春、それは多くの冒険者志望がギルドに来る
先輩が自身にそれを教えてくれたのは、一体どれくらい前であっただろうかと三つ編みの受付嬢はため息をついた。
兎角仕事が多すぎるのだ、普段のギルド業務に村から出てきた読み書きもままならぬ年若い冒険者志望者の登録業務に
春特有の不審者への注意喚起、そしてギルドに属する冒険者達の昇進審査……。
しかしながら、そんな業務過多であっても決して絶やすことの無い笑顔は彼女がこの5年で仕事に慣れ親しんだ証だろう。
今日もまた新しい冒険者志望者が来る。
扉を開けて入ってきたのは、神官服を身に纏った少女が2人。
長い金髪の神官は錫杖を持ち、もう1人の赤髪の神官はメイスを右腰に下げ左腕には円盾を括っていた。
「失礼致します、冒険者登録はこちらで宜しいですか?」
「はい!こちらの冒険者記録用紙に御記入下さい」
赤毛の少女がスラスラと記入し、もう一枚を金髪の少女へと手渡した。
神殿での教育が行われたからか、文字が読めないという事も無く手早く書き上げていく
「御確認をお願いします」
受付嬢が内容を確認し、許可印を押すとにっこりと笑顔を向けた。
「確認いたしました、早速依頼を受けますか?」
「いえ、暫くボードを見て回ろうと思います」
そういうと少女達は受付のカウンターを離れて依頼が張り出されているボードへと向かった。
その姿を少し不安に見ていたが、次の志望者が現れた為に通常業務へと受付嬢は戻った。
「恒常依頼が地下下水道での溝攫い銀貨5枚、巨大鼠退治ノルマ3匹銀貨10枚、大黒蟲退治ノルマ5匹銀貨10枚……」
「やっぱり新入りには安い仕事しか無いね、2人でやるのも厳しいからせめて剣士が1人仲間に欲しいかしら」
むむむっと依頼の紙を睨む親友に女神官戦士はそう言うと、顎に人差し指を当てて考えた。
宿代に食事代、湯浴みも望めば1日に銀貨10枚は飛ぶのだ。
昇級した時に難易度の上がる依頼も受けれるようになることを考えると、装備を買う為の貯蓄もしたい。
となると、1人頭1日銀貨15枚は最低限欲しいと考えてしまう。
鼠・蟲・溝攫いを下水道一か所でやってしまえば日に25枚。
が、この親友がそこまでの肉体労働に耐えうるかと問われると厳しいと言わざるを得ない。
自分のような開拓村で野山を駆けずり回っていた山猿ならいざ知らず、肌の白い冒険よりもギルド職員の方が似合うであろう彼女が折れないだろうか。
(この子にも防具を整えて貰わないといけないわね)
純後衛である彼女には最終的に鎧下付き司教服や司教杖を装備して貰うとして、自分は大盾に胴鎧そして刺鉄球か?
何と言う事だろうか、しめて銀貨665枚必要である。
(とにかく金が無い、金が有れば問題の8割は解決するのに……)
冒険者なり立ての少女2人に金を稼げと言うのは辛いかろう、双方が歌や踊りが得意と言えど街角で貰えるおひねりなどたかが知れている。
曲がりなりにも神職で育った身で春を売るなど神殿長が嘆く前に殺しに来るか。
結局のところ、命懸けの害獣駆除に行かねばなるまい。
(そもそも冒険者の最初の依頼のイメージって薬草採取って想像は一体何からなんだろう?)
そんなとりとめのない事を考えていると後ろから声をかけられた。
「なあ!君達も新人だろ?」
振り返ると鉢巻を巻き、長剣を腰にはばいた少年と引き締まり鍛えた体の少女、そして眼鏡の奥で勝気に吊り上がった目をした少女の3人組みがいた。
「ええ、今登録したばかりよ」
「あの、貴方達も新人さんですか?」
女神官が少年に問うと、ああ!と溌剌な答えが返ってくる。
「実は、依頼を受けたんだけど仲間を探そうと思ってさ。君達神官だろう?」
「彼女はそうよ、私は一応前衛が出来るけどあまり期待しないでね」
特に技能がある訳でも無いし、とポツリと女神官戦士は呟いた。
「2人も神官が居て、1人は戦士も出来るとかラッキーだな!2人とも小癒は使えるんだろう?」
「私は日に3回小癒と聖光を……」
「私は日に2回小癒と解毒よ」
「本当かい?いや、実は俺達もう金が無くてさ……。それで回復の出来る神官を探してたんだ」
2人合わせて5回有るなら水薬は必要ないなと笑う剣士を見て、すぅっと女神官戦士の目が細まる。
(そう思うのは仕方ないにせよ、神職を水薬替わりと笑ってどう思われるか考えないの?)
