ガンダムビルドダイバーズ Stund by way 作:11時30分26秒ガンプラ兵器開発局
「最後の試合からもう5ヶ月ぐらい経つのか。」
νガンダムの立像を足元から見上げながら青年は懐かしそうに呟く。
GBNサービス開始から半月ほど、未だ人は多いがそれでもある程度落ち着きを取り戻したガンダムフロントに彼は出向いていた。
目的は、言うまでもあるまい。
「意外と早いな。」
それは自身のブランクに対してでもあったのかもしれないし、あるいは人混みの落ち着きに対してでもあったのかもしれない。
それだけ言い残すと彼はGBNの筐体へと歩き出した。────
「やっぱり多いなぁ。」
ロビーに立ち尽くす青年【ジュン】は、その賑わいに圧倒されていた。ガンダムベースやガンダムフロントに限らない一部地方、そして家庭用でも稼働開始した影響でログイン自体は減っていないようだ。
ふとロビー中央のモニターに目をやると、今まさにバトルを繰り広げるガンプラの姿があった。
赤く、大躯にマントをたなびかせるそれをジュンは見たことがある。
遠く、輝かしく、きっと手が届くことのないだろうそれは名に冠する太陽を体現しているようで美しかった。
Ξガンダムの残す鋭い閃光とその赤い機体【アポロンガンダムエンデ】の光と熱に揺らめく残像が交錯し、既に追いきれていないカメラ越しに景色が目まぐるしい速度で塗りつぶされている。
Ξガンダムの四肢から放たれた無誘導ロケットの弾幕を掻い潜り、その後ろから迫るファンネルミサイルをマントが阻み風のように薙ぎ払う。
「凄…」
かなり高難易度帯のミッションと思しきΞガンダムだが、その攻撃を怯むことなく全身全霊で楽しんでいる。
左腕に控える太刀に手を掛ける。正確無比なΞガンダムのビームライフルの一撃を、同じく一糸乱れぬ居合いで捌いたと思えば次の瞬間にはシールドに太刀筋を残していた。
反撃を許すことは無かった。シールドの亀裂に気を取られている間に太刀の刃先はコックピットを貫いていて、気付けば蒼く晴れ渡る空の中をΞが落ちているところだった。
「何だ今の…」
唖然とする。強い等という次元では無かった。もっと天才的で、魅力的で、形容しがたいものを見た。
「俺とは絶対的に違うな…同じ戦場だったはずだけど、もっと先にいる。」
当然か。そう腑に落ちるのが自認できないほど自然に理解できてしまった。
少し嫌で、感動的だった。憧れゆえに、自分が道さえ違え手放してしまったようなその強さが突き刺さる。
痛ましいほどの眩しい光だった。
「やれるかな、俺も。」
知っている、こうやって俺は同じ轍を踏むのだ。高みを見れば自分の丈を見誤ることを知りながら何度も魅入られて馬鹿正直に憧れていく。
踏み込んではいけない領域だと直感が訴えるような気がする。それは挑戦的で、冒涜的な意志だから。
それでも、やってみないと始まらない。俺はミッションを選び、準備に取り掛かる。
「出来る限りのチューニングはした、後は俺次第だ。よし…」
【ガンダムウヴァルリペアⅡ〈ジッパー〉】がカタパルト最奥にセットされる。右腕と左脚は義肢となり、頭部や胸部もダメージを応急処置した跡がある。
「ジュン、リペアⅡジッパー、行きます!」
軋む左脚で踏み出し大空へ放り出される。ジッパーにも得手ではないが一応の飛行スキルはある。
Ξガンダム撃破ミッションの指定エリアは大型の洋上ドック周辺。あの赤いガンダムと同じミッションだ。
「火器管制よし、大丈夫だ。」
ロングライフル、片刃式ブレード、ナイフに加え胴部バルカン、腕部固定式ツインビームサーベル、脚部110㍉砲と扱う武装の量はそれなりに多い。
だが慣れはある、これでもガンプラバトルの経験はかなりある方だ。
「来る!」
速い。一瞬で索敵圏内に現れて直ぐに上空を通り過ぎた。直後、ビームが襲いかかる。
「危な…!でもナノラミネートアーマーで…!」
押されてばかりではいられない。ロングライフルを構える。速度と距離による偏差を計算に入れてよく狙い、引き金を引くがひらりと躱される。
「当たらない、流石に厳しいか。」
距離を詰めるしかないと理解する。実弾の速度では余程化け物じみた偏差射撃でもないと当たりはしないだろう。
「勝ち筋は弾切れ狙いか。」
一方的に消耗させる必要がある。バルカンとビームライフルをある程度無視できるのは大きい。
