自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~ 作:ハの字
「あの残骸ですがね、なんと言いましょうか、まるでフォトンダイトで機体そのものを形成したかのようと言いますか、巨大なフォトンダイトから切り出して作り上げたような」
「じゃあ何よ。私と剛が戦ったのは宇宙人の侵略兵器でも、米国が密かに作り上げた秘密兵器でもなくて、人型のエネルギー塊だったってこと?」
「端的に言うと、そうなりますかねぇ……」
そんなアホな、と飽きれた表情を見せる宇佐美に、しかし吉田は真面目な顔で「事実です」と返す。
「確かに現実的ではない話です。しかし、何度分析しても、それが事実であることの裏付けが増えるばかりなんです……宇佐美さんのTk-7を斬ったのは純粋なエネルギーの塊でしょう、通常装甲で防げるはずがない」
それから、あの残骸は“壊死”というしかない現象を始めていて、ほぼ崩れかけのボロボロであること、工学的なモータ、アクチュエータの類が見受けられないことなど、聞けば聞くほど現実味がない話が続く。
「まるでファンタジー小説から飛び出してきたみたいな奴ですよ」
そこまで言って、吉田は周辺を一層警戒するように身を屈めて、安久と宇佐美にちょいちょいと、顔を近づけるようにジェスチャーした、二人がそれに従って耳を傾けた処で、小声で話す。
「あの残骸の中でもまだ壊死が進んでない一部を、まさかと思ってフォトンドライブのエネルギー伝達媒体に突っ込んでみたんですが、適当に突っ込んだにも関わらずエネルギーロスは一割を切りました。なんらかの方法で壊死しないように加工すれば、ほぼ伝達効率百パーセントのドライバが作れるでしょう」
そこまで言って、吉田は顔を上げ、話を聞いた安久と宇佐美は思わずぶったまげて硬直した。
あの膨大なエネルギー塊を、ほぼそのまま利用できるということは、それを利用した兵器はそれだけ強力になることを意味する。
エネルギー技術の難題の一つとして、変換効率、いわば減衰率という物がある。
簡単に例えるならば、乾電池から道具に蓄電された電力を送るまでに、何パーセントの電力が失われるか、という問題である。
最新の工業用だとかも専用バッテリー、それこそ、Tk-7などのAMWに採用されているスーパーバッテリーでさえ、未だに損失率は二十パーセントを切れないでいる。
自動車などと違って、電力をそのまま動力として使用できる構造でもだ。
これはフォトンドライブも例外ではなく、専用の出力装置を、研究者や技術者が必死になって研究開発している。
だが、結局は膨大なエネルギー放出量で変換損失分を無理やりカバーする力技でしか、その問題を解決することが出来ないのだ。
それらの制約を完全に無視した動力源、それがもたらす物は、計り知れない。
AMWでの使用を前提とすれば、エネルギー効率が上がることで、単純に四肢関節などの動作出力も跳ね上がり、運動性も単純な馬力も向上する。その分、積載能力も上がるだろう。つまり強力な重装備を抱えて自由自在に跳ね回る機体ができることになる。
防御面でも、余剰するであろうエネルギーを、それこそ、試作機であるTk-9に採用されている新型の装甲、大量の電力を必要とする「相転移装甲」に活用すれば、運動エネルギーによる攻撃はほぼ無意味と化す。
子供が考えたような、単純明快無敵のAMWが生れかねない。
「……これが周辺国、剰えテロリストにでも知れたら」
「パワーバランスが崩れるわね、間違いなく、この話、私達以外には?」
「一緒にいた研究メンバーとそちらの隊長さんだけです」
「とんでもない厄ネタ掴まされたわね……無理してでもTk-7、配備させる? 隊長にお願いしたら謎コネで部隊おけるようにしてくれるかもよ」
謎コネとは、第三師団最大の謎、その長が持つ謎の人脈パイプのことである。
政治家は勿論のこと、マスコミ、企業、果てには近所のお弁当屋さんにまで顔が効く、一部からは妖怪と称される所以であった。
もしもあのちょび髭が女性であったならば、妖狐とでもあだ名がついていたことが、容易に想像できる。
しかし、吉田はいえいえと手を左右に振り。
「それには及びません、先ほどはああ言いましたが、最近になってPMCを国で雇うってなったじゃないですか、うちがその第一号になるらしいんですよ、ちょうど今日から警備を承ってもらうんですが……」
「あ、どうしよう剛。私すっごい嫌な予感が――」
宇佐美が呟き、吉田が「お二人も一度、彼らとお顔を合わせてみては」と言った直後、爆音が鳴り響いた。
建物全体が揺れ、窓ガラスが割れて地面に散らばり、照明がいくつか脱落する。
続いて窓の外で、先ほど巡回してた二十三式が、ずたずたになった状態で地面を転がり、ちょうど安久達がいる棟の真横で止まった。
敵襲――誰ともなく言う前に、さらに銃撃音と悲鳴、何かの破壊音が施設内から響き渡る。
断続的に聞こえる爆発音と金属がひしゃげる音が、ここまで聞こえて来た。
安久は姿勢を低くしながら窓の外を見やる。
ここからそう遠くはない、実験棟の方から黒煙が上がり、間もなくして周辺施設からも爆発物による煙が上がる。
明らかに戦闘が始まっている、二十三式の有様と今の音からして、AMWか、それに近い何かを所持した勢力による襲撃。
さらに小火器の「ダダダッ」という銃声も、断続的に聞こえてくる。
何が狙いかは、考えるまでもない。
「……どーして自分達からフラグを立てちゃうのかしらね」
「状況的に考えると、良くて件のPMCとテロリストがかち合った。最悪の場合はそいつらが偽装したテロリストで、現在進行形で守備隊と戦闘中」
「私なら後者に賭けるわね……格納庫まで走るわよ」
「了解」と短く返して、尻もちをついている吉田を安久が担ぎ上げ、ガラス片が散らばる廊下を一目散に駆け出した。