とは言え、彼の言い分も理解できたし納得も出来た。
何せ、傷や体力回復の水薬や毒消しの水薬は1瓶銀貨10枚する。
合わせて5回使える神官2人居れば、最大で使っても1日銀貨50枚分が浮くのだ。
その分装備に回せるなら、新人としては有難い事この上なかろう。
大なり小なり自分も似たような思いは有るのだ、彼の無神経を咎める口は無い。
「それで、依頼と言うのは?」
「ゴブリン退治さ!」
「……内容は分かったけれど貴方達の事も話してくれる?配置とか技能を知らないと」
「そんなの、ゴブリン退治で知る必要あるか?それぞれ戦えば楽に終わるって」
「少なくとも私は盾持ちとして一番前に出るんだから、自分の背中の心配までしたく無いわ」
「随分と慎重なのね、それとも臆病なのかしら?」
それまで黙っていた魔術師の恰好の眼鏡少女が口を挟む。
自信ありげに豊かな胸を反らし、女神官戦士を睨みつけている。
「少なくとも、名前も知らない相手に命を預けれないのはお互い様でしょう?」
「はいはい、喧嘩しない!この子の言う事も間違ってないんだから、自己紹介位はしようよ」
パンパンと手を叩きながら格闘家然とした少女が割って入る。
先ほども言ったように、名前も知らない相手と言うのはシコリがある。
「それじゃあ、俺からだな。俺は【青年剣士】、職業は戦士で登録してる!」
「私は【女武闘家】。職業は武道家なの」
「……【女魔術師】、見ての通り魔術師よ」
それぞれが名前とギルドに登録した職業を述べる。
こちらも名乗るべきだろうが、職業に関してはさっき剣士に言ったから構わないか。
「私は【女神官】です」
「私は【女神官戦士】よ、魔術師は何の魔法を使えるの?」
女神官戦士がそう聞くと女魔術師はふふんと得意げに語り始める。
「王都の賢者の学院を首席で卒業したのよ、【火矢】を日に2回使えるわ」
賢者の学院と言えば随分な名門だ、そこを首席卒業ともなれば王宮の宮廷魔術師への道だってあっただろう。
なぜこのような辺境の街で冒険者をしているのかと疑問に思ったが口を噤んだ。
「そう、なら貴女は切り札になるわね」
少なくともただの小鬼に使うのは勿体ない。
使う機会があればあったで困りものだが……
「ええ、勿論よ」
女魔術師はそれが分かっているのだろうか、その自信に満ちた顔を見ていると不安に襲われる。
こういうタイプは咄嗟の出来事に弱いだろう。
「もうすぐ依頼に有った場所よ」
武闘家がそう言って指をさした坂の向こうに洞窟があった。
ここに攫われた娘と小鬼が居る、そう思っていると視界にどうしても入ってくる物が有った。
「なんだ?これ」
剣士が触った趣味の悪い立てかけの棒、故郷が滅びてから怪物の情報を集めていた己の知識がその答えを出した。
「トーテムポールよ、不味いわね……。この巣穴は上位種の呪術師が居るわ」
その場の全員の視線が集まる。
そのまま女神官戦士は話し続ける。
「これは群れの長が呪術師になった場合にそれを示す勲章みたいなもの、既に中規模の群れになったと考えて良いわ。となると、用心棒として流れの田舎者も居るでしょうね」
初っ端に新人冒険者がやる依頼じゃ無いだろう、少なくとも鋼鉄等級の冒険者がやる案件だ。
ここで与えられる選択肢は2つ、行くか退くかだ。
そして女神官戦士は怪物を相手に退くという選択肢は選ぼうとはしなかった。
