よう実に転生した雑魚   作:トラウトサーモン

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 この男の本質を、一番正確に理解している人間とは?


第34話

 夏休みの真っただ中、俺と有栖ちゃんはとある人物に話しかけられていた。

 

「このクソ暑い中、なんすか?」

「俺にそんな当たり方をする奴は、お前ぐらいだろうな。相変わらず面白い男だ」

 

 気味の悪い笑みを浮かべるこの男の名は、南雲雅という。

 こうやって会うのは、今日が初めてのことではない。

 

 それは、一学期が終わる直前のことだ。

 南雲は突然、俺たちとコンタクトを取ってきた。

 

 『おい、高城晴翔と言ったな。俺に潰されたくなければ、黙ってついてこい』

 

 無理やり連れて行かれた先は、二年の教室だった。王様気分の南雲と、それを受け入れる周囲になんとも言えない気持ち悪さを感じたのを覚えている。

 特に女。その扱い方で、この男がろくでもない人間であると一瞬で理解できた。

 

 南雲はその場で、俺と有栖ちゃんが一学期に取った行動を次々と言い当ててみせた。

 知らないうちに、複数の生徒を使って俺たちを監視していたようだ。気持ち悪い。

 ……なぜかはわからないが、結構前から俺に興味を持っていたらしい。

 

「改めて言おう。高城、生徒会に来い。お前のような人間を、俺は迎え入れたいと考えている」

「だから、つまんなそうだから嫌だって何度も言ってるじゃないっすか。南雲さんだって、やる気ない奴は嫌でしょう?」

 

 それ以降、顔を合わせる度に生徒会へ勧誘してくるのだ。

 俺はつまらないことと面倒なことが大嫌いなので、その両方を満たすであろう生徒会などという組織には一ミリも興味がない。どうぞ勝手にやってくれって感じだ。

 

 

 

 さすがに、暑い中で立ち話はしたくない。

 パレットという喫茶店で、俺たちは話を続けることになった。超帰りたい。

 

「坂柳もセットでいいと言っているのに、なぜ断るんだ?」

「ダルいから、ですね……」

「……」

「じゃあ、逆に質問いいっすか。おそらく次の選挙で生徒会長になるであろう南雲さんは、この学校をどう変化させたいと思いますか?」

 

 逆質問が来るのは予想できなかったのか、南雲は一瞬面食らったような顔をした。

 

「究極の実力主義。できる生徒はどんどん上に、できない生徒はどんどん下に。今の生温い環境はすべてぶっ壊して、作り変えるつもりだ」

 

 そう言い切った南雲。その構想自体は、悪くないというか面白そうだと思う。

 

「なるほど、スリリングで楽しそうではありますね。どんどん退学者が出るでしょうけど、それは弱肉強食だから仕方ない。そういう認識でいいですか?」

「相違ない」

「まぁ、そうなったら俺みたいな凡人はそのうち退学でしょうね」

「……本気で言っているのか?」

 

 南雲は首をかしげながら、ガサゴソとカバンを漁って何枚か写真を取り出した。

 俺と一緒に写っているのは、帆波さんと桔梗ちゃん。盗撮かよ、趣味わるっ!

 

「お前を絶対に退学させまいと、動く人間がいる。そこの坂柳も含めて、これだけの女を操っている男が言うセリフではない。俺がお前を買っている一番の要因……『コレクター』か『ブリーダー』かの違いはあるが、他者を支配する能力の高さ。それを成長させれば、お前は俺のように学年を丸ごと掌握することすら可能だ」

 

 何やら早口でごちゃごちゃ言って悦に浸っているが、その分析はよくわからない。

 俺が学年を掌握するって、さすがに買い被りすぎじゃない?

 

「……やろうと思うかは別として、できるかできないかで言えば、できてしまうでしょうね」

「だろ?お前みたいな女が完全に落とされてる時点で、こいつは異常だわ」

 

 なぜか、有栖ちゃんが援護射撃を加えた。

 それに対して、つーか普通にお前も欲しいんだよな……と南雲は呟く。

 

 南雲が俺に執着している理由は、有栖ちゃんにあるのかもしれない。

 詳しくはわからないが、俺たちの関係性を見て前述したような感想を持った可能性が高い。 

 

 

 

「よし、一つシミュレーションをしてやろう」

 

 突然、南雲は腕組みをして思考を始めた。

 俺は周囲の様子を見る。この男はかなりの有名人だから、変な噂が立たないといいが。

 近くの席に、帆波さんたちがいた。こっちを向いて手を振ってきたので、振り返した。

 

