自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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第四章 第四話「第八師団と相棒達の活躍について」
ミーティング


 事の発覚は比乃とオーケアノスの接触から二時間後と、意外にも早かった。

 

 先週から、オーケアノスとAMWの密輸入現場を血眼で追っていた県警の捜査部が、組み立て前の機体の部品らしきものを積み下ろしている現場を発見。監視を続けた結果、なんと、そこにオーケアノスと手配にあった少女が現れたのだ。そして、情報にない十代前半に見える少年の姿もそこにはあった。

 

 県警は当初の方針通り、速やかに陸自に情報提供を行った。第一師団に送られた情報は精査され、そこがオーケアノス一味のアジトであると想定するに至る。この時、報告を受けた柴野陸将と部下である陸佐達の間で、その少年という存在が大きく引っ掛かった。

 

 奴らが人質を取る必要性などない。少女を部下として連れているのだから、その少年も仲間なのではと主張する陸佐達を窘め、陸将は一つの心当たりから、沖縄の駐屯地へと連絡を取った。

 

 受話器に向かって「お前の部下の、そう、小さいのの一人だが、身体的特徴を教えろ……そうだ……接触があった? 何故言わなかった……何?」次第に受話器に向かう柴野の表情が険しくなり「馬鹿野郎!」と怒鳴り声を上げた。

 

「確かに俺はお前に嫌という程借りがあるし、言ってしまえば弱みの一つも握られてる。だがな、同時に恩もあるんだぞ、そんな奴の部下を易々と見捨てる将校がいるか!」

 

 受話器の向こうからの、第三師団師団長――部隊長の「すまん」という呟くような謝罪に、陸将は「これは一つ貸しだぞ。また連絡する」と返して、受話器を置いた。

 

 そして、通話を見守っていた部下達に、深刻そうな顔で告げる。

 

「緊急事態だ。自衛官が一名、拉致された。これより救出作戦を開始する」

 

 聞いた陸佐が「まさか」と呻く。先日送られてきた手紙、そこに書かれていた“目的”とは――

 

「どうも、そういうことらしいな」

 

 部下が言わんとしたことを察した柴野が言うと、陸佐は無言で通信室へと走って行った。

 

 事を大きくしてテロリストを刺激するわけにはいかないという、陸将ら幹部たちの見解の一致から、情報が伝えられるのは一部の師団に限られた。その中には、現場に近く、同時に拉致された比乃がいた第八師団もあった。

 

 テロリスト捕縛並びに、自衛官救出のためにオンライン会議が開かれる手筈が進む。各分担毎に指示を受けて、慌ただしくテーブルに投影機器やマイクなどが設置されていく。喧噪の会議室の中、柴野陸将は組んだ手の内で呟いた。

 

「日野部め、今度の飲み会はお前の奢りだぞ」

 

 ***

 

 第八師団の駐屯地で、部隊長からの連絡を受けた志度と心視は頭を抱えた。普段は過保護なくらい比乃にくっ付いている二人だが、今回は不運な事に、二人揃ってデスクワークを行なっていて、比乃の外出を知らされていなかった。恐らく、本人もすぐ戻るつもりだったのだろう。

 

「どうしよう……どうしよう……」

 

 心視がうわ言のように繰り返しながら廊下を行ったり来たりし、志度は爪を噛んで何か考え込んでいる。

 これでは一年前と同じだ。いや、今度は怪我なんかでは済まない、比乃が殺されてしまうかもしれない――焦燥感に苛まれ、いっそ今からでも徒歩で捜索にと立ち上がった。

 

 二人が外へ向けて走り出す前に、駆け寄ってきた人物がいた。第八師団の師団長、高橋一佐と、部下の清水一尉である。

 

「二人共ここに居たか」

 

 どうやら志度たちを直接自分の足で探していたらしい。動揺しながらも敬礼する二人に、一佐は告げる。

 

「大筋の流れは聞いた。それで先程、日比野三曹の救出作戦が先程決まった。二人にも参加してもらいたい」

 

「お二人には作戦の要になってもらいます。ミーティングルームに急いでください」

 

 言って、身を翻した一佐と一尉に、二人は早足で付いて行く。この状況ではっきりしていることはただ一つ。一刻も早く、比乃を救い出さなければ、彼の命が危ないということだけだった。救出作戦への参加を断る理由はなかった。

 

 

 

 駐屯地のミーティングルームと呼ばれる部屋。会議室を改装した簡易的な作戦室では、ホワイトボードに貼られた地図の前に設置された椅子が並んでいる。それに、この駐屯地所属の機士達が続々と着席する。その中には、志度と心視の姿もある。

 

 二人の内心には不安があった。相手は、あのオーケアノスという大物テロリスト。その部下には自分が手も足も出ない少女もいる。そんな相手に、規模が大きいとはとても言えないこの駐屯地の部隊で、太刀打ちできるだろうか。

 

 そんな二人の不安を他所に、集まった隊員達の前に立った高橋一佐が、大きく咳払いをしてから、作戦概要を説明し始める。

 

 敵の潜伏場所、想定される規模、周囲の状況、そして第一、第三、第八師団の上層部で話し合われて立案された具体的な作戦内容を、図を使って順番に説明する。そして、一通り説明を終えた一佐は、くるりと座っている隊員達に向き直った。

 

「諸君、先程説明した通りだが、この駐屯地に間借りしていた機士が一名、凶悪な国際テロリストに拉致された。その目的は不明だが、我々はなんとしてもテロリストの手から彼を救出しなければならない。彼は教育隊の面倒を見てくれている恩人であると同時に、問題児を矯正してくれた恩人だからな。また、テロリストの確保も成し遂げなければならない。相手のこれまでの手口から言って、自爆攻撃を仕掛けてくる可能性が高く、事は慎重に運ばなければならない」

 

 困難な作戦だ。誰かが「簡単に言うよなぁ」とぼやく。しかし、高橋はなんて事なしに「だが我々には強力な助っ人、第三師団の機士が二人もいる。それにだ」と言って、にやっと笑った。周囲の視線が、心視と志度に集まる。

 

「周りからは場末部隊だとか、寄せ集めだか、養育専門部隊だなんだと言われているが、これは我々の力を発揮する大きなチャンスだ。助けを求めているのは王女様じゃなくて王子様だが……どうだお前たち、心踊らないか?」

 

 高橋の状況とは場違いな軽薄な問いに、駐屯地所属の機士達は無言で、しかし目には確かな闘志を滾らせて、己の指揮官の目を見返す。それに高橋は「気合充分で結構」と大仰に頷いた。

 

 志度と心視はその周囲の妙な空気に飲まれそうになったが、同時に、先程までの不安はすっかりなくなっていた。この部隊は頼りになるかもしれない。自分たちの経験と勘がそう告げていた。

 

「よし、それじゃあお姫様……じゃなかった。王子様を助けに行くぞ!」

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