ある少年は雨宿りをしていたとき、とある少女に話しかけられる。
その少女から傘を借りてしまい、それを返すためだけの物語。
ある梅雨の日のことだった。
学校帰りにいきなり雨が降り出し、屋根の突き出した本屋の前で雨宿りをしていた。
「まったく、いきなり雨が降り出すなんて...。天気予報じゃ雨降らないって言ってたじゃん。」
そう愚痴るも、雨は降る。
雨に濡れたYシャツを脱ぎ、タオルで拭く。雨のせいか気分は落ち、ただ降りやむのを待つしかなかった。
うるさく地面に雨水が当たる。周りを歩く人の傘に雨水が当たる音もうるさい。
_____何分経ったのだろうか。もう何時間も経ったのかもしれない。俺は体育座りで顔を足の間にうずくめる。
目を閉じ、うるさいと思っていた雨水の音をふと聴いてみる。
聴いてみると、案外うるさくは感じず、ただ自然に満ちている音だった。
「...ねぇ、あなた。大丈夫?」
目を開け、顔をあげる。
顔をあげると、一人の少女がいた。
薄い紫の髪色でショートヘア。見たことない制服で、赤いリボンを首につけている。
「あ...あぁ、傘を忘れてずっと雨宿りしてたんだ。」
「そうなんだ...。じゃあ、私の傘貸すよ。別に返さなくていいからね。」
「いや、別にいいって___」
その少女は俺に持っていた傘を押し付け、雨が降る中頭の上にカバンを持って走っていく。
「ちょ、待って!あんた、別にいらねぇし!それと、名前だけでも教えてくれ!」
そう叫ぶと、その少女は立ち止まる。一歩一歩ゆっくりと踏み出す。静かに時間は進んでいき、雨は強くなる。
俺は傘を差し、近づいて少女を傘の中に入れる。
「紫苑。」
彼女はそう言った。
「俺は、鶴野冬樹。傘、別にいらないから。」
俺は傘の持ち手を差し出そうとしていた。
しかし、彼女__紫苑は見向きもせず、振り返ってさっきのように走っていた。
止めようとするころにはもう紫苑の姿はもう遅かった。
☆ ☆ ☆
あの日から数日が経った。
最初のころは、俺は借りていた傘を家に置いていた。
気にせず、ただ日常を過ごしていた。
...だけど、朝に雨が降っているとあのことを思い出してしまう。
あの傘を見ると、あの時の返さなきゃいけないという謎の気持ちに駆り出されてしまう。
今日も同じように、その気持ちを抱えていた。
俺はあの借りた傘を持ち、家から出た。
雨はあの時と同じよう。うるさく雨水が地面と当たる。
俺は傘を差しだし、いつも行く道で学校へと向かっていた。
だが、俺は途中で道を変えて目的も決めていないのに。どこか別の場所へと向かっていた。
最寄りの駅を過ぎ、奥のほうにある公園へと向かった。
その公園へと向かう途中、俺はあるもの見つけた。
昔から生えている大きな木の下に、リュックが置かれていた。
誰かの忘れ物かと思い、近くの交番へと届けようとそのリュックを持とうとしたときにあのときのように俺は声をかけかれた。
「あ、あの...なにしてるんですか?」
後ろから声を掛けられ、驚き、傘を落としてしまった。
声からして、女の子だろう。
必死にごまかそうにも思いつかない。無理にごまかしても逆に怪しまれてしまいそうだ。
相手も疑いの目を俺に向けている。当然だ。
普通、自分の取ろうとしてる人がいたらそりゃ疑うだろう。
だから、俺は嘘だと思われるだろうが振り返り、こう言った。
「雨宿りしに来たんだ。」
「傘持ってるのに雨宿りしにきたんですね、強盗さん。」
落とした傘を拾い、閉じて荷物を置いて木の陰に座った。
座ってからのその少女を見ると、どこかで見たことのある姿だった。
だが...。雨でワイシャツが濡れていて下着が見えていて、どこを見ればいいのかわからなかった。
「あ、あなた...。」
すると、その少女は俺に顔を近づけ、唇と唇が触れそうになるくらいの距離だった。
しばらく経つと、その少女は思い出したのか俺の名前を呼んだ。
なぜ俺の名前を知っていたのかという疑問があったが、頭の片隅にある「紫苑」という少女を思い出した。
「もしかして、冬樹?」
「あぁ、そうだけど...。そっちは...紫苑か?」
少女は「うん」とうなづいた。
お互いの正体がわかったところでお互いの警戒は解け、木の陰でともに座って話していた。
時間が経ち、雨が止み始めてきたとき。閉じた傘が視界に入った。
紫苑は立ち上がり、荷物を持って立ち去ろうとしたときに俺はその傘を返そうとしていた。
だが、いきなり強風が吹いたときに、俺は一瞬目を閉じた。
再び目を開けたころにはその少女の姿は目の前になかった。
翌日の朝。
俺は朝のニュースを見て絶望した。
昨日の昼、交通事故である少女が亡くなってしまったらしい。
そして、その少女の名前は___紫苑。
俺は嘘だと信じたかった。
まだ、俺は返せてないのに。
いや、でも違う紫苑かもしれない。そうだ、きっとそうだ。
俺は気づけば家から出て、昨日紫苑と会ったはずの場所にいた。
「花...。」
昨日紫苑が座っていた場所には花束が置かれていた。
「花...か...。」
俺はその花束を見てすぐに花屋へと向かった。
ネットサーフィンをしたときに俺はある花の花言葉について知った。
その花は、バラ。
ピンク色の、バラ。
そして、その花言葉は「感謝」
紫苑には、色々お世話になってしまった。だから、感謝の花を与えようと思った。
ピンクの花を抱え、再びあの場所へと戻った。
ある梅雨の日。
学校帰りにいきなり雨が降り始めた。
だが、今回は傘を持っていたから濡れることはないだろう。
いつもの帰路へと着くと、片隅で雨宿りしている少女を見つけた。
「ねぇ、大丈夫?」
「あ...えっと、大丈夫です。」
まるでいつかの俺のようにその少女は答えた。
俺は無言でその少女にスイートピーの柄が描いてある傘を差しだした。
「俺は鶴野冬樹。傘は、別に返さなくていいから。」
少女は傘を受け取り、立ち上がる。
「私は、紫苑。昔、一年前に姉がある人に傘を貸した話を聞いたんですが、まさか自分が借りる側になるなんて思わなかったです。」
「そうか。紫苑によろしく言っといてくれ。」
俺はカバンを頭の上に持ち、走っていく。
雨水が地面と当たる音と、走る音がうるさい。
俺が走っていく中、少女__紫苑はなにかを言っていたようだが、俺には聞こえなかった。
だけど...俺にはなんて言ったかなぜかわかった。
紫苑は俺と同じ気持ちであるということに気づいたから。
「傘、別にいらないから。」
ご読了ありがとうございます。
作者の塩ボウズです。
今回からオリジナルはハーメルン、二次創作はpixivに投稿することにしました。
過去作は消さずに、残しておきます。
今回のお話は、ふだんとは違うようなテイストでしたが、どうでしたでしょうか。