よう実に転生した雑魚   作:トラウトサーモン

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第50話

 外に出てグラウンドを見ると、ちょうど借り物競争が行われているところだった。

 

「あいつが、綾小路清隆だ」

「はい、知っています。Cクラスの方ですよね」

 

 ひよりも含めた三人で、日陰に座って観戦することにした。

 

「あの男は確か本好きだったし、ひよりと仲良くなれる気がするぞ」

 

 清隆も有栖ちゃんに負けないぐらい博識だ。さらに読書の趣味もある。

 合わないわけがない二人であると思ったのだが、彼女の反応は意外なものだった。

 

「……えっと、すみません。それは冗談でしょうか?」

 

 そういうつもりは一切無かったので、戸惑ってしまう。

 俺の様子を見てから、ひよりは有栖ちゃんの方を向いた。説明を促しているようだ。

 

「……晴翔くん。そんなことをしては、恵さんの嫉妬を買います。ひよりさんはそれを理解しているのです。私が清隆くんとの関係を許されているのは、あなたという恋人がいるからです」

「えー、恵ちゃんって今でもそういうの気にするんだ?」

「彼女の独占欲はすさまじいものです。独り身の美少女と仲良く話すのを認めることは、まずあり得ないでしょう」

 

 独占欲。確かに恵ちゃんは深く清隆に依存しているし、離れたくない気持ちが強いことはよく知っている。実際、付き合った初期の頃はかなりドロドロとした想いが見え隠れしていた。

 とはいえ、最近の恵ちゃんは精神面でかなり安定している。そのため、清隆に女友達ができることぐらいは大丈夫だろうと思い込んでいた。

 でも、有栖ちゃんがここまで言うのだから間違いはない。今に至ってもなお、濁った感情を持っているのだろう。俺たちは特例的に許されていた……真相はそういうことなのかもしれない。

 

「晴翔くんは優しいですね。しかし、その優しさが無意識のうちに毒となることもあります」

 

 ひよりにも窘められてしまった。やっぱり、よく考えずに発言するのはダメだな。

 恵ちゃんの地雷を踏んでしまっては、友達を増やすどころではない。それだけではなく、今まで築いてきた関係に亀裂を入れる危険性さえあった。自分の迂闊さを反省した。

 

「ああ、二人の言う通りだ。良かれと思って言ったのだが、軽率だった」

「あっ……言い方が悪かったかもしれません。晴翔くんを責めるつもりは、全くないのです。むしろ、私の方こそごめんなさい。せっかくお友達を紹介してくれたというのに……」

「いやいや、ひよりが謝る必要はない。間違いを正してくれてありがとう」

 

 まさか謝られてしまうとは思わなかったので、驚いてフォローした。俺が傷ついたのではないかと、心配してくれている。はっきり言うわりにその辺は優しいんだな……

 ひよりは、清隆や恵ちゃんとは面識が無いはずだ。もちろんどこかで見かけてはいるだろうが、それだけであの二人の関係を完全に理解してしまうのは驚異的である。その上で俺たちのことを考えて、俺のミスを注意してくれたのだ。これによって俺と有栖ちゃんの認識のズレ……恵ちゃんの想いを過小評価していたことにも気がついた。

 何より、友達になったばかりの俺たちのことを真剣に考えてくれているのが嬉しかった。

 

 清隆は借り物が書かれた紙を取った後、一直線に恵ちゃんのもとへ走っていった。そして、お姫様抱っこの状態でゴールインとなった。もちろん一着だ。借り物は「好きな人」といったところだろう。顔を真っ赤にした恵ちゃんが、とても幸せそうに見えた。

 

「あのお二人の関係が、私には奇妙なものに映ります」

「奇妙?」

「一方的な恋慕に見えて、そうでもないような……表現が難しいですね」

 

 とりあえず、ひよりの洞察力がすごいのはわかった。

 本当に友達になれてよかったと思う。彼女が敵に回ることはあまり考えたくない。

 

「……ひよりさんはすごいです。私にはできません」

 

 有栖ちゃんにも思うところがあったようで、何かを考えながら見つめている。

 ただ、すごいという言葉の意味が俺の感じているものとは違う気がした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 俺たちが一緒にいるのを珍しく思ったのか、龍園がこちらへやってきた。

 

「おう龍園、どうした?」

「どうしたもこうしたもねえだろ……次はひよりか?」

 

 汗が流れる頭を掻き上げて、龍園は俺の方を睨みつけた。

 残念ながら、その程度ではビビらないんだよなあ。 

 

「ふふっ、大丈夫です。晴翔くんの『特性』は理解しています。その上で、お友達として付き合っていきたいと思ったのです。龍園くんが危惧しているようなことは起きませんよ」

 

 ひよりは龍園に近寄って、そう話した。

 俺の特性というのはよくわからない。そんな自分にすらわからないことを、彼女はわかっているというのだろうか。

 

