自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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対後輩迎撃作戦

「そりゃあ、あれだ、花美ちゃんを愛し隊の連中だな」

 

 翌日の朝、いつものように登校してきた比乃から昨日の話を聞いた森羅は言った。

 

「また親衛隊か……いったい何種類あるんだ」

 

「この学校の可愛いどころの数だけある。その中身も千差万別で、取り巻きと化している者、ただ遠巻きに見ているだけの者、一方的にボディガードを気取っている者……そして気持ちが悪い者」

 

 一昨日の出来事を思い出したのか、森羅が「うおお……」と悶える。余程応えたらしい。

 それにしても、彼女はどこからそのなんたら隊とやらの情報を仕入れてくるのだろうか、比乃は不思議でならなかったが、今はそれよりも気になることがあった。

 

 セミショートの少女が、教室の戸口から、こちらを覗き見しているのである。見間違いでなければ、昨日ふったはずの旗本 花美が人目も憚らずに、ただじっと比乃を見ているのだ。

 

「あー、旗本さん?」

 

 比乃が声をかけると、びくっと扉の裏に隠れてしまう。が、またすぐにちらちらと、こちらを窺うように頭を出した。どうしたものかと比乃が森羅の方を見ると、ジェスチャーで「行ってこい」と指示が出た。仕方がないので、それに従うことにした。席を立って扉の方へ行く。

 

「どうしたの旗本さん、二年生の教室に何か用事?」

 

 すると、旗本は「あの、えっと」と声を詰まらせながら切り出した。

 

「昨日のお話なんですけど……私」

 

「昨日の話って……ええっと」

 

 すでに終わった話を持ち出されて、どうしたのかと逆に比乃が少し戸惑っていると、彼女はきっと一転して気の強そうな目になって比乃を見据えた。

 

「私、諦めませんから!」

 

 そう宣言すると、比乃が何か言う前に、彼女はさっと身を翻して去って行ってしまった。宣言された比乃はぽかんとした後、ゆっくりと後ろを振り返る。

 

「……どうしよう」

 

 本気で困った様子の比乃に、森羅と晃は「まぁ、頑張れ!」とサムズアップし、志度と心視はがくがく震え始め、アイヴィーは「どうしよう……もっと長電話しなくちゃ」とよく解らない努力を決意した。

 

 ***

 

 昼休み。比乃達が屋上に集まって昼食にしようとしていた。その折、

 

「日比野先輩、一緒にご飯食べませんか!」

 

 屋上の入り口をばーんと開けて登場。そう叫んだのは、可愛らしい弁当箱を二つ持った旗本だった。

 

「あの、その手に持ってるのって」

 

「はい! 先輩の分のお弁当も作って来たんです! 食べてくれませんか?」

 

「いやー、あの、僕自分で作った弁当が……」

 

 比乃が申し訳なさそうに言うと、旗本が瞳をじわりと潤ませた。

 

「そうですよね……ふった相手に付きまとわれるなんて、迷惑ですよね……」

 

 めそめそと泣き始める旗本を前に、比乃はあたふたと慌て始め、ついつい、

 

「い、いやぁ実はこれだけじゃ足りないと思ってたんだ、旗本さんのも頂きたいなぁ……なんて」

 

 そんなことを言ってしまった。比乃は基本的には押しと好意に弱い。すると、旗本は涙をすっと引っ込めて、満面の笑みで嬉しがった。

 

「本当ですか?! それじゃあ、隣失礼しますね」

 

 そそくさと比乃の隣に座っていそいそと弁当箱を開き始めた。比乃の後ろで殺気立っている二人には、全く気付いていないようである。

 

「私、日比野先輩のために一生懸命頑張って作って来たんです!」

 

 そう言う彼女の弁当は、確かに見事な物だった。薄黄色い卵焼き、焼き目のついたウインナー、ほうれん草のおひたし、金平牛蒡……エトセトラ。その見栄えは、自衛官一家の家事担当である比乃も唸らせるほどであった。

 

「おお、これは、中々……」

 

 うちの弁当も、これくらい凝った方がいいかもしれない。などと考えている比乃の口元に、箸で摘まれた卵焼きが突き出された。

 

「はい先輩、あーん」

 

「え、いや、流石にそれは遠慮……」

 

「駄目……ですか?」

 

 また彼女の目が潤み始める。比乃は振り返って目で「助けて!」と訴えたが、その場にいた全員が、俯いて自分の弁当をがっついていた(その内の何人かは、食事に手が付かずぷるぷる震えていた)。我関せずの構えか、あるいはそんな余裕がないほど狼狽えている。

 

 比乃は救援も望めない状況の中、さらにずずいと差し出された卵焼きを、困り顔で一口齧った次々差し出されるそれらの味は中々の物だったが、一口食べるごとに、背後から漏れ出す殺気が増していく中での食事は、落ち着かなくて仕方なかった。

 

 ***

 

 それから、志度と心視が訓練でいないために、一人で旗本の一緒に帰りましょうコールをなんとか凌ぎ切った比乃は、ぐったりした様子で帰宅し、鞄を置くといの一番に電話を手にとった。

 目当ての番号を入力してスリーコール。がちゃりと電話が繋がると、向こうから聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。

 

『はろはろー、日比野ちゃんの頼れるお姉さん、宇佐美さんですよー』

 

「宇佐美さん、昨日の件なんですけど」

 

『あー女の子に告られたってやつ? ちゃんとお断りできたー?』

 

「したんですけど、その、相手が諦めてくれなくて……」

 

 それから、昼休みのことなどを説明すると、電話口から『あちゃー』と宇佐美の嘆くような声。

 

『日比野ちゃん、それ、相当執念深い娘に当たったわね。運がない子ねぇ……』

 

「執念深い……ですか?」

 

 比乃が抱いている印象は、どちらかと言えば天然系の、小動物っぽい印象の女子であった。しかし、宇佐美は『ダメダメ、日比野ちゃんってば女の子解ってない』と呆れた様子で言った。

 

『あのねぇ日比野ちゃん、そういう娘に限って、裏では腹黒かったり、すごい粘着質だったりするのよ? 良く言うと諦めが悪いだけど』

 

「はぁ、それで、諦めさせるにはどうしたらいいでしょうか」

 

『日比野ちゃんが諦めるって手もあるわよー?』

 

「いえ、それは無しで」

 

 比乃にだって好みはある。確かに旗本 花美は可愛らしい少女だが、だからと言って付き合えるかと言われればそうではない。

 

 自分は現役のAMWパイロット、いつ死ぬか解らない危険な職に就いている人間である。少なくとも、同業者かそれを理解している人物でないと、交際などできない。というのが、比乃の考えであった。

 

 それを聞いた宇佐美は『日比野ちゃん偉いわねぇ……』と今度は感動したように言った。

 

『それ、心視に聞かせたらもっと偉いわね、うん、喜ぶと思うし』

 

「心視にですか? それまたどうして」

 

『この鈍チン! 本当に乙女心がわかってないというか……で、その諦めさせる方法だっけ? 誰かに偽の彼女役でも頼んでみたらどう? それでもう付き合ってる人がいるから無理って言えば、流石に諦めるでしょ』

 

「なるほど、そんな手が……」

 

 流石は大人の女性、こういう時は頼りになる。と比乃が感激していると、宇佐美が肝心なことを聞いて来た。

 

『で、誰かそういうの頼める人、いる?』

 

 それから数十分、電話口で比乃はうんうん悩む羽目になった。

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