葵ちゃん怪文書   作:アテル

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2人の想い、重なりて

 ウマ娘眠る子の刻。1組の男女が三女神像の前で会話をしていた。

 

「もう、待ってたんですよ?」

 

 桐生院は両手に腰を当て、怒っている雰囲気を前面に押し出して男を叱る。

 一方、叱られた男は素直に謝罪をした。

 

「すいません桐生院さん。仕事が終わらなくて…」

 

 言い訳が見苦しいのではないか。言った後に男は後悔をした。幻滅されたのではないか、嫌われたのではないか。そんな思考がウマ娘の様に頭を走り抜ける。

だが、桐生院の反応は思っていたのと違った。

 

「なんて、冗談ですよ」

「え?」

「ちょっとだけ遅れちゃった貴方へのいたずらですよ。そんなに真に受けないでください」

 

 桐生院は少し子供っぽい表情で男を見つめる。その表情で、男の気も安らいだようで先程の固そうな表情が取れ、いつものような柔らかい表情へと変わった。

 

「そうですか。ですが、待たせてしまったのには変わりありません。お詫びと言ってはなんですが、また後日、どこか行きませんか?」

「あっ、いいですね。今度はどこに行きましょうか。カラオケ?でも貴方とはたくさん行ってますし新しい風が欲しいような…」

「そうですね…いっそのこと、どこか旅行なんて…」

「旅行!いいですね。子供の頃から家族みんな仕事で忙しくて旅行に行くことがあまり無かったんです!どこにしますか?北海道?沖縄?それかいっそのこと海外なんて~」

「桐生院さん落ち着いて…」

 

 目を輝かせ行きたい旅行先をポンポン挙げる桐生院を優しくなだめる。

 だがこの反応的に旅行に行くことが最適だろう。そう思うと同時に、男の中で行く先々ではしゃぐ桐生院の様子が思い浮かんだ。新しいものに対して興奮した様子でトレーニングメニューを考えたりするであろう彼女もまた可愛い。思わず頬が緩んだ。

 

「あっ…。すいません、つい…」

「大丈夫ですよ。あっ、ここなんてどうです?」

 

 行きやすそうな旅行先を素早くスマホで検索しその結果を見せる。

 すると、桐生院も食いつくように画面を覗いた。

 

「なるほど、温泉ですか。確かにここ最近の激務の慰労も兼ねて行くのも…」

そんなことを呟きながら画面をスワイプして周辺の観光地を探していく。

これはいいのでは、あそこはどうだと議論していくうちに少しずつお互いの距離が縮まっていき、やがて肩と肩が触れ合うような距離にまで近づいた。

「「あっ」」

 

 そしてついにその触れ合い、お互い顔を赤くして距離取る。

 

「すみません。はしたないですよね。あはは///」

「そんなことないですよ。むしろこちらこそ、すみません///」

「「…」」

 

 沈黙が、静寂が2人の間を満たす。先程まで埋めていた興奮や期待は風に飛ばされ、今は気まずさが支配していた。

 

「あの…桐生院さん」

 

 その静寂を壊さんと、男は踏み込んだ。

 

「俺は…イヤじゃなかったですよ///」

 

 言ってすぐに後悔する。これではまるでただの変人ではないか。女好きの気持ち悪い奴としまう。

 だが、結果は男の最悪の予測を裏切った。

 

「っ///じ、じゃあ・・・」

 

 そして桐生院はさっきよりも詰め、体が完全に密着するまでの距離に移動した。

 

「(って、何やってるのよ私!これじゃあまるでトレーナーさんとスキンシップ取りたいみたいじゃないですか///)」

 

 実際そうである。

 己が行いを恥じ、慌てて再び離れようと桐生院は動いた。

 

「!?」

 

 だがそれを察知した男は彼女の手を掴む。どこにも行かないで欲しいの一心は桐生院にも伝わり、結局2人はそのままくっついていた。

 

「「・・・」」

 

 聞こえてくる心音は自分のだろうか、相手のだろうか。それすら分からなくなるほど2人は密接していた。

 