 そうしている間に、考えがまとまったようだ。

 次に飛び出てきた質問は、とんでもないものだった。

 

「そうだな、高城。例えば……堀北生徒会長が、坂柳を攫ったらどうする?」

「最悪殺してでも奪い返しますね」

 

 俺は即答した。

 

「くくっ……じゃあ、具体的にどうやって奪い返すんだ?」

「うーん。パッと思いつくのは、会長の大事そうな人を人質にすることですかね。あの、いるじゃないですか。名前出てこないけど、よく一緒にいる」

「橘先輩のことか?」

「そう、それです。その人をとっつかまえて、解放しないとこっちもやることやるぞ、と脅しをかけます。場合によっては本当にやっちゃうかもしれませんけど」

「あっはっはっ、面白い。やっぱお前最高だわ」

 

 俺の回答に満足したのか、南雲は笑い始めた。

 そんなに面白いこと言ったか?直接対決じゃ勝てないだろうし、と考えただけだ。

 

「もうわかった。お前の本質的な部分は、俺とかなり似ているな。お前、自分の目的達成のためならば、周りが如何なる被害を受けようとも大した問題ではないと思っているだろう?」

「……目的のレベルによりますが、今の話みたいな前提があればそうですね」

「そうだよな、俺もそう思う。会長を攻略するのに、まず橘先輩を潰せばいいって考える精神性なんかそっくりだ。やっぱ、俺の眼力ってすげー」

 

 自画自賛する南雲に、俺はちょっと引いてしまった。

 こいつと俺が同類なのかよ……マジでやめてほしいのだが。

 でも、そう思いつつも意外と嫌悪感を持っていない自分がいるのがムカつく。

 

 

 

 その後も、いろいろ話していたら夕方になってしまった。

 パレットを出た俺たちは、連絡先の交換を強制されたので、しぶしぶ南雲の番号を登録した。

 

「最後の話、守ってくれよ?」

「……まぁ、わかりました。俺がこの学校に飽きた時は、有栖ちゃんと二人で生徒会に入りましょう。めんどくさそうですが、退屈しのぎにはなるでしょうから」

 

 帰る直前に、南雲が俺に問いかけた。

 ダルいダルいと言うが、学校自体に飽きたらどうするのか?というものだ。

 俺は即座に退学すると答えた。さすがに驚いたようで、しばらく固まっていた。

 有栖ちゃんは想定していたらしく、落ち着いて聞いていたのが対照的だった。

 

 そこで、南雲は一つの口約束を持ち掛けてきた。

 俺が自主退学したいと思った時、必ず南雲に連絡をするということ。

 そうすれば、生徒会長としての権力をふるって、俺を楽しませてくれるらしい。

 その引き換えとして、俺と有栖ちゃんが生徒会に入ってやる。特にデメリットのない話だ。

 

「おいおい、生徒会を暇つぶしの道具みたいに言うなよ。ここまで上から目線な一年生、初めて見たぞ。現会長サマが聞いたら発狂するだろうな」

「でも、南雲さんは違うんだろ?」

「当然だ。それぐらいイカれた奴じゃなきゃ、つまんねーからな」

 

 最後にそう言い残し、南雲は去っていった。

 

 いなくなってから、一つ気がついた。

 生徒会に興味を持たされて、口約束とはいえいつか入ることにされてしまっている。

 つまんなそうだからどうでもいい、そう思っていたのに。

 いつの間にか、かなり近いところまで距離を縮められていた。

 

 ……やられたなぁ。これが南雲の真骨頂というわけだ。

 あいつはこんな感じで、女も籠絡してきたのか。クソ野郎め。

 

「……生徒会、ですか」

「有栖ちゃんは興味ある?」

「多少は。ふふっ、晴翔くんが生徒会長になる可能性もあるかもしれませんね」

「えー、さすがにそれはないでしょ?」

 

 そんな冗談を、有栖ちゃんは微笑みながら言った。

 南雲が俺のことを、手間をかけてまで引き入れたい理由はよくわからない。

 しかし、あの男は……確かに俺と似ている部分もある。認めたくはないが。

 

 とはいえ、まだ考えなくてもいいだろう。

 今は有栖ちゃんや、楽しい友人たちとの時間を大事にしたい。

 35度を超える炎天下にあっても、俺の頭は冷静なままだった。




 体育祭が想像以上に書きづらく、頭を悩ませています。
 やっぱり、この作品は有栖ちゃんで持っていると痛感しました。
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