よう実に転生した雑魚   作:トラウトサーモン

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第17話

 無人島試験、最終日。

 

 俺たちは、結果発表をレストランの中で待っていた。

 一応、モニターで様子が見られるらしい。

 アナウンスが聞こえ始めたので、俺は映像を凝視した。

 

『それでは結果を発表する。最下位、Aクラス及びCクラス。0ポイント』

 

 でしょうね。

 

『2位、Dクラス。225ポイント』

 

 かなりの高得点。どうやら、綾小路はリーダー当てに成功したようだ。

 さらに、原作通り堀北がリタイアしたことにより、当てられるのも回避したと見ていい。

 ……ということは、つまり。

 

『1位、Bクラス。240ポイント』

 

 この瞬間、Aクラスの陥落が確定した。

 葛城の表情からは絶望感というより、諦めのようなものが見えた。

 それを取り巻く生徒たちの表情は、地獄のように暗い。

 

 翻って、Bクラスの生徒たちの表情は明るい。

 帆波さんだけが少し複雑な顔をしているのは気になるが、雰囲気の差は歴然としている。

 

「全て、あなたの思惑通りですね」

 

 ニコリと笑う有栖ちゃん。世界一可愛い。

 葛城には悪いが、俺は有栖ちゃんのこの笑顔が見れただけで満足である。

 有栖ちゃんより優先されるものなど、どこにも存在しないのだ。

 

 

 

 そのまま客室に戻り、俺はルーズリーフを取り出した。

 無人島試験の結果を有栖ちゃんと共有しようと思ったからだ。

 

 自分がやったことを含め、島でのイベントを書き起こしていく。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

1,クラスポイント

 Aクラス 0cl → 954cl

 Bクラス +240cl → 1155cl

 Cクラス 0cl → 600cl

 Dクラス +225cl → 312cl

 

2,結ばれた契約、約束事など

・Aクラス→龍園

 全員(有栖ちゃん以外)が卒業まで毎月2万pr払う。下の契約により高城も支払い回避。

・龍園⇆高城

 Aクラスのリーダーを教える。龍園がリーダー当てに成功した場合は、高城に100万prを払う。失敗した場合は無効。当てたことにより契約は成立したが、BクラスとDクラスに当てられたので結局Cクラスは0ポイントとなった。全額を引き渡すのではなく、龍園が上の契約で得たprの権利(2万×卒業までの31ヶ月)を放棄して、差し引き38万prが送られることとなっている。

・一之瀬←高城

 Aクラスのリーダーを無償で教える。条件はこの話を綾小路以外には秘匿すること。

・綾小路⇆高城

 Aクラスのリーダーを無償で教える。その代わりに綾小路はCのリーダーを調査し、分かった時点で一之瀬に売る。ついでに友人として、茶柱の件で悩む綾小路に一つの助言をした。

・綾小路⇆一之瀬

 約束通りCクラスのリーダー情報を売った。どういう条件を出したのかは不明。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「こんなもんか」

 

 記憶が新しいこともあり、すらすらと書くことができた。

 これで、起きたイベントは概ね網羅できているはずだ。

 

 そのまま有栖ちゃんに渡すと、頷きながら目を通してくれた。

 

「龍園くんとの契約に、リーダーを当てられなかった場合の取り決めを盛り込んだのですね」

「そうだな。俺は葛城との契約の穴に気づいてるということを、龍園にアピールしたかったから」

 

 やはりそこに目が行くか。相変わらず鋭いなぁ。

 契約の穴に気づいていたのに、その場で明かさなかったという事実。これは、本当にAクラスの利益を求めていないという証拠にもなる。

 この契約を持ちかけた時、龍園はかなり驚いていた。俺がここまで露骨な裏切りをするとは思っていなかったのか、他に予想外なことがあったのかはわからない。しかし、あの龍園をびっくりさせられたというだけで、俺にはちょっとした満足感があった。

 

 ……たった三日間とはいえ、結構動いたなぁ。

 そう思うと、なんだかんだ俺も無人島を楽しんでいたのかもしれない。

 

「わかりました。綾小路くんとは、どういったお話をしたのですか?」

「あぁ、それは……」

 

 有栖ちゃんの二つ目の質問は、綾小路との一件だった。

 

 前提として、綾小路は担任の茶柱先生から脅迫されている。

 退学させることを仄めかし、強制的にAクラスを目指させようとしている……はず。父親がうんたらかんたらというのは全部嘘だったような気もするが。

 そのあたりの話を俺に打ち明かした後、アイツはこんなことを聞いてきた。

 

 『高城。お前がオレの立場なら、どうする?』

 

 俺はその場で、いくつか思いついたことを述べた。いずれも、俺なんかでは絶対に無理だが綾小路ならできそうなことだ。

 綾小路は俺の話を聞いた後に、感心したような態度を示した。

 最終的にどうしたのかはわからないが、今回の結果を見ると約束は守ってくれたようだ。

 

「……なるほど。今後の綾小路くんとの付き合い方を考える上で、非常に重要なファクターとなりそうですね」

「結局、あいつがAクラスを目指すのかはわからん。それでも、俺たちと敵対することはないはずだ。確証があるわけじゃないけど、なんとなくそう思う」

 

 理由は知らないが、綾小路は俺のことを高く買ってくれている。

 夜の闇の中、別れる直前に残した言葉が頭に浮かぶ。

 

 『もしお前がオレと同じ教育を受けていたら、今ごろオレを超えていたかもな』

 

 本当に惜しい、と言っていたのが忘れられない。

 さすがに買い被りすぎだろと思いつつも、俺を認めてくれたようで嬉しかった。

 人間離れした一面も持つが、やっぱり綾小路は俺の友達だ。

 アイツにとって納得のいく「勝利」を、ぜひとも掴んでほしいものだ。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 見事Aクラスとなった帆波さん。

 有栖ちゃんがお祝いの言葉をかけたいということで、俺たちは彼女の姿を探していた。

 

 客室エリアの外へ出ると、ちょうどDクラスの生徒が乗り込んできたところだった。

 桔梗ちゃんが俺たちの姿を見つけて、こちらに走り寄ってきた。

 

「有栖ちゃん!会いたかった……」

 

 彼女は多くの生徒がいる中で、思いっきり有栖ちゃんに抱きついた。

 もはや、周囲の目などどうでもいいといった感じだ。

 

「お疲れ様です」

「私、一週間頑張ったよ?」

「はい。桔梗さんはよく頑張りました」

 

 ……仮面をつけている余裕もないのだろうか、縋るような目つきで有栖ちゃんを見ている。

 Dクラスの生徒たちは、みんな驚きを隠せないといった様子。

 

「ごめん、晴翔くん。今だけは有栖ちゃんを……」

「わかってるから大丈夫。俺も、桔梗ちゃんはよくやったと思うし」

「ありがとう。あなたのそういうところ、私本当に好きだから」

 

 有栖ちゃん成分が不足しすぎて、禁断症状が出ているのだろう。

 俺だって、有栖ちゃんと一週間も会えなかったらそうなるかもしれない。

 少し距離を取って、俺は二人の様子を眺めていた。

 

「えっ、桔梗ちゃんって、そういうことだったの?」

「俺に聞かれてもな」

 

 突然、誰か知らない奴が俺に声をかけてきた。

 誰だっけこいつ。池とか言ったか。

 

「しかし、お前はあの可愛い彼女といっつも一緒にいるよな。それだけでも罪深いのに、なんで俺らの桔梗ちゃんにまで気に入られてるんだ。好きとか言われやがって、一人にしとけよ……」

 

 お前の桔梗ちゃんではないし、間違ってもお前以下の評価にはならない自信があるぞ。

 

「有栖ちゃん。後で、お部屋に行ってもいい?」

「もちろんです」

「嬉しい、ありがとう。大好き!」

 

 満面の笑みを浮かべて、桔梗ちゃんは喜ぶ。

 優しい表情で、有栖ちゃんはその頭を撫でている。

 ……まぁ、確かに何も知らない人が見たら勘違いするか。

 

「では晴翔くん、そろそろ行きましょうか。桔梗さんも、また後ほどいらしてください」

「うん、また後でね!」

 

 俺たちはその場を立ち去り、再び帆波さんを探し始めた。

 

 

 

 船内を歩き回っていると、偶然にも会いたくない奴らと遭遇してしまった。

 元Aクラスの葛城派。意地になって無人島に残っていた、約十名の生徒たちだ。

 リタイア組と何か口論をしているのが聞こえる。

 

「お前たちがどうしようもないから、Bクラスに落ちたんだ!」

「あんな無謀な契約を結ぶ方が悪いでしょう?葛城くんにはついていけない!」

 

 あぁ、めんどくさい。

 戸塚弥彦。数少なくなった葛城派の先鋭だ。

 さっきから、敗北の原因を他者のせいにしようとしているようにしか見えない。

 自分や葛城の責任とされるのが怖いのだろう。

 

「お前ら二人も、全然やる気なかったもんな」

「……だからなんだよ」

 

 俺は黙って通り過ぎようとしたが、突っかかってきた。

 

「恥ずかしくないのか?Aクラスに入っておいて、こんな屈辱」

「別に。どうでもいいが」

 

 これは完全に本心だ。

 ここまで言い切られるのは想定外だったようで、戸塚は黙った。

 そして、俺に言っても無駄と悟ったのか、その矛先を有栖ちゃんに向けた。

 

「大体、270ポイントからのスタートで勝てるわけがない。初っ端からリタイアするような軟弱者が、なんでAクラスなんだろうな?」

 

 ……そのやかましい口を塞げ、と言いそうになった。

 しかし、争いを起こさぬようあえて黙っていた。

 

 有栖ちゃんも何も言わず、無表情で様子を見ている。

 それを戸塚は図星だからだと誤認したのか、さらに言葉を続けた。

 

「坂柳みたいなやつは、高城も含めてDクラスぐらいがお似合いなんだよ。身体が不自由?それも実力のうち。お前らは、このクラスに不必要だ」

 

 それ以上の侮辱は……

 

「お前のせいで負けたんだ、この〇〇〇……」

 

 その瞬間、俺の中の何かが切れた。

 ぶっ殺してやる。

 

 身体が熱くなる。頭は意外にも冷え切っている。

 その言葉を聞いてから戸塚の胸ぐらを掴むまで、一秒もかからなかった。

 こいつは消さなければならない。

 

 そのまま右手に力を入れて、横っ面を……

 

 

 

「そこまで!」

 

 大きな、女の子の声。

 瞬間、我に返った俺は後ろを振り返る。

 

「黙っていようかと思ったけど、見てられない。よくも、そんな酷いことを……」

 

 新たなるAクラスの王。

 一之瀬帆波が、そこにいた。

 

「あなたたちが有栖ちゃんをいらないと言うのなら、私のクラスが引き受ける。私たちはさっきのような発言を許さないし、有栖ちゃんのことを大事にできる自信がある」

 

 高らかに、まっすぐ戸塚の方を向いて宣言した。

 俺が振るおうとしていた暴力より、何倍も説得力があるように感じる。

 

 素直にかっこいいと思った。

 俺には、今の帆波さんは誰よりも強く見えた。

 

「そんなこと、できるわけ」

「これを見ても、まだそう言える?」

 

 帆波さんが見せたのは、自分の端末だ。場の全員から驚きの声が上がる。

 8,142,580prとは、帆波さんの持つプライベートポイントに他ならない。まだ入学から半年も経っていないうちに、これだけのポイントを所持しているという、信じられない現実。

 

 途轍もない人物であると理解したのか、誰も口を開かなくなった。

 短い沈黙の後、帆波さんは言葉を続けた。

 

「戸塚くん。私は、あなたのことが本気で嫌いになった。私の大切な人にああいう言葉をかけたこと、絶対に後悔させるから」

 

 帆波さんはそう言い残し、客室の方へ帰っていった。

 居心地が悪くなったのか、戸塚も苦虫を噛み潰したような顔をして去っていく。

 俺は有栖ちゃんとアイコンタクトを取り、帆波さんの後を追うことにした。

 

 帆波さんに嫌われること。お前はすぐにでも、その意味を知るはずだ。

 俺に殴られていた方がマシだった。きっと、そう思うことになるだろう。

 

「あれが、一之瀬帆波か。道理で……勝てないわけだ」

 

 葛城の嘆きが、小さく船内に響いた。




 この男の本質を一番正確に理解しているのは、有栖ちゃんではなかったりします。

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