よう実に転生した雑魚   作:トラウトサーモン

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第21話

 レストランは各クラスの生徒で混雑していた。

 どこか空いている席はないか、俺は店内を確認する。

 そこで、帆波さんをはじめとする新Aクラスの集団を見つけた。

 

「あっ、有栖ちゃん!こっちこっち!」

 

 帆波さんに近くの席へ誘導され、ちょうど空いていた二席を使うことにした。

 メニューを開くと、すぐ女子軍団が俺たちの周りを取り囲んだ。

 相変わらず、ここの女子たちのパワーはすごい。

 

「有栖ちゃん、昨日のこと聞いたよ?酷すぎるよね」

「前から戸塚って変なやつだと思ってたけど、間違ってなかったかも」

「早くうちにおいでよ~」

 

 ええい、やかましい!

 ……とにかく、有栖ちゃんはこのクラスの生徒に慕われている。

 入学してから四か月。自分たちのクラスを除けば、最も多く行ったのは間違いなく帆波さんのクラスだ。特に最近は雰囲気が悪かったので、俺たちは毎日のように彼女たちの教室を訪ねていた。

 有栖ちゃんは見た目も良く、こちらでは穏やかな態度で振る舞っているため、男女問わず人気が高い。男はちょっと困るが。

 

 なんだかんだ、俺もこの女子軍団には好感を持っている。

 有栖ちゃんを尊重してくれる人たちを、俺が嫌いになることはあり得ない。

 例えば、もし俺たちがこのクラスのメンバーだったとして、俺が有栖ちゃんのために試験をリタイアしたいと言ったとする。その時は間違いなく背中を押してくれるだろう。

 そこがあいつらとは違うのだ。

 

「晴翔くんのことも聞いたよ!かっこいいね!」

「そうだよね、二人は一つだもん。許せないよね」

「戸塚死すべし」

 

 俺を持ち上げる声が聞こえてきて、少々くすぐったい気持ちになる。

 何より、昨日のような出来事があった場合、彼女たちは確実に味方になってくれる。

 ……それは大変ありがたいことなのだが、そろそろ料理を選ばせてくれ。

 

「皆さんありがとうございます。今日は、帆波さんに伝えたいことがあるのです」

「えっ、何かな?」

 

 有栖ちゃんは、突然改まった雰囲気で話を切り出した。

 可愛く首をひねる帆波さん。

 

「Aクラス昇格おめでとうございます。帆波さん、よく頑張りましたね」

 

 贈られたのは、シンプルなお祝いの言葉。

 帆波さんは口を抑えて、驚きを示した。

 そうだった。元はと言えば、このために探してたんだった。

 

「ありがとう、有栖ちゃん!」

「ふふっ、本当は昨日言うつもりだったのですが、言いそびれてしまいました」

 

 満面の笑み。

 その美しさに、俺も含めた全員が魅了された。

 ついつい、見とれてぼーっとしてしまう。

 皆がこの人のために頑張りたいと思う気持ちも、少し理解できた。

 

 周囲から拍手が沸き起こった。

 立ち上がって涙ぐんでいる者もいる。

 俺も……ん?

 

 あっ、さすがにそれは違うわ。マジで宗教かよ……

 危ない危ない。帆波さん教に染められるところだった。

 

 

 

 さほど腹は減っていないので、俺は軽めのパスタを注文した。

 料理が届くまでの間、周りを観察してみる。

 

 窓際の席に、堀北が一人で座っているのを見つけた。

 相変わらず孤高を貫いてるんだな。いつまでそうしているんだろう?

 清隆ともうまくいっていないようで、最近は一緒にいる所もほとんど見かけない。 

 こういう姿を見ると助け船を出したくなるが、本人がそれを望まないことは知っている。

 変につついて、逆鱗に触れると面倒だ。誰だって罵倒されるのは好まない。

 一瞬目が合ったような気もするが、俺は特に意識することもなく視線を戻した。

 

「そういえば、さっき綾小路くんたちと話してたよね?」

 

 帆波さんが、思い出したように言った。

 どうやら、さっきのやり取りは見られていたらしい。

 

「話してた。まぁ、軽井沢にとっては邪魔だったかもしれないが」

「そっか。私も声をかけようか悩んだんだけど、みんな真剣な顔して話してたから、かけづらかったんだよね……軽井沢さんと綾小路くん、あんなに距離が近いんだ」

 

 そりゃあ一応付き合ってるからな。

 でも、それを言い触らすのは清隆が望んでないと思うので、伏せておく。

 あれ?

