイナルズマイル部門を競ったハッピーミークだ。
桐生院さんとの出会いは3年前、新人トレーナーとして就職したその年の親任式、同い年同期ということで顔合わせをした時だ。正直、最初の数分はあの桐生院家の人ということで完全に敬遠していた。努力のみでのし上がってきたこんな一般人とは比べ物にならない、本物の才女でそれでいて努力も重ねた、眩しすぎる人。そんなイメージを勝手に持っていた。だがそれはすぐに打ち消された。彼女の胸の中にある、熱い思いに触れたからだ。ウマ娘への愛、情熱がひしひしと伝わってきた。それからは印象もすっかり変わり打ち解け合った。
仲良くなっ俺たちはそれ以降、2人で遊びに行く事が多くなった。案の定無趣味な桐生院さんの趣味探しや、それぞれの担当ウマ娘のため、といった名目で。
そして桐生院さんは遊びに行くのにいつもと変わらずピシッとスーツを決めてきたり、世間知らずで流行に疎いのに変なところで専門家レベルに詳しかったりと面白い面を一杯見せてくれた。彼女のそんな面1つ1つが可愛くって、愛おしくって、まるで青春をもう1度見ているようなそんな夢みたいな感覚がしていた。
いつしか俺は、暇時間に考える事がヘリオスよりも桐生院さんについての方が多なっていた。次はいつ誘おうか、どこに行こうか、どんなことをしようか。考えているとキリがなかった。
それが恋だと気づくのには、そう時間はかからなかった。
『~~♪』
物思いにふけっていると急に携帯から街でよく聞くポップなメロディが流れてきた。この着信音に設置しているのは1人しかいない。俺はすぐさま電話に出た。
『ぅえーい☆トレーナー!告る準備はできてる~?』
電話の相手は勿論ヘリオスだ。
「え?今そんな時間だっけ?」
そんなに思い出に浸っていたのだろうか、慌てて時計を確認すると桐生院さんとの約束の時間まであと5分しかない。俺のトレーナー室から三女神像まではどう頑張っても10分はかかってしまう。慌てて荷物をまとめ、トレーナー室を後にした。
「サンクスヘリオス。居過ごさなくてよかった」
ダッシュで校舎を駆け下りながらヘリオスとの通話に応じる。
『マ?トレーナーならやらかしそうだなって思って電話したウチ神ってる~。じゃあトレーナー、テンアゲしてくよ~準備はOK?』
「OK!」
『せ~の』
「『うぇ~い!』」
「やっぱりテンアゲはこれ一択っしょ~」
ヘリオスには今日俺がすることを伝えてある。というか相談に乗ってもらった。ヘリオスも案外乙女なのでこういって相談には結構ロマンティックな返答が返ってく来るので助かっていた。そして今日、桐生院さんへの告白のシチュエーションもヘリオスに最終確認をしてもらってもいる。
そうこう言っているうちにもう玄関にまで来ていた。
「よし、じゃあ電話切るな。お休みヘリオス」
『り。じゃトレーナー、ファイトね~。明日報告ワクワクしながら待ってるね~』
職員用玄関から校舎の外に出ると、外の空気が心まで張り付く、そんな感覚がした。
「さむ」
思わず、声が白い息と一緒に漏れ出る。既に時刻は11時過ぎ。俺の声は空気に溶けていき、誰の耳にも届くことはなかった。手がかじかみ、体が震えた。
一瞬、トレーナー室に帰ろうかと思うがすぐに足を止めた。
『じゃトレーナー、ファイトね~』
ヘリオスの言葉を思い出し、足を元の方向に戻した。
「(何を逃げようとしてんだか…)」
「よし!」
自分の右胸を殴り覚悟を決める。そして待ち合わせ場所である三女神像まで駆け出した。
少し走っていると像の傍で立っている、紺色の髪をした女性が見えてきた。時折、髪を耳に掛ける仕草をする彼女に、俺は声を掛けた。
「お~い、桐生院さ~ん」
追記 無事ヘリオス引けました。やっぱり書くと出るんすね。それと同時にヘリ×トレにしなくてよかったと過去の自分を褒めてあげたいです。やっぱヘリ×パマだわ