魔物使いで奴隷使い   作:しおだれはみさーもん

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これはアレンがメダリアと出会う前の物語。


E p i s o d e .1【アレン=ジース】

「アレン君は……大切な人の為に力を使ってね…」

 

俺は正義の勇者になりたかった。

 

勇者になれなくてもせめて、人の役に立てる人になりたかった。

 

大切な何かを守るための力。

 

そんな力が欲しくて、勉強も修行も他の同年代の子達が遊んでる時も死にものぐるいでやった。

 

だが、ダメだった。

 

俺は守る側では無く、守られる側だった。

 

あの時も俺に力があれば…

 

────

 

「オラァ!!」

 

「グハッ」

 

コールの拳が俺の顔面に炸裂し、俺は教室の壁に打ち付けられる。

 

「はっ!まだお前はそんな事言ってんのかよ。お前に勇者は無理だ。勇者になるのはこの俺だ」

 

「くっ……コール…!」

 

「行くぞお前ら」

 

「は、はい!」

 

そう言うと、コールは腰巾着を引き連れどこかへ消えていった。

 

そしてコールが消えたと同時に、周りで見ていた人達が俺を嘲笑する。

 

またやってしまった。

 

これで何度目だろう。

 

こんな事をしてても何も変わらないってわかっているはずなのに。

 

でも、どうしてもあいつを目の前にすると言い返さずにはいられない。

 

それがどんな結果を招くか分かっていても……。

 

「大丈夫?アレン君。今日もこっぴどくやられたね〜」

 

そんな声と共に女の子が手を差し伸べてくる。

 

彼女はミカ。

 

俺と同じクラスで、このクラスの学級委員長をしている。

 

容姿端麗、成績優秀、誰に対しても分け隔てなく優しく接するまさに、絵に描いたような優等生でクラスの人気者だ。

 

俺とは真逆の存在と言っていい。

 

何故ミカが俺の事なんかを気にするのか、分からなかった。

 

最初はただのお節介だと思っていたけど違った。

 

ミカは他のクラスメイトと違って、いつも俺に手を差し伸べてくれた。

 

その優しさに触れる度に、俺は胸が苦しくなった。

 

だけど、同時に怖かったんだ。

 

これ以上彼女に甘えてしまえばきっと、もう後戻りできなくなるから。

 

だから俺は彼女を突き放した。

 

それでも、ミカは諦めずに何度も何度も話しかけてきた。

 

彼女のしつこいくらいのアプローチに根負けする形で彼女と話すようになった。

 

彼女と過ごす日々はとても楽しかった。

 

彼女のおかげで友達が数人出来た。

 

彼女と話している時間はまるで、自分が自分では無いように感じた。

 

ずっとこのまま時間が止まればいいと思った。

 

だが、そんな幸せな時間は長く続かなかった。

 

クラスの授業でスラスト平原へ調査をしている時だった。

 

青空が突然赤く、赤く染まっていく。

 

街の方では危機を知らせる鐘が、激しくカンカンカンと鳴らされている。

 

空には大きな魔法陣のようなものが展開されていた。

 

レイド戦だ。

 

先生達は慌てて生徒達に避難指示を出す。

 

しかし、多くの生徒達は恐怖に駆られその場から離れようとしない。

 

俺も恐怖に支配されてしまっていた。

 

そんな中で一人だけ冷静な人がいた。

 

それは他でもないミカだ。

 

彼女は皆を落ち着かせる為に、自ら先頭に立ち誘導を始める。

 

その勇敢な姿を見た他の生徒たちも落ち着きを取り戻しつつあり、避難を始め一部生徒が先生や冒険者と共に戦い始める。

 

その中にはコールの姿があった。

 

「みんな落ち着いて!早く街の中へ!!」

 

そんな中ミカは一人でも多くの生徒を助けようと奮闘している。

 

その姿を見ていると俺の中で何か熱いものが込み上げてくるのを感じた。

 

気付けば俺は走り出していた。

 

今ここで行かなきゃいつ行くんだよ!!

 

ミカの元へ駆けつけると、そこには無数の魔獣達がひしめいていた。

 

俺は無我夢中で剣を振り回し魔獣達を斬り伏せていく。

 

グチャリと不快な感覚が剣から伝わる。

 

血の匂いが鼻をくすぐり、胃の中のものを吐き出しそうになるが斬って斬って斬っていく。

 

だが、魔獣の数はどんどん増えていき、次第に捌き切れなくなってくる。

 

疲労が蓄積し動きが鈍くなったその時、一匹の魔獣が俺に向かって爪を立て飛びかかってきた。

 

──しまったッ! そう思った時には既に遅かった。

 

俺の目前に鋭い牙を持つ口が迫ってきていた。

 

ああ……ここで俺は終わるのか……

 

思わず目を瞑り死を覚悟した瞬間、耳元で聞き慣れた声が聞こえた。

 

目を開けると俺のすぐ隣にミカの姿があった。

 