 

「帆波さんって、軽井沢と面識あったっけ?」

「うん。勘違いされやすいけど、根はいい子だよ〜」

「……どうしてそう思ったか、聞いてもいい?」

「あっ、そっか。二人はあの件に関係なかったもんね」

 

 そう言って、帆波さんは俺に軽井沢のことを教えてくれた。

 

 初めて知り合ったのは、先月初頭のことだった。

 Dクラスの須藤と、Cクラスの生徒の間でいざこざがあった事件。

 その調査を行っていたのが、清隆と軽井沢だったという。

 

「他の人にはあんな感じなのに、綾小路くんの言うことには黙って従っていたから、二人はどういう関係なんだろうって気になってたの」

 

 二人はDクラスの生徒全員に聞き取り調査を行い、どうにか佐倉が現場を目撃しているということを突き止めた。軽井沢のことを良く思っていない生徒が多数を占めていたこともあり、結構大変だったらしい。

 苦労の末、最終的にはCクラス側から訴えを取り下げさせることに成功した。

 

「すっごく暗い顔になる瞬間があって、大丈夫かな?って思ってたんだけど……でも、須藤くんのためにあそこまで頑張れたんだし、絶対に悪い子じゃないよ」

 

 清隆と「何か」があってから、間もない時期だったのだと思われる。

 優しい帆波さんには悪いが、それは軽井沢を買い被りすぎだ。絶対に、須藤のためと思って動いてはいないと思う。クラスメイトからポイントをたかるような奴だぞ?

 素直に従ったのは、弱みを握られている以上仕方ないと思ったのだろうか。

 それとも……その時点で既に清隆の手中に収められていたか。

 

 どちらにしろ、清隆がかなり前から軽井沢に目をつけていたことが分かった。

 有栖ちゃんとの時間を優先したことに後悔はないが、須藤の件は俺があまりにも無関心すぎたのかもしれない。そういう違いが発生していたことすら、今まで気づかなかった。

 

「ありがとう。全然知らなかった」

「……二人はこれから、どういう関係になっていくのかな?」

「さぁ、どうだろう?」

 

 今日、正式な恋人関係になったであろう二人。

 しかし、これは俺の男としての勘だが、多分あいつらはとっくに()()()()()()()()

 そういうのは、意外とわかりやすいものだ。軽井沢の清隆に対する距離の取り方、邪魔した俺たちに対する敵愾心、独占欲……とてもプラトニックな関係であるとは思えない。

 清隆のことだから、それすらも戦略の一部なんだろうけど。

 

「ところで、帆波さん。もう一つお話があるのですが」

 

 有栖ちゃんは続けて、話を持ちかけた。

 帆波さんも何かを察したのか、真剣な表情に切り替わる。

 

「……わかった。後でお部屋に行くね」

 

 パスタはわりと重かった。次はサンドイッチとかにしよう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 昨日に引き続き、帆波さんが俺たちの客室へとやってきた。

 腹を満たした後の気だるい時間だが、有栖ちゃんの話は眠気をぶっ飛ばすものであった。

 

「帆波さんには、Bクラスを支配していただきたいのです」

 

 葛城と龍園が結んだ、ポイント譲渡契約。

 これを肩代わりする引き換えに、今後Bクラスの生徒は帆波さんの指示に従う。

 こういう契約を結ぶことを勧めたのだ。

 

 直感的に、ほとんどの奴は従うだろうと思った。

 Bクラスというのもまだ違和感があるが、このクラスはもう崩壊している。

 それこそ昨日揉めた戸塚と、葛城派に残っている頑固な連中以外は2万に釣られるだろう。

 さらに、有栖ちゃんはこの契約を署名型にすることを推奨した。

 書面に名前が記載されている生徒には毎月2万ポイントを支給する。帆波さんの指示に従わなかった者は、名前を消される。こういった契約書を、有栖ちゃんがいつの間にか作り上げていた。

 

 恐ろしいのは、こんな契約が履行可能であると、帆波さんは既に示しているということ。

 800万以上のポイントが表示されている画面。あれ以上に信頼できるものはない。

 

 ……今日は二人の天才に驚かされるばかりの一日だ。

 こうして正常な環境に戻ると、自分が凡人だと再認識できる。

 

「きっと、みんな喜ぶよね?」

「戸塚くん以外は、最終的に全員契約すると思っています」

「……これって、ある意味プライベートポイントでクラスポイントを買うような契約だよね」

 

 これは鋭い。やるな帆波さん。

 立場が人を作るというが、ここ最近の成長は著しい。

 

「おっしゃる通りです。さすが帆波さんですね。クラスポイントで大差をつけた後は、全ての契約を破棄してしまうのも一興かもしれません。きっと面白いものが見られますよ」

「にゃ、そこまで酷いことはできないよ!」

「ふふっ、そうですよね。帆波さんはそういう方です」

 

 こうなると、あとはタイミングの問題か。

 そして、もう一つ。この船で行われる、あと一つの試験の結果も大事だ。

 ここでさらに大きな差をつけることで、Bクラスの生徒の絶望がより一層深まる。

 

 ……さっきからずっと、考えていることがある。

 Aクラスの帆波さんとDクラスの桔梗ちゃんが完全な味方になっている状態で、有栖ちゃんがあの試験の法則を導き出せないなんてことはあり得るのだろうか?

 

 いや、あり得ない。これはとんでもないことになるぞ。

 試験自体が、有栖ちゃんのおもちゃになってしまう。

 

(一年生のみんな、すまない)

 

 俺は心の中で、阿鼻叫喚となるであろう生徒たちに向けて謝った。




 堀北のいるはずだった場所には彼女がおさまっています。
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