「私が先頭に立つわ、【魔術師】と【神官】を真ん中に貴方達のどちらかが護衛で彼女たちの後ろについてくれる?」
「それなら俺が前に行くよ、【武闘家】頼めるか?」
「ええ、良いわよ」
隊列を組み、洞窟の中へと入ると他の種族達と違い暗闇を見通す目など無い只人だ。
ボッと音を立てて松明に火が付くと、灯りがむわっと湿気を感じさせる洞窟を照らす。
ただ、女神官戦士は奇跡を賜り体を鍛えただけの少女だ。
こういう狭い場所で戦う為に、取り回しの良いメイスを武器に選んだがそれは戦うための選択である。
そして戦うのと知るのは違う、神官戦士は斥候が居れば楽になるだろうと実感した。
「……また有った」
暫く歩き続けると、入り口にあったトーテムポールと同じ物が見えた。
これで確定だろう、呪術師が居るとなると魔術師の【火矢】が重要になる。
奥へ進むたびに悪臭が酷くなるのが分かった。
「皆、固まって行動しましょう。出来るだけ自分の武器に巻き込まない程度の距離は取りながら」
コツンコツンと洞窟に足音が響く中、ベタベタと素足で走る音が聞こえてきた
魔術師が持っていた松明を投げると、小鬼の群れがこちらへ走ってくるのが落ちた松明に照らされた
女神官戦士の頭にザアっと血が集まり、心はサアっと冷えていく。
ぐっと右手に力を入れ、メイスを振りかぶりそのまま小鬼の頭目掛けて振り下ろす。
2kgの鉄の塊が15歳の女性とは思えない程鍛えた腕力で振りぬかれ、小鬼の頭蓋は石畳に落とした西瓜のように弾ける。
「この、この、この!」
「っ、【剣士】!狭い場所で長剣なんか振り回すな!」
ぶんぶんと、素人剣術……つまりは型も何もない振り回し青年剣士は小鬼を、そして神官戦士も近づけない。
切っ先が神官戦士の僧服の袖に切り目を入れたほどだ。
「喉目掛けて突けばそれで良いって!そんなに振り回したらあんたが危ない!」
そう声をかけた瞬間、女神官の悲鳴が聞こえる
「後ろからも小鬼が来たわ!戻って!」
女魔術師の叫びで自分達が罠にはまったことを神官戦士は悟った。
だが、一本道だったこの洞窟でどうやって小鬼は後ろに回り込めたのか?
そんな疑問があったが、今はこの状況を乗り切るしかない。
剣士と共にこの小鬼を滅し、後方の3人と合流。
一度、洞窟から出るべきか?
先に走らせるべきは掛かり気味の剣士だろう、盾持ちの自分が殿になった方が良い。
だが、神の骰子と言うのは良きにせよ悪きにせよドラマチックな物だ。
こんな時に限って蛇の目が出るのだから。
「あっ」
その声を出したのは剣士だったのだろうか、神官戦士だったのだろうか。
洞窟の天井にぶつかった剣士の長剣がカランと音を立てて地面に落ちる。
「GOBBB!」
ニヤニヤと弱い獲物へ目掛けて小鬼がその粗末な武器を掲げ……
そしてそのニヤけ面を横から思いっきりメイスが叩きつけられ、もう1匹は盾で殴られ吹き飛ばされた。
「早く立て!剣を拾って走って!」
「す、すまん!」
青年剣士が長剣を拾い、後衛の元へと走り出す。
自分もその後に続こうとした瞬間、悪寒を感じた。
後ろを振り向くと、そこには普通の小鬼よりも大きい大金棒を担いだゴブリンがこちらに走ってくるところだった。
「ホブ……ッ!」
欲望に目をギラつかせ、ニタつきながら走るその顔に怒りが湧く。
しかし、今この状況で戦うのは悪手でありせめて魔術師の援護を得られる状況に持って行かねばならない。
そのはずなのに、何故、その魔術師は倒れているのだ?