問題はミサイルだ。見込み上はそれを削り切れば後は勝手に飛んできてくれるはず。
「視界に捉えるのがやっとだ、これはよくないな。」
火力以上にあのスピードは脅威だ。まず捉えるのが難しい上に体当たりすら大ダメージになりうる。
一瞬の加速。Ξがカメラを振り切った先からアラートが鳴る。
「ミサイル…!いや、この動きは…」
こちらに向けて軌道を変えるそれは間違いなくファンネルミサイルだ。まずいことにそれを捉えるためにΞガンダムを見失う。
「クソッ…とりあえずこいつらから捌くか。」
数は5つ、バルカンでの迎撃を考えたタイミングでファンネルミサイルが僅かに散開する。
細い弾幕が1つ落とす。だが軌道が散ったせいで他が当てづらい。
想定よりファンネルミサイルに気を取られてしまった隙に無誘導ロケット弾が飛んでくる。
「やばい!でも無誘導なら…、ッ!?」
着弾、散開していたファンネルミサイルがジッパーの周囲で火を吹く。やっと意図を理解した頃にはロケット弾が眼前に迫っていた。
数は第一波よりずっと多い。容赦なく襲いかかるそれを咄嗟に左腕で庇い、何発かまともに貰ってしまう。
「全部はキツい…!」
何とか後ろへ退くと、第二波のファンネルミサイルが散開しつつ迫っていた。今度は当てに来る、何となく分かった。
「やるしかないんだって!」
スラスター全開で上空へ翔ぶ。ファンネルミサイルの合間を縫い、通過したそれらを今度はロングライフルで1つずつ撃ち落とす。
「やった!!残りは」
当たり前のように視界から消えていたΞガンダムをもう一度見据える。周囲に無誘導ロケット弾を従えて、真っ直ぐ迫ってくる。
「同じ手は貰わないにしたって、どう捌く…!」
あの弾幕は当たらない、ただの牽制だ。それらを無視して脚部にセットした片刃式ブレードを取る。
Ξガンダムもビームライフルを投棄するとビームサーベルとシールドを構える。
Ξのシールドとブレードが一瞬ぶつかる。強い衝撃が走ると同時に、先程の攻撃が効いたのかジッパーの左腕が悲鳴を上げる。
そして背後から高速で迫る巨体とビームの刃を右肘のビームサーベルがギリギリで受け止めるが、それがまずかった。
右肘がへし折られる。
思い切り弾き飛ばされ倒れ込むジッパーにΞは容赦なく追撃を仕掛ける。
「来るな…!」
絶望的な状況で、最早全てが悪い方へ進むような気がした。自棄になりながら脚部110㍉砲を放つ。
それは頭部に直撃した。
速度の乗った状態だった事もあり右眼から周りを大きく抉り、低空で迫るΞの体制を崩す。
そのまま、その巨体は眼前の大空を覆い尽くし─────
───────盛大に事故を起こし、覆いかぶさるそれが、破れたハッチの向こう、目の前にいた。
余裕は無かった。胴部バルカンのトリガーを掴むように押し付けながら必死にブレードを掴むと、藁にも縋る思いでコックピット目掛けて突き刺した。
「勝っ……た…」
勝ったというか、何というか。少し可笑しかった。鮮やか勝利なんかではないし、一応目的を果たしたぐらいのニュアンスだと思っていいだろう。
昔話には切り株にぶつかって死んだ兎で腹を満たした男もいたらしいが、そんなところだろう。
だが、こんな勝利とも言い難いような勝利も、お似合いだと言われるとしたら。
少しワクワクした。俺にもお似合いな勝利があるとしたら、それはせめて自分の中でぐらいは誇ってみせることも出来る。
「良かった。俺、地面に落ちてる。」
空に投げ出されていない。飛べなくても、ちゃんと背中を預ける地面がある。
「飛ぼうとしたの、良かったのかも。」
無様なくらいしっかり落ちたけれど。それでも何となく踏みしめる地面も、そこに立つ脚もある。それがはっきり分かった気がして確かに安心した。
ふと、ちょうど上空を飛ぶSFSの影を見る。
(それぞれの場所か。)
本当に悠々と飛んでいて、空に受け容れられているようだった。
(いいな、そういうの。)
自然と嬉しい気持ちになる、それぞれに居場所があるようで。
(ところで)
やけに悠々と飛んでいるように見えたのは、ひょっとすると減速していたからで
「こっち来てる…?」
その影がやたらと存在感を示したのは、間違いなく接近しているからだったようだ。機動戦士ガンダムUCのベースジャバーだった。
『あの〜!そこの黒い機体の人〜!』
のんびりした声が、感傷にも近い余韻をそよ風のように攫っていった───────