よう実に転生した雑魚   作:トラウトサーモン

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 最初に書き始めたときは、せっかくだし何人かには読んでもらえたら嬉しいな、ぐらいのイメージだったのですが……皆さんありがとうございます。


第5話

 翌日の昼休み、俺は有栖ちゃんと食堂で昼飯を食べていた。

 今日から授業が始まっている。さすがにAクラスなので、全員が真面目に授業を受けていた。

 しかし、監視されてることを知ってるとダメだな。俺はカメラが気になって、なかなか集中できなかった。

 

「晴翔くん、そんなにカメラが気になりましたか?」

「ああ。誰かに見られてるって思うと落ち着かなくて」

「ふふっ、言いたいことはわかります」

 

 授業中の俺は、まずチラッとカメラを見る。そしてノートに字を書いて、またチラッとカメラを見る。その繰り返しだった。我ながら挙動不審だと思う。

 有栖ちゃんはそんな俺を見てくすくす笑っていた。

 

 さて、俺は貰えるポイントが変動することを知っているが、それでもスペシャル定食を食べることにした。うまいものは、食えるうちに食っておく。前世からのモットーである。

 

「豪華ですね」

「今日はうまいのを食いたい気分なんだ。いずれは自炊しようかと思ってるが、最初だからスペシャルってことで」

「今まで料理しているところを見たことがないのですが……」

 

 言われてみれば、料理経験は前世まで遡る。

 それでも、下手ではないはず。ド貧乏だったし、その上片親だったから俺も料理ぐらいしないと生きていけなかった。品質の低い食材をごまかす調理はお手のものだ。

 ……いくらタダでも山菜定食は食べたいと思わない。そこで、金欠になったら自炊しようというわけだ。店には無料の食材もあったし、そういう機会があるかはわからんが、必要となればやってみようと思う。

 

 しばらく二人でいると、綾小路が俺たちの姿を見つけてやってきた。

 こうして見ると、普通の目立たない生徒なんだけどなぁ。昨日の悪魔のような威圧感を思い出すと、身体が危険信号を発して一瞬ビクッとしてしまう。これを克服するまでには、もう少し時間がかかりそうだ。

 

「よう、どうだ?そっちは」

「……残念ながら、クラスで友達はできていない」

 

 本当に残念そうな顔をする綾小路。

 俺も、クラスに溶け込めない気持ちはよくわかる。

 

「そういえば、いかがでしたか?私の見解は」

 

 次に有栖ちゃんが話を振った。

 綾小路は一瞬考える素振りをした後、周囲を見回してから小声で話し始めた。

 

「あぁ、あれで正解だろうな。こっちもあの後少し気になって調べたが、どれも坂柳の主張を裏付ける結果ばかりだった」

「その様子でしたら、綾小路くんも早晩気づいたかもしれませんね」

「いや、オレがやったのは証明だ。解が出ている問題の途中式を考えただけだから、坂柳のように何もないところから導き出せたかはわからない。本当にお前はすごいやつだと思う」

 

 ……ポイントのこと、綾小路に共有してたのか。

 相変わらず、有栖ちゃんの行動指針がわからん。Aクラスに貢献とかいう気持ちが一切ないのははっきりしたけど。

 

 二人のやりとりを聞きながら、スペシャル定食を食べる。

 高いだけあって味は良いが、毎日食べたいとは思わない代物だなぁ。

 

 

 

 俺たちのところへ、黒髪の女子が近づいてきた。

 テーブルの前で俺と有栖ちゃんを一瞥した後、綾小路に向けて一言。

 

「まさか、本当に友達ができたなんてね」

 

 ツンとした態度を崩さないこの少女は、堀北鈴音だ。

 知っての通り、原作のメインキャラであり、準主人公的存在である。

 俺はこの時期の堀北の性格を知っているので、めんどくさいから関わりたくなかったのだが、なぜかあちら側から来てしまった。綾小路目当てだろうか?

 

 綾小路も、有栖ちゃんも話を止めた。

 しばしの沈黙。急に空気が重くなる。

 ……ずっと黙っていると、堀北を無視しているみたいになって嫌な感じだ。

 しぶしぶ俺が口を開くことにした。

 

「ええっと、初めまして?」

「何?別に仲良くしようと思って来たわけじゃないわ」

 

 刺々しく言い返された。

 うざっ。知識はあったが、直接話すとこれは相当だな……

 挨拶しただけでこんな態度を取られたら、仲良くしようだなんて思わない。

 俺は話を打ち切って、目をそらした。

 

 あっ、有栖ちゃんがお怒りモードだ。長年の付き合いだから、目を見ればわかる。

 自分の話を止められたのが気に食わなかったのだろうか?