「彼女……、刺されて……、毒が……」
ああ、世の中は上手く回らないと知っていたのだ。
そんなことは村が滅びた時に身に染みて分かっていただろうに。
「【剣士】!その子背負って!洞窟を出て広い場所で戦う!解毒はそこで!」
「分かった!」
青年剣士が女魔術師を背負って走り出し、他の2人もそれを追う。
入る時は一本調子で退屈にも感じた道のりが、追われ仲間が死に瀕している脱出となるとなんと長い事か。
(とにかく、外へ出る事。【剣士】と【武闘家】がホブを相手にしている間に【魔術師】に解毒を施し、私も戦列に復帰する)
盾役の自分が攻撃を受け、火力役の2人が仕留める。
復帰した魔術師が【火矢】を放てば最高だ。
その為にも、まずはあの光の先へと出なければならない。
そんな考えが途切れたのは、ゆらりと現れた使い古した鎧兜が持っていた剣を女神官戦士に向けて投げたからだ。
一瞬の躊躇の後、身を大地に伏せたその時、後方からホブゴブリンの絶叫が聞え、先ほどの鎧兜が走り抜けたところが見えた。
その後を追うように視線を向けると、倒れたホブの胸に刺さったショートソードを体重を乗せて刺していた。
「負傷者1名、他は無事か。運が良い」
「あ、あんたは……?」
青年剣士の震えた声に、鎧兜は答える。
「ゴブリンスレイヤー」
「いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者の血より、病毒をお清めください。【解毒】」
ガチガチと歯がかち合う音が女魔術師からなくなり、険しく歪んでいた顔が緩む。
体内から毒が無くなり、救命処置が完了した。
「これでもう大丈夫、毒は抜けたよ」
「あ、ありがとう……」
「ううん、一緒に依頼受けた仲間でしょ?」
女魔術師は俯きながらも感謝を述べ、女神官戦士はその肩を叩いた。
ぐっと背筋を伸ばすと、神官戦士はゴブリンスレイヤーへと近づく。
「まだ迎撃に出てきた連中しか殺れていません、探索も一本道なので真っすぐ進んでいただけです」
「一本道ではない」
「そんな事無い!俺達はずっと道を真っすぐに進んだんだ!どこにも分かれ道なんて無かった!」
「横穴だ」
横穴、その場にいた全員がポツリと呟いた。
ゴブリンは死んだ冒険者の武器を使う時がある、ならばそれがツルハシでないなどと誰が言えようか?
「これから残りのゴブリンを殺しに行くが、お前達はどうする」
「行きます、依頼ですし怪物は殺さねばなりません」
「そうか」
神官戦士がそう言うと、ゴブリンスレイヤーは先ほど喉を刺したホブの腹を引き裂き布で臓器等を包み手で潰した。
すぐに血と汁が混ざりぐちゃぐちゃと音を立てる。
「それは何を?」
「ゴブリンは金臭さや女の匂いに敏感だ、だから奴らの匂いで誤魔化す」
「なるほど、出来る限りこちらの気配を消すのですね」
そう言うと女神官戦士はホブの腹に手を突っ込み、血を顔や首に塗り付ける。
真っ白い神官服にも引きずり出した腸を擦り付けた為にどんどんと汚れていく。
「ゴブリンスレイヤーさん、申し訳ないですが背中に塗って頂けますか?」
流石に手が届かないので、と言うと背中を差し出した。
そこまで来て、時間が止まっていた女神官が慌てだす。
「な、な、何をしてるんですか!?」
「ゴブリンスレイヤー氏のやり方に納得したから」
「終わったぞ」
背中にもべったりとゴブリンの血を付けた女神官戦士はゴブリンスレイヤーに頭を下げるとメイスを握りしめる。
呆然とその姿を見る仲間達にゴブリンスレイヤーが語り掛けた。
「次はお前達だ」
うええっとこみ上げる物を堪えながら剣士一行は洞窟を進んでいた。
ゴブリンスレイヤーを先頭につい先ほどまで必死で駆け抜けた道を見直していくと、途中であのトーテムポールの横に穴が開いていたのを見つける。
「本当に横穴があった……」
「奴らは馬鹿だが、間抜けではない」
「武器を使う知恵があるなら、道具を使う知恵もあると」
「そうだ、奴らは自ら生み出すことは無いが知恵を盗む」
ゴブリンスレイヤーが進み、一党がその後に続く。
ただ只管それを続け、大きな広い空間へとたどり着いた。
ゲギャギャと呪術師が苛ついた様子でゴブリンを蹴り飛ばす、その先には倒れた只人の女性が居た。
「目を潰せ」
