よう実に転生した雑魚   作:トラウトサーモン

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第9話

 中間テストの結果が発表された。

 当然のことだが、俺の名前はかなり上の方にある。満点2教科、平均9割を超える点数なんて、こういうズルをしなければ一生拝めないものだ。なかなか嬉しい。

 また、有栖ちゃんも同じくらいの位置だった。

 全教科満点にしないあたり、やはり目立ちたくはないのだろうか。

 

 過去問を使ってるとも知らず、Aクラスの連中は意外そうな目で俺を見た。

 

「高城、意外とできる奴だったのか。Aクラスに入ってる以上当然ではあるが……小テストは手を抜いていたんだな?」

 

 戸塚が絡んできた。煽ってんのかこいつ?

 だいぶうざい。ぶっちゃけ不愉快だ。そっちが実力で悪かったな?

 他にも何か言ってきそうだったが、有栖ちゃんがじーっと見つめていることに気づいて、気まずくなったのか去っていった。

 

 Aクラスはかなりの点数を誇った。正直、過去問無しでこの平均点はすごいと思う。

 しかし、他クラスが満点続出という噂が既に流れ始めていたので、クラスの雰囲気は悪かった。

 葛城も危機感を覚えたのか、今後の対策などを練るクラス会を開こうとしていた。そんなものに参加する気はないので、俺たちはそそくさと教室から出ていった。

 ……他にも、何人か黙って帰るのを見てしまった。すでに崩壊し始めてるのかもしれない。

 

 

 

 で、なんでこうなったんだ?

 

「坂柳。テメェ、何のつもりだ?」

 

 Cクラスの教室。

 俺たちはクラスの王こと龍園翔に呼び出され、尋問されていた。

 

「何のつもりとは、何でしょう」

「面倒くせぇな。今さらしらばっくれるんじゃねぇ、過去問のことだ」

「なるほど、2万は高かったですか?」

「チッ……食えねぇ女だ」

 

 有栖ちゃんは、Cクラスに過去問を売った。

 その際は直接渡すのではなく、櫛田にお願いしていた。コピー品の作成、龍園との交渉、ポイントの受け取りまで今回は全て櫛田が行った。

 龍園とやり取りするリスクを代わりに背負ってもらった形だ。

 その後、有栖ちゃんは指示通りの仕事をした櫛田をこれでもかというほど褒めちぎった。櫛田に対する見返りとして、売値の半額……1万ポイントを渡す予定だったようだが、本人が受け取りを拒んだ。褒めてもらえればそれでいいらしい。

 

 最終的に、過去問はAクラス以外の全員と共有したことになる。

 そして、さすがの龍園でも有栖ちゃんの行動の意味はわからなかったようで、こうして呼び出されているわけだ。

 

「中間試験の結果。アレを見る限り、Aクラスは過去問の存在を知らなかったと見て間違いねぇ。ククッ、1学期の頭からいきなり裏切るってのは、さすがにやりすぎじゃねえか?」

 

 龍園は眉間に皺を寄せつつ、理解できないといった態度で迫る。

 うわぁ、有栖ちゃんってあの龍園が引くようなことをしてるのか。

 ずっと隣にいるから、今まで自覚はなかったが……

 

 龍園翔という男は、なんだかんだ言ってクラス想いの人間だ。

 暴力で成り上がってはいるものの、個ではなくクラスとしての最終的な勝利にこだわる、ある意味最もリーダーらしいリーダーといえる。

 こう考えてみると、有栖ちゃんとは真逆の存在かもしれない。

 

「ふふっ、面白いことを言いますね。私は裏切ってなんかいませんよ?」

「じゃあ何だ?」

「私はただ、Aクラスのクラスポイントを減少させる方法を考え、実行しているだけです。そのため、各クラスにご協力いただいています」

「それを裏切りと言わねぇのなら、何が裏切りなんだ?」

 

 あーコイツ意味わかんねぇ、と龍園は頭をくしゃくしゃに搔く。

 有栖ちゃんの得意技の一つが、このように相手を煙に巻くことだ。

 露骨にイラつく龍園。それを見て、周りのCクラスの生徒たちがビビっている。

 

「ご用件はそれだけですか?」

「ケッ、坂柳みてぇな女がいるとは、Aクラスも哀れなもんだ。こんなこと、奴らが知ったら発狂するだろ」

「それはわかりません。私はまだ、クラスでは晴翔くん以外の生徒と会話したことすらありませんので……あまり、興味がないものですから」

「……そうかよ」

 

 そうだったっけ?

