自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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昼休みの同級生

 それは昼休みが始まって五分頃、教師が職員室に戻り、生徒達が雑談に花を咲かせながら昼飯を広げ始めるそんな時間帯のことであった。

 

 ところで、青春、即ち高校生活とは闘争である。とは、誰が言った言葉だろうか。部活動か、学業か、それとも恋愛か――何においても争い、競い合うということは少なくないだろう。

 

 ともかく、AMWによるテロリストとの戦いとはまた違った争いというものが、高校生活にはあるのだ。

 

 二人の少女の些細な口論から始まった、目の前の異常な光景を見ながら、比乃は今まさに、それを実感させられていた。

 

「「「あ、わーしょっい! わーしょっい!」」」

 

「ふはははは、中々やるではないかメアリ、昔を思い出すなぁええ?!」

 

「貴方こそ、あの頃から思っていましたが、ただの令嬢のボンボンではありませんね、森羅さん……!」

 

 がっぷりと両手で組み合った二人の少女、森羅 紫蘭とメアリー三世は、押し合い圧し合いの力比べをしていた。お互いの部下である、黒服と白服が組んだ矢倉の上で、騎馬戦のように。

 

 その高さは天井スレスレまで来ていて、万が一に落ちでもしたらとあわあわしている生徒も何人かいた。しかし、ほとんどの生徒は「やれやれー!」「押せ押せ森羅たーん!」「メアリさんも頑張ってー!」などと声援を送っている始末。

 

 最初に止めに入った晃はと言うと、争いが始まるや否や素早く男子と女子に縛り上げられ、額に「景品」と書かれた紙切れを貼り付けた。まな板の上の鯉とでも言うべき状態で、机の上に安置されている。

 

 口に猿轡をされて「ふご、ふごー!」おそらく止めろと叫んでいるが、その健気な叫びに答える人間は、このクラスにはいなかった。

 

 机や椅子はすでに隅へと片付けられ、教室は一種のコロシアムのような様相になっている。このクラスの奇妙な連携感はいったいどこから出るのだろうか。

 

 そんな中でも、一部の真面目な生徒が迷惑そうにしていたが、日本は民主主義国家。多数の意見には流されざるを得ないのだ。彼らは隅っこに追いやられて寝たふりをするか、黙々と食事を摂るしかなかった。

 

 止める者がいないために、暴走し始めている生徒たちの一部は、博徒と化していたりと、抑え役つまり教師がいないために、やりたい放題の大盛り上がりをしていた。

 

 完全に悪ノリの無法地帯である。

 

「「わっしょい! わっしょい!」」

 

「「ワッショイ! ワッショイ!」」

 

 なお、先程からわっしょいと煩いのは白服と黒服である。お互いに筋肉自慢が集まった為か、それらが組み合っている様はなんともむさ苦しい。矢倉担当の筋肉たちの力はほぼ互角なので、後の勝敗は、一番上にいる二人次第なのであるが、その力比べは見事に拮抗していた。

 

 素の身体能力であれば、いつも元気はつらつな森羅が圧倒的に上だと思われていたのだが、意外にも意外。メアリも中々鍛えられていたのだ。流石は王族と言ったところだろうか。

 

「私、乗馬の他にも色々嗜んでいるんですよ……!」

 

「ふんっ、習い事自慢でこの私に勝てるものか……!」

 

 そんなことを言い合いながら、ぐいぐいと押し合いを続ける二人。その下でわっしょいわっいしょいと掛け声を上げる男たち。その周りをぐるりと囲んでわーわー盛り上がる観客。

 

 そんな彼ら彼女らを見ていた比乃であったが、彼は隅にどけられた椅子の一つに座ると、無言で持ってきた弁当を広げ始めた。完全に無視する構えである。

 

「ねぇ……止めなくていいの、あれ」

 

「いや、僕が出て行ってなんとかする案件じゃないでしょ、あれは」

 

「でも、このクラスの安全保障委員としてどうかと思ってさ」

 