「は、はい!いと慈悲深き地母神よ、闇に迷える私どもに、聖なる光をお恵み下さい【聖光】」
カッと女神官の杖から光が溢れ、暗闇に目が慣れているゴブリンは突然強い光を浴びせられ目を覆った。
その隙を逃さず、ゴブリンスレイヤーが奪ったボロボロの槍を投擲すると呪術師の喉へと命中する。
生じたゴブリンの混乱が収まるよりも先に、戦士職3人が突入し蹂躙が始まる。
先ほどの失敗を繰り返さないために振り回すのではなく、切っ先で胸を狙って突きさす。
女武闘家は流れるような格闘技で次々とゴブリンの首を折る。
ゴブリンスレイヤーは先ほど投げた槍を喉深く突きさし、呪術師にトドメを刺した。
「酷い……」
女神官が布で凌辱を受けていた女性を清めていく。
その時、ゴブリンスレイヤーが骨で出来た椅子を蹴り飛ばし、その隠し穴を全員が見た。
「まだ横穴があったのか……」
青年剣士がうんざりした顔でその穴を覗き見ると、露骨に顔を顰めた。
「子供だ」
穴の中には身を寄せ合い、命乞いをする幼いゴブリンが幾らか隠れており
それが冒険者達の心を暗くさせる。
「子供も……、殺すのですか?」
女神官がゴブリンスレイヤーへと尋ねる。
ゆらりと振り返り、ゴブリンスレイヤーは答えた。
「ここで見逃せば、こいつらは学習する。そして別の所で巣を作り、同じように娘を攫う」
「なら、やるべきことは1つでしょう」
女神官戦士のメイスが掲げられ、振り下ろされた。
「それじゃあ、初依頼達成を祝して……」
「かんぱーい!」
木製のジョッキを合わせエールを流し込む。
帰り道に拾ったホブの金棒を売り払い、上位種含めたゴブリンを退治した金額が占めて銀貨63枚。
ゴブリンスレイヤーのお陰で依頼が達成出来たと言ってせめて上位種の金額分を渡そうとしたが、「いらん」の一言で押し流された。
とは言え、駆け出しに銀貨20枚は大きいので有難く配分させて貰う事にした。
1人当たり約銀貨13枚程度、正確には銅貨6枚の銀貨12枚だが……。
「それで、今回色々と危ない事もあったけどこのメンバーで一党を組まないか?」
「経済的に無理ですね」
えっと、その場の全員が女神官戦士に向けられた。
ゆっくりと全員の顔を眺めると、話しを始める。
「まず、今回の仕事で得られた銀貨は63枚。ですが、ゴブリンスレイヤー氏がいたからこの金額なのです。
何事も無く依頼を遂行できたとして、銀貨20枚。上位種がおらず、回収した武器も売らなかったらこのままです。
銀貨20枚を5人で分けると、1人銀貨4枚。一番安い大部屋に寝るとしても銀貨2枚、朝食を食べると銀貨1枚。
水浴びさせて貰うサービスを使うと銀貨1枚、これで使い切りました。貯蓄が出来ない為、武器や防具に水薬を買う資金が作れません」
「ほ、他の依頼とか……」
「溝攫いで銀貨5枚、鼠やローチ退治でそれぞれ銀貨10枚ずつ。対して変わりませんね、問題点として人数が多いのがまず1点」
ぴんっと、人差し指を立て女神官戦士は語り続ける。
「次に、今回の洞窟で分かりましたが探索役が居ないのが問題です。もし、斥候が居れば横穴に気付き迎撃出来ていたかもしれませんね」
次に中指を立てて指をVの字にする。
「これは、【剣士】さんか【武闘家】さんが斥候職のやり方を覚えるなどで解決するでしょうが本職に加入してもらうのが手っ取り早いです」
「ちょっとそうなると、分け前が分かれるから完全に赤字じゃない」
「ええ、前衛3後衛2はバランスが良いですが駆け出しでするのはキツい人数でした。これが鋼鉄等級なら話は違ったのでしょうが」
ある程度信用があってそこそこの金額の依頼が回されるのが鋼鉄等級からだ、それまでは新人冒険者へ回される仕事はキツい・金払いが悪い・汚いの3つのKだ。
「我々全員が昇級した時に、一党を組むというのであれば反対はしないのですがね」
「そっかあ……、金かあ……、金だよなあ……」
ショボンと剣士が落ち込み、武闘家がポンと肩を叩く。
「それで、あんた達はこれからどうするの?」
女魔術師がそう問うと、女神官が答えた。
「私は……、あの人について行こうと思います」
「彼女1人でと言う訳にはいかないので、私も付いて行こうかと」
「そう……、なら鋼鉄等級になったらまた集まりましょ?」
女魔術師がジョッキを突きだし、女神官達はそれに答えるようにジョッキを合わせた。