ヤンデレノエルさん   作:頭ピエール

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リオンを反対から読むとンオリ…幼少期からのリオンの過剰摂取は危険です。私は余程のことがない限りリオンさんとは接触しない主義です。


ヤンデレノエルさん

「おはよう、リオン」

 

 身体にだるさを感じながら目覚めると不意によく知る少女の声が聞こえた。

 制服姿に白いエプロンを身に着け、満面の笑みを浮かべる少女。

 金髪の髪をサイドテールにまとめ、毛先はピンク色のグラデーション。すらりと長いモデル体型の手足に胸はCカップほどの美乳。

 俺の元婚約者ノエル・ジル・レスピナスことノエル・ベルトレだった。

 

「うんうん、朝ごはんの時にちゃんと起きれてえらいね。ほら、今日もリオンの好きなの用意したよ。リオンにはいつも美味しいもの食べさせてあげたいからね」

 

 そう言ってノエルは寝台のすぐそばに料理を置くとスプーンを手に取って一口大の料理を俺の口元に運ぶ。

 

「ほら、リオン。あーん…」

 

 仄かに顔を赤らめながらノエルは俺に手づから料理を食べさせる。

 

「おいしい? そう、よかった!」

 

 料理を咀嚼し、ノエルの問に首肯するとノエルは華やいだ笑みを浮かべる。

 

「えへへ、嬉しいなぁ。幸せだなぁ。リオン、あたし幸せだよ。リオンが居てくれてとっても幸せ。あたし──リオンのためならなんでもできるよ」

 

 ノエルの手が俺の頬に触れそっと撫でる。

 口元には笑みを浮かべ、恍惚とした表情は可憐でありながら何処か狂気を滲ませていた。

 

「あたしは、リオンが好き。大好き。世界でいちばん。誰よりも好き。誰よりも愛してる。ずっと好き。ずぅっと愛してる」

 

 囁く愛の言葉。熱を帯びた視線はどことなく盲目的で、どうしてか背中から冷や汗が止まらない。

 

「リオンの声が好き。誰よりも優しいリオンが好き。笑ってるリオンも好きだし、お茶目で悪戯好きなところも愛しいって思ってる。──でも」

 

 ノエルは不意に俺を抱きしめ耳元に顔を寄せそっと囁く。

 

「誰にでも優しいリオンはヤダ、みんなに人気者のリオンはヤダ、困った人がいると放っておけないリオンがヤダ──みんなのために頑張るリオンが嫌なの」

 

 冷たい声だった。

 学園では天真爛漫で良くも悪くもサバサバしてる明るい少女というイメージのノエルとはかけ離れたひどく凍えた言葉だった。

 

「あたしはリオンのこと愛してるよ。ずっとずーっと…大好き。あたしの一番で、特別だって。そう想ってる」

 

 強くノエルは俺を抱きしめ、俺の首元に顔をうずめる。飼い犬が主人に甘えるような、そんな様子で。

 

「──ねぇ、リオン。レリアと何話してるの?」

 

 心臓が跳ね上がるかと思った。

 レリア──レリア・ベルトレはノエルの双子の妹だ。俺と同じ転生者でこの世界のことについて俺よりも詳しい。

 あの乙女ゲーの二作目だというこの世界でレリアの知識は俺たちが生き残る上で必要不可欠と言える。

 

「レリアがいいの? あたし、リオンのためなら何でもできるよ? なんだってしてあげるよ? なんだって頑張れるよ? 料理も毎日してあげるよ。リオンの好きなことだってしてあげるよ。勉強もがんばるよ? リオンの好みに合わせるし、その…恥ずかしいけど、えっちなことだって頑張るよ? ねぇ、リオン。だからあたしを見てよ。──あたしだけを見て」

 

 暗い瞳と甘え、媚びるような表情の奥に嫉妬心を滲ませながらノエルは俺の身体にもたれ掛かる。

 ノエルはそっと俺をベッドに押し倒し、髪が乱れるのを気にすることもなく俺の胸に顔をうずめた。

 

「ごめんね、わがままだよね。でも、リオンも悪いんだよ。リオンはみんなに優しいから、みんなに好かれてるから、焦っちゃって──あたしはリオンの特別になりたいから」

 

 ノエルは俺の胸に頬を擦り付けながら、そっと俺の右手を撫でる。

 

「どうしてなんだろうね。あたしはこんなにもリオンが好きなのに、愛してるのに。あたしは誰よりも聖樹の巫女(リオンのとくべつ)になりたいって思ってるのに」

 

 羨むかのように、あるいは憎むかのように。ノエルは俺の持つ守護者の紋章をなぞる。

 

「ねぇ、リオン。あたしのどこが駄目なの? 直すよ、全部直すから。だからリオン──あたしを捨てないで……」

 

 慄える指先、怯えを孕んだ声色。

 

 ノエルは元七大貴族レスピナス家の令嬢だった。

 レスピナス家はこの国──アルゼル共和国において代々議長職を輩出、歴任しその他六大貴族の持つ紋章より格上の巫女の紋章を受け継いできた事実上共和国の王女とも言える。

 

 しかし、レスピナス家はとある背信とも言える理由において没落し現在の議長職は俺の父親であるアルベルク・サラ・ラウルトが代行している。

 