 言われてみたらそんな気がしてきた。

 

 ……なるほど、だから有栖ちゃんは裏切っていないと言うのか。

 裏切りとは、味方が敵に寝返ることをいう。

 有栖ちゃんは一度たりともAクラスの味方をしたことがないので、それを裏切ったと言うのは厳密には違うのかもしれない。

 

「まぁいい。坂柳、テメェをどうするかは保留だ。ただ、俺とは絶対に相容れない存在なのは間違いねぇ。最後の最後、クラス間の争いを制した後に、潰してやる」

「そう興奮しないでください。私はきっと、あなたに利益を齎しますよ?」

「お前のようなクソ女を頼る奴の気が知れん。もういいから、さっさと帰れ」

「おや、呼び出したのは龍園くんの方ではありませんか」

 

 煽る煽る。

 

「帰れっつってんだ!次出ていかなかったら殺す」

「ふふっ、怖いですね。それではまた」

「二度と来るんじゃねえぞ」

 

 そういうわけで、俺たちはCクラスから追い出されてしまった。

 

 龍園とのファーストコンタクトは、俺としては拍子抜けなものだった。

 むしろ、龍園は意外とマトモな奴かもしれないと思った。

 これが相対評価というものだろうか。俺の基準が有栖ちゃんや綾小路になっているので、感性的な部分で驚かされることがほとんどない。

 ただ一つ気になったのは、龍園が……なんだろう?

 二度と来るなと言い放った時、少し寂しそうな顔に見えたのだ。まさか、有栖ちゃんがクラス間闘争に手を出さないことを、本気で残念がっているのだろうか?

 

 そうか、だから俺は「マトモ」だと思ったのかもしれないな、と勝手に納得した。

 

 

 

「龍園くんは、最初から過去問の可能性に気づいていましたね。もしかすると、少し余計なことをしたかもしれません」

「まぁ、アイツの性格的にそれは間違いないだろうな」

 

 有栖ちゃんはぽつりとつぶやいた。

 確かに龍園なら気づくだろう。

 いや、それどころか龍園はすでに過去問を持っていたのかもしれない。その上で、唐突に過去問を売るなどと言ってきた櫛田のことを不審に思い、裏にいる存在……有栖ちゃんを誘き出すべく、あえて話に乗った可能性もある。

 

 有栖ちゃんと龍園。

 価値観は百八十度違うのかもしれないが、思考ロジックは結構近いものがある。

 

「あっ、有栖ちゃん!」

 

 寮のエレベーターを上がると、部屋の前で櫛田が待っていた。

 

「こんにちは、桔梗さん」

「早く部屋に入ろう!」

 

 その姿は、さながら親の帰りを待っていた子供のようだった。

 

 

 

 櫛田は三日に一回のペースで俺たちの部屋を訪れるようになった。

 愚痴を言ったり、暴言を吐いたり……精神状態が悪い時は、必ず来ている。

 その度に有栖ちゃんは櫛田のことを受け止めて、心を癒してあげていた。

 

「……なによ」

 

 ベッドの上に座って、ぎゅうっと有栖ちゃんを抱きしめる櫛田。

 

「今日はやけに激しいなと思って」

「うるさいな。あんたは四六時中有栖ちゃんを独占してるんだから、今ぐらい良いじゃない」

 

 俺は苦笑いしながら、二人の様子を見ていた。

 しかし、櫛田の有栖ちゃんに対する忠誠心はかなりのものだ。

 有栖ちゃんの言うことなら、なんでも聞くのではないかと思うほど。

 

「桔梗さん、そんなに晴翔くんに強く当たってはいけませんよ」

「あっ……ごめん、ごめんね。私が悪かった」

 

 有栖ちゃんに注意され、櫛田は俺に平謝りしてきた。

 そう、こんな感じなのだ。善悪の基準が有栖ちゃんになりつつあるように見える。

 飴を与えられすぎて、依存しているのかもしれない。

 

「いや、全然気にしてないぞ」

 

 いつまでも頭を下げられても困るので、俺は返答した。

 

「ふふっ、ちゃんと謝れましたね。そういうところ、とても良いと思いますよ」

「有栖ちゃん、私のこと嫌いになってない?」

「そんなわけないじゃないですか」

 

 よしよし、と頭を撫でられている櫛田。一体俺は何を見せられているんだ。

 有栖ちゃんのことをいつか誰かに任せようと思っていたが、櫛田はさすがに想定外だぞ。

 

 こいつ、無人島試験の間どうするつもりだ?一週間会えないぞ?