「(違う!このままじゃダメなんだ!何のためにこの状況を作ったんだ!)」

 

 思いのほか甘酸っぱい状況になってしまい、それに甘んじようとしていたことを自覚し、ようやく行動に移す。

 

不安はある。もし拒否されてこの幸せが破壊されてしまったら。

 

恐怖もある。自分の心の内を曝け出すのがどれだけ怖いことか。

 

 だが、男は知っている。担当と共に歩んだこの3年間で培った経験が教えてくれたのだ。

 

「(人生、ノリと勢いで何とでもなるってね)」

「桐生院さん」

「ひゃい///」

 

 急に呼ばれた桐生院はまるで飛び跳ねるかのように驚き慌てて彼の方を向いた。

 2人は見つめ合い、見入るようにしていた。

 

 

 

「俺、桐生院さんのことが好きです!あなたのひたむきに努力するその姿が、どんな時でも担当を思いやるその優しさが、何事も真っすぐに見つめるその瞳が、初めてのことに楽しそうにしているその可愛さが、たまにする耳をかきあげるその仕草が、そして、純粋さに満ちたその愛らしい笑顔が、全て・・・全て好きなんです!だから・・・」

「俺と、付き合ってください!」

 

 

 

 それを聞いた桐生院はまず驚き、次に喜び、そして不安げな表情へとコロコロ変て、彼に質問を投げかけた。

 

「えと・・・その・・・すごく嬉しい///・・・んですが・・・私の実家はあなたもご存じの通り桐生院家です・・・。ですので・・・私と交際するということは・・・その・・・結婚///・・・するということになるんです。それは桐生院家の生活を生涯背負うことになるんですよ?それでも・・・私と、付き合いたいんですか?」

 

 本心を抑えてまで、桐生院は伝えねばならないと思った。こっちの都合を、いくら自分が好きであるとはいえ、自分のことを好きであると言ってくれたは言え、ただの同期である彼に背負わせていいのだろうか。

 否、そんな訳がない。

 その気持ちが桐生院の想いに蓋をしていた。

 

「百も承知ですよ。でも、桐生院と一生を共にできるなんて、最高じゃないですか。それにどんなに大変だろうと、あなたと一緒に歩める日々は俺にとって最高に幸せなんです」

 

 このプロポーズはそのつもりで言ったのか、そうでないのか。

 どちらにせよ桐生院にとってはこの上なく嬉しかった。

 

「それなら・・・」

 

 そう切って、桐生院は言葉を返す。

 

 

「私も、あなたのことが大好きです。・・・ですので、喜んでお受けします!」

 

 

 飛び切りの笑顔で告白の返事をする。

 それを聞いたトレーナーも感極まった様で、男らしくもなく泣き始めた。

 

「な、泣かないでください!その・・・」

 

 桐生院はあたふたした様子で必死に男をなだめる。

 だが一向に嬉し泣きが止みそうにないので、しばし手を止め、悩んだ後、桐生院は彼をそっと抱きしめた。

 体を引き寄せ、自分の体に押し当てる。

 彼より小さいはずの体は、彼を優しく包み込んだ。柔らかく、ほのかに甘い匂いが漂う。その匂いが体中を満たした時、ようやく落ち着いた様子で感謝を述べた。

 

「ありがとうございます。かっこ悪いですよね、嬉しさでこんなに泣きじゃくるなんて」

「そんなことないですよ。私をそんなに愛してくれているんだってよく伝わりましたから」

「・・・やっぱり、好きだなあ・・・」

「ふふ・・・私もですよ」

 

 それからしばらく2人は抱き合っていた。肌からじかに伝わる互いの体温が、存在感が心地よかった。それはまるで、いつまでも味わっていたい蜜の味だった。




はい、投稿遅れました
理由は単純明快夏休みだからです
このシリーズの下書きは授業中の暇時間に現実逃避がてらノートに小さく書き込んだモノを投稿しているので授業がないと単純に下書きが進みません。なのでこうして半分失踪状態になります

最後に一言、本当にすみませんでした
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