 堀北め、地雷を踏んだな。

 

「仲良くするつもりがないのなら、こちらに来る必要はないでしょう。私は、綾小路くんとお話ししていました。お引き取りください」

「……あなたは、何者?」

「相手が何者か聞く前に、まず自分から名乗ってはいかがですか?」

 

 有栖ちゃんは薄笑いを浮かべながら、そう突き放した。

 

「……はぁ、もういいわ」

「奇遇ですね。私も会話を継続する意思がありません」

 

 こうなった有栖ちゃんは誰にも止められない。何か言い返せば言い返すだけ、精神的ダメージが蓄積していくだけだ。

 謝罪して矛を収めてもらうか、コミュニケーションを打ち切るしかない。

 堀北もそれを悟ったようで、身を翻して教室の方へ去っていった。

 

 有栖ちゃんと堀北のファーストコンタクトは最悪なものになってしまった。非常にうまくいった綾小路とは対照的に、こうなっては関係の修復は難しいだろう。何もそこまで怒らなくてもとは思ったが、俺もあの態度に若干ムカついていたので、あえて黙っていた。

 しかし、有栖ちゃんが感情を出して怒るのは結構レアなケースだ。

 よっぽど今の堀北に不愉快な部分があったんだろう。細かいことはわからないけど。

 

 とりあえず、綾小路が少し焦っていたのが面白かった。お前にも、一応そういう感情は備わっているのか。

 

「お前も災難だな、綾小路」

「やめてくれ……まさか入学二日目にして、教室へ行くのが嫌になるとは」

 

 やれやれといった様子で、綾小路は飯を食い始めた。

 

 

 

 またしても、俺たちの方へ近寄ってくる女子が一人。

 正直、飯ぐらいゆっくり食わせてくれよ……と思った。

 

「あの〜、ちょっといいかな?」

 

 櫛田桔梗。これまたDクラスの女子がお出ましだ。

 何だ、今日はメインキャラクター紹介の日なのか?

 

「どうしたんだ?」

「ええっと、みんなは堀北さんと仲がいいのかなって思って」

 

 櫛田は、静かな声でそっと問いかけてきた。

 

 とりあえず、頭の中で原作知識を辿らせてもらう。言うのはダメだが、思うのは勝手だからな。

 

 櫛田は、自分の過去を知る堀北のことをかなり嫌っている。

 表面上は取り繕っているが、裏ではひどいもの。退学させることすら企んでいたはずだ。それで、堀北と会話(?)していた俺たちグループにアプローチをかけてきたと思われる。

 

「私は仲良くないですが、綾小路くんはいかがですか?」

「オレに振るなよ……一応会話が成立するって意味では、他の二人よりはマシかもな」

「そ、そうなんだ……」

 

 真顔で仲良くないと断言する有栖ちゃん。これは、完全に敵扱いになったパターンだ。あーあ、やっちまったな堀北。今後苦労するぜ?

 二人の答えを聞いた櫛田は黙り込み、綾小路に向き直る。

 

「私、クラスの全員と仲良くなりたいんだけど、堀北さんはあまり私と仲良くしたくないみたい」

「堀北は常にあんな態度だから、そう思うのも当然だ。本人がどう考えてるのかは知らないが」

「そっか……でも、私は堀北さんにもクラスの輪の中に入ってほしい。教えてくれてありがとう。また、いろいろ考えるね」

 

 うーん、この優しそうなキャラが全部演技だと思うとかなり怖い。俺に火の粉がかかるのは御免だし、距離感は間違えないようにしよう。

 

「そういえば、そっちの二人は初めましてだね。私は1年Dクラスの櫛田桔梗です」

「ご丁寧にありがとうございます。私は、坂柳有栖と申します」

「高城晴翔だ。よろしくな」

 

 櫛田は堀北が言われた内容を聞いていたからか、先に名乗ってきた。

 有栖ちゃんも、堀北と比べたら随分マイルドな対応である。

 

「櫛田さんは、積極的な方なのですね」

「そうだよ!最終的には全員と友達になるのが、目標だから」

「なるほど……うまくいくと、いいですね」

 

 そう言って、有栖ちゃんはじっくりと櫛田の目を見る。

 まさか、もう何か察したのか?