「志度、その意味不明な肩書きはいつ拝命したの? というか僕もそれに含まれてるの?」

 

「俺たちが訓練でいない間に、クラス会議で、三人揃ってこの役職に決まったって言ってたぞ」

 

「あの頃かぁ……!」

 

 不覚、長期欠席中にそんなよくわからない物にされるとは……比乃は頭を抱えた。

 

「というわけで、いっちょ俺と心視であの筋肉山をストライクしようと思うんだけど、ボーリング的に」

 

「やって……いい?」

 

 言いながら、少し楽しそうにうずうずとしている二人を交互に見て、比乃は一瞬、目を瞑って考えてから、

 

「絶対に駄目」

 

 即座にエヌジーを出した。提案を却下された二人はしょぼんと肩を落とす。比乃はこのクラスにすっかり感化されてしまったらしい同僚二人を嘆くようにため息をつく。

 

「というか、あんな悪ふざけに付き合わなくていいから、解った? 解ったらご飯食べよ」

 

 そう言って、さっさともう二人分の弁当と椅子を用意する比乃に急かされて、志度と心視はしぶしぶと言った様子で席に着いた。そして三人揃って頂きますと言おうとした。そのとき、

 

「ひびのーん! 私を友達だと思うなら手を貸せぇー! 任務だぞー!」

 

「ずるいですよ森羅さん?! 日比野さん、私に加勢してくれますよね、ね?」

 

 二人の興味の矛先が比乃達に向いてしまった。箸を取り出したところで固まる三人。

 

 その中で、一番最初に動いたのは比乃だった。箸と弁当を手早く一纏めにして、それを持って席を立ち、すたすたと矢倉二つの間を通っていく。この間、森羅もメアリも、白黒マッチョたちも生徒たちも、なぜか無言。

 

 完全な静寂の中、比乃の足音だけが鳴る教室。大勢が見守る中、教室の出口まで到達した比乃は、扉を開け一歩外に出た。一同に背中を向けたまま、静かに、しかしよく通る声で、志度と心視に告げる。

 

「志度、心視、“やってよし”」

 

 そして、扉をピシャッと音を立てて閉じた。

 

 直後、後ろから「突撃(チャージ)!!」という同僚二人の楽しそうな声がした。続いて、どっかんがらがらと、何かがぶつかる音。崩れる音。クラスメイト達の悲鳴が轟いたが、比乃はどこ吹く風という風に、一人、屋上へと向かって行った。

 

 

 

「どうしてこう、落ち着きがないかなぁ最近の高校生は……」

 

 暴走するクラスメイトたちを嘆くように呟く。比乃の思い描いていた学園生活とは、こんなに騒々しいものではなかったはずだ。そんなことをぶつくさ言いながら、階段を上がって来た比乃の前に、一人の女子生徒が飛び出してきた。

 

「あの、日比野先輩ですよね……?」

 

 先輩、という呼び方に一瞬、米国にいるリアを思い出しながら、比乃は「そうだけど」と返事をする。声を掛けてきたのは、小柄な女子だった。しかし出る所は出て、引っ込むべき所は引っ込んでいる。そして顔立ちも中々、可憐であった。クラスで一番の美人にカテゴリされるタイプの人種だ。

 

「何か用かな?」

 

「あの、その、えっと……」

 

 セミショートの髪に何度も手をやりながら、しどろもどろな様子に比乃が「ハムスターみたいだなぁ」とか思っていると、その女子生徒は意を決したようにピシッと直立した。

 

「日比野先輩、これ、読んでください!」

 

 その姿勢から、ポケットから取り出したピンク色の便箋を、比乃に押し付けるように渡す。比乃が思わずそれを受け取ったのを確認すると、そのまま回れ右をして走り去ってしまった。

 

 廊下に一人取り残された比乃は、受け取った便箋と走り去る背中を何度か見比べて

 

「……落ち着きがないなぁ」

 

 と独り言ちた。

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