よう実に転生した雑魚   作:トラウトサーモン

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 ここまで期待していただいて、大変ありがたく思うと同時に大きな不安が……
 一番の雑魚は作者なので、引き続き生暖かく見守っていただけたら幸いです。

 ※感想や誤字報告などありがとうございます。


第4話

 入学式を終えた後、軽いホームルームとして学校敷地内の地理関係などの説明を受け、正午には解散となった。

 しかし、俺は連絡事項があるということで真嶋先生に呼び出されていた。

 

「なんでしょうか、真嶋先生」

「わざわざ悪いな。ある程度は理事長から聞いているだろうが、高城と坂柳については人道的配慮が必要という判断が下された。そこで、いくつか特例措置が取られることになった。今からその内容について説明するから、よく聞きなさい」

 

 人道的配慮という名の親族優遇ではないかと思うが、ここの教師たちはそんなことを言ったらひどい目に遭うのかもしれない。少し不憫に思えてきた。

 

 まずは寮生活について。

 前提としてあるのは、有栖ちゃんは身体が弱いので、旧知の仲である俺が支えるということ。

 それを達成するため、隣同士の部屋を与えられることになったらしい。

 本来、この学校の学生寮はフロアごとに男子と女子のエリアが分かれている。

 上層の女子側エリアは原則20時以降立ち入り禁止だが、俺は特例として、女子エリアのうち一番下の階に部屋が与えられ、その階のみ時間制限なく入ることができるという。

 

「無論、坂柳以外の生徒の部屋に出入りするようなことは禁止だ」

「当然ですね、それは」

 

 なるほど、毎朝迎えに行くのにラッシュと思われるエレベーターを使うのは地味にしんどい。隣の部屋ならその点は問題ないし、体調が急変したり日常生活で怪我を負ったりした場合も、連絡さえあればすぐ助けに行くことができる。

 ……といっても、わざわざ部屋を出るのも面倒な上、そのような緊急事態に連絡を取り合う余裕があるか不透明だ。そんな素直な使い方をするつもりはない。

 

 最も楽で確実な方法、それは同居してしまうことである。

 風呂場で転んだりしていないか?急に発作が出たりしていないか?なんてことを考えて毎晩ソワソワするぐらいなら、一緒に住めばいいと思っていたし、許されるならそうするつもりだった。

 隣同士の部屋が貰えるというのは、その生活をする上で非常に効率が良い。二部屋を二人で使う形を取れるからだ。

 これらのことは当然織り込んだ上での措置なんだろうし、ありがたく使わせていただこう。

 

 実際のところ、今年の一月以降はほとんど同居に近い状態が続いていた。有栖ちゃんの部屋に泊まりこみで受験勉強していたからである。

 これが結構うまくいっていたため、今さら以前の形に戻すのもなぁ……と考えていたから、非常にありがたく感じる。

 

「また、今後の学校生活において、坂柳の体調不良やサポートが必要な場合など、何らかの事情がある際は遠慮なく教師に伝えなさい。それによる授業中の離席や欠席は、評価の対象外とするよう全ての教員に通達されている。また、その旨は後日ホームルームで全員に話す予定だ」

 

 微妙にわかりづらい言い方で、更なる特例を伝えられた。

 ……わざわざ後日に話す理由は、間違いなくクラスポイントのことが絡んでいるだろう。

 本来そんなこと、全員に向けて言う必要はないはず。俺と有栖ちゃんの評価なんてほかの生徒には関係ないからだ。

 つまり、ここでいう評価とは「クラス評価」のことである。そして、その事実を真嶋先生はまだ伏せておかなければならない。だからこういう言い回しになるのだ。

 

「お前も当然知っているだろうが、理事長の娘さんだからな……あえて多くは聞かないが、あまり無理をするなよ。我々教師陣からすると、坂柳よりむしろ高城の方が心配だ」

「俺は大丈夫ですよ。まさか、こうやって学校側から配慮していただけるとは思いませんでした。感謝します」

 

 どうやら俺を心配してくれているようだが、全く問題はない。長年にわたって続けてきていることを継続するだけだし、そもそも有栖ちゃんを負担だなんて思ったことは一度もない。

 

「話は以上だ。よろしく頼むぞ」

「はい。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」

 