 原作知識があるからか、ふとそう思った。

 

 いや、そもそも俺はどうしようか。有栖ちゃんと出会ってから、一週間も会わなかったことは一度もない。しかし、さすがに二人不参加のペナルティはクラスの連中が受け入れてくれないだろう。ただでさえBクラスに逆転されそうで、葛城も焦っている。めんどくさいなぁ。

 

 とにかく、有栖ちゃんが心配だ。

 部屋でどこかぶつけたりしないだろうか?あの日のように、発作は起きないだろうか?

 過去の記憶が、次々とフラッシュバックする。

 もう二度とあの涙は見たくない。そう思っていたのに……

 

「晴翔くん、大丈夫ですか?」

 

 考え込んでいた俺を、有栖ちゃんが心配そうに覗き込んできた。

 

 ……だが、参加せざるを得ない。

 俺はそう結論づけて、いったん思考を打ち切った。

 

「あぁ、すまんすまん」

「……晴翔くん、体調は気をつけて。有栖ちゃんを守れるのは、あんたしかいないんだから」

 

 櫛田にも心配されてしまった。

 ん?

 

「あ、名前で呼んでくれるんだな」

「……三人いて、私たちだけ呼び方違うのも変じゃない?」

「そういうことか。じゃあ、桔梗ちゃんでいい?」

「好きにすれば」

 

 下の名前呼び捨ては少し抵抗があるので、そう呼ぶことにした。

 櫛田改め桔梗ちゃん。口は悪いがいい奴だ。

 

 

 

 桔梗ちゃんが帰った後、俺は無人島試験について再検討していた。

 

 何度考えても、納得がいかない。

 そもそも身体的な問題という不可抗力での不参加に対して、通常リタイアと同様の失点が発生するルールはかなりムカつく。実際の企業の研修がどうとかいうご大層な名目があった気もするが、その企業は身体が不自由な社員の不参加にペナルティを科すだろうか。

 

 だんだんと腹が立ってきた。

 俺がリタイアを求めても、クラスのポイントがどうとか言われて却下される光景が今から想像できる。30ポイントとか、俺にとってはクソくらえなんだけどな。有栖ちゃんの方針的にも、むしろ失ってくれたほうがいいぐらいだ。あーダルい。

 参加はするが、当日の俺はぶち切れているかもしれない。

 

 ……あれ?

 待てよ?

 

 リタイアという単語から、一つのひらめきを得た。

 思いつきだが、これは名案だ。

 

 なんだ、簡単なことじゃないか。

 

 A()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺のリタイアによってポイントが減るのを嫌がるなら、リタイアしてもポイントが減らない状態にしてしまえばいい。

 そうすれば、誰も文句を言わないだろう。我ながら素晴らしい発想の転換。

 

 俺のような雑魚に勝利は難しいかもしれないが、めちゃくちゃにすることはできる。

 テロリストとは、基本的に弱者の側から生まれるものなのだ。

 

 まずは龍園と密約を結ぶか。

 そして、ああやって……こうして……

 楽しくなってきたじゃないか。

 

 普段、有栖ちゃんには存分に楽しませてもらっている。

 その恩返しだ。俺の思い通りにいけば、なかなか面白い結果になるかもしれない。

 

 最後に勝とうが負けようがどうでもいい。

 有栖ちゃんが笑っていればそれでいい。

 

 世界一可愛い不敵な笑みを、有栖ちゃんから奪うというのだ。

 俺はただ、それを絶対に許さないというだけだ。報いを受けてもらおう。

 

 まだ先のことだが、腹は決まった。

 有栖ちゃんがいない状況で、失うものなど何もない。

 そういう人間の怖さを思い知らせてやる。




 無人島試験のオチまで考えて書き始めたので、その先の展開が……

 みなさん、いつもありがとうございます。
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