 

 少しお互いのクラスのことを話したりして、最後に連絡先を交換した。

 飯を食べ終えるのは、ギリギリの時間になってしまった。

 せっかくのスペシャル定食、もっと味わいたかった……

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 俺たちの部屋。いつもの日課。

 気になったのは当然、昼休みの出来事。

 

「今日の二人のこと、どう思った?」

「櫛田さんはとても面白いです。彼女は、確実に何かありますね」

 

 やっぱり何か気づいていたようだ。

 

「と、いうと?」

「彼女は友達作りを急いでいるようですが、それを周囲に公言して憚らないあたり、強迫観念のようなものを感じます。初対面の私に対しても言うのですから、相当なものです」

 

 確かに、と俺は思った。

 全員と友達になりたいとか、全員の連絡先を知りたいとか、言葉だけ聞くと良いことのように思える。実際、自分の中の目標として設定するのは悪くないだろう。

 しかし、それを他人に言ってしまえば話は別だ。「あなたは多数の友達のうちの一人で、私にとって特別な存在ではない」と言っているのと同義である。

 

「あれは、自己の目標達成というよりも、『目標に向けて頑張る自分』や『努力の末に目標をクリアした自分』に対するレスポンスを期待しているのかもしれません」

 

 相変わらずの洞察力だ。

 俺が頷いたのを確認してから、有栖ちゃんは話を続ける。

 

「しかし、承認欲求というのは強弱の差はあれど全ての人間が持っているものです。私は彼女を批判するつもりはありません。むしろ、私と近い部分もあるように感じていますから」

「近い部分?」

「はい。それについては、まだ直感的なところが大きいです。いずれにしても、彼女は使()()()()。どうやって使えるようにするかが、今後の課題ですね」

 

 有栖ちゃんの雰囲気からすると、櫛田のことはかなり気に入っている様子。

 綾小路には到底及ばないが、ある程度の興味を持っているのは間違いなさそうだ。

 

 俺が櫛田の「裏の顔」を見る日も近いかもしれないな。

 イヤだなぁ。俺のことボロクソ言われてたらどうしよう?

 なんて、呑気に考えられるぐらいには安心していた。

 

 その理由は、櫛田では絶対に有栖ちゃんに勝てないからだ。

 能力的なことを言っているのではなく、相性の問題である。

 

 前提として、有栖ちゃんに勝つには精神的な部分でキズがあってはならない。それに加えて、自分の弱み・欠点を突かれても問題ない精神力や、最悪の場合物理的な暴力へ切り替えるような理不尽さがなければならない。

 ……その条件を完璧に満たす男こそ、綾小路清隆なのだが。

 

 話を戻す。

 櫛田という生徒は、過去の行いという秘密がある上に、ストレス耐性も決して高い方ではない。そのあたりを有栖ちゃんに読まれ始めている以上、もう天地がひっくり返っても勝てないのだ。

 もっとも、有栖ちゃん自身が櫛田に対して何らかのシンパシーを感じているようなので、()()ようなことはしないと思うが……

 

「よしっ、終わり」

「はい。今日もありがとうございます」

 

 考えているうちに、今日のお手入れが終わった。

 帰りにコンビニでいい感じの化粧水を買っていたので、早速使ってみたところ、非常にいい感じに仕上がった。本当に、元が良いからケアするのも楽しい。

 

「しっかし、櫛田も罪なやつだよな。あの容姿と、あの距離感で友達になりたいって迫られたら、断れる男子なんてそうはいないだろう」

「そんなものでしょうか?」

「男なんてそんなもんさ。まぁ、俺は有栖ちゃんの方が可愛いと思うけど」

「……急に何を言ってるんですか?もう寝ますよ」

 

 ちょっとからかってみた。

 隠れるように布団へ潜ったが、照れているのはバレバレだ。恐ろしく抜け目がないくせに、こういうのはわかりやすい有栖ちゃんである。

 

 最後にひとつ。

 

「そういえば、堀北は?」

「嫌いです。聞かないでください」

 

 あーあ。




 綾小路(まさか、堀北にその言葉をぶつけるとは……)
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