そしてミカは俺を庇うようにして立ち塞がり、俺の代わりに魔獣の攻撃を受けていたのだ。

 

血飛沫が舞い、彼女の身体が崩れ落ちる。

 

「ミカッ!!!」

 

「ア……レン……くん……無事……?」

 

「どうして……俺を……!?」

 

「ふ……はは……やっぱり……アレン君は優しい

ね……」

 

「喋っちゃダメだ!!すぐに治療をすれば助かるかもしれない!」

 

「無理だよ……私じゃもうどうしようもないよ」

 

「くそっ!なんでこんな事に……。ごめん……俺のせいでこんな目に……。俺なんかの為に……。俺なんて見捨てれば良かったんだ……。俺みたいな奴を……」

 

「ううん……私は嬉しかったよ……。君が必死になって助けに来てくれた事が……。それにね、君になら良いかなって思えたの……。私悪い子だから……君なら私の事を救ってくれるかもって……。君が正義の勇者様になってくれるんじゃないかって……」

 

ミカは力無く微笑むと俺の手を取り、自分の胸に持っていく。

 

「アレン君……お願いがあるんだけど聞いてもらってもいいかな……?」

 

ミカの言葉を聞きながら俺は涙を流す。

 

やめてくれ…そんな事言うなよ……。

 

お前までいなくならないでくれよ……

 

俺は……ミカに生きてて欲しいんだよ……

 

だけど俺には言葉が出なかった。

 

彼女の願いを聞くことしか出来なかった。

 

俺が何も言わないのを見るとミカは話を続ける。

 

「アレン君……強くて優しくてカッコいい勇者様に……」

 

そして彼女は最後の力をふり絞り言葉を紡ぐ。

 

「アレン君の力は……大切な人のために使ってね……」

 

「あぁ……わかった。約束する。俺は絶対に強くなる。この世界を救う勇者になる」

 

「ありがとう……アレン君」

 

彼女は満足そうな笑みを浮かべるとそのまま動かなくなった。

 

「ミカァァァ!!!!」

 

俺は叫び続けた。

 

喉が枯れるまで叫んだ。

 

だが、どれだけ叫んでも彼女は戻ってこなかった。

 

「俺は……俺は……!!お前の事が……」

 

その先は言えなかった。

 

言ってしまえば彼女が消えてしまう気がして。

 

俺は彼女を抱きしめたまま泣き続ける。

 

それからどれくらい時間が経っただろうか。

 

空に展開されていた魔法陣が徐々に薄くなっていく。

 

やがて完全に消えると魔獣達も全て姿を消していた。

 

俺は立ち上がり周りを見渡す。

 

すると遠くの方から誰かが走ってくるのが見えた。

 

その人物はこちらに近づいて来ると目の前で倒れているミカを見て、息を飲む音が聞こえる。

 

その人物とは、コールだった。

 

彼は信じられないという表情で呟いた。

 

「おい……嘘だろ?まさか……そんなはずはねぇよな?」

 

そんな彼の様子に気付いたのか、近くに居た他の生徒達が集まってくる。

 

皆が彼女の死体を確認すると絶望したような顔になり、中にはその場で吐いている生徒もいた。

 

そんな中でコールだけは違った。

 

まるで、別人のように怒りに満ちた形相で俺に近づき、胸ぐらを掴むと思いっきり殴りつけた。

 

何度も何度も拳を振り下ろす。

 

その度に口から血が流れ出る。

 

それでも、コールは止まらない。

 

見ていた他の生徒達はコールを止めようとするが、コールは振り払い更に俺を殴る。

 

「テメェが……!テメェがついていながら何やってやがった!!」

 

「……ッ!」

 

「どうしてミカを守ってやらなかった!答えやがれ!!」

 

「……」

 

「何とか言いやがれぇッ!!」

 

コールは俺を地面に叩きつけると馬乗りになった。

 

そして、俺の顔面をひたすら殴打し始める。

 

俺は抵抗しなかった。

 

抵抗する気力すら起きなかった。

 

だから俺はただ殴られ続けていた。

 

しばらくすると、騒ぎを聞きつけた先生達がやってきてコールを止める。

 

「クソックソ……」

 

先生達に止められてもなお暴れていたが、次第に大人しくなっていき、最後には項垂れるように膝をつくと涙を流し始めた。

 

「畜生ぉ……なんでだよ……。なんでこんな事になっちまったんだよ……」

 

俺はそんな彼をぼんやりと見つめていた。

 

彼もミカの事が好きだったんだろう。

 

俺と同じように。

 

後日、ミカの葬儀が行われた。

 

多くの人が参列し、その中にはコールの姿もあった。

 

葬儀が終わると、俺は一人墓地に来ていた。

 

そこにはたくさんの花が添えられており、ミカが愛されていたのがよくわかる。

 

俺は花束を置くと手を合わせ、目を瞑り祈る。

 

──ミカ。

 

俺は……君とも約束を守ってみせるよ。正義の勇者になってみせる。

 

俺はミカの墓前でそう誓った。




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