 なんにせよ、真嶋先生はいい人だな。

 担任教師に限って言えば、俺はAクラスでよかったと思う。

 

 

 

 職員室を後にして、玄関で待っていた有栖ちゃんと再会した。

 

「怪我とかしてない?」

「大丈夫です。たった8分ですから、問題ありません」

 

 おいおい、細かいな。確かに8分ぐらい経ってるような気もする。

 この程度の時間で、無事であったか心配するのは些か過保護かもしれない。しかし、少し目を離しただけで怪我をしてしまうこともある。

 有栖ちゃんが頭を使う問題で「大丈夫」と言ったら絶対大丈夫だが、身体面の「大丈夫」は全く信用できないのだ。

 

「俺も心配なんだよ。離れてる間は、何が起こってるか見えないから」

「……ありがとうございます。本当に、とても助かっています」

 

 お、おう。

 ストレートにお礼を言われるとは思っていなかったため、言葉に詰まる。

 最近、こういう感謝の言葉が増えた。かつてはほとんどなかったのだが……やっぱり、あの件が俺に対する負い目になっているのだろうか。別に気にしてないのに。

 とりあえず、普通に照れるわ。勘弁してくれ。

 照れていることを悟られないよう、話題を変えることにした。

 

「それじゃあ一旦部屋の中を見てから、どっかで適当に飯を食って、買い物にでも行くか。有栖ちゃんが疲れたら、その時点で終了ってことで」

「いいですね、そうしましょう」

 

 しっかりと手を握って、俺たちは歩き出した。

 

 ふと、頭に浮かんだことがある。

 俺が入学しなかった場合、本当に原作の展開へ回帰したのだろうか?

 原作において、Aクラスの取り巻き連中はここまでしていただろうか?

 

 俺が有栖ちゃんにしていることって、本当に俺以外の人間でもできるのか?

 

 一つの可能性に行き着く。

 まさかそんなはずはないと思いつつも、恐ろしい仮説が浮かび上がりそうになった。

 だとすれば、俺は……

 答えを知るのが怖くなって、考えるのをやめた。

 

「……」

 

 そんな俺を、有栖ちゃんは観察していた。

 表情を変えないまま、黙ってこちらを見ている。

 

 綺麗な瞳が、少し潤んでいた。

 

 

 

 数時間後。

 俺たちは寮の確認をした後、ショッピングモールへやってきた。

 コンビニでも日用品含め大体のものは買えるのだが、有栖ちゃんは「人が多く集まる場所」を希望したため、こちらに来ることにした。

 こうして買い物に来ると、無料コーナーの充実に驚かされる。スーパーやコンビニだけでなく、数多くある専門店にもそれぞれ用意されている。一ヶ月に何点限定などと数が制限されていても、全ての店を回ればとんでもない量になるだろう。

 原作通り、ポイントが尽きても最低限以上の生活が送れるようになっている。

 これも新入生の立場からすれば、派手に使いすぎて金欠になった生徒用にしか見えないんだろう。それにしては充実しすぎているのだが、変だと思うのはかなり難しいと思う。

 答えをカンニングしている俺が言うのもおかしいが、決してノーヒントではない。

 しかし、入学で気持ちが浮かれている状態ではそこまで頭が回らなくて当然だ。

 そして、そこで回るのが有栖ちゃんだということ。

 

「これも、あれも無料なのか」

「安物ばかりですが、すごいですね」

 

 俺たちは併設のドラッグストアに入って、洗剤などの必需品を探していた。

 俺がカゴに物を入れていく中、有栖ちゃんは無料コーナーにある物を取っていく人たちをじっと眺めていた。持っていく人の傾向でも調べているのだろうか?

