自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~ 作:ハの字
一発の銃声と、何かを砕いた音を聞いて、志度は心視が勝利したのだと確信した。嘆息と共に呟く。
「本当に敵には回したくない奴だ」
敵であるテロリストに、あれだけの腕をした狙撃手がいたらなんて思うと、心底怖い。彼女とは、自衛官になった時から一緒にいるが、あれほど狙撃の腕に恵まれた、俗に言う天賦の才というのを持っている奴は、そうはいないことくらい、志度にもわかっていた。
とにかく、比乃を守っていた最後の障害はこれで取り除かれた。志度は一応用心しつつ柱から身を乗り出して、周囲を再度観察する。
すでに薄暗くなってきた倉庫の中に、他に人影は見当たらない。人質を守っていたテロリストはあれだけだったようだ。それだけ、狙撃の腕に自信があったということだろうが、相手が悪かったとしか言えない。
志度はふうっと一息吐いてから、物陰から出て比乃が倒れている方へ歩み寄ろうとした。そこでふと、ある違和感に気付いた。
先ほどまで外で響いていたAMW同士の戦闘音も止んでいる。心視が敵を排除している間に、ペーチルを掃討しているという連絡は受けた。だが、それ以降の通信は行なっていない。なので、それ以降の戦闘の推移は聞いていなかった。
普通に考えれば、すでに敵機の殲滅を終えているからこそ、この静寂があるはずなのだが。志度は酷く、嫌な予感を感じていた。
通信端末を取り出し、教えられていた第一小隊の隊長機に通信を試みるが、応答なし。第二小隊の方にもかける、こちらも、応答はなかった。
これは、酷く良くない。志度の背筋にぞわぞわと悪寒が走る。
直感から、志度は急いで比乃に駆け寄ろうとした。その時、飛来音と共に、屋根を突き破ってそれは現れた。
丸っこいボディに青色の塗装。志度の見たことのないAMW。オーケアノスが操る青い機体が、ちょうど志度と比乃の間に落下して来たのだ。その腕のクローアームには、撃破した機体の物らしい頭部、よく見慣れたTkー7のそれを串刺しにしていた。
これが、外の静寂とその戦闘結果の答えだった。志度の顔から血の気が引いた。
その機体のモノアイがぎょろりと蠢く。一つ目は志度を見つけると、無造作に、手にしていたTkー7の頭部を投げつけてきた。
志度が、超人的な身体能力を駆使して全力で後ろに飛ぶのと、さっきまで居た場所に、逆三角形型の残骸が叩き付けられて、バウンドして転がるのは、ほぼ同時だった。
さらに落下の衝撃で散らばった破片から身を守るために、咄嗟に伏せてそれをやり過ごしたが、比乃との距離は大きく開いてしまった。
その隙に、謎のAMWがマニピュレータを器用に使って比乃を掴むと、そのままフェリーの方へと歩いて行く。
そこへ、奥の扉から入ってきた心視が、一瞬目を見開いて、すぐに状況を認識すると、側にあったタラップを駆け上った。
倉庫の二階部分になっている足場に登ると、即座に狙撃銃を構える。すぐに照準して発砲。メインカメラらしいモノアイに向かって射撃を加えるが、弾丸はセンサー保護の硬化ガラスに難なく弾かれてしまった。
しかし、それでも二射、三射と射撃を辞めない心視が鬱陶しくなったのか、そのAMWが空いている右腕の先端を心視に向けた。そして次の瞬間、その先端から細長い、透明に近い何かが発射された。
その正体不明の攻撃は、思わず身を竦めた心視の僅か数メートル隣を切り裂いた。
熱でも物理的な刃でもないそれに切断され、支えを失った足場が斜めに傾斜していく。その上にいた心視はたまらず、狙撃銃を捨てて柵にしがみ付いて難を逃れるが、続いてそこに撃ち込まれたもう一撃がさらに足場を破壊し、彼女の身体は瓦礫と共に地面に落ちた。
その間に、志度はTkー7の残骸を避けるようにして、船に駆け寄ろうとした。だが、その足元を銃撃が襲った。たまらず、残骸の裏に飛び込む。
なんとか顔を出して見れば、船上にはこちらに銃を向けている兵士が、見える範囲だけでも十数人もいる。それらは隙も無く、こちらに狙いを定めていた。
あれだけの数を前に飛び出したら、あっという間に蜂の巣にされてしまうだろう。志度は舌打ちする。なんとかしたいが、相手がAMWと武装した集団では、生身の自分にはどうにもできない。
「比乃!」
思わず叫ぶが、その声は届かない。助け出したい相棒はぴくりとも動かず、そのままフェリーへと運びこまれてしまう。
そしてフェリーに比乃を下ろしたAMWは、今度は志度の隠れている方に左手を向けた。そこに着いているのは、大型のグレネードランチャー。
不味い――と声に出すよりも早く身体が動いていた。受ける銃撃も無視して、全力で倉庫の方へと引き返す。榴弾が残骸辺りに向けて発射される。スローモーションのような感覚の後、弾頭が地面に着弾、爆発と衝撃破を撒き散らした。
「ぐあっ!」
熱と衝撃、破片を受けて志度の身体が浮いて、木の葉のように吹っ飛んだ。そのまま地面を転がり、幸運にも倉庫の中へと転がり込み、銃撃を浴びずに済んだ。
しかし、身体の節々を打ち付け、朦朧とする意識はどんどん遠退いて行く。そして、銃撃が止んだ音と何か巨大な物が水中へと没する音を耳にして、志度は意識を失った。
第一師団からの援軍が到着した頃には、すでにフェリーも、正体不明のAMWも、テロリストの姿もなかった。
その場に残されていたのは、敵味方合わせて二桁に及ぶ、破壊し尽くされたAMWの残骸と、負傷した二人の自衛官、そして一対の義足だけだった。
足場や倉庫だった物の残骸から救助された少年少女の顔を、第三師団の同僚達が見たらこう言っただろう。
“