よう実に転生した雑魚   作:トラウトサーモン

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 有栖ちゃんかわいいよね。
 今更?よう実のアニメを見たのですが、ビジュアルが私のドンピシャでした。

 書いた理由はそれだけです。


第1話

 桜舞う季節。

 行くつもりのなかった、決して行きたくのない場所へ向かうバスの中で、俺は頭を抱えていた。

 

 高度育成高等学校。つい噛みそうな名前のついたこの学校は、今日から俺が通う……否、生活することになった場所である。

 

「やっぱり辞めたい。俺は普通の高校に行きたい。今からでも入学拒否はできないか?」

「入学式の日から、そんなことを言うものではありませんよ」

 

 隣に座るのは、銀髪の美少女。

 坂柳有栖という名の彼女こそ、見た目とかけ離れた攻撃的な思想と天才的な頭脳を持つ、()()でもメイン中のメインキャラである。

 

 平凡で何の取り柄もない俺が、なぜここにいるのだろうか。

 どうして原作に関わることになってしまったのか。

 帰りたい。当分帰れないけど。

 半ば諦めにも似た感情を抱きながら、俺はバスの窓から桜吹雪を眺めた。

 

 

 俺こと、高城晴翔は転生者である。

 簡単にいうと、俺には前世の記憶がある。

 あると言っても大したものではなく、地元の底辺高校を卒業してなんとか会社員になり、それなりに仕事をしていた……程度のものである。なぜ死んだのかも覚えていない。

 とはいえ、一応人生二週目ということで、中学時代は周りの生徒に対して「やっぱり子供だなぁ」などと偉そうな感想を持ったものだ。

 

 あぁ、もちろん一人を除いてだが。

 

 俺は転生者だからと言ってチート的な能力があるわけではない。残念ながら、全体的なスペックは前世とほぼ変わらない。前世で社会人まで人生を進めたという経験的なものはあるが、これも今のところ大して役に立った記憶はない。紛うことなき凡人である。

 

 さて、「よう実」とは前世で人気のあったライトノベルである。俺もアニメを嗜んでいたから、ある程度のエピソードは覚えている。

 この世界がよう実の舞台であると知ったタイミングは、かなり早かった。何せ、有栖ちゃんとは家族ぐるみの関係。この辺りの説明は今は省くとして、とにかく小学校入学前には作品の世界にいると理解していた。

 

 その上で、俺は高度育成高等学校に入る気などまったく無かった。

 むしろ受験を回避する方向で動いていたはずだったのだが。

 

 俺は適当な中堅高校で、ダラダラ過ごしたかったのだ。俺の性格を一言で表すと「めんどくさがり」だ。痺れるような戦いなど望んでいないのである。

 また、前世では極貧のため学校生活はバイト漬け。大学も行けず、働き続けるしかなかった。今思うとあれも悪くはなかったが、今世ではそれなりに裕福な家庭に生まれた。だから、俺は普通の高校でしっかり勉強して大学へ進学し、普通に就職するつもりでいた。

 さらに言えば、原作には暴力的なキャラクターもいるし、チキンな俺は怖くてあまり関わりたくなかった。それに、高度育成の特殊すぎる高校生活は、俺のような普通の人間にはそぐわないと感じていた。

 正直、優秀な実力のある人間同士で勝手にやってくれという思いしか持っていなかった。

 

 いくらでもこの学校を拒否する理由が思いつくのだが、そんな俺の計画を崩壊させたのは、隣で微笑みを浮かべている有栖ちゃんである。

 今に至るまで、俺の新しい人生は彼女に振り回され続けている。

 

「晴翔くん、どうしたんですか?あなたの頭でそんなに考えこんだところで、大したインスピレーションは得られないと思いますが」

 

 こういう事を平然と言ってのける人間だ。

 なんだかんだ長い付き合いだから全く気にもしないが、未だに人間性は疑い続けている。

 

(やっぱ天才って、頭のネジが2、3本飛んでるんだろうな……)

 

 こんなことをいつも思っているが、これを口に出してしまうと拗ねるのだ。

 有栖ちゃんが拗ねると相当めんどくさい。ネチネチと小言を言われ続けるうえに、俺の発言は全て理詰めで否定される。

 既に実証済みなので、頭の中に留めておくのがベターである。だから……

 