 その後数分間にわたって周囲を観察してから、上級生と思われる女子生徒に声をかけた。

 

「すみません、少しよろしいでしょうか」

「ん、新入生?あまり話さないように言われてるんだけど……」

「申し訳ありません。初めてきたもので、商品の置き場所がわからなくて困っているのです」

「そんなの、店員に聞けばいいじゃない」

「それが、今探しているのは生理用品なのです。見ての通り、今日の店員さんは男性の方しかいませんから……」

「聞きづらいってことね。いいよ、こっち」

 

 自然な感じで取り入っていく。まったく不信感を抱かせないまま、話に引き込んでいく。

 このあたりが有栖ちゃんのすごいところであり、怖いところでもある。

 女の子とはいえ、よくそんな話を思いつくな……

 名前も知らない先輩は、生理用品のある場所まで案内してくれた。

 

「ありがとうございます。ところで、先ほど先輩はあのコーナーから石鹸を取っていましたが、節約されているのですか?」

「……そうね」

「気分を害されたのなら、申し訳ございません。ただ、失礼を承知で申し上げますと、先輩は毎月のポイントを浪費するような方に見えなかったのです。何かポイントが減少する要因でもあったのでしょうか?」

 

 確かに、この生徒は真面目そうな雰囲気だ。

 毎月10万ポイントを使い果たしそうかと言われると、大いに疑問が残る。

 

「……それは答えられない」

 

 それはほとんど答えだよな?

 

「なるほど、ありがとうございます。最後にもう一つよろしいでしょうか?」

「はぁ、何?」

 

 ここぞとばかりに、有栖ちゃんが畳み掛ける。もう、裏を取る作業に入っている。

 すでに答えは出ているだろうから、それを確定させるための質問だ。

 

「差し支えなければ、三月中に使用したポイントの総数を教えていただけますか?」

 

 答えやすい質問。新入生へクラスポイントの話をするのは禁じられているようだが、先月使ったポイントの数を言外禁止にしているわけがない。そんなのは雑談レベルの話だし、貰えるポイントが変動する可能性に行きついていなければ、浪費癖をチェックできる程度の話題にすぎない。

 

「……別に答える義務はないんだけどね。いいよ、あんたの凄さをリスペクトして教えてあげる。2万ちょいってところかな」

「わかりました。ありがとうございました」

「本当に、とんでもない子が入ってきたわね。入学初日でここまでやる奴なんか、どこにもいないわよ」

「ふふっ、細かいことが気になってしまうもので」

「いずれ生徒会長になるかもねぇ。今のうちに仲良くしておいて損はなさそうだし、うん。悪くはなかったと思っておくわ」

 

 そう言って、先輩は苦笑いしながら去っていった。

 

「恐れ入りました」

「まぁ、こんなものですよ」

 

 なんというか、いかにも有栖ちゃんらしいやり方だった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 風呂に入った後、有栖ちゃんの髪をドライヤーで乾かしながら、今日のことを振り返る。これは最近、俺たちにとっての日課のようになっている。まったく嫌ではないので、やめようと言われるまでは続けるつもりだ。

 

「なんか、盛りだくさんの一日だったな」

「そうですね。当然といえば当然なのでしょうが、特に綾小路くんのことは全く予期しない出来事でしたから、余計にそう感じます」

 

 白い肌。さらさらの銀髪。こうして見ると、本当にお人形さんみたいだ。手入れするモチベーションも上がる。

 

「さっきの話、どうするんだ?」

「ポイントのことですね。せっかく得た情報ですから、黙っていても面白くありません。もちろん、伝える相手は選びますが」

「そうか。そうすると、来月の答え合わせ以降は有栖ちゃんを意識する奴が出てくることになりそうだ」

「これを知ったことで何らかの利益を得る人間は、そうなりますね」

 

 貰えるポイントが変動するということ。

 有栖ちゃんは、あくまでも謎解きゲームとして遊んでいるのだと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。

 全然構想が見えてこない。原作知識を持っているのに何一つ目的がわからない。有栖ちゃんは、どうやってこの学校を楽しむつもりなんだろう?

 

「明日からはどうするんだ?」

「いくつか推測はしていますが、まだ確証が得られないものばかりです。これらの裏を取ってから、いろいろと行動します」

「了解。よしっ、終わったぞ」

 

 肌のケアも終わり、あとは寝るだけだ。

 結局、有栖ちゃんが何を考えてるのかさっぱりわからなかった。

 

「ありがとうございます……晴翔くんは、何も考えなくていいのですよ?」

「馬鹿で申し訳ない」

「大丈夫です。私のそばにいてもらえたら、それだけで」

 

 そう言って笑った顔が可愛すぎて、いろいろどうでもよくなってしまった。

 まぁ、なるようになるか。




 綾小路(坂柳からメールが来ている。内容は……)

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