「あたしは、リオンが居ないと生きていけないよ?」

 

 そんなことはない、と。俺は反論するがノエルは首を横に振るう。

 

「あたし知ってるよ。あたしたちが今も暮らしていけるのはリオンのお蔭だって」

 

 親父も甘いよね。元婚約者の家だから、子供まで追い詰められなかったんだよ。それに親父たちはノエルを気に入ってたし。

 

「──逃してくれたのはアルベルクさんだけど、あたしたちを守ってくれたのはリオンでしょ?」

 

 なんのことかわからないな。

 

「ベルトレの家に援助してくれたんでしょ? あたしたちの消息をつかんでずっと助けてくれてたんでしょ? ルイーゼとクレマンから聞いたよ」

 

 知り合いが野垂れ死ぬのを見てられなかっただけだよ。他意はない。

 

「──嘘吐き」

 

 俺の態度が気に障ったのかノエルは俺の脇腹を抓り上げる。

 

「リオンは嘘吐きだね。ねぇ覚えてる? あたしと始めて会った時のこと。二人で追いかけっこなんてして、虫取りなんてしたよね? おっきいクワガタ採ったこと覚えてるんだよ?」

 

 女の子とやる遊びじゃなかったよね。

 

「そうかもね、でもねリオン。あたしすっごく楽しかったんだよ? 家ではお淑やかにしなさいって、レリアを見習いなさいって。ずっと言われてた。ラウルトの家の人が──リオンだけがあたしを見てくれたんだよ。レスピナス家のノエルじゃなくて、リオンと遊ぶときだけ只のノエルでいられたんだよ」

 

 特別なことじゃない、当たり前のことだ。

 

「その当たり前が、あたしにとって特別だったんだよ。ねぇ、リオン──どうして学園で再会したとき、始めましてなんて言ったの?」

 

 何かを言おうとしたがったが、なにも言えなかった。

 忘れていたわけじゃない、けれどその前にノエルが乙女ゲーの主人公だと知ってしまった。

 だから、俺と関わるべきじゃないと思った。

 

「──ノエルさん(・・)なんて聞きたくなかった。他人行儀なリオンなんて見たくなかった」

 

 俺と一緒にいてもろくな事にならない。

 

「──どうして? ねぇ、どうしてそんなこというの? あたしのこと嫌いになったの? 没落したレスピナスに…あたしに価値がないからそういうこと言うの?」

 

 違う、そんなことない。ノエルは立派だしいい女だよ。価値がないなんてそんなことは絶対ない。

 

「じゃあなんで遠ざけようとするの? セルジュはいいのに? エミールはいいのに? レリアも、ジャンもいいのに? なんであたしだけリオンの側に居ちゃいけないの?」

 

 俺より相応しい人がいるから。きっとそっちのほうがノエルが幸せになれる。

 

「相応しいってなに? やっぱりあたしじゃリオンに不釣り合いなの?」

 

 そうじゃない。俺がノエルに不釣り合いなんだよ。俺なんかよりもっと良いやつがいるから──

 

「あたしはリオンが一番好き。リオンじゃないと嫌。ねぇリオン、あたしねずっとこの国が嫌いだった。あたしを見てくれない父さんや母さんも、あたしの欲しかったもの全部もってるレリアも、紋章で格付けされた傲慢な貴族も全部全部、だいっきらいだった。──でもね、リオンだけが違ってた。リオンだけが綺麗に見えた」

 

 リオン・サラ・ラウルトだけが、輝いていたから。

 ノエルにとって俺という存在が何よりの救いなのだと、盲目的に潤んだ瞳が、上気した頬が雄弁に語り掛けて来るようだった。

 

「だからね、リオン。行動で示そうと思うの──ねぇリオン、これわかる?」

 

 ノエルがそう言って取り出したのは鎖で繋がれた腕輪と首輪だった。

 

「ろくな事しなかった両親だけど、研究成果だけは認めてもいいかな」

 

 そう呟くとノエルは躊躇うことなく首輪の方(・・・・)を自ら装着する。

 

「えへへ、似合うかな? 貴方のノエルだワン! えへへ……やっぱちょっと恥ずかしいや」

 

 首輪を付けたノエルは手を耳に見立てて戯けるようにはにかむ。

 それがなんと言うか、可愛いというよりすこし怖かった。

 

「あたしね、リオンのためだったら何でもするよ。ペットにだってなっていいよ。リオンの好きなようにしていいんだよ? ──だからもしあたしが要らなくなったのなら、あたしを殺しても構わないよ」

 

 寒気がした。吐き気がする。

 

「もしあたしを嫌いになったなら、もしあたしが要らなくなったのなら、いつだって切り捨ててもいい。リオンに否定されたのならあたしはもう生きてる意味なんてないから」

 

 そう言ってノエルは俺に向かって鎖の繋がれた先にある腕輪を差し出す。

 

「全部だよ、あたしの全部をあげるから。だから──ずっと、ずーっと…一緒だからね? リオン……」

 

 暗く濁った瞳に狂気を宿して……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──って夢を見たんだよね」

『極めて精度の高い正夢と言えます』




続かない
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