「珍しく動き出したと思ったら、そういうことかよ。勝利の二文字をゴミとしか思っていない精神……テメェもそいつらに染まっちまったのかと思ったぜ」

「さあ、どうでしょう?」

 

 相変わらず掴みどころがない。ひよりは誰が相手でも変わらないらしい。

 だからこそ、龍園も一目置いている……置かざるを得ないのかもしれない。

 

「ところで龍園。お前は体育祭に負けてもいいと思っているようだな」

「……だったら何だよ」

「いや、その理由が気になったんだ。本気で勝とうと思えば勝てただろうに」

「それを他クラスのお前に、俺がわざわざ教えてやると思っているのか?」

 

 龍園が顔を近づけてきた。その眼光は鋭く、なかなか迫力のあるものだった。

 

「クラスなんて、学校側が勝手に振り分けたものだろ。AとかDとか……どうでもよくないか?」

「はぁ?」

「俺は、仲良くしてくれる人たちと楽しく遊べたらそれでいい。逆に言うと、俺にとってどうでもいい奴であれば、同じクラスの者であろうが仲間とは思わない」

 

 俺は今のクラスに何の愛着もない。真澄さんのことは気に入っているが、あくまでもそれは個人的なもの。今後負け続けてクラスポイントがゼロになったとしても、小遣いが無くなって困るとしか思わないだろう。とにかく興味がない。

 勝利に執着する龍園からすると、俺のような存在は異質に見えるのかもしれないな。

 

 

 

「チッ……各クラスのキーパーソンを炙り出す。俺の目的はそれだけだ。特に軽井沢……あのバカ女が、偽の参加表を掴ませるなんて真似をできるとは思えねえ」

 

 何だかんだ言いながらも、結局教えてくれた。これがツンデレというやつか?

 どうやら龍園はハメられていたらしい。九分九厘清隆の仕業だと思われるが、あえて黙っておく。この話から察するに、堀北は清隆の思い通り利用されていたようだ。何だか悲しい。

 

「でも、お前はもうわかってるんだろ。誰があのクラスの実質的な支配者なのか」

「当然だ、あまり俺を舐めるな……だが、奴の真の実力がまだ見えねえ。ギリギリ尻尾を掴ませない、気持ち悪い動きをしてやがる。軽井沢の恋人なんて肩書も、罠なんじゃねえかと思わせる立ち回りだ。そういえば高城とは仲が良かったか?」

 

 やはり、もうたどり着いていた。龍園の観察力があれば当たり前と言える。

 俺が思うに、最近の清隆は結構派手に動いている。実力を隠し続けるという目的の優先度が下がってきたらしく、真鍋たちを退学させた件でも表に出て堂々と行動していた。あれは一応、恵ちゃんが告発したという建前になっていたが……実際に「裁いた」者が誰であるか、あの審議の場にいた全員が理解していただろう。

 そして龍園がその情報を持っていないはずもなく……確信に近い推測ができている状態だ。

 

 それにしても、第三者からはそんな感じに見えるのか。そこは少し意外だった。

 清隆は、恵ちゃんの育成に全力を注いでいるだけだと思う。これまで全ての功績を恵ちゃんに譲り渡してきたのも、あの子に自信と達成感を与えるという目的しかないだろう。

 しかし、事情を知らない多くの者はそう思えない。恵ちゃんの裏で、清隆が参謀として動いているような印象を受ける。実力不詳の暗躍者とは、確かに不気味な存在である。

 

 ここまでの流れで理解した。龍園は、クラスというより清隆の動きを観察するために体育祭を捨てたのだ。最初にCクラスを引きずり降ろそうと考える過程で、あいつの存在に気づいたのだろう。だからBクラスがめちゃくちゃなことをしても無視できる。そもそも眼中に無いからだ。

 おそらく、偽の参加表に騙されることも想定のうちだ。これぐらいはやってくる相手だという情報が得られた時点で、龍園の目的は達成されている。

 

「お前があいつと戦いたいなら、好きに動けばいいんじゃねえの。俺は止めないよ」

「どこまでも他人事か。腐った野郎だ」

 

 そう吐き捨てて、龍園は去っていった。

 一つ言い忘れていたことがあったが、その言葉を出す前に彼は遠くへ行ってしまった。

 

 清隆を無理やり動かすために、恵ちゃんを狙うこと。

 次に龍園が取るであろう行動の危険性を、忠告しておこうかと思っていた。しかし、言ったところで聞き入れられる可能性は低い。

 

 だけど、龍園……それは清隆の進んでいる道を妨げる行為だ。

 自分の目的を暴力で崩そうとしてくる人間に、あいつは容赦するだろうか?

 ……先ほどからずっと悩んでいる有栖ちゃんも、同じ結論に行き着いたのかもしれない。

 

 最悪、再起不能になる恐れがある。

 そう遠くないうちに起きるであろうイベントを想像すると、背筋が寒くなった。

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