「はいはい、どうせ俺は凡人ですよ。有栖ちゃんと違ってな」

「ふふっ、わかっているのなら問題ありません」

 

 こうやって煽てておけばいいのだが、その笑顔はやめてほしい。可愛いから。

 ムカつくことを言われても、この顔をされると大体許してしまう。どちらかというと、俺は知性的な部分よりもこっちに弱かった。可愛いというのはずるい。

 

 話しているうちに、校舎が見えてきた。

 

 そもそも、俺がなぜこの学校に合格できたのか未だにわからない。年始から有栖ちゃんの個別学習指導を強制的に受けさせられて、学力が底上げされていたのは事実だが……

 入試はさっぱりわからない問題もあったし、落ちただろうと思っていた。あのお父さんの工作だって、試験の点数にまでは及ばないだろうと聞いていたから、不合格を受けて有栖ちゃんにどう謝ろうか?と考えていたぐらいだ。

 ただ、あの人のことだ。結局いろいろと裏で動いたのかもしれないな。なんだかんだ娘にゾッコンだし。

 そこまで執着するほどの価値は俺にはありませんよ、と言ってやりたい。

 

「さて、『私が退屈しない場所』とは、どんなところなのでしょう」

「さぁな。その言葉通りなんじゃないか」

「知ってるかのような言い方をされるのですね」

「それは思い込みってやつだ。さて、もう着くぞ」

 

 話を切り上げて、バスを降りる準備をする。

 有栖ちゃんは段差でよくつまづくし、杖を引っかけて転ぶこともある。バスの乗降は扉付近など危険が多いので、手を引いてやらなければならない。

 足元をよく確認して立ち上がり、俺たちは手をつないだままバスを降りた。

 

「そこ、アスファルトが段になってる。杖つくの気をつけろよ」

「ありがとうございます。このまま、一緒に行きましょう」

「いいのか?」

「大丈夫ですよ。そもそも、周りに隠すような関係ではありません」

 

 それこそ、俺の思い込みでなければ、俺はそれなりに信頼されている。

 これがどう影響するか。有栖ちゃんにとって、本来俺はここにいなくても問題ない存在のはずだった。

 俺がいなければ原作通りに進むだけで、この役割は「神室真澄」さんあたりが引き継いでくれただろうし、何よりこの学校にはあの最強主人公様が来る。

 有栖ちゃんがホワイトルームの最高傑作と勝負をしたがっているのは、他でもない俺がよく知っている。

 

「晴翔くん。改めて、これからもよろしくお願いします。私についてきてください」

「今さら気にするなよ。何年やってると思ってるんだ」

 

 俺は答えを知りつつも、ずっと何も知らないふりをしていた。

 俺は世界の異物。そう認識できるのは、俺自身だけ。

 この学園に立ち入ってしまった以上、確実に物語の流れに影響を与えてしまうだろう。

 

「私は天才です。しかし、晴翔くんという支えがなければ、普通の生活すらままならない。私が実力を発揮するためには、あなたが必要なんです」

 

 元々、ここまで言わせるほどの関係ではなかった。

 有栖ちゃんが俺との縁を切ろうとした、あの冬のこと。

 あの行動は、何度考えてもきっと正解だったと思っている。原作という正しい世界に回帰させる、良い方向に向かって進んでいったはずだったのだが。

 

 でも、できなかった。決別の道を選べなかった。最終的に、俺を切り捨てるのは惜しいと判断したのだ。

 有栖ちゃんは自分の身体へのコンプレックスが強い。それを補う役割を担い続けてきた俺に対する負い目もあるだろう。

 俺の存在が必須であるという結論。これが正解とは今でも思えない。

 

「あの日のことも、きっとこの結論を得るための条件だったのでしょう」

 

 しかし、有栖ちゃんは自分の判断力に自信があるから、一度出した答えを疑わない。

 俺の助けがなければ、普通の生活を送ることができない。俺以外では、誰も助けとなることができない……と、思い込んでいる。

 この二つの錯覚こそ、俺がこの学校へ来ることになった理由である。

 

「まぁ、来た以上は最後まで付き合う。もう引き返せないからな。今まで通り、召使いになってやるから安心しろ」

「どちらが主人なんでしょうね?」

 

 意味深なことを言う有栖ちゃん。

 本来の「召使い」である神室さんのことは今のところ原作知識しかないが、100%俺よりは優秀だ。神室さんと同じ働きなど絶対に無理だ。そもそも、俺は本来Aクラスに配置されうる能力を持たないのだから。その枠を俺が取ってしまうなど、許されざることではないだろうか。

 

 校舎の前に来た。貼ってあるクラス割を見ると、Aクラスに俺の名前がある。

 わかっていたことだが、やはり違和感しかない。頭が痛くなる。

 

「本当に入学するんだなぁ」

「えぇ、何が起きるか楽しみです」

 

 これで有栖ちゃんとは12年間同じクラスなのが確定した。比喩的な意味でなく、本当に親の顔より見た存在になるだろう。

 

 クラスといえば……クラス間闘争。

 この学校に来た以上、これは避けて通れない。

 俺にとってAクラスでの卒業などチンケな特典があったところでどうでもいい。興味もない。高卒の資格が得られれば十分だし、退学を食らっても定時制などに編入すればいい。幸い、高度育成は世間的な評価が高く、よほどの進学校以外なら退学した学年のまま転校という形を取ることができるので、実力が至らなくとも大したダメージはない。

 

 だから、別に俺のことはどうでもいいんだ。どうとでもなる。

 問題は有栖ちゃん。彼女はどう思っているのだろうか?

 そこが一番大事なポイントである。

 

 個人的な予想だが、あまりやる気になるようには思えないのだ。有栖ちゃんの価値観は独特なので、わからない部分もあるが、長年付き合ってきた俺の直感だ。さすがに興味を持たないということはないだろうが……

 この時点で、原作通りにはいかなくなってしまう。

 しかし、完全に不参加とはいかないだろう。退学をかけた試験だってあるのだから。

 

 今後の方針を考えなければならない。 

 俺の唯一の武器は、転生者としての知識。細部は異なるだろうが、未来を予測できる。

 これを使うか否かが、一つの分かれ目。

 使えば当然、各種試験でアドバンテージを得られる。カンニングのようなものだ。

 使わなければ、無能の謗りは免れない。

 ここは「実力至上主義」。何の取り柄もない奴がトップ集団のAクラスでできることなどあるはずがないし、あってはならない。

 

 だからといって、なかなかその武器を使う気にはならない。

 チートツールのように原作知識を振り翳すのは、悪目立ちしすぎる。そんなことをすれば、我らが主人公の綾小路や、龍園など各クラスのリーダーに目をつけられかねない。そうなれば詰みだ。

 凡人が多少カンニングしてきたところで、学内に潜む猛者たちから総攻撃を受けたらどうしようもできない。

 例えば他クラスの戦略を予め知っていたとして、俺がそれを察知している事を相手が理解すれば、当然変えてくる。そこで応用的な対処ができる実力があるなら話は別だが、俺には無い。その瞬間、俺のアドバンテージは全て失われるだろう。

 つまり、原作知識とは使えば使うほど価値が下がる武器であるといえる。

 

 頭の中でメリットデメリットを整理するが、結局いい案は思いつかなかった。

 

 ……有栖ちゃんに相談できればなぁ。

 いっそ、適切なタイミングで全て言ってしまうのもアリだろうか。いや、論理的思考に長けた有栖ちゃんが、前世の記憶などというオカルト話を信用するわけがないか?

 

 じっと見ていたのがばれたのか、有栖ちゃんは不意にこちらを見つめ返してきた。

 

「何を考えているのかわかりませんが、悪いようにはしませんよ。あまり、私を見くびらないでください」

 

 どうやら、俺の心配を察していたらしい。

 これが、能力に裏打ちされた自信というやつか。

 

「あぁ、そうだよな。有栖ちゃんは天才だからな」

「その通りです。少なくとも、知能面においてあなたに遅れを取ることはありません。晴翔くんが何を心配しているのかは不明ですが、間違いなく杞憂でしょう」

「……はっはっは」

 

 ナチュラルに俺を見下している発言が出た。

 あまりの傲慢さに、笑いがこぼれてしまった。

 つい忘れていた。こいつはそういう奴だった。

 

 不思議と心は落ち着いていた。




 妄想と思いつきをぶちまける。これぞハーメルン?

 こんな駄文をここまで読んでくれてありがとうございます。
 一応7話ぐらいまでは書き進めてます。

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