自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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敗者の苦渋

「日比野っちゃーん!」

 

 護衛艦の格納庫。Tkー7から降りるなり、宇佐美は同じく機体から降りて来た比乃に抱きついて、そのままぶんぶん振り回した。

 

「もー、敵に拉致されちゃうなんて、ドジを通り越してるわよ! ドジっ子なんて今時古くて流行らないんだから辞めておきなさいな! 私個人としては、そこも日比野ちゃんの可愛い所だと思うけど」

 

「相変わらずですね、宇佐美さん……」

 

 首をがくんがくん揺らしながら、比乃は若干疲れた様子で呟いた。そこに安久もやってきて「まったくだぞ、比乃」と、比乃の予想外にも宇佐美に同意した。

 

「聞けば、囮捜査をしようとして失敗した結果がこれらしいではないか。宇佐美の言葉を借りるが、とんだドジをしたものだな」

 

「ご、剛……」

 

「これに懲りたら、もうリスクが伴う危険な作戦をやろうとは思わんことだ。お前はまだまだ未熟なのだからな……そうだ、いっそのこと沖縄に戻ってくればいい。俺がきっちり鍛え直してやる」

 

「ちょっと剛、日比野ちゃんには学校があるんだからそれはダメよ。逆に私たちが東京に行ってあげれば、学業と訓練も両立できるし、日比野ちゃんを守ることもできて一石三鳥よ!」

 

「む、その手があったか……では帰ったら早速部隊長に直談判を……」

 

「第三師団が過労死しちゃうから辞めてあげて……というか、久々に会ったけどほんと変わらないね……」

 

 抱きしめられたままの比乃が、二人のテンションについて行けず疲れた様子で言う。そんなやり取りをしていると、Tkー7から降りてきた志度と心視が駆けて来た。

 そして比乃が地面に降ろされると、今度は二人が飛び込むように抱きついてきた。今度はよろめかず、しっかりと二人を受け止める。

 

「本当に心配したんだからな……」

 

「もう……こんなこと……絶対ダメだから……」

 

 そう言う二人が感極まって涙ぐんでいるのにつられて、比乃も少し涙声になりながら、

 

「みんな、改めて有難う。正直、もうダメかと思ってたけど、こうして助けてくれて本当に感謝してる」

 

 礼を言って小さく頭を下げる。安久は「とにかく、無事で何よりだ」と言って腕を組んでうんうん頷き、宇佐美は「感動の再会シーンね……」よよよ、と目元を拭うようにしていた。

 

 比乃はそっと二人を身体から離そうとして、膂力差でそれが出来ずに断念しながら「そうだ」と思い出したように、未だに泣いている二人を抱き抱えたまま安久と宇佐美の方に向き直る。

 

「あそこにいる間に、テロリストの構成員から聞き出した情報がいくつかあるんだ。後で部隊長に知らせないと」

 

「そんなに重要な話か」

 

「うん、奴らの規模とか、テロの目的とか……これまでのテロにも関係する話」

 

「そうか、では向こうに着いたら部隊長に話すと言い。どうせ、横須賀辺りで我々の帰りを待っているだろうからな、あの人は」

 

「沖縄のこと放りっぱなしでね。それにしても日比野ちゃん、ちゃんと諜報までするなんて偉いわねー、ご褒美のチューしてあげよっか?」

 

「いやそれは……」

 

 拒否する比乃の顔に、「んー」と顔を近づけた宇佐美の顔面を、小さい掌がぺチリと遮った。安久が見れば、そこには鬼の形相……にちょっと近づいている無表情の心視が、涙も引っ込めて、いつもの口調で、

 

「絶対駄目……宇佐美でも」

 

 と言って、更にぎゅっと比乃を抱き締めた。比乃の「ちょっ、心視、ギブギブ」という苦しそうな声はスルーされている。

 

「あらやだ、心視ちゃん、執着度アップ?」

 

「ううむ……度し難い」

 

「あ、ずるいぞ心視、俺も比乃を守るんだかんな!」

 

「ちょ、心視はともかく志度の本気は洒落にならな――」

 

 少年の「ぐぇぇぇっ」という絞り上げられたような悲鳴が、格納庫内に響いた。

 

 ***

 

 ミッドウェー島。朝を迎えた砂浜に、一機のAMWが立っていた。朝日を浴びて光る丸っこいボディには傷一つ付いておらず、片腕のクローアームには、すでに風化し掛かっている宝石で出来た腕のような物がぶら下がっていた。

 

(逃したか……)

 

 どうやら、こちらに幸運は来なかったらしい。案外バランス理論というのも当てにならない物だ。コクピットの中、オーケアノスは無言で逃げた目標がいるであろう海を眺めて、そんなことを思っていた。

 

 いくつかの施設が破壊され、AMW、ペーチルはそのほとんどが撃破されてしまった。基地の被害は甚大と言わざるを得なかった。代わりに、奴ら――ジュエリーボックスと名乗った奴らの残骸は山ほど手に入ったが、それだけでは割に合わない。組織の解析チームは喜ぶだろうが。

 

「日野部め……」

 

 ぼそりと、その名前を呟く。本当に忌々しい男だ。今回の作戦を手引きしたのも奴だろう、いったいどういう手を使ったのやら。どうせ、“あの時のように”非合法な手でも使ったに違いない。その才覚を別のことに使えば、いくらでも世界を良くできただろうに――

 

 オーケアノスはコクピットハッチを開いて外に出ると、操縦服のポケットから煙草とライターを取り出し、淀みない動きで火をつけた。そして一息吸って、煙を吐き出す。

 

「まぁ、いいさ」

 

 これで終わりではない。日本などいくらでも手の出しようがある国だ。目標――比乃を再度拉致するチャンスも、そう少なくはないだろう。

 

 それよりも、今はこの中継地を失った損失を埋める手立てを考えなければならない。

 中継地点とは言えど、数少ない貴重な基地を一つ失ったとなれば、米軍は喜び勇んで反攻作戦に出てくるだろう。その前に、戦力の補充をしなくてはならなかった。

 

「厄日というのは、こういう日を言うのかもしれんな」

 

 その手段について考えながら、オーケアノスは吸い切った煙草を日の出に重ねてから、ぴんと指で弾いた。

 

〈第四章 了〉

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