後半を書き終わってから、過去の話との矛盾に気がついてしまったのです……悲しみ。
そちらも修正次第投稿します。二日ぐらい、かかってしまうかもしれません。
翌日、俺は客船のデッキで有栖ちゃんと過ごしていた。
周りはカップルばかりなので、俺たちも目立たない。
「海がきれいですね」
「そうだなぁ」
穏やかな海。こうやって二人で見るだけでも、幸せを感じられるというものだ。
ふと向こうを見ると、綾小路の姿が見えた。
「おーい、綾小路……」
その隣には、軽井沢がいた。
何やら二人きりで話し込んでいたようだ。
これは邪魔してしまったかと思いつつ、俺たちは二人の元へと向かった。
「二人とも、来てたのか」
綾小路は俺たちの姿を見つけると、歩み寄ってきてくれた。
それを見て、横にいる軽井沢はなんだか不服そうな顔をしている。
軽井沢恵という人間について、少し振り返っておく。
彼女は、Dクラスの女子カースト上位に位置する存在だ。
自分勝手で高圧的な言動が目につく、嫌われやすいタイプの人間である。
しかし、それは軽井沢なりの防御策であった。
彼女は中学時代、えげつないいじめに遭っていたのだ。
暴力は当然として、思いつく限りの嫌がらせ、屈辱的な行為の強要など、かなり酷いものを受けていたと記憶している。
この学校に入学してから、彼女はいじめる側の言動を真似ることにした。自分は強い存在であると周囲に思い込ませ、いじめの対象となることを未然に防ごうとしたのだ。
さらに、立場の強い男……平田洋介と恋愛関係にあるように振る舞うことで、自分が上位の存在であるとアピールしていた。
そんな感じだったかな?
一通り整理した後、俺は目線を戻す。
軽井沢は、俺たちを値踏みするような目で見ている。
「……何?あたしは清隆と話してたんだけど」
まるで俺たちには興味がないといった感じの態度。
こいつ、綾小路のことを名前で呼んでるな?
大方、告白が成立して舞い上がっているといったところだろう。
自分ではなく俺たちの方を優先したから、腹が立ったのだと思われる。
こういう性格だとは知っていたが、せめて表向きは取り繕ってくれ。ぶりっ子でもいいから。
そう思いつつ、俺は有栖ちゃんの言葉を待つ。
「ふふっ、これは失礼しました。お二人はお付き合いされているのですか?」
「いきなり何よ、何でそんなこと答えないといけないわけ?」
うぜぇ、まあまあうぜぇ。お前は堀北か?
有栖ちゃんに対してもそれか。この時点で、俺の中では嫌いな奴になる。
その対応が綾小路の評判を落とすことにもつながると、理解してるのだろうか?
この女調子に乗ってるな。俺は、その程度にしか思わなかった。
だから、綾小路と本当はどういう関係であるのか考えもしなかったのだ。
綾小路は、無表情のまま軽井沢の身体を触った。
カップルであれば、さほど不自然な行動でもないように見える。
しかし、俺は……
軽井沢の
たちまち顔からは表情が消え、恐怖で身体を震わせている。
『もう一度同じ目に遭いたいか?』
綾小路の目は、そう言っているように見えた。
あぁ、お前はそこまで……
「ご、ごめんなさい」
「どうなさいましたか?」
有栖ちゃんは面白かったのか、笑いを堪えるのに精いっぱいといった様子だ。
ぞわぞわっと寒気が襲う。この二人は本当に恐ろしい。
どちらも絶対に敵に回してはならない相手だと、再確認した。
「……本当に、ごめんなさい。あたしは軽井沢恵です」
「はい、私は坂柳有栖です。今後とも、よろしくお願いしますね?」
謝っているのは、有栖ちゃんに対してではないだろう。
あまりにも空気が重いので、俺が話を振ってみることにする。
「そうだ、綾小路。俺たちも結構付き合いが長いのに、いまだに苗字で呼び合っていたな。お前さえよければ、ここらで名前呼びに変えてみないか?」
「いいのか?」
「もちろん。俺たちは友達だろう、清隆?」
「あぁ、わかった。晴翔」
嬉しそうな清隆は、意外と可愛げがある。
さっきのアレと同一人物とはとても思えない。
「それでは、私も清隆くんと呼ばせていただきますね?」
「ありがとう、有栖」
これで、さらに距離が縮まったような気がする。
有栖ちゃんは、再度軽井沢の方を見つめた。
じっくりと、その闇を暴くように。
たった数秒だが、有栖ちゃんが読みを入れるには十分な時間だ。
軽井沢は怯えたような態度で、清隆の後ろに隠れてしまった。
こちらも逆らってはいけない存在だと理解したようだ。
……完全に、いじめられっ子のメンタルに戻っている。
ちょっと可哀そうに思えてきた。
有栖ちゃんがプラスの支配とすれば、清隆のこれはマイナスの支配だ。
煽てたりするのではなく、恐怖で屈服させるようなやり方。
おそらく、軽井沢にはこちらの方が有効だと判断したのだろう。
清隆が、不意に頭を撫でた。
軽井沢も嬉しかったようで、驚きつつもはにかむように笑った。
そういう顔は可愛い。
……軽井沢はもう、何をされても離れられないのかもしれない。
平田も切っちゃったみたいだし、後がないからな。
二人の関係について、俺は少し考察した。
この試験より前の段階で、清隆は何らかの手段を用いて軽井沢の心を折ったものと思われる。
そして、最後の拠り所を自分へと仕向けるため、甘い飴を与えた。
無人島試験のMVPに仕立て上げたのは、あまりにもわかりやすい。
周囲からの称賛という快感を与えることで、ボロボロにした自尊心を取り戻させつつ、自分には清隆しかいないと思わせた。
それだけではない。清隆が本気を出せば、他クラスにも勝利できるという強さも見せつける形になった。
軽井沢の性格からして、ここまでくれば裏切りはない。
あとは、綾小路清隆という人間にどこまでもハマっていくだけだ。
……彼女になれたということで、天狗になっていたのが今の状態だったのかもしれない。
増長されると困るから、ここでムチを振るったというわけだ。
考えれば考えるほど、有栖ちゃんとはまた違った狡猾さを感じる。
清隆よ、やっぱりお前は天才だ。
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『さっきは悪かったな。まだ教育ができていないんだ』
二人と別れた後、そんなメッセージが俺たちの携帯に届いていた。
なかなか怖い内容だが、あまりにも清隆らしいものだったので俺は笑ってしまった。
「清隆くんは、軽井沢さんを持ち駒にしたようですね」
「あぁ。確実にぶっ壊されたな、あれは」
有栖ちゃんとそんな話をしながら、昼食のためレストランへ向かう。
いつの間にか、軽井沢に対する嫌悪はなくなっていた。
どちらかというと、憐憫?
話をするうちに、俺は一つの疑問を持った。
清隆は、原作通りこの船で軽井沢を追い詰めるのだろうか?
おそらく、あのイベントに相当することは清隆自身の手でやってしまっている。既に巨大な精神的ダメージを与えている上、過去も全て把握している。さらに追い討ちをかける必要があるのか。
しかし、なんとなく清隆は「やる」気がしている。
目的は少し異なるかもしれないが、そんな予感がする。
まぁ、気づいたところで止めるつもりもないが。
『軽井沢さんという方は、なかなか面白いですね。狙う価値はあるかもしれません』
坂柳との議論の末、オレは行動を起こすことにした。
早急に、自分の思い通り動く道具を手に入れなければならない。
坂柳からメールを貰った三日後、オレは軽井沢を特別